私の名前は『結城友奈』である   作:紅氷(しょうが味)

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五十四話

◾️

 

 

 

冬場の空気はなんかしんみりとしていて好きだ。まるで今から雪でも降りそうなこの気候の中を私たちは肩を並べて歩いている。

 

「クリスマスパーティー楽しかったね東郷さん」

「うん、そうだね友奈ちゃん」

 

風先輩の家で行われたクリスマスパーティー。みんなで集まってワイワイ賑わって、美味しい料理を食べてプレゼントを交換して……。

とっても有意義な時間を過ごすことが出来て私の思い出がまた一つ増えたことが嬉しかった。忘れられない、大切な時間だった。

 

「それにしてもそのっちったら……あんなに大きなケーキを用意しなくても良かったのに」

「そのっちさんらしいよね。私お腹いっぱいになっちゃったよー」

 

プレゼント交換を終えた後に出てきたケーキはなんと二段というとっても大きなケーキで私を含めて目が点になってしまうほどの驚きを受けたのを鮮明に覚えている。先に見ていた風先輩は苦笑していて、そのっちさんは相変わらずニコニコとみんなの反応を楽しんでいたようでとても満足気だったなぁ。サプライズ成功って感じで。

 

「あは……」

「友奈ちゃん嬉しそうだね」

「うん。みんなとああやってパーティーが出来るなんて思ってもいなかったから。またやりたいなって思っちゃった」

「私も。また来年もやると思うから今から楽しみだね」

「そう、だね。うん!」

 

澄んだ夜空を見上げて私は星を見る。日常という時間はこうして過ぎていくが良いことばかりではないことはわかっている。だからまた来年を迎えるためにも頑張らなきゃね。

そのためにも、と私はその場で立ち止まった。東郷さんも同じように立ち止まってくれる。

 

「東郷さん。こうして二人きりになれたから渡したい物があるんだけど」

「──友奈ちゃん。私もね、友奈ちゃんに渡したいものがあるよ……はい、クリスマスプレゼント」

「────ぁ」

 

考えていたことが同じだったのか。私が渡すタイミングで東郷さんから差し出されたのはラッピングされた小袋だった。東郷さんは差し出しながら小さく微笑んで、

 

「交換会をしている中で流石に個別で渡すわけにはいかなかったから。受け取ってくれる?」

「う、うん! もちろんだよ。あ、あのね私も東郷さんにプレゼントしたいって……はい」

「私に? ありがとう。開けてもいい?」

「うん」

 

そう言って東郷さんは包みを丁寧に開けて中身を取り出す。

 

「わぁ、これってストールよね?」

「うん。東郷さんよくパソコンや机の前にいることが多いから、身体を冷やさないようにって思って。ストールなら季節問わずに使用できるから」

「確かに利便性抜群。ふふ、流石友奈ちゃんね。嬉しい……大切にするよ───ね、友奈ちゃん私があげたプレゼントも開けてもらってもいい?」

「じゃ、じゃあ開けます」

 

促されて今度は私が東郷さんからもらったプレゼントを開けていく。なんだろうという楽しみとワクワクを秘めて中身を取り出すと、思わず声が漏れた。

 

「これって……」

「最近色々あって今使っているやつが傷だらけになってるでしょ? だから新しいやつを──つけてみてくれる?」

 

東郷さんに言われて私は手にしたケースを開けて────赤縁の『眼鏡』を取り出し、今付けている……レンズ含め至る所が傷だらけの眼鏡を外して変わりに装着してみた。

そんな私を見つめて東郷さんは微笑んで、

 

「──うん、良く似合ってる。私の見立てた通りね」

「ほんと? 嬉しいなー……あは、こうして改めて見比べると結構ボロボロになってるね」

「それだけ大変な思いをしたんだもの。その眼鏡の傷のように……貴方も」

「そんなことないよ。私がこうしてあげたい! って思ってやってきたんだから。それに東郷さんたちの頑張りに比べたら私なんてまだまだだよ」

 

『私』が生まれるよりもずっと前からこの人達は頑張ってきたんだ。

その力強さを私は見習いたい。『目標』というか、そうなりたいって思えるのが東郷さんたちなんだ。

 

東郷さんは困ったような、少し複雑そうな表情を浮かべてから私のプレゼントしたストールを羽織った。そしてその場でくるりと一回りしてくれる。

 

「──どうかしら?」

「うん! とっても良く似合ってる。大人のおねーさんみたいな感じで」

「もう、それって私がお年寄りに見えるってことかしら?」

「そうじゃないよ。キレイだって意味で───!」

「……なんてね、冗談よ」

「えぇ!?」

 

東郷さんはくすくすと私をからかいつつ、彼女は羽織ったストールにそっと触れる。

 

「……でもちょっと残念」

「な、なにがかな?」

「先輩の家でそのっちに友奈ちゃんの『初めて』を取られちゃったから。てっきり私が最初にくれると思ってたからちょっとそのっちにヤキモチ妬いてしまうわ」

「それはぁ……──っ」

 

確かに『クリスマス』というイベント事であげるのはそのっちさんが初めてだったけど……。贈る『キモチ』に関しては東郷さん方がずっと────。

 

うぅ……これでも緊張を押し殺して手渡したんだけどなぁ、と思ったけど口には出さずに少しの沈黙を挟む。私はモジモジと指先を動かしてもう一つ考えていたことを実行することにした。

 

「──東郷さん。一つ……お願いがあるん、だけど……いいかな?」

「お願い? ……えぇ、いいわよ。友奈ちゃんのお願いならなんでも聞いてあげる」

「…………ほんとうに?」

「二言はないわ」

 

妙にキリッとカッコいい顔で言われて余計に顔が熱くなる。ダメだ、本当に私は彼女のことが好きなんだなと改めて気付かされるよ。というかそんな表情されるとまともに顔が見れない。でもこれは大事なことだから頑張って視線を彼女に合わせた。

 

「私……ね。東郷さんと『特別な関係』になりたいの」

「────と、特別な関係っ!? そ、そそそれってまさか聖夜の夜にアレやコレやとヤる伝説のあの───っ!」

「そ、それでね! 私、東郷さんのことを『名前』で呼びたいってずっと思ってて──って、え? 何か言った東郷さん??」

「────っ。な、なんでもない!」

 

早口気味に話している途中で何か東郷さんが言っていたようだけどよく聞こえなかった。

 

「な、名前……ね。はぁ、なんだびっくりした……」

「どう、かな?」

「………理由を訊いてもいい?」

 

その言葉に空気が少しだけ変化する。些細な変化だけど、私は変わらず言葉を紡いでいく。

 

綺麗だな(、、、、)って思ったから。『東郷』って苗字はカッコいい(、、、、、)って感じで……でも呼ぶとしたら私は下の名前がいいって感覚的なものが大きいけど。みんなが東郷さんのことをそう呼んでるから私もそうしていて……」

「……ふふ」

「…東郷さん?」

 

会話の途中で彼女は吹き出すように笑みを溢していた。その姿にちょっとだけ呆気にとられてしまう。

 

また(、、)褒めてくれた」

「また?」

「うん……私が下の名前じゃなくてみんなに苗字で呼んでもらっているのはね、ある人が『カッコいい』って褒めてくれたのが理由なの」

「ある人……って」

 

東郷さんは今度は柔和な笑みを浮かべながら真っ直ぐ私を見ている。その様子を見てすぐに察しがついた。きっと結城ちゃんのことだ。

 

「記憶を失ってなにも分からない、真っ暗で殺風景な私の世界に光を……ううん、綺麗な花を咲かせてくれたその子がね、最初に褒めてくれたのがこの『苗字』なの。今も誇りを抱いているって言っても過言ではないわ」

「………。」

「……私の名前を『綺麗だな』って褒めてくれるのは貴方が初めてよ。友奈ちゃん」

「東郷さん……ぁ」

 

眼鏡を掴んでいた手ごと包まれるように握られた。思わず小さく声が漏れてしまう。

 

「呼んでみて? 私のことを……下の『名前』で」

「ぁ……ぅ。み、美森(、、)、さん……」

「うん」

「美森……さん。美森さん…!」

「……うん。ふふ、ちょっと恥ずかしいわね。呼ばれ慣れていないからこそばゆいって言うか───でも、うん。やっぱり友奈ちゃんになら平気だった」

「ほんと?」

「もちろん。だからそんな不安そうな顔をしないで…………ゆうちゃん(、、、、、)?」

「────っ?! ひゃん!?」

 

耳元まで顔を近づけて囁かれる一言に私は身体を震わせた。東郷さ────美森さんはまるで悪戯が成功した子供のように微笑んで離れると、

 

「私のことを下の名前で呼んでくれるなら私も何か変えた方がいいかなって思ったんだけど……ダメだったかな?」

「そ、そんなことないです!! ただ、そうしてくれるとは思っていなかったから色々とびっくりして……!」

「私はもう既にゆうちゃんのことは下の名前で呼んでたからそのっちみたいに『あだ名』を考えてみたのだけれど、その様子なら一目瞭然と言った所かしら」

「み、美森さん……っ!」

「怒らないでゆうちゃん。悪気はなかったのよ」

「怒っては…ないけど……」

 

怒るなんて、むしろその逆でとても嬉しくてもうどうしたらいいのか分からないぐらいなんだけど…。もー、どうして美森さんは私のことをドキドキさせるのかなー。

 

「ねぇ、ゆうちゃん。私からも一つお願いしてもいいかな?」

「えっと…なにかな?」

「その手に持ってる『眼鏡』、私が持っててもいいかしら」

「これ? でもボロボロだし、眼鏡って言っても『伊達』だから美森さんが持ってても意味がない気がするけど」

「それでもいいから。でも嫌なら無理強いはしないけども」

「いや、その……こんなので良ければ」

「ありがとう、ゆうちゃん」

 

私がおずおずと差し出して優しく受け取った彼女は愛おしそうにそれを胸に抱いた。

なんだか悪い気がしたけれど、彼女自身がああ言ったのだからこれ以上は何も言わずにしておく。でも確かにただ捨てるよりかは大事にしてくれる人の手にあった方がいいのかもしれないなとも感じた。

 

そうしていると冬の風が私たちの間を吹き抜けていく。

 

「……っ。寒くなってきたね、帰ろっか美森さん」

「そうね、ゆうちゃんが風邪でも引いたら大変だから」

「それは私も同じだよ。美森さんが風邪引いちゃったら心配になっちゃうし」

「もしそうなったら看病してくれる? もちろんゆうちゃんの看病は私がするから」

「…うん、えへへ。って、そもそも体調崩さないように気をつけなきゃだよ美森さん!」

「わかってます」

 

上機嫌な足取りで美森さんと私は二人で帰路についていった。

 





お互いの呼称が変わり、より親密になった二人。
クリスマスにこれってもうアレですね、うん。
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