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「────夏凜!? アンタどうして…!」
フーミン先輩が驚きの声を上げる。対するにぼっしーは刀の切先を突きつけたまま出入り口を塞ぐように立っていた。
「行かせない…行かせないわよ風。友奈たちのところに」
「夏凜さんどうしてですか!? 早くしないと友奈さんが──!」
「樹、友奈はこれから神婚をするの。その邪魔をさせるわけにはいかないからここで大人しくしていて」
「そんな…」
「ねぇ、にぼっしー。にぼっしーの位置情報はさっき真逆を示してたのにどうしてここに?」
「……ちょっと細工をしてもらっただけ。囮の役目と万が一ここに来た場合に確実に足止めを出来るようにアンタたちを油断させるため」
「夏凜! アンタ分かってんの!? 神婚をしたら友奈だけじゃない、人類が『人』じゃなくなっちゃうのかもしれないのよ?!」
先輩の言う通りゆっちーたちが神婚を完遂してしまえば天の神の侵攻は止まるが『人』として終わってしまう。そんな瀬戸際にいる私たちだけど、それでもにぼっしーはその場を動こうとはしなかった。
「まさかアンタたち……死のうとしてるんじゃないでしょうね?」
「それはないわね。私は友奈の願いを叶えるために動いてるの、だから行かせない」
「このっ! 分からず屋ぁーー!」
大剣を構えて大振りに振るう先輩。にぼっしーはわかっていたのか刀で大剣を受け止めてみせた。
「部長命令よ夏凜、今すぐ退きなさい!」
「嫌よ、こればっかりは聞けないわ!」
「やめてお姉ちゃん、夏凜さん! こんなの間違ってるよ!!」
「……一旦落ち着いて二人とも! 先生、本当にこれが貴方の望んでいることなんですか?」
『想定の範囲内です。だからこそ、三好様に助力を願ったのです。儀式を成功させることが我々の願い』
止める気はないみたいだね。だったら、と私も槍を構えようとしたその時……ある人たちが目に入った。
────あれは、大赦の………そういうことか。
私はある事に気がついてそのまま槍を二人の間に滑り込ませて割り込んだ。
「乃木?!」
「フーミン先輩。どーどー……ここは一つ、私に任せてもらえませんか?」
「…どういうことよ?」
「詳しいことは喋ってる暇は無さそうなので……いま端末に送りました。ゆっちーの居場所の見当がついたから取り敢えずこの場を離れて下さい」
「園子さん……」
「イっつん、みんなをよろしくね。イっつんとっても強い子だから何とかなるよ。先輩、さぁ行って」
「乃木……分かったわ。夏凜、アンタ全部終わったらお説教だからね! よーく覚えておきなさいよ!」
「くっ…行かせ────」
一瞬戸惑ったにぼっしーを今度は私が止める形で立ちはだかった。間を抜ける様にフーミン先輩とイっつんは走っていく。後ろの安芸先生は特に何かする事なくその場でジッと私たちを仮面越しに見据えていた。
「…ふふ」
「何がおかしいのよ」
「ここにわっしーが居ればある意味揃った感じなのかなぁーって思って」
「…? なに言ってんのよ園子。悪いけどアンタに付き合ってる暇は──」
「んーん。ダメ、にぼっしーは私を足止めするの。その方が
「────!」
にぼっしーが驚く。凄く分かりやすい。
「お兄さんの立場もあるだろうし、ある程度はやらないといけないんだねぇ……少し場所を変えよっか。ここで戦うとみんなに失礼しちゃうと悪いから」
「──これなら分かりやすいかな? …んん、そこを退け、三好夏凜! さもなくばこの神官がどうなってもいいのか!」
「あんた……」
勇者部の記録の中で観せてもらった演劇があったけど、それを真似てみた。にぼっしーは複雑そうな表情を浮かべていたが首を振ってキッと私を睨みつけてくる。
「──卑怯な。今すぐその人を解放しろ!」
「ならば私の要求を飲み込め! そうすれば開放してやる……ってことで先生、ちょっと失礼します」
私は先生を抱えて外に場所を変えるべく動き出した。とは言っても遠くには逃げない。さっきの場所から少し離れた所で足を止めた。
『…園子様。やはりお気づきになられていましたか』
「大人の事情ってやつは大変ですね。でも先生、もし全部が終わったらわっしーと三人でミノさんのお墓参りしようね」
『……考えておきます』
「園子!」
短いやり取りをしているうちににぼっしーがやってきた。私は頰を緩ませながら槍を構えてにぼっしーに接近する。
「なっ…!? ぐっ、う!」
「おー、不意打ちなのに反応できた。さすがは完成型勇者って呼ばれてるだけあるね」
「どういう、つもり……よ!!」
弾かれてお互いに距離を取る。にぼっしーは刀を構え、私も同じように槍を構えた。
「お話しようよにぼっしー。きっと今回、私たちに足りなかったのはソレだと思うから。全力でやろう」
「……いいわ。丁度いい機会だし、歴代最高と云われたあんたの実力……確かめさせてもらうわっ!」
にぼっしーは勢いをつけて私に近づいてきた。その口角は上がっていることに気がついているだろうか。
ううん、それは私も同じか。こんな時にと思ってしまうけど、こんな時だからこそ私たちなりのやり方でやるのが正解だって私は考える。
過去に悩み、苦悩したからこそ。相談して、共有して、解決に繋がる道を造る。その先の『答え』はきっと同じだから。
「やぁああーッ!」
「はぁーーッ!!」
────お互いの刃が火花を散らした。
◇
冷やかな水流が身体を打ち付ける。手を合わせ目を閉じて心を穏やかに鎮めて清めていく。
「…………。」
しばらくして私は滝の中から出て上がると側にいた大赦の巫女たちによって装束を着せられて支度を進めていく。
「…気分はどう? ゆうちゃん」
「うん、美森さんが居てくれるから大丈夫」
気分は落ち着いてる。私は安心させるように微笑むと、美森さんも同じように微笑んでくれた。
『──準備が整いました』
『東郷様はこちらへ』
「いえ、私はゆうちゃんの護衛に就かせていただきます。貴方がたと同じ『巫女』でもあるし、そういう手筈のはずだと伺っていますが?」
『……くれぐれも儀式の妨げにならぬよう、お願い致します』
少し強引な気もしなくも無いけど有無を言わせない美森さんの圧でこの場を押し切った。地に膝をつき頭を下げる巫女たちの間を私たちは二人で歩いていった。
「良かったのかな…?」
「いいのよ。少しぐらい我儘を通したって」
「う、うん」
「それよりも……ここはねゆうちゃん。昔私とそのっちも利用したことのある場所なんだよ。御役目の前に身を清めるために訪れたの」
「そうだったんだ。そんな場所が儀式場になるなんて……運命だね」
「うん。でももうあの時のようにはいかせない。ゆうちゃんの『願い』も叶えさせてみせるわ」
「うん。頑張ろう」
手を繋ぐ。心強い私の大好きな人がいるから進んでいける。
少し歩いた先に景色が変わる場所が見えてきた。それは私たちが御役目を果たすための神樹様が張る結界……『樹海』がその先に広がっていた。
『境目』とも呼べるその所に『神官』が立っている。神官は頭を深く下げた。
『お待ちしておりました勇者様。こちらより神樹様の元へと御運び致します。さあ』
「……はい」
一本の太い『根』に誘われる。ここに乗っていけばその先にいる神樹様の所に……ううん、『結城ちゃん』の所に行けるんだ。
私はずっとこの時を待っていた。今の『私』なら判る──あの先に私と美森さんの求めるものがあると。
「──ゆうちゃん!」
「み、美森さん…?」
一歩を踏み出そうとした所で私は後ろから抱きしめられた。ぎゅうっと強く抱擁されてその『熱』がくすぐったく思えてしまうほどに。
美森さんはそんな私の耳元でボソッと呟く。
「……後で必ず向かうから。それまでどうか……生きて、生き抜いて」
「うん。ありがとう美森さん……行ってきます」
名残惜しげに私たちは離れていく。美森さんはその際に私の手元に『端末』を残してくれた。神官さんには見えないようにコッソリと。
歩みをそのまま進めて『根』の上に乗る。するとゆっくりと『根』は動き出して神樹様の元へ移動を始めた。
「…………私の『命』が尽きる前に会いに行くから」
ぎゅっと胸に手を置いて決意を固める。
『花』はいつか散ってしまう。ずっとは咲き続けることはできないから。
──いつかは散ってしまうのは分かっていた。
だから……だからこそ『私』はやり遂げなければならない。
それは私が『わたし』になった責任なんだ。
目覚めた時からそれは理解していた。
「……待っててね。結城ちゃん」
私は『わたし』に誓う。
必ずあなたのもとに辿り着いてみせると────。
神婚の儀が始まるところまで。
そして『あらすじ』の部分をようやく回収。