私の名前は『結城友奈』である   作:紅氷(しょうが味)

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六十一話 ※風視点

◾️

 

 

 

一月二日。

 

今日は年末に約束していた勇者部のみんなで初詣に行く日。

 

「樹ー。起きてるー?」

 

いつものようにアタシは妹を起こしに部屋に向かう。ノックをしてドアを開けてみれば丁度ベッドから起きあがろうとしていたようですぐに目が合った。

 

「お、ちゃんと起きれてるわね。おはよう樹」

「おはようお姉ちゃん。ふぁ〜…」

「二度寝しないようにしなさいよー」

「はぁーい」

 

そう言い残してアタシは部屋を後にする。近頃の樹はだいぶ早起き出来るようになってきていた。他にも家事全般を自ら率先してやるようにもなって日々の成長が窺える。姉としては少し寂しく思うけど、それ以上に喜びの方が強く感じられるわ。

 

(これもみんなのおかげかしらねー)

 

特に最近は友奈の事情を知ってからは更に火がついている様子。それもそうか…と今の友奈は考えてみればたった半年足らずであんなにもしっかり自立できてる子になっている。その様を見せつけられたら樹も負けてられないって対抗心を燃やしたのかもしれない。料理の腕は相変わらずだけど……ほんとなんでそこに関してはアタシでさえ匙を投げ出したくなってくる出来になるのかしら? 誰か教えて欲しいもんだ。

 

「…………。」

 

洗い物をしながらアタシは考える。内容は乃木が打ち明けてくれた友奈たちの隠していること。『天の神』、『タタリ』、『呪いによる死』。その様々なことをアタシと樹は乃木の口から聞かされた。

 

今でも信じ難いそれらは部長として、また仲間として大きく重圧がのしかかってきた。同時にもっとアタシがうまく立ち回っていればどうにか出来たんじゃないかって考えてしまう。いまさら悔いても仕方のないことだってのは分かってるけど、頑張ってくれているみんなには申し訳ない気持ちで一杯なのが現状だ。

 

(乃木はもう大赦の思い通りにはさせないって言ってた。それはアタシも同意見だけど……友奈のことに関して東郷がまた暴走しちゃう可能性があるのよね)

 

生き死にの瀬戸際でまた突拍子もないことをやらかすかもしれない。アタシたちの中で一番あの子のことを気にかけている東郷のことだ。神樹様を倒す────なんて言いかねないのが怖いところ。前科もあるし……って、仲間をそんな風に捉えちゃいけないか。

 

どちらにせよきっと悩んでいるはずだ。力になってあげたい。でも乃木が言うにはあの二人から何かを言ってくることは低いと見ているようで、それでアタシと樹に相談をしてきたらしい。

 

(そういえば…あの日は夏凜が付き添いで行ってたのよね。大赦本庁だっけ? アタシも樹もしばらく顔を出してないか)

 

もっともあの組織に今更顔向け出来たもんじゃないけどさ。所属こそしてはいるけど、あそこは勇者に対して秘匿事項が多すぎるのよね。実際友奈の件にしても乃木に聞かされなければ知らなかったわけだし。

 

諸々の評価からしてもやはり、アタシは乃木と同じ結論に至る。

 

『タタリ』の元凶───天の神を倒すこと。

 

そこまで考えたところでアタシは洗い物を終えてテーブルに作った朝食を並べていく。

 

「うぅー…洗面所さむいぃー……あぁ、でもこっちはあったかいよ〜」

「丁度出来たから座ってー樹」

「はーい」

 

二度寝することなく顔をスッキリさせた樹がリビングにやってきた。アタシも樹の対面に座ってあれよこれよと彼女の前に料理を提供していく。いただきます、と手を合わせて二人で朝食を食べ始める。

 

「美味しいよ、お姉ちゃん」

「ありがと」

「今日の天気は平気そう?」

「予報だと晴れだったわ。三ヶ日は心配はいらないみたいだし、日頃の行いがいいせいかしら」

「早くみんなと会いたいなー。現地集合だったっけ?」

「そうね。人も多いだろうし、神社の入口辺りに集合する感じになるかな」

 

樹は乃木の話を聞いてどう思っているんだろう。あの後は何となく話に触れられなくて終わったけど、せめてアタシにとって一番近しい存在である妹には意見を訊いておくべきだよね。

 

「お姉ちゃん? どうしたの、怖い顔して」

「え? そんな顔してた??」

「してたよー。何か考え事…?」

「まぁ、そんなとこね……ねぇ樹あのさ──」

「もしかして友奈さんのこと?」

「…………うん」

 

どうやら最初から見抜かれていたようだ。流石アタシの妹。

樹は箸を休め、こちらに視線を重ねてくる。

 

「お姉ちゃん。私ね……友奈さんには死んでほしくない。東郷先輩にも。だから園子先輩についていくよ」

「…………! そう。そう決めたのね樹」

 

その瞳の奥には昔になかったものを秘めていた。それにこの子がこんなにも真っ直ぐ意見を言えるようになっていたことに嬉しさを感じてしまう。

成長したわね、樹。

なら姉であるアタシもしっかりとしないとダメよね。

 

「お姉ちゃんは……?」

「……正直言ってまだ迷ってる。だから今日友奈たちと会うでしょ? もう一度ちゃんとあの子たちを観たい。きっとそれでアタシの気持ちも定まると思うから」

「…そっか。お姉ちゃんらしいね」

「樹はほんといい子に育ったわね。姉として鼻が高いわ」

「そんなことないよ。どれもみんなのおかげで今の私がいるんだもん」

 

お互いに微笑む。

いつか追い抜かれそうだなぁなんてこの時思った。

 

 

 

 

 

 

 

その後は滞りなく支度を済ませてアタシと樹は神社へと向かった。

部長として一足先にいないとね、と意気込んで行ってみればなんと既に集まっているではないか。

 

そんなアタシたちにすぐに気がついた東郷と乃木がこちらに近づいてくる。

 

「あけおめっす〜フーミン先輩、イっつん」

「あけましておめでとうございます」

「東郷先輩、園子先輩あけましておめでとうございます」

「明けましておめでとう。なんだ、アタシたちが最後だったのね。それと二人とも着物よく似合ってるわねー」

 

東郷は言わずともがな乃木も中々に似合っていて流石令嬢様といったところか。ふと、隣にいた樹が小首を傾げる。

 

「あれ、友奈先輩と夏凜先輩は向こうで何をしてるんですか?」

「なんかすっごい笑顔の友奈にくっつかれてるわね」

「ゆうちゃん夏凜ちゃんに会えたのが嬉しくてさっきからずっとくっついちゃってるんです」

「さっきまで私ともしてたんよ〜わいわいと」

「夏凜ちゃーん! すりすり〜♪」

「ちょぉ!? なんで今日はそんなに甘えてくんのよ! 安静にしてなくていいの?!」

「ちょっとぐらいならへーきだよ。それにそんなこと言っても受け止めてくれる夏凜ちゃん好きー♪」

「んなっ!!? だ、だだだってそれは仕方ないでしょ!」

 

確かにテンションの上がった友奈に纏わりつかれている夏凜がそこに居た。なんであんな調子なのかしら…? まるで『タタリ』に侵されているようには見えない様子に一瞬具合が良くなっているのかと考えたが、よく観察してみると夏凜が友奈を倒れないようにうまく支えているようにも見てとれた。夏凜の表情は嬉しさ半分、焦りが半分──みたいな割合の顔してるし。でも何も知らないでいたら気がつかないわね。

 

…………というか、

 

「ねぇ、東郷。一つ訊いてもいい?」

「はい。なんでしょうか?」

「…あんたって友奈のこと『ゆうちゃん』って呼んでたっけ?? なんかあまりにも自然に言うもんだからスルーするところだったわ」

「あー…そこは流してくれれば良かったんですけどー…えっと」

 

なんか仄かに顔が赤い気がする…。それとも改めて尋ねられて気恥ずかしいのか珍しく目を泳がせる東郷を見て隣にいる乃木が目を輝かせながらサムズアップしていた。

 

「フーミン先輩。わっしーとゆっちーは一つ大人の階段を登ったんですぜ!」

「は……はぁ!? マジ?! ちょっと東郷あんた何してんのよ?!!」

「ちょ、ちょっとそのっち!? あの誤解です風先輩」

「あ、あわわわ……友奈先輩と東郷先輩が……!」

「樹ちゃん? 何を想像してるの?? な、なにもしてないですよ! ただお互いに呼び方を変えようって話になってそれでそう呼んでいるだけですっ!」

「…なーんだ、そうだったのね。もうびっくりしちゃったじゃない」

 

それでもまさか東郷がああやって誰かをあだ名で呼ぶなんて珍しくて驚いちゃったわ。乃木は別として。

あのまま鑑賞してるのも面白いけど、そうも言ってられないのでアタシたちは二人の元に歩いて行った。

 

「そこのイチャつきどもー。あけましておめでとう」

「だ、誰がイチャついてるか!?」

「あ! 明けましておめでとうございます、風先輩……に樹ちゃん!」

「明けましておめでとうございます夏凜先輩、友奈せんぱ──ひゃ?!」

「えへへー樹ちゃんあったかーい。すりすり〜♪」

「も、もう友奈先輩くすぐったいですよぉー……♪」

「ぁ……」

 

夏凜のツッコミも束の間に今度は友奈は樹とイチャつき始めた。

なんかこれだと樹より友奈の方が妹みたいに見えるわね……って考えてみれば精神年齢的には友奈は一番下ってことになるだろうからあながち間違いではない……? むむ。

 

「ゆっちーがイっつんに盗られて残念だね〜」

「…ふ、ふん! ざ、残念になんか……思って、ないし…!」

「声も上ずっちゃっていっそ清々しいほどに分かりやすいわね夏凜」

「う、うっさい!」

「にぼっしー顔まっかっかー♪」

「ぐぬぬぅ……!」

「東郷は友奈がああやってていいの?」

「ゆうちゃんが喜んでいるならそれが一番なので」

「あ、ハイ」

 

その慈愛の目はやめんしゃい。なんか東郷ってば友奈を見る目が変わってないかしら? なんだか……うん、変な想像すると乃木になるからやめておこう。

 

そんなやり取りをしていたら今度はアタシに軽く衝撃が襲いかかってきた。視界内に居たからアタシは驚くことなくそのまま受け止めてあげる。

 

「風先輩もーすりすり〜♪」

「なぁにー? そんなにスキンシップばかりしてると東郷が妬いちゃうわよ?」

「や、妬きません…!」

「またみんなの顔が見れて嬉しくなっちゃって。テンション上がってます!」

「ま、そんな後輩たちをドンと受け止めてあげる女子力は必要よね。ほら、カモン!」

「わぁい♪」

「なにアホやってんだが……樹?」

「……友奈先輩ずるい」

「あらあら…」

「イっつんもお年頃なんやねぇー」

 

外野が何か言っているがスルーしてアタシは甘えてくる友奈の頭を撫でた。サラサラの髪は東郷を彷彿とさせるもので手入れが行き届いてるのが分かる。この辺は『友奈』と比べてしっかりしてる印象を抱いた。

 

倒れないように支えていると分かるけど、結構自重を預けてきている。それが『タタリ』のせいだと思うと少し悲しくなった。表向きは悟られないようにしている反面、こうして着実と肉体を蝕んで弱らせている。

 

(──ねぇ、友奈。どうしてあなたはそこまで頑張れるの?)

 

乃木から聞いた話だと今も苦痛に苛まれているらしい。でもこの子はそれを感じさせないように立ち回っているんだ。それはなぜか……アタシたちを困らせないように、心配させないようにしているから。

 

「ほら、友奈。初詣がまだなんだから、そろそろ風から離れなさい」

「はーい!」

「ゆうちゃん、人混みがあるから離れないように手を繋ごっか」

「…! うん! ありがとう美森さん」

「なら反対側(こっち)には私が居てあげるわよ。感謝してよね」

「あは。夏凜ちゃんもありがとー」

 

返事よく頷いた友奈は二人に連れられて鳥居をくぐっていった。確かにここで時間を潰しているのももったいないのでアタシたちも続くことにした。

 

「お姉ちゃん…手、繋いでもいい?」

「あら珍しい。いいわよ、はい」

「姉妹愛が映えますなぁー…わっ」

「乃木もふらふらーってどっかいっちゃいそうだからアンタもね。ほら、いくわよ」

「おー…! あいあいさー♪」

 

両手に妹と後輩を連れてアタシたち三人も鳥居をくぐっていく。人は三ヶ日もあってかそれなりの量で進むのも大変ねこれは。

前を行く三人を見失わないようにアタシたちもその背中を追う。

 

 

────今を、この瞬間も楽しんで生きていこうとしているその背中を。

 

そこでアタシは改めて気付かされる。

ああ、そうか。悲観してばかりじゃなくて明るい『未来』を信じて前に進もうとする意思が大事なんだ。それは前の『友奈』も今の『友奈』もやってきてるじゃない。『諦めない』、『挫けない』って。

 

その真っ直ぐな姿をこの目で見てきたはずだ。なのに部長であり、先輩であるアタシが先に絶望し、諦めようとしてどうするのよ。当人たちの方がよっぽど苦しいのに…。

 

こんなに優しくて、いい子たちが理不尽に死ぬなんておかしい。

 

大赦も友奈を使って『神婚』させようなんて考えが理解できない。それで万が一世界が救われたとしても、納得なんて出来ない。

 

……だったら、アタシは。

 

「──ねぇ、乃木」

「なんですかフーミン先輩?」

 

また以前のように馬鹿しようとしてるのかもしれない。でも今は理不尽に対して『怒り』に支配されているわけじゃないから前のようには暴走はしないと誓える。

 

「アタシもやっぱりあんたについて行く。大赦の考えには従えないし、神婚なんて友奈にはさせたくない。だったら徹底的に抗ってやるって友奈たちを観て思ったわ。天の神でもなんでも戦ってやるわよ」

「お姉ちゃん……」

「ごめんね樹。決めるのが遅くなって」

「ううん。そんなことないよ……一緒に友奈さんを守ろう」

「そっかぁー……ありがとう二人とも。私の我儘に付き合ってくれて。頼もしいな」

 

お互いに握っている手に力が込められた。そうだ…今までだってそうして乗り越えてきたじゃない。

 

「…実は私もフーミン先輩とイっつんに報告しとかなきゃいけないことがあったんよ」

「なによ?」

「なんでしょうか?」

 

決意も定まったところで乃木が真剣な表情であることを告げてきた。

 

「ゆっちーの神婚の日取りが決まったみたい。九日後の一月十一日。その日にゆっちーは神樹様に捧げられることになったんよ」

 

 

 

 

 

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