私の名前は『結城友奈』である   作:紅氷(しょうが味)

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五十一話

◾️

 

 

その日は明日の楽しみもあってうまく寝付けなかったと思う。それと東郷さんには別れ際に『紡ぎの種』を一粒渡しておいた。その日も一緒に居てくれようとしたけど、流石に申し訳ないところもあるから無理矢理にでも納得してもらい、私も一応一つ飲む。残りは五つになった種を大切にしまって次の日を迎えた。

 

「おはよう友奈ちゃん。準備して行きましょうか」

「おはよー東郷さん。うん、今日もよろしくね」

 

東郷さんは目に見えて快調に向かっていることがわかる。痛みと『タタリ』の抑制になっているようでとても喜ばしいことであった。私は……うん、特別なにか変化はあるようには感じられない。でも逆に考えてみれば『変化がない』ということは悪くも変化がないとも受け取れるのでやはり種の効果は出ているのだと推測しておく。

 

それも程々に今日はいよいよクリスマスイブだ。明日のクリスマスも加えて私にとって初めてまともに過ごすイベント行事となる本日は、まず東郷さんと買い物に出かけるということから始まった。

勇者部のみんなとプレゼント交換するための品を買うために。思えばずっとバタバタしていて月の行事ごとすら頭から抜け落ちちゃう私がプレゼントを用意しているわけもなく、ちゃんと買い揃えることが出来るのかちょっと心配。そのことを移動中に東郷さんに話をしたら、

 

「くす。みんなが持ち寄って交換するんだから、一つで平気なんだよ?」

「──あ! 言われてみればそうだね。でも私みんなにはお世話になってるから少し申し訳ないなぁ」

 

私がこう言うと東郷さんは優しく笑った。あなたらしいって頭を撫でてくれて、私の胸の中がぽかぽかしてきてついつられるように笑ってしまう。

 

「じゃあサプライズのためにお店についたら見せ合うの無しでいこう!」

「そうね。ふふ、友奈ちゃんは何を買うのかしら」

「えっとねー……って、内緒だから! ずるい誘導させるの禁止ー」

「あら、残念♪」

「もー」

 

東郷さんはたまにイタズラしてくるから侮れない。罠にかかってしまう私も私だけども。そんなやり取りを繰り広げながら私たちはショッピングモールへと足を運んだ。

 

お馴染みのイネス。ここのショップでしずくさんにプレゼントした経緯もあり、可愛い小物も数あるここに私たちはやってきた。

 

「じゃあここで一旦別れましょう。一時間ほど時間を取ってまたここに集合で」

「了解」

 

イネスの店内は外と同様にクリスマス仕様に飾られている。子供連れの家族も多くとても賑わいがある中で、私と東郷さんはプレゼントを買うために分かれて行動することにした。一緒に行動しちゃうとサプライズにならないからね。

 

(んー……といっても何にしようかな)

 

交換会ということは誰に渡っても平気なものにしなければいけない。いや、『いけない』ってことはないんだろうけど…どうしたものか。

取り敢えず気になったお店に入ることにした。

 

「やっぱり実用的なのが無難なのかな。うーんと……ん?」

 

雑貨屋の商品棚の前でしゃがんで選んでいると、左の視界に一瞬、ほんの瞬きの間だったが、

 

 

────……で、…。

 

ここにはない『何か』が声と共に映った。

はっと驚いて私は周囲を見渡す。でも周りは入店した時と変わらずに変化は見られない。左目を隠すように押さえるも痛みもなく、視界が霞む以外はこれといってない。気のせいだったのだろうか。

 

(今の……誰だったんだろう(、、、、、、、、)?)

 

小首を傾げるも疑問の答えは返ってくることはない。不思議に思いながらも一先ずは買い物に専念することにしようと考えた私は再び商品に視線を戻した。

 

 

 

 

 

 

 

 

それからきっちり一時間。無事に納得のいく物が買えた私は買い物袋を下げて集合場所に向かって行った。

 

「東郷さん、待った?」

「ううん。私もさっき来たところよ」

「ならよかった……ってなんだかデートの決まり文句みたいなセリフになっちゃったね」

「あら、私は友奈ちゃんとデートのつもりなのだけど?」

「えっ!? えっと……その。そうなの?」

「ふふ……顔赤くしちゃって可愛い」

「……! もー!」

 

悪戯に微笑む東郷さんにむくれながらも今度は一緒にショッピングを楽しむ。それはまるで本当のデートのように楽しく感じられて……意識する前と比べてこうも感じ方が違うのかと内心驚いたりして貴重な時間を過ごしていく。

 

「お昼はどうしようか友奈ちゃん」

「戻って準備する時間もあるから手早く済ませるものがいいんじゃないかな? 例えばファーストフードとか……あ、でも東郷さん的には和食系のがいいのかな」

「たまにはいいわよ。一人だと絶対に食べないけど友奈ちゃんとなら平気。行きましょうか」

「そう? それならいこー」

 

私も基本的には食べないけど、限られた時間の中ではと考えて私たちは店に向かう。運良く混み始める手前で並ぶことができて、私たちは同じものを注文する。

 

「同じので良かったの東郷さん?」

「どれがいいのか正直分からないし、友奈ちゃんと同じもの食べたかったから」

「……私としては別々のを食べ比べしたかったなぁ、なんて」

「──はっ!? その手があったわね……くっ、私としたことが不覚…っ!」

「なんてね。ほら、席にいこ、東郷さん」

「むぅ。おいてかないでー友奈ちゃん」

 

そうして席に向かい合って座る。バーガーとポテト、ドリンクのスタンダードセット。さっそくバーガーの包みを開いて中身を出して一口食べ始めた。次いで東郷さんも同じように丁寧に包みを開いて一口食べる。

 

「……んー。なんだか味が薄い気がする」

「え、そうかしら? かなり濃い目の味付けのようだけど……まぁたまに食べる分には美味しいかもしれないわね。はむ…」

「……濃い目?」

 

言われてもう一口食べる。それでも味の感じ方は変わらなかった。隣にあるポテトも同様に薄味。私のだけなのかな?

 

「東郷さんのポテト一つもらってもいい?」

「同じのよ? もちろん構わないけど」

「ちょっとねー……あ、ありがとう。あむ……んー、やっぱり薄い」

「そうかな? 友奈ちゃんの一つ……んっ、十分に塩味が効いてるよ? もしかして具合でも悪い?」

「……特になにもないと思う。それでも美味しいのは変わらないからもしかしたら私の勘違いかもね。心配かけてごめんね東郷さん」

「ほんとに? ……友奈ちゃんがそう言うならいいけど。もしなにか不調があれば言ってよ」

「はーい、はむ…」

 

自分の勘違いだと思い、食べ進めていくがやはり最後まで薄味なのは変わらなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

昼食を済ませた私たちはイネスを後にして一度帰宅をする。プレゼント用に買った品の確認と、パーティーグッズの準備やらしていると時間もいい感じになって再び私と東郷さんは自宅の門の前で集合することになった。

 

「ちょっと早いけど行きましょうか。風先輩たちのお手伝いしないとね」

「だね。いこっか」

 

少し多めの荷物を抱えて私たちの足は先輩の家に向けて歩き出した。時刻としては夕方の四時。しかし冬場のこの時間でも外は日が沈み始めており薄らと夜の顔を覗かせ始めていた。

 

「荷物重くない友奈ちゃん?」

「東郷さんが既に重いやつ持ってくれてるから平気だよ。東郷さんこそ平気なのかな」

「私はへっちゃらよ。友奈ちゃんがくれた『種』のおかげで身体が軽いし、これぐらいならいつでもやってあげる」

「ふふ、頼もしいな。はぁ……」

 

漏れた吐息は白く染まり、私の眼鏡のレンズを同様の色に染めてから空へと消える。何となく夜空を見上げてみればまんまるなお月様が顔を覗かせていた。

 

「クリスマス、楽しみ」

「初めてだものね。良い日にしていきましょ」

「うん、でも……『結城』ちゃんには申し訳ないかな。本当はここに立っているのは私じゃなくてあの子のはずだったんだから…」

「…………それは言いっこなし。あなたが悔やむことではないわ。誰の予想をも超えた結果なんだもの。友奈ちゃんだってきっとそんな悲しい顔はして欲しくないはずよ。どんなことがあっても楽しむべき所は楽しまなくちゃってね」

「そう、かな? でも東郷さんがそう言うなら間違いないんだろうね」

「ええ。私はあなたたち二人を近くで見てきたんだもの。信じてくれていいよ」

 

うん、わかってるよ。いつも見てくれて、気にかけてくれてるのを私は知ってる。だから安心して隣に居られる。居させてくれる。そんな貴女を私は『好き』になったんだ。だからこそもっと一緒に居たいと思えるし────返してあげたいとも思える。

 

──……い………。──…で。

 

私の左目の視界にノイズが走る。瞬く間の一瞬。これが何を意味するのかまだ分からない。

 

「……ありがと東郷さん。うん、元気でた! 楽しむべき時に楽しまないとね!」

「うん。やっぱり友奈ちゃんは笑顔が一番だわ」

 

向き合わなければならない時が来るのかもしれない。でも今は少しだけ脇に置かせてもらって楽しませてもらってもいいよね?

 

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