私の名前は『結城友奈』である   作:紅氷(しょうが味)

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二章、ラスト。


四十六話

◾️

 

 

一日という期間はあっという間に過ぎていった。私は早朝から亜耶ちゃんと短いながらも教えてもらったお掃除を一緒にやってから芽吹さんたちの訓練の見学をさせてもらった。ビシバシと指導を行う芽吹さんの姿は私の目にとてもカッコよく映って見えた。加賀城さんは相変わらず泣いていたけどね。それでもついていく辺りは彼女なりの『強さ』を感じ取れた。

 

弥勒さんともお茶会をさせてもらう。弥勒家の何たるかの話を延々と続けられたときには苦笑してしまっていたけれど、それはあの人の弥勒家に対する『誇り』がそうさせているんだろうと思える。紅茶も美味しかった。

 

しずくさんとは、タワーから少し離れた広場で前に話したことのあるニャーさ……猫さんを紹介してもらった。とっても可愛らしい猫さんで名前を決めたらしく訊ねてみたら──『ユウ』とのこと。

名前の由来をその時に聞いてみたけど、嬉しそうに微笑みながら「内緒…」って言われて結局教えてくれなかった。むぅ、残念。

 

加賀城さんからは『みかん』を段ボールで貰うことになった。正直一人では消化しきれないと断ったんだけど、帰った後に勇者部の人たちと食べてほしいと言われていただくことにしました。ありがとうございます。

 

他の隊の方々にも色々よくしてもらった。その中でも一緒に写真を撮って欲しいと言われたのが多かったかな。私も欲しかったので、交代で撮らせてもらったりもした。『思い出』がまた増えて嬉しい。

またその日の夕食も職員の人の計らいで豪華にしてもらって、またパーティーのような盛り上がりを見せたりしちゃって流石に安芸さんから注意を受けてしまったりもした。

 

 

『……荷物は一緒に運んでくれるんだったわね?』

「はい、芽吹さん。運んでくれてありがとうございます。しずくさんも」

『…ん。これぐらい朝飯前』

 

ゴールドタワーの入り口前に私と、大赦の装いをして顔をお面で隠した芽吹さんとしずくさんに私の私物を運んでもらっていた。少し離れた場所には安芸さんと亜耶ちゃんが並んで見送ってくれている。私は手を振ると亜耶ちゃんも手を振り返してくれた。

 

「でも、いいんですか? みんなに紹介したらきっと仲良くなれると思うんですけど……」

『元々私たちは接触を禁じられているのよ友奈。貴女はともかく、これでも頭のお堅い大赦側は譲歩してくれたのよ』

『……それに大人数で見送るとうるさ──迷惑だから。代表して私たちがこうして来た』

「しずくさん……」

 

そんな話をしていると通りから一台の車が停車する。見たことのあるその車には『大赦』のマークが印されていてそれが乃木家のものだというのもすぐに分かった。そして中から芽吹さんたちと同じ格好の大赦の人達がニ、三人と出てきた。

 

『お待たせ致しました勇者様。今、お荷物を積みますので少々お待ち下さい』

「は、はい……あの、そのっちさんは」

『…今、この車内には我らのみです』

「そう、ですか」

 

簡潔にそう述べると頭を下げて私の荷物を車に積み始めていく。てっきりそのっちさんやみんなが迎えにきてもらえると勝手に解釈していたからちょっぴり残念だった。まぁ、仕方ないよねうん。ここまできて湿っぽく帰っちゃうのは芽吹さんたちに余計な心配をかけちゃうだろうからニコニコと笑みを浮かべて振り返ろうとした時、

 

「──ふっふっふー。だーれだ?」

「……えっ?」

 

不意に視界が真っ暗になったと思ったらそんなことを言われる。私はびっくりして身体を硬直させて口をパクパクさせていると更に密着してきて同じように「だーれだ?」と問いかけられた。

 

「……そ、そのっちさん?」

「おー、さすがゆっちーだね。よくぞ見抜いたと褒めてしんぜよう〜」

「わ、分かりますよさすがに……あの、目隠し」

「ん〜ゆっちーの匂いが久しぶりなんよ。すりすり〜♪」

「はひぁっ!?」

 

首筋に顔を寄せられてすりすりしてくるそのっちさん。さっそくのマイペースっぷりに私は久しく踊らされてしまう。

 

「……うん。ちゃんとゆっちーだね」

「わ、私は私ですよぉ……もぅ」

「久しぶりーゆっちー」

「うん、そのっちさん」

 

今度は対面して私の両頬をふにふにと触りながらニッコリと微笑んでいた。芽吹さんたちのいるこの場ではちょっと恥ずかしかったけど、約一週間ぶりの再会はとても嬉しいものであった。

 

「そちらの人はどちらさまー?」

「あっ、えっと……」

『お初にお目にかかります、乃木様。私はこのゴールドタワーにいる間に結城様のお世話を担当させていただいた者です』

『……右に同じく』

「ほうほうー……ゆっちーのお世話かぁ〜」

『…な、何か?』

 

ふんふんと頷きながらそのっちさんはなんと芽吹さんのところに顔を覗き込むように詰め寄って行った。顔は面をしてるから分からないと思うけど……。と芽吹さんも少し警戒気味になったところで、そのっちさんはまたふわりと笑みを溢していた。

 

「そっか〜。ありがとうございました。ゆっちーを守って(、、、)くれたんですね。握手、あくしゅ〜♪」

『え、あ、あの……』

「あなたもあくしゅ……ん?」

『……ん。なに?』

 

芽吹さんに握手をして次にしずくさんにも同じようなことをしようとしたそのっちさんは手を止めた。

 

「……どこかで会ったことあるー?」

『────ない、です』

「うーん。気のせいかなぁ……」

『……きっと、初対面』

「そ、そのっちさん。そんなに詰め寄ったら困っちゃいますってば」

「おっと私としたことがー……ごめんね」

『……平気』

 

しずくさんはそういえば小学生の時のそのっちさんを知っているんだった。接したことのある人は銀ちゃんだけだと聞いているけれど、もしかしたら知らず知らずのうちに会ったことがあるのかもしれない。

でも、面をしているのによくそのっちさんはわかったね。

 

『乃木様。荷物の搬入が終わりましたので準備が整いましたら』

「あっうん。ありがとう」

「あ、あのそのっちさん。乗らなくていいんですか?」

「ん? 私たちは別の車で来たんよ。ほら、あそこにー……って」

「あそこって……ぁ」

 

私は思わず声を漏らす。自然に、無意識に。視線はそのっちさんの指差した方へと向けられたまま……そこには彼女(、、)が立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

────東郷さんが。

 

 

「…………ぁ、ぅ」

 

色々と考えていたのに。また再会したら何をはなそうとか色々。でもこうして目の前に立つと思考はうまく纏まらなかった。だから、か細い声しか出せない。でも、私は────。

 

「────っ!」

「……ぇ、わっ…………と、東郷、さん?」

 

ぎゅうう……と走ってきた彼女に抱きしめられる。私はうまく受け止めることができなくて一歩二歩と後ろに下がってしまった。靴も片方が脱げてしまったけど、それも気にならないぐらい安心する『温もり』が私を満たし始める。

 

 

「…………良かった。心配したんだから」

「……ごめんなさい。東郷さん」

「もう会えなくなるんじゃないかって……すっごく不安だったんだから」

「勝手に居なくなってごめんなさい」

 

東郷さんの肩は震えている。だから私は抱きしめてくれている彼女に同じように抱きしめ返した。

 

「もう絶対に離さないから……!」

 

────っ。

 

「…あは、あはは。まるでプロポーズみたいだよ……?」

「……どう解釈してくれても構わないわ。とにかく私はもう、あなたを失いたくないの」

「…………。」

 

──ぇ、えっ!? つまりそれって……?

 

横で目を輝かせるそのっちさんが気にならないぐらいに私は東郷さんの言葉に思考が埋め尽くされていた。顔が熱くなる。やだ、言葉が上手く出てこないよぉー……。

 

『……むぅ。結城を盗られた気分』

『止めておきなさい。積もるものがあったんでしょうしそのままに……その、まま…?』

「友奈ちゃん友奈ちゃん友奈ちゃん友奈ちゃん……!」

「──はっ。と、東郷さん! みんなが見てるよ? ほらっ! ね? だから一回離れよ??」

「嫌よっ! 友奈ちゃんともっとくっついてるの! ずーっと会えなかったんだから友奈ちゃん成分補給しないとこれ以上は私の気が狂ってしまうわ!」

「駄々っ子さんっ!? そ、そのっちさん〜……」

「あはは〜。いつものわっしーで安心するねぇ」

 

イヤイヤと首を張りつつも私の肩にちゃっかり顔を埋めている東郷さん。嫌じゃなくてむしろ嬉しいけれど同量に羞恥心も込み上げていた。視線を二人に向けるも何となくわかる……困惑してるねあれは。

じゃあ、と奥にいる亜耶ちゃんたちに向けてみるもこちらも何となく読み取れる──亜耶ちゃんはほんわかと微笑ましく思っているに違いない。安芸さんは……あれ、なんで顔を逸らしてるの?

 

「よっし、じゃあ私たちのところに帰ろ〜! れっつらご〜!!」

「このタイミングで!? と、東郷さん!」

「いーやー!」

「とーごーさーん!」

『……はぁ、賑やかなのね。あの子のところって』

『……ん。でもうちでも負けてない』

『いや、張り合わなくていいのよ』

『仲が良くて安心しますね♪』

 

なんとも最後は締まらない送迎となってしまいました……。

 

 

 

 

 

 

 

 

何とか東郷さんの駄々っ子モードを落ち着かせてから車に乗り込んでドアを閉めた。走り始める車の窓を開けて私は右手で大きく手を振った。

 

────またねーって。

 

これは『お別れ』じゃないから。全部を終わらせて必ずまた会いに行くってヤクソク。東郷さんの記憶から見た銀ちゃんも使っていたコトバを使わせてもらった。

 

「別に顔を隠さなくても良かったのにねー」

「仕方ないですよ。規則らしいんですから……でも、ちゃんとみんなにも紹介したいです」

「そうね。私も色々とお世話になった人もいるし、きっといつか紹介してね友奈ちゃん」

「もちろんだよ東郷さん」

 

東郷さんの『お世話になった人』って誰だろうか。訊ねてみるも人差し指を口元に持っていって「…内緒」って言われちゃうし。安芸先生のことなのかな?

 

「んふふー♪ それにしてもわっしーもゆっちーもべったりだねぇ」

「当たり前じゃないそのっち。離れないって言ったんだから、衣食住含めて共にいるつもりよ!」

「────っ。そ、それはその……恥ずかしいよぉ東郷さん…ぅぅ」

「──! ゆっちーが『乙女』になってる。良きかな良きかな〜」

 

────だからそうやって変に意識させないでよそのっちさん…!

 

車内ではそのっちさん、東郷さん、私という並び順で座っていて、その東郷さんとは手を繋いでいる。手のひらをシートにつけて指先を共に絡めている繋ぎ方。

なんだか吹っ切れた様子の東郷さんの身に何があったんだろうと考えようとする。だけど、さっきから心臓がドキドキしてて気が散ってしまう。なんでこんなにドキドキしてるんだろう……?

 

「じゃあ私はこっちからわっしーの腕に絡んじゃおーっと♪」

「……もう、そのっちは甘えんぼうさんね。友奈ちゃんもしてもいいのよ?」

「へっ!? あ、あの……手繋ぎ(これ)でいいでしゅ……はぅ」

「か、かわ──ッ! こ、コホン。な、ならいいんだけど」

「すりすり〜♪」

 

わぁー私のバカバカ! なんでそこで噛んじゃうの!?

これじゃあまともに東郷さんの顔が見れない。手に汗かいてないよね!? 大丈夫だよね…?

 

にぎにぎと汗をかいてないかの感触を確かめると、東郷さんは勘違いしちゃったのか握り返してきちゃう始末になった。

 

『───っ。……ッ!!』

「すりすりすりり〜♪ …………すぴー」

 

そこにはお互いに明後日の方を向きながら悶える姿と、相変わらずマイペースなそのっちさんの寝息がこの場を占めていた。




ようやく帰ってきた『日常』だが、一週間とはいえ音信不通だったために東郷さんは暴走気味になっていた。

そのっちは通常運転なり。

そして、次話からは『章』が変わります。
引き続きよろしくお願い致します。
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