私の名前は『結城友奈』である   作:紅氷(しょうが味)

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四章『未来の選択』
五十八話 ※園子視点


◾️

 

 

 

年末、大晦日の今日。私はミノさんの所に足を運んでいた。

 

「…………。」

 

慰霊碑の前で手を合わせて静かに目を閉じる。ここのところ時間があれば顔を出すようにしているからお花とかは綺麗な状態を維持している。たまに私の持ってきたものとは違うものが置かれている時があるけれど、それがきっと『あの人』であると思うと自然と口角が緩むのを自覚できた。

 

「さてさて今日はなんと『ぼたもち』を持ってきたんよー。しかも手作り! 味とかわっしーに負けちゃうけど頑張って作ったからいっぱい食べてねミノさん」

 

タッパーに詰めたぼたもちを御供物として供える。そうして後片付けをしている最中に『端末』が震えた。確認してみるとディスプレイには『にぼっしー』と表示されていて、片付けの手を一旦止めて操作していく。

 

『大赦から召集がかかった。前のことがあったから疑わしいんだけど、園子はどう思う?』

 

あー、と私は苦笑してにぼっしーらしいなぁと思った。私は操作を続けて何回かやり取りを行う。

 

『にぼっしーはゆっちーとわっしーの側にいてあげて欲しいな』

『園子は来ないの?』

『行きたいのは山々なんだけど、生憎と年末は立て込んじゃっててね〜。この時期はもー大変タイヘン! アポを取るので精いっぱいだった』

 

実は大赦が向こうに行くことは私がお願いしていた。その報せがにぼっしーにいってこの返事がきたのだろう。流石彼女のお兄さんだ、仕事が早い。

本当は私も行きたい……でも今回はにぼっしーに任せることにした。まだ知り合って間もないけど彼女ならあの二人のことを任せられると信頼しているから。理由を問われれば『感』としかいえないけど。

 

それに──ゆっちーもわっしーも今はとても『不安定』だろうから。

 

その中でも特にゆっちーの容態が心配だった。違和感はわっしーを救出して少し経ってからと比べて、今は『生気』が削げ落ちているように見えた。色々なものを失い続けている(、、、、、、、)。そう感じてしまうほどにあの子は……。

 

「…ううん、悲観してばかりじゃダメだよね。何か方法があるはずだよ」

 

今度こそ(、、、、)は後悔しないように。二人を蝕む『タタリ』をなんとかしてあげたい。『乃木』としての権力を用いて色々と立ち回っているがどうにもうまくいかない。やっぱり一人では限界があるのかな。

 

「勇者部五箇条一つ……『悩んだら相談』、だよね」

 

勇者部に所属して教えられたこの五箇条は私は好き。なんか仲間ーって感じられていいよね。部活というものに初めて所属して、みんなで何かを成し遂げる──昔の私に比べたらすごい進歩してる。切っ掛けをくれたミノさんとわっしーには感謝してもしきれないよ。

 

「──『またね』。ミノさん」

 

時間がないのは分かってるから。だからその中で私の出来ることをしていこう。

 

 

 

 

 

 

基本的に私の移動手段は車の送迎になる。本当は一人であっちこっちに行動したいけど、『乃木』という立場がある以上は仕方のないことなのかもしれない。お父さんやお母さんにも心配かけちゃうし。でも周りの子みたいに自由に行動できるのは今回に限っては羨ましく思ってしまった。

 

「着きました」

「ありがとー。また時間が来たら連絡するから戻ってていいよ」

 

車のドアを閉めてお付きの人を帰らせる。場所が場所だけに居てもらっても困るから。私はよし、と小さく意気込みながらインターホンを鳴らした。

 

『はーい! ……ってなんだ、乃木じゃない』

「おはようございますフーミン先輩。お邪魔しにきちゃいましたー」

『もう約束の時間かー。今開けるから上がってあがって』

 

私がにぼっしーたちの所に行かなかったのはこのためだ。フーミン先輩とイっつんに会うために彼女たちの自宅に足を運んでいた。

 

「お邪魔します。はぁ〜ぽかぽかー」

「寒かったでしょ? リビングで待ってて、樹がテレビ観てると思うから」

 

いそいそとフーミン先輩は別の部屋に向かっていく。年末だし忙しいはずなのはあの背中を見れば分かる。なのにわざわざ時間を作ってくれてありがたいと思う。

 

……もっともその内容が明るいものだったら良かったんだけどね。

 

言われた通りに私はリビングに向かうとイっつんが確かにテレビを眺めるように見ていた。私の気配に気がつくと視線はこちらに向けてくる。

 

「…あっ、園子先輩。おはようございます」

「おはよーイっつん。早くからお邪魔して悪いねぇ」

「いえいえ、ここに座ってください。いま飲み物用意しますね」

「ありがとー」

 

イっつんは気が利く子だーね。慣れた動作でテキパキと飲み物を用意してくれて目の前に差し出される。受け取って一息ついていると程なくしてフーミン先輩がリビングにやってきた。

 

「いやぁごめんごめん。年末の追い込みで掃除してたからさー」

「お忙しい中ありがとうございますフーミン先輩。本当は年明けからの方がいいと思ったんですけど……」

「気にしないでいいのよー。もう殆ど終わってたところだったから。それよりも大事な話があるんでしょ? だったらそっちの方が優先になるわよ」

 

こういう所が尊敬できる人だなぁフーミン先輩。イっつんも横で頷いて見せた。

 

「そういえば友奈たちには声をかけなくて良かったわけ? なんだったら今からでも連絡して──」

「ゆっちーたちは今頃は大赦本庁に居ますよ」

「大赦……」

 

私の言葉を聞いて先輩の眉間に皺が寄る。その様子からやっぱり大赦への不信感は根強いものとなっている証拠でもあった。イっつんも不安げになっているし。

 

「大丈夫なの? いや、夏凜もいるから何かあっても対処してくれるか……」

「どうして三人はそこに行っているんでしょうか?」

「理由はいくつかあるんだけど、一つは検査かな。これは主にゆっちーとわっしーの二人になるけど。にぼっしーはその付き添いを兼ねて一緒に行ってもらってるんだ」

「そう、なの…? 『一つ』ってことはまだ何か別の理由があるの?」

「その理由が大切なところですね──ゆっちーについてです」

「友奈さんが……何かあったんですか?」

 

一瞬、言葉に詰まりそうになる。これは酷なことなのは重々承知しているし、そこからの反応も予想できるけど……何も知らないでいるのはもっと悲しいことなんだと私は思うから。だから言うことにした。

 

 

 

ゆっちーの────彼女の残された時間について。

 

 

 

「結論から言うとね……ゆっちーはこのままだと春を迎えられない可能性が凄く高い。それをまず伝えたかったんよ」

『…………えっ?』

 

二人の反応が重なる。何を言ってるんだという表情。うん、いきなり聞かされたらこうなるよね。

 

「ど、どういうことよ春を迎えられないって……それじゃあまるで──」

「フーミン先輩。ゆっちーがわっしーを助けに行った時のことを覚えてますか?」

「覚えてるわ。え、もしかしてまだ怪我か何かが治ってなかったってこと? それが急に悪化してって感じなの??」

「…怪我というよりかはその時に『天の神』から『タタリ』という呪いをゆっちーは受けてしまったんです」

「天の神って私たちが戦っているバーテックスたちを送り込んできている神様ですよね? それがなんで友奈先輩を呪うことに……?」

「理由として挙げられるのは奉火祭が途中で打ち切られたからだろうね。本来わっしーが一人で負うべきだったタタリ(もの)をゆっちーが助けた際に一緒に刻まれてしまったことが原因かな」

「そ、そんな……だ、だとしてもあの子普通に生活してるじゃない。呪いって…最後には『天の神』に殺されるってこと?!」

「このまま何もせず放置していれば最悪の事態になっちゃいます。それに『タタリ』は体に刻印が刻まれるせいで強い『苦痛』に蝕まれているの……ゆっちーは凄いよ。そんな状態で今まで生活してきたんだから」

 

『散華』のときの機能不全とはまた違う苦しみ。いや、あの時はまだ『痛み』がないだけまだマシだったのかも。継続的な痛みがゆっちーを蝕み続けているはずだ。

 

私の話を聞いて二人が苦悶の表情を浮かべる。イっつんに至っては今にも泣きそうだ。

 

「どうにか出来ないんですか園子先輩! 友奈さんばっかり辛い目にあって……そんなのおかしいですよ」

「それは私も同意見だよイっつん。それでこのところ調べ回ったんだけど、大赦側も四苦八苦してるみたい。天の神からの『タタリ』はそこら辺の呪いとは文字通り桁が違うから人類側からの手立てがないのが現状になってるんよ」

「でも、まだ何かあるはずよ絶対に。友奈をそのままにさせてられないわ」

 

フーミン先輩は何かないかと思考を巡らせている。そして何かを思い付いたのかハッと顔をあげた。

 

「──ねぇ乃木、あれはどうなの? アタシたちがバーテックスを倒すときにやっていた『封印の儀』。あれをどうにか応用して友奈の中にある『タタリ』を封印するっていうのは?」

「……『儀式』を行うって線は悪くないです先輩。でもさっきも言った通り呪いの規模が他の比にならないんですよ。仮に出来たとしてもその全てを抑え込むことは難しいかな」

「…友奈さんの『タタリ』の元凶そのものをなんとかするというのは?」

「……そうだね。私もそれが一番手っ取り早い解決法だと思うよイっつん」

「ってなると…元凶って天の神を倒すってことよね?」

 

私は先輩の言葉に頷くと沈黙が場を占める。それがどれほどのものかは想像に難くない。天の神を倒すと言うことは即ち────世界を救うのと同義だからだ。

 

ご先祖様の代から数百年と続いて来た神様との抗争。それを私たちの手で終わらせばゆっちーたちの『タタリ』は祓われる。あの炎の世界は無くなる。

 

「私たちで倒せるのかしら……天の神に」

「それはやってみないと分からないですよ。例え確率は限りなく低くても。時間もそう残されていないですし……大赦の動きも無視できなくなってきてるのもあるんですよ」

「大赦が、ですか?」

 

天の神やゆっちーの時間もそうだけど、こちら側の大赦の今後の動向が気にかかる。そして、それが私たちにとっても時間が残されていないことの一因でもあった。

 

「あっちはあっちでこの状況を打破するために動こうとしているみたい。二人とも『神婚』って聞いたことあるかな?」

「え……なに、結婚?」

「神婚だよお姉ちゃん……って、えっ?」

「そうだね。その二つの意味はイコールで繋げちゃうかな……神婚は神様との結婚を意味してる。この場合だと神樹様とだね。相手は──」

「ちょ、ちょっと待ってよっ!」

 

ダン、とテーブルを叩いて身を乗り出すフーミン先輩。うん。初めて聞かされるとその反応になっちゃうよね。

 

「その相手が友奈ってこと!? 馬鹿げてる……第一なんの意味があってそんなことを───!」

「もしゆっちーが神樹様と神婚を果たせば人類は神様の眷族として扱われる。そもそも天の神が怒ってるのは一個人というよりかは、人類そのものに対してだから……そうなった場合は向こうもこちらをどうにかする理由が無くなるんよ。ある意味で人類は救済される(、、、、、)ことになるね」

「い、いやだって……でもそれは…」

「もしそうなってしまったら人は……人として生きてるって言えるんでしょうか?」

 

イっつんは鋭い。そう、もしそうなったら人類は『人』としての枠組みから外れてしまう。まったく別のものに変わってしまう可能性だってある。それでもあの大赦はそれを実行しようとしていた。

 

 

────神と共にいられるのだったら、それはとても栄誉なことだ。

 

 

本気でそう考えている人間があの組織にはいる。それもかなりの数が。反対ににぼっしーのお兄さんたちは別の考えを持って組織に使えていて、その二つのグループが衝突を繰り返しているのをしばしば耳にすることがある。

きっと天の神との戦いが本格化すれば必ずその人たちは介入してくるはずだ。裏ではもちろんにぼっしーのお兄さんも動いてくれているはずだけど、それも全てに手が届くとは限らない。

 

時には私たち勇者の行動を邪魔してくることだってありえる。もし、そうなっては何も知らない状態で居たら危険極まりない。だからそれらを踏まえて私は今こうしてみんなに打ち明けている。

 

「私はみんなによく考えて、選択して動いて欲しいんです。後悔がないように……さっきも言った通り時間はあまり残されていませんけど」

「乃木は……あんたはどうするのよ?」

 

 

先輩からの問いかけ。しかし私はもう既に決まっている。

 

 

「────私はゆっちーとわっしーを助けるために『天の神』と戦います。大赦の『神婚の儀』も阻止するつもりでいます。何もできないまま友達が目の前から居なくなってしまうのはもう嫌だから」

 

 

あの日、あの時、私はミノさんに何も出来なかった。無力だった。声をかけることも、見送ることさえ出来なかったから。

だから今度はそうならないように。私は戦うことを『選択』した。

 

 




そのっちは戦う『選択』をとった。
犬吠埼姉妹の『選択』やいかに────。

友奈の状態は原作よりも早い段階で打ち明けられる。
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