私の名前は『結城友奈』である   作:紅氷(しょうが味)

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六十六話 ※Another

◾️

 

 

 

 

刀と槍がせめぎ合う。勝敗を決する一打はお互いに譲ることなく私と園子は慰霊碑の並ぶ施設の横の開けた場所で戦っていた。

並外れた身体能力は一般人からしたら目で追うのがやっとであろう速度を持って相対している。

 

 

「──ねぇにぼっしー分かってる? あのままゆっちーを行かせちゃうとどうなっちゃうのか!」

「園子こそ分かってる? このまま友奈と東郷を放っておくといずれ死んでしまうことを!」

「うん……だからゆっちーとわっしーを救う方法を探ろうとして──!」

 

私は力任せに刀を振るって園子を吹き飛ばす。

それでも綺麗に受け流す辺り底知れないものを感じられた。

 

「──それじゃあ間に合わない。遅いのよ園子。悠長に私たちが解決策を探っている間も友奈の容態は悪くなる一方なのっ! 東郷だってそう……『タタリ』に蝕まれていく二人を見て、命を削られ続けられる様を見せられていく気持ちがアンタに分かるの?!」

「…分かるよ。学校に来てる時もすごく苦しそうにしてたし、部活でもそう……陰でバレないように努力していたことも。にぼっしーこそ分かる? 手を差し伸べたくても差し伸べられない人の気持ちが!」

「そんなの──くっ!?」

 

今度は私が園子に飛ばされて距離を取らされる。その際にちらっと視線を向こうに向けてみれば、何人もの大赦の神官たちが私たちの戦い(えんぎ)を、観察していた。

 

────まったく。大人たちってやつは…。

 

あの連中は簡単に言ってしまえば私たち勇者を快く思っていない人たちだ。建前では腰を低くしているが、今回の『神婚』を確実に成功させようとしていて以前東郷や風の暴挙に似たことをさせまいと、兄貴を経由して私がみんなに対する抑止力として使われている。

立場上、それでも兄貴は従うしかない。

 

納得はしてないけど……。

 

思わず舌打ちをしてしまうが、これも兄貴のためだと私は無理矢理に納得させて園子に向き直る。

 

「にぼっしー。後悔してない? ゆっちーのこと、本当は止めたかったって。今ならまだ間に合うよ。一緒に他の方法を考えてみる気はないかな?」

「後悔……ですって? 後悔なんてあるわけない。私は私の意思で『選択』したの。友奈は友奈(あいつ)に会いに行って……それはあの子の望みで、私の『願い』なのよ!」

 

提示された選択肢はいくつかあった。その中で私は悩み、考え抜いて今ここに立っている。

 

ついてきてくれる? と友奈は言った。以前の友奈が差し伸べてくれたその手を今度は私が差し伸べてあげるんだ。

 

「───っ!? なに…?」

 

その時、急に大地が揺れ始めた。思わず立ち止まってしまう私たちが周囲を見渡していると近くにいた園子に『安芸先生』と呼ばれていた神官が遠くを見据えた。

 

『──予定より早いですね。まさか直接手を下しに来るとは』

「なに、あれ……まさか」

 

遠くの空が縦に裂けて赤黒い世界が広がり始めていた。それはまるで神樹様が結界を張るときと同じで、そんなことを出来る存在なんて一つしかなかった。

 

「あれが……『天の神』なんだよね、先生?」

『そうです。我々が数百年もの間戦ってきたバーテックスたちの総本山とも言うべきでしょうか』

 

ならあれが友奈と東郷を苦しめていた元凶だ。世界を……この四国を呑み込むほどの巨大さに私の握る刀に力がこもる。

 

────私たちの『敵』。私の倒すべき『敵』。

 

「…! そういえば現実世界なのに敵がいるってことは町には一般人が…!」

「それは大丈夫だよにぼっしー。こういうこともあろうかと各地に避難誘導するように手配してるから。なるべく安全な所にーって」

「そ、そう……流石ね」

 

いつの間にそんなことをって思ったけど、このところ別行動ばかりしてたから知らないのも無理はないかと納得しておく。

 

「でも、ああして天の神が来てるってことは神婚は進んでいるってことですよね?」

『そうなります。そして我ら「大赦」からはあなた達勇者に御役目を告げなくてはなりません』

 

神官はそう言って『天の神』を背にして私たちに向き直ると、

 

 

『──友奈様の神婚成立まで敵の進行を食い止めてください。これがあなた達勇者の最後の御役目となるでしょう』

 

私たちに御役目を言い果たした。

 

 

 

 

 

 

 

地鳴りが遠くから聴こえてくる。予め私は夏凜ちゃんのお兄さんから聞かされていたから心は平静を保つことができた。

 

 

「──もう、私たちは後戻りはできない」

 

 

銃口を下げて呟く私の足元には先程まで待機していた神官の一人だった。簡単な束縛を施しているけど、息はちゃんとある。

 

『な、なぜ……勇者様……こんな』

「安心してください。時間を掛ければ解ける程度のものですから。私とゆうちゃんにはやる事があるのでその邪魔をされないための処置です」

『こんなことをしてしまえば神婚に影響が……世界が』

「差し支えることはありません。道は違えど目指すものは一致しているはずですから。『身姿』である彼女は神樹様の元に送り届けます」

『…………。』

 

ぴしゃりと言い返す間も与えずに吐き捨てると、私はゆうちゃんの元に行こうと歩き出す。先程から胸に刻まれている『タタリ』が強く疼く。背後の縦に裂けた赤黒い世界が影響を及ぼしているのは確かだ。

 

もう 大赦(かれら)には十分に従った。

急がねば。

 

「東郷ーー!!!」

「東郷先輩っ!」

 

 

声のせいで思わず歩みを止めてしまう。そしてゆっくりと私は振り返る。

 

 

「……風先輩、樹ちゃん」

 

なぜだろうか、凄く久しぶりに顔を見た気がする。少し息を切らし気味なのを見るに全速力でここまで来たのだろう。心配してくれてる、いや怒っているのかな……しかし私はそんな二人に銃口を向けた。

 

「東郷…本気なの?」

「先輩、私たちにはもう時間がないんです。特にゆうちゃんには……」

「だからってこんなことをするのは間違ってます。もっと何か方法があったはずですよ!」

「樹ちゃん。ゆうちゃんは神樹様の所に行く理由があるのよ」

「理由って……っ!?」

 

地響きが続く。遠くのアレにみんなの視線が釘付けになる。

 

「なによ、あれ」

「あれは『天の神』です風先輩。私たちが今まで戦ってきた敵の総大将です。ゆうちゃんと神樹様の『神婚』を成立させまいと自らが出陣したんでしょうね」

「あんな巨大なのが……でも、乃木の言う通りならアイツを倒せばみんなが助かる──!」

 

ぶつぶつとなにかを言っている先輩を他所に私は隙をついて離れた。

 

「あっ!? 東郷先輩!」

「ごめんなさい。私は一刻も早くゆうちゃんの所に向かわないといけないから!」

「東郷っ! くっ……あーもー! どいつもこいつも話を聞かんで勝手に行動してぇ!! 樹! 乃木と夏凜のところが心配だからお願いできる?!」

「……! うん、任せてお姉ちゃん。お姉ちゃんも気をつけて」

「ええ、よろしく頼むわよ」

 

樹ちゃんは『天の神』の方へ、風先輩は私を追ってくる形になった。

 

「待てーー! 東郷! わ、ちょ!?」

「来ないでください先輩……迎撃しますよ?」

「も、もうしてるじゃない?! ちょ、はっ、この!」

 

私の銃撃を大剣で弾いていく風先輩。

 

「てかアンタまた暴走してるでしょー! やめ、やめろこらぁ!!」

「暴走なんかしてません! 至って正常な思考回路です!!」

「アンタが友奈関連で正常だったことがないでしょうがー!」

「それは言いがかりです!」

「マジで話聞かないわね……あたしだってぇぇ!!!」

 

一際大きく跳んだ先輩は大剣を大ぶりに振り落とした。衝撃と土煙を撒き散らせて私の進路を妨害してくる。

 

「ぜぇ、ぜぇ……ずっと走りっぱなしで嫌になっちゃうわ。足の筋肉がついたら女子力が下がっちゃうじゃない」

「なら邪魔をしないでください」

「それは出来ないってば。どうして友奈を神樹様の所に向かわせるの? 東郷だってその意味がどういうことか分からないわけじゃないでしょ??」

「ええ、もちろん承知してます。でもこれは二人で決めたことなんです……だって神樹様のところには──『友奈ちゃん』がいるんですから」

 

 

私は先輩に打ち明ける。あそこには以前の友奈ちゃんがいるから。精神が……『幽体』がそこにいるのだから。私とゆうちゃんの目的はその『友奈ちゃん』を取り戻すこと。それが神婚の儀を受けた理由だ。

風先輩はそれを聴いて目を見開く。

 

「どういうことよ……『友奈』が神樹様のところにいるって。証拠は?」

「提示できる『モノ』はありません。でもゆうちゃんという存在が『散華』の影響によって生み出されたものなら、捧げられた『友奈ちゃん』の『精神』は神樹様と共にあるはずなんです。それに……強いて言うならゆうちゃん自身がそう感じているから(、、、、、、、、、、)。理由としてはそれで十分に足ります」

「…アンタってホント友奈のことになるとアホになるわね」

「──……!? そ、そんなことありません断じて!」

「なに本気で驚いてるのよ。その根拠というか、自信が凄いわね。はぁ……」

 

呆れたような表情に対してムッとしてしまう。なんだ、なにがいけないんだと思わずにはいられない。

 

「…ともあれ時間が無いのはみんな同じよ東郷。この限りある中で足並みを揃えるのが大切なんじゃないかしら? 散り散りになってたって物事はうまく行かないし、それはアンタも経験してきたことでしょ?」

「それは……」

「あたしたちがキチンと相談出来なかったのが悪かったのかも。うん……二人の事情は分かった。なら、目的を絞った方が可能性が出てくると思うわ」

「目的を絞る…?」

 

風先輩は神樹様の方に視線を向ける。

 

「本来の『友奈』があそこにいるとしてもただ行かせたら神婚が成立してしまう可能性があるからそこは何としても阻止しないといけない。あたしもついて行くからまずは先に行ってる友奈と合流して、一緒に『友奈』を取り戻しに行く。みんなで行けばそれなりに対応できると思うし、そしたら急いでみんなのところに行って『天の神』を迎え討つ……ってのでどうよ?」

「だいぶ無茶な作戦だと思いますが……やるしかないですね」

「なーに。あっちには最強の勇者たちと(つよ)カワな妹かいるんだからもしかしたらあたしらが出る幕はないかもしれないけどね」

 

からからと笑う先輩。そのおかげか頭の中が落ち着きを取り戻してきた気がする。やっぱりこの人はここぞとばかりに頼りになる人だ。

 

 

「なら全速力で向かいます────満開ッ!!」

 

 

戦況は刻一刻と変化している。『天の神』が現れた以上、もうここで全ての決着を付けなくてはならない。出し惜しみはしている暇はないので、私は一回きりの『満開』を使用した。

 

「──乗ってください風先輩!」

「おっし! 友奈のところに行くわよ!」

 

 

だから待っててゆうちゃん。今行くから────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして向かおうとした私たちの背後に巨大な熱量の塊が接近してきていたことに気がつかないでいた。

或いは僅かな希望の道筋が見えてきたせいなのか、盲目的になっていたのかもしれない。ともかく一瞬の隙の内に私たちの視界は真っ白に染まってしまった────。

 

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