私の名前は『結城友奈』である   作:紅氷(しょうが味)

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五十話

◾️

 

 

 

わいわいと賑わうのもほどほどにして、風先輩が皆を落ち着かせてから席に着かせた。

少しだけ周囲を見渡してみてみんながいることに私は胸の内が満たされていくのがわかる。私が求めていた日常。守りたい日常の中に戻ってきたのだと再確認できることに喜びを感じていた。

 

「──さて、じゃあ改めてこうしてみんなが揃ったところで本日の活動をしていくわよ!」

 

声高々に宣言する風先輩はにやりと不敵な笑みを浮かべる。

 

「またなーに考えてんだか……東郷、こうした連休中って『依頼』ってあるの?」

「なくはないけれど、特別急ぎの案件はないって感じかしら? 部のホームページにも新たな依頼は申し込まれてないし」

「ふーん。なら一体なにをするのかしらね」

「こーら東郷、夏凜。私語は慎みなさい!」

「……あ! 私わかっちゃったかも〜」

「え? 園子先輩。それって一体なんですかー?」

「お、イっつん訊いちゃう? それはねー……」

「ちょーっと! 分かっててもネタバレは禁止禁止っ! ってかもう言うから──明日はクリスマスイブだから、みんなで集まってパーティーするわよッ!」

『おぉ〜!』

 

白いチョークでデカデカと文字を書きつつ先輩はそう言った。クリスマスイブ。ああ、そういえばそういう時期だったなとそこで思い出してゴールドタワーでのことを思い出していた。

私の送別会に併せて一足先にパーティーをしてくれたみんなは元気にしているのだろうか。まだ数日と経っていないが……あそこでの日々もとてもかけがえのない、楽しいものだったのでついそんなことを考えてしまう。

 

「あー…クリスマスかぁ。てか、もう年末になるのね」

「あっという間でしたねー。今年は色んなことがありましたし」

「……モミの木祭り」

「何それ東郷さん?」

「くっ……伝えきれない自分の語彙力が憎い」

「わーい、みんなとクリスマス〜♪」

「あ、ちなみに場所は夏凜の家ね」

「はぁ!? ちょ、ちょっとそんなの訊いてないわよッ?!」

「おねーちゃん?」

「──ぷっ、くふふ。じょーだんよジョーダン。あたしたちの家でやりましょう! 食材とかもちゃんと用意してるから安心なさい」

「脅かさないでよ……」

 

からから笑いながら風先輩は私に視線を移してくる。

 

「友奈も、今度は勝手にいなくなっちゃダメだからね」

「は、はい。気をつけます」

「安心してください風先輩。私が友奈ちゃんと一緒にいるので問題ありませんから」

「……なんだろう。あんまり安心できないわね…というかあなたたちなんだか────」

「……? 風先輩、どうしたんですか?」

「じーっと見て私たちの顔になにかあります?」

「んー…いや、なんというか」

 

首を捻り、唸り声に近い声を発しながら先輩は私たちを交互に見てくる。不思議に思っているとニコニコと向かい側に座っていたそのっちさんが閃きを浮かべて、

 

「わっしーとゆっちーは更に距離を縮めたんよ。これはー…もしかしてーー……なのかな〜??」

「やだわそのっちったら。私と友奈ちゃんはいつも通り、ね? 友奈ちゃん」

「…………そうだね」

「え、え?? 友奈ちゃん、どうして落ち込んでいるの?」

「なんでもないです」

「どうして頰を膨らませてるの? 可愛いけど……えい、つんつん」

「ぷしゅぅー……もー東郷さーん」

「何してるのよあなたたち……いや、やっぱりなんでもないわ」

「いや〜捗るねぇ♪」

 

風先輩が呆れたようにやれやれとしている中で、私はさりげなく東郷さんに密着するように触れ合っていた。東郷さんにとってはじゃれあい、普段のスキンシップのようでも私にとってはドキドキしっぱなしなのだ。

 

「なんか前の友奈以上に甘えん坊よね。まるで樹のような…」

「もーお姉ちゃん! 私べつに甘えんぼうじゃないよ」

「え?」

「え?」

「あんたら姉妹もなにしてんだか……で、明日は何時集合なのよ」

「あーうん。各々準備もあるだろうから夕方からにしましょうか。ぱーっとやりましょうパーっと!」

「はいはーい部長ー! 私プレゼント交換やりたいでーす!」

「おっ! いいわね。その案採用ー! 各自持ち寄ってくじ引きとかいいんじゃない?」

「ならある程度の方向性を決めた方がいいんじゃないの? 例えば──」

 

あーでもないこーでもないと明日に向けて話し合いが行われていく。時間はあっという間に過ぎていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

先輩たちとは先に部室で別れて私と東郷さん、そしてそのっちさんの三人で部の資料をまとめていたら既に外は暗れてきていた。時間も頃合だと思い片付けを済ませてから私たちは学校を後にする。

 

「──わぁ。もう飾り付けがされてる!」

「外国の祝祭を祝う我が国の寛容さね」

「ふふ。なにそれ」

 

煌びやかな電光に彩られた飾りを視界に収めながら私たちは歩いていく。町の空気というか雰囲気もクリスマスという行事に引っ張られていて、道ゆく人たちも楽しげにしている。気温も下がって寒くなっているけれど、空気も澄んでいてとても綺麗に映って見えた。

 

「…良かった。友奈ちゃんとクリスマスを迎えることが出来そうで」

「その節はお騒がせして申し訳ないです」

「もういいよ。こうして戻ってきてくれたから」

「うん」

「ねーねー。私とはー?」

「もちろん忘れてないわよそのっち。一緒に楽しみましょ」

「えへへ。実は一緒にクリスマスやるの初めてかも!」

 

手に持つサンチョ(クリスマス仕様)をふりふり動かしながらご機嫌に笑うそのっちさんを見て、私たちもつられて微笑みを浮かべていた。

 

「…ぁ。考えてみれば『私』もクリスマスを過ごすの初めてだった」

「……! そうだったわ。これは尚更気合を入れて挑まないといけないわねっ!」

「今度はみんな一緒だよ〜! ゆっちー盛り上がろうねぇ〜クリスマス!」

「う、うん…って、そのっちさんなんで腕に抱きついてるの?」

「この方が寒くないからだよー」

「あ、ずるいそのっち。なら私は反対側からしちゃおっかな?」

「と、とと東郷さんまで!? はぅ……!」

「ゆっちーモテモテだぁ」

「片方はそのっちさんじゃないですかぁー!」

 

三人身を寄せ合うのは少し恥ずかしいけれど、そのっちさんの言う通り暖かいのは本当だった。

冷え切った私の身体には二人の『熱』が染み込むのがわかる。

 

キラキラする風景の中を歩き続けていたら、隣で抱きついているそのっちさんがポツリと呟く。

 

「…ねぇわっしー、ゆっちー。来年も再来年もずっと一緒だよ?」

「当たり前じゃない。ね、友奈ちゃん」

「うん、そうだね」

「…………、」

 

ちゃんと淀みなく答えられたよね? 嘘じゃない、私もそうなったらなと心から思う。でもそのためにはやはり解決しなければならない課題があるわけで、しかし悠長にしている時間も残されていないのは確かだ。私もそうだけど東郷さんだって同じものが刻まれているから余計に。

 

「そのっちさん、一つお願いがあるんだけど……」

「んー、なにかな?」

「──三好さん。夏凜ちゃんのお兄さんに会わせてほしいの。あ、もちろんクリスマスの後……ううん、年が明けてからでもいいから」

「にぼっしーのお兄さん……うん。それはいいけどーどうして?」

「…友奈ちゃん?」

 

真剣な表情を浮かべるそのっちさんと心配そうにその眼差しを向けてくる東郷さんに私は言葉を続けて、

 

「私という人格が『散華』の影響なら、一度大赦に訊いたほうが『わたし』について何か分かるかもしれないって思ったの。やっぱりこういうのはキッチリしておかないといけないから」

 

打ち明けた時にみんなは優しいから言及してこなかったけれど、以前の私については現在のところどうなっているのか知りたいはずだ。東郷さんは何か言いたげだったみたいだけど、固唾を飲んで堪えてくれた。

そのっちさんは逡巡したのちに頷いてくれる。

 

「いいよ。でも三好さんも多忙な人だからいつになるかは分からないけど……なるべく早くにお願いしてみるね」

「ありがとうそのっちさん」

「でも本当にそれだけ?」

「──取り敢えずは…ですけど。あはは…」

「その時は私も一緒に行くからね友奈ちゃん」

「うん、よろしくね東郷さん」

「ふーむ、じゃあ私はここで〜。また明日ね二人とも」

 

区切りよく分かれ道に差し掛かったそのっちさんはひらひらと手を振りながら歩いていく。その背中を私たちは見送ってから改めて二人で帰路についた。少し歩いてから東郷さんはこちらに視線を移しながら口を開いた。

 

「……それで実際はどうなのかな友奈ちゃん? 夏凜ちゃんのお兄さんに用事はそれだけじゃないような気がするけど…」

「…あは、今言ったことは別に嘘ついてないよ。ただその……私たちの刻印(これ)についても知りたいと思って」

「……ぁ」

 

私が胸元に手を置くと、意図に気がついたように東郷さんは目を丸くしていた。自分の出生については話せるようになったけど、『タタリ』については話が別だ。必要最小限に抑える必要があるこの呪いをおいそれと口にしてしまっては大変なことになってしまう。私と東郷さんは同じものを刻まれているので話を共有することができるから気持ちとしては大分楽だけど……もし、一人で抱えていたら果たしてどうなっていたことやらと思ってしまう。

 

「……そうね。でもコレはきっと『天の神』をどうにかしないことには解決に至らないと思うわ。『タタリ』の元凶。人類の敵。ソイツを倒さないことには呪いが蝕み続けて最後には……」

「…でもね、東郷さん。道は一つじゃないと思うんだ。可能性の芽はいくらでも模索できる。私はその芽を早々と摘み取りたくはないの」

「──その内の一つが、夏凜ちゃんのお兄さんに会うこと?」

 

頷いて答える。

 

「…分かった。私は大赦が信用できないけど……友奈ちゃんなら信用できるし、信頼できるよ。確かに諦めるのはまだ早いよね。一緒に頑張ろう、友奈ちゃん」

「ありがとう。うん、がんばろ──でもその前にまずは明日も楽しんでいかないとね! プレゼント交換用のもの何がいいかなー?」

「ふふ。予定では夕方からだからそれまでに一緒にお店に見に行く?」

「賛成ー! バタバタしちゃってて買いそびれちゃってたから良かった」

 

真面目な話もほどほどに明日のクリスマスイブについて談笑を交えて話しながら私たちは町のイルミネーションの中を歩いて行った────。

 




五十話にしてようやく、勇者の章の三話に辿りつきました。(長かった)

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