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元日。年を越した最初の日。
私の『初夢』とも呼ぶべきものはみんなとの夢だった。
景色は『春』を連想させる桜が綺麗に咲いた野原でみんなでわいわい楽しみながらお花見をしている夢。
私はまだお花見どころか『春』でさえ未経験の身だけど、きっとこれは私の願望にも似た光景だったのかもしれない。
風先輩がみんなをまとめて大きなレジャーシートを広げてたくさんのお弁当やお菓子、飲み物を並べてお喋りとかたくさんするの。
樹ちゃん、夏凜ちゃん、そのっちさんに加えて芽吹さん、弥勒さん、雀さんにしずくさんに亜耶ちゃん。
そして私の隣にはやっぱり大好きな美森さんが居てくれて……他にも防人の人もたくさん居てとっても賑やかな、そんな夢。
「────あら、おはようゆうちゃん」
「…ふぁ。おはよう美森さん、明けましておめでとーぉ」
「明けましておめでとうございます。よく起きれたね、昨日あんなに盛り上がっててちゃんと朝起きれるか心配だったのよ?」
「なんとなく美森さんが来る気配がしてー……」
「もう。たまたまでしょー?」
「ふみゅ」
頬っぺたを突かれてぼんやりとした思考と共にぐりぐりされる。美森さんはさっき来て今まさに私を起こそうとしたところだったらしくて顔が近くにあってちょっとだけ驚いちゃったのは内緒です。
美森さんは私の背中に腕を通して起こすのを手伝ってくれる。ここ最近はこうやって朝起こしに来てくれる時に色々やってくれることが増えて助かってるけれど、同時に申し訳無く思っちゃう。
「立てる? 眩暈とかそういうのは平気?」
「うん、大丈夫だよ。ありがとう美森さん……よっと」
「急に起きちゃダメ。それと『アレ』も見せてね」
「はーい。美森さんなんだかお母さんみたいだね」
「……そんなこと言うのはこのお口かしら?」
「いひゃいいひゃいごめんなひゃい」
「まったくもう。新年のご挨拶とかしなきゃいけないんだから巫山戯ないの」
そんなやり取りも楽しくてつい度が過ぎちゃう時もあるけど、付き合ってくれる美森さんはやっぱり優しい人だなーと考えながら私は寝間着を脱いで身体中に巻いている『包帯』を外していく。
素肌にギッシリと刻まれた『タタリ』の刻印。今は無い痛みがあった時に比べたら広がりは止まっているように思える……と願いたいところです。
「……うん、前に見た時と変わらないわね。『種』は持ってる?」
「ちゃんと持ってるよ。枕元の側に……ほら」
「……数は七つ。前に飲んだときから少し経ったからそろそろ次の『種』を摂取した方がいいと思うよゆうちゃん」
「そうだね。だったらはい、美森さんも」
種の数は全部で九つで、この前に私と美森さんで二つ使った。残り七粒の種の内二つを手にして一つを美森さんに差し出した。
困惑する彼女は視線を種と私に行ったり来たりしている。
「私はゆうちゃんに比べたら軽度だから平気だよ? 数も限られているんだし、全部ゆうちゃんが使用した方がいいと──」
「それでも痛みが無いわけじゃないでしょ? 美森さんも、無理はダメ。それに『紡ぎの種』は二人で使おうって決めたから私が使うなら美森さんも一緒に使うの。だから……はい」
「…………うん。ありがとうゆうちゃん」
押しに負けておずおずと種を受け取った美森さんと一緒にそれらを口に含んで飲み込んだ。これで残りは『五つ』。
「……痛みは和らいだ?」
「──相変わらず即効性があって凄いよ。おかげさまで」
「良かった。それじゃあ新しい包帯巻くの手伝ってくれる?」
「うん。任せてゆうちゃん」
美森さんの『タタリ』も少しずつ進行しているようで、その度に鈍痛が伴う。種の効力は絶大なみたいで美森さんの表情も和らいでくれた。やっぱり無理してたね。
私の素肌は再び白い包帯で包まれていく。これを万が一晒して外に出ちゃったら他の人に感染してしまうからとても大事な処置だ。
来たる『神婚の儀』までに私は被害を最小限に抑えつつその日を迎えなきゃいけない。春信さんからは『近いうちに執り行う』と連絡が来ていたからやれることはやっておかないとね。
「──はい。これでどうかな」
「さっすが美森さん! 手際がいいなぁ…ありがとうございます」
「どういたしまして。それじゃあ行こっか」
こうして私の新年の朝は過ぎていく。
◇
勇者部で集まるのは二日目ということで私と美森さんで挨拶回りをすることにした。私の両親と美森さんのご両親に挨拶を済ませてからご近所を回っていく。『結城ちゃん』は顔が広くて色々な人とお知り合いですごいと思った。自分のことのように嬉しくなって思わず表情が綻ぶと美森さんも同じように笑ってくれる。
冬の寒さはまるで心の暖かさを感じられるようでとっても好き。左半身は感覚があまり無いから余計に感じ取れるのかな?
「あっ! 見てみて美森さん。ここ氷ができてるよ」
「雪は降らなかったみたいだけど、凄く寒かったから一部が凍ってしまっていたのね……ってなにしてるのゆうちゃん?」
「ちべた!? あ、でも左手だと何も感じられない〜…あはは。こんな氷触るの初めてだー」
しゃがんで道端の凍結した氷に触れてみる。なんかこういうのワクワクしちゃうよね。
「ちょ…!? ゆうちゃんそんな触っちゃダメよ!!」
「み、美森さん?」
「あーもう、地面にはどんな病原菌が付いてるか分かったものじゃないわ……このアルコールティッシュで指先を拭いて…! ああこんなに手を冷やしちゃって私がギュッて握るしかないわね」
「あれー……?」
瞬く間に指先を綺麗に拭われ、なぜか手を握られる私。そのティッシュはどこから出したの美森さん?
「小さい子じゃないんだから不用意に触っちゃだめよ」
「お、大袈裟だよー。えへへ」
「罰としてゆうちゃんは帰り道私と手を繋いで帰る刑だね」
「えー…? ふふ、はーい♪」
胸の鼓動がとくん、とくんと熱く脈打つのがわかる。私はより密着するように美森さんの腕に抱きついて手も指先を絡めるように握った。
僅かに美森さんの肩が跳ねる。ふふ、そんな反応も愛おしく感じちゃうね。
「甘んじて罰を受けさせていただきまーす」
「もぉー…ゆうちゃんからかってるでしょ?」
「からかってないよ。むしろずっとこうしていたいぐらい……かな?」
「…ゆうちゃん」
私の『願い』。みんなには幸せでいてほしい。結城ちゃんにも戻ってきてほしい。私にこんな楽しい時間をくれたたくさんの人に恩返しをしたい。
最初の何もなかった自分に比べて今はこんなにも色々なモノが増えた。それがとっても嬉しくて、そして失うのが怖くなっている。
「……不安?」
「…あは。ちょっとだけ」
言葉にしなくても私の心境を悟ってくれる。私はそんな良くしてくれた人たちをもしかしたら裏切っちゃうんじゃないかって思う。
これからの『選択』はそれだけ多くのものを賭けて巻き込んで行うものだと分かっているはずなのに。
「前にも言ったけどゆうちゃんが沢山考えて出した答えなら、私はそれについていくよ。きっと夏凜ちゃんもそう思っているはずだから」
「怒らないの…?」
「怒ったとしてもゆうちゃんは止まらないでしょ? 私は決めたの……あなたについて行くって。天秤の針がどちらに傾いてもそれが自分たちの『選択』なら後悔はないから」
「……そうだったね。ありがとう、美森さん」
不安がいつまでも拭いきれないけどその度に彼女が寄り添ってくれる。それだけでも前に進む原動力になれた。
サクサクと霜が降りた地面を踏みしめながら二人で歩いていく。ちっちゃい子みたいな感想だけど、これも楽しいな。
……楽しいこと、か。
「ねぇ、美森さん。私ね……みんなでお花見がしたい」
「お花見?」
「うん。仲良くしてくれるみんなと一緒に綺麗な桜の木の下で楽しむの。春がどんな感じなのかネットとかでしか知らないから経験してみたくて」
「そうね。その時は先輩と一緒に腕によりをかけてお弁当を作るわ」
「ほんと? やったー!」
あの『初夢』のようになれたらいいなぁ……うん、そのためにも頑張ろう。諦めないでいけば必ず『未来』に辿り着けると信じて。