私の名前は『結城友奈』である   作:紅氷(しょうが味)

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三章開始


三章『一人ぼっちの勇者が手にしたもの』
四十七話


◾️

 

 

ゴールドタワーでの私の御役目は無事に果たすことができた。『成果』として私には亜耶ちゃんたちが託してくれた『紡ぎの種』を手にしている。防人のみんなが願いを込めてくれたこの種は『お守り』として大事にしていきたいと思う。

 

「──着いたよ友奈ちゃん。私たちの家に」

「……ぁ、あれ? 私寝ちゃって」

「そのっちが寝た後に少しして友奈ちゃんも寝ちゃったのよ。ふふ、可愛らしい寝顔を堪能させてもらったわ」

「……ふぇ!? あ、あの変な寝顔してないよね」

「してないよ。可愛い寝顔だった」

 

ぼーっと考えていたらいつの間にか寝てしまっていたらしい。おまけに東郷さんにだらしない寝顔を見られてしまう始末に私は羞恥で燃えてしまいそうだった。

熱を取り払っている最中に東郷さんはそのっちさんを起こしていて、私は外に視線を移した。

 

(帰って、きたんだ……私)

 

飛び出してからはどこかでもう戻って来れないと思っていた友奈ちゃんの家に私は再び帰ってくることができた。少しだけ嬉しかったけれど、『私』の根本的な問題解決には至っていなくて申し訳ない気持ちも内に抱えていた。

 

「うん。じゃあ私は無事にゆっちーを取り戻したことをフーミン先輩たちにも報告しに行ってくるんよ。その後は色々と後片付けがあるから今日はここで解散して、また明日集まろー」

「迷惑かけるわねそのっち。よろしくお願いします」

「問題ないさ。ゆっちーも久しぶりの我が家だからゆっくり休むんだよー。電話のことは落ち着いてからでいいから」

「はい。ありがとうございますそのっちさん」

 

車内で親指を立てていたそのっちさんはそのまま帰っていった。車に手を振り見えなくなる頃に私と東郷さんの目が合う。

 

「改めておかえりなさい友奈ちゃん」

「た、ただいま……です」

「じゃあ友奈ちゃんの家に行きましょう。お父様とお母様も中で待ってるから」

 

手を繋いで微笑む彼女と共に私は自宅の敷居に足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

ドアを開けて自分の部屋に戻ってくる。荷物は先に運び入れられていてすぐに東郷さんが荷解きを手伝ってくれた。

 

「友奈ちゃん嬉しそうな顔してる」

「……あんなに心配してくれて、抱きしめてくれたから。ちょっと驚いたけど」

「当たり前じゃない。友奈ちゃんのご両親もとっても心配してたんだから」

「うん」

 

玄関先で私を見つけた母親は強く抱きしめてくれた。無事で良かったと、父親もほっと肩を撫で下ろしている姿はどこか新鮮味があった。

そうして荷物も片付け終わってくる頃には日も傾き始める。私は手を止めてぼーっと窓の外を眺めていた。

 

「……。」

「夕食は私とお母様がこれから用意するから一緒に食べようね友奈ちゃん」

「………。」

「それで今日なんだけど…その、友奈ちゃんのお部屋に泊まってもいいかな? あっ、もちろん無理にとは言わないけど出来れば──?」

「…………。」

「友奈ちゃん? ──友奈ちゃん!」

「──っ!? ど、どうしたの東郷さん?」

「どうしたのって……ずっと話しかけていたんだけど」

「……ぇ、ぁ。ごめんね、ぼーっとしちゃってて!」

 

急に肩をたたかれて驚いてしまう。そ、そうなんだ。まったく聞こえなかった……悪いことしちゃったな…。私は慌てて謝罪をすると東郷さんは訝し気に見つめてきた。

 

「…もしかして具合が悪くなっちゃった? 吐き気は? 痛みはある?」

「う、ううん。平気だよ……って……東郷さん、どうして私が具合悪いこと知ってるの?」

「……それは」

 

言葉を詰まらせて視線を逸らす東郷さんを見て私は目を見開く。まさか、私が『タタリ』に侵されていることを知って……。

 

「あのね友奈ちゃん。私はあなたに謝らなくちゃいけないことがあるの……」

「謝らなくちゃいけないことって?」

「……これなんだけど」

 

東郷さんは私の勉強机のある引き出しから一冊のノートを取り出して見せてきた。それは私が『私』について日記形式で書いていたノート。とうとう見られてしまったという事実を突きつけられていた。

でも特別焦ったり、しまったと狼狽えることはない。もしかしたら…? と心の何処かでわかっていたことなのかもしれないと。

 

「……そっか。見ちゃったんだね東郷さん」

「私が退院してから友奈ちゃんの情報を少しでも集めたくてご両親に許可を貰って部屋を見せてもらっていたの。その時にこのノートを見つけて……勝手に見てしまってごめんなさい」

「ううん、謝らないで東郷さん。いつまでも隠し通せるとは思ってなかったから……あと、それでも最初に見つけてくれたのが東郷さんでよかったって思ってるよ」

「違うの友奈ちゃん……私ね、本当は前から分かっていたの!」

 

 

……えっ? それは一体────。

 

 

「友奈ちゃんが目覚めたあの時から、違和感はずっとあったの。言動や仕草諸々と私の知る『友奈ちゃん』とどこか違うって。それでも確固たる確信はなかったからあくまでも違和感の範疇だったの」

「……よく、観てるんですね。『わたし』のこと」

「私にとって大切な人だから」

「うん、東郷さんの接し方を見てれば分かります。大事にしてる気持ちが凄く伝わってきたから。でも、それならその時にみんなに相談しても良かったんじゃないですか? 自分の知らない『人格』が大切な人に入り込んでいるなんて……悪い言い方をすれば気持ちが悪いはずです」

「友奈ちゃんッ!」

「──と、東郷さん?」

 

私の両肩を掴んで東郷さんは悲痛な表情を浮かべていた。その感情の熱は嘘でもなんでもなくて、正しく私に向けられている。

 

「自分のことをそんな風に言わないで。私はただの一度たりともそんなこと思ってないし、これからも思うことはない。確かにあなたの言う通りに先輩たちに話す機会はいくらでもあったよ? でも私がそうしなかった理由はね……あなたがそれでも『結城友奈』であろうと努力していたから。頑張り続けていたからなんだよ」

「そ、それは……」

「……『記憶がない』って境遇は私もよく分かるの。不安で、どう気持ちの整理をつけていいのかわからない。辛かったよね、怖かったよね?」

 

東郷さんを助けに行った時に、私は彼女の『記憶』を覗いたことがある。それは『鷲尾須美』のものだけでなく、『東郷美森』としての始まりの記憶も同様に。だからそこから発せられる言葉の感情は憐みや同情でもなんでもなく本心からくるものだった。

 

「私はそれから見守ることにしたの。あなたが黙っているなら私もそうしようと、だけど陰ながらに補佐してあげようって。ずっと、ずっとあなたを見続けてきたんだよ」

「……東郷さん」

「生半可な覚悟じゃここまでできない。いつだって私のことを助けてくれた。世界の果てまでも来てくれた。世界の全てが私のことを忘れた時も、あなただけは覚えていてくれて手を差し伸べてくれた。ボロボロになっても、それでも立ち上がる所は友奈ちゃんにそっくりで……ううん、友奈ちゃんそのものなんだって理解して……私は本当に嬉しかった」

「………私は、友奈でいいの? あなたの『友奈』として隣に居てもいいの?」

「うん。友奈ちゃんは『友奈ちゃん』なんだから。あなたはあの子で、あの子もあなたなの。だからもう隠しておく必要はないんだよ? 私も我慢しないで本当の意味で友奈ちゃんの隣にいるから……一人ぼっちにはさせない」

「────っ。」

 

肩を掴んでいたその手で引き寄せて私を抱きしめてくれる。

あぁ、なんでもっと早くに打ち明けなかったんだろうと思う。私は愚か者だ。東郷さんがこういう人なんだという事は心が(、、)理解していたじゃないか。それに私は何をもってして彼女の隣に並ぼうとしてたのかも。

 

「……もう、東郷さん。私から打ち明けようとしてたのに全部言っちゃうんだから。そんなこと言われちゃったら甘えちゃうよ?」

「大丈夫、しっかり受け止めてあげるから」

「……私ね、────東郷さんが好き(、、、、、、、)

「うん、私も友奈ちゃんが好きだよ?」

「……ばか」

「えっ? ……ゆ、友奈ちゃん?」

 

抱きしめてくれる東郷さんから離れて私は頬を膨らませてむくれる。困惑した顔でおろおろするところを見るにやはり『言葉の意味』を真に理解していないらしい。

 

(ねぇ、知ってる東郷さん…? 私の『好き』と東郷さんの『好き』は違うんだよ?)

 

どうやらこっち方面には疎いらしい。彼女らしいといえばらしいけど、どうせならば今までの勢いで察して欲しかったなぁ、なんて。

 

「……??? 友奈ちゃん、どうしてむくれてるの?」

「なんでもないですよ。それよりも、私を受け入れてくれててありがとうございます。こんな私ですけどこれからもよろしくお願いしますね」

「え、えぇ。もちろんよ……こちらこそよろしくお願いします」

 

私が正座をして丁寧に頭を下げると、向かい合った東郷さんも律儀に同じように返してくれた。頭を上げるとそのタイミングも同じで目が合うとつい笑ってしまった。

 

「食事の準備をしないとね」

「私も手伝うよ東郷さん」

「嬉しい申し出だけどだーめ。私とお母様で振る舞うんだから友奈ちゃんはお父様と座って待っててね」

「えー…残念」

 

わざとらしく唇を尖らせると東郷さんは頭に手を置いて優しく撫でてくれた。だめだなぁ、私。こんなことでも口角が緩んでしまうんだから。

 

その後の夕食は久しぶりなこともあってか、とても美味しく感じられた。

 

 





とうとう『私』のことを打ち明ける。
そして『私』の中に芽生えたもの。彼女にとって新たなスタートとなり得るのか。
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