私の名前は『結城友奈』である   作:紅氷(しょうが味)

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六十七話 ※Another

 

 

────完全なる不意打ちだった。神樹様の展開する結界に似た赤黒い世界が広がってその中心に存在する『天の神』。私たちが御役目として侵攻を阻止するように言われてからすぐのことだった。

 

「────え?」

 

喉から出てきた言葉は疑問の声。直後に背後から爆発音が轟いた。爆風が私たちを襲い園子は近くにいた神官を守って対処している。

 

 

────まって。アイツ、今どこを狙った…?

 

 

ここからの距離はそれなりに離れている。もちろん私たちのところではない。

振り向いてその先を見てみれば、何かに着弾したであろう痕跡が見て取れた。

 

「う、そ…───ッ!」

 

ギリっと噛み締めて私は半ば無意識に飛び出していた。

すれ違い際に園子が何か言っていたが、頭に血が上った私は聞こえずにそのまま天の神の元に前進していく。

 

「──…よくも、やってくれたなぁぁ!!」

 

天に叫ぶ。

せっかく友奈がここまで頑張ってきたのに。あの子が求めてきたものにもうすぐ手が届きそうなのに……あの子の未来を奪おうとする眼前の敵に私は全力で突き進んだ。

 

天の神は私の存在に気が付いたのか攻撃を開始する。鏡のような物が煌めき現れたスコーピオンの尾が私に目掛けて刺突してきた。あの毒の尾にやられたらひとたまりもないソレを私は両の刀で弾いて回避する。

 

「─…ッ! 満開っ!!!」

 

あまりの重撃に顔を顰め、私は勢いを落とすまいと一度きりの『満開』を使用した。そうして攻撃力と機動力を手に入れた私は更に進んでいく。

 

「(……コイツ──他のバーテックスの力を使えるの?!)」

 

今度はサジタリウスが持つ無数の針の束が雨のように降り注いできた。満開時に展開されている四つの巨大な刀で高速で斬り払っていく。バーテックスたちの親玉、総大将なのだから当たり前のことなのかもしれないが、これは些か卑怯じゃないか。

 

「…─っ!? ()、ぅ…精霊バリアまで……!」

 

今度は鋭い痛みが頰を掠めた。こいつは更にバリアまでも貫通させることが出来るらしい。久しく感じなかった痛みと鮮血に顔を顰め、同時に怒りが込み上げてきた。やはりコイツが友奈や東郷、みんなを苦しめた元凶なのだと実感し、天の神を倒せば『タタリ』に苦しめられることもなくなるということがよく分かった。

 

 

「……っざけんじゃ、ないわよ!」

 

 

────夏凜ちゃん。わたしたちはずっと友達だよ!

 

────夏凜ちゃん。私のこと友達って言ってくれて、仲間だと認めてくれてありがとうございます。

 

どちらの友奈も私にとってかけがえのない存在。私を変えてくれた存在。友達として支えてあげたいって思える存在。そんな彼女たちはいつだって『諦めない』で立ち上がっていた。あの子は自分のやるべきことを分かっていて、もうすぐそれに手が届く。ここで天の神をどうにかしないとそれすらも叶わなくなってしまう。きっと大丈夫。最悪は考えたくない。考える必要もない。

 

無数の針たちの攻撃が止む。今だ、と私は進もうとしたその時に背後から金属がぶつかる音が聞こえてきた。振り返るとそこには先程降り注いできた針たちがキャンサーの反射板に弾かれて再び私に放たれている。防御しようとしても動作が遅れてしまったために間に合わない。

 

「────もう。にぼっしー前に出過ぎだよ」

 

その言葉と共に間に割って現れたのは園子だった。そして手に持つ槍を傘状に展開させて防御させるといつもの調子で微笑みながら私の隣に並んでくれた。

 

「──ありがとう園子。ちょっと…頭に血が上り過ぎてた」

「あははー。そういうところもそっくりさんなんだねぇ……うん、ちゃんと隣で戦うよ。今度こそ、一人にはさせないから」

「……それってどういう意味────!」

 

会話も束の間、冷静になった頭で気配を察知できた私は天の神の方に向き直って巨刀を構えた。直後に爆発。

 

これはヴァルゴの爆弾……!

 

それも威力が桁違いなものだった。園子を庇ったがそれでも引き離されるぐらいには吹き飛ばされてしまう。更に加えて、

 

「───…!? ごぼ…!」

「───んん?!」

 

私と園子がそれぞれ巨大な水球の中に閉じ込められる。これはアクエリアスの……水中に放り出された私たちは抜け出そうとするけど水流が中心に吸い込むように流れているせいでうまくいかない。

そしてその隙を逃すはずもない天の神は水球を囲むようにスコーピオンの尾を複数出現させて照準を私と園子に向けていた。

確実に仕留めるための攻撃。

 

「(ダメ…! 逃げられない。くそ……こんな、ところで)」

 

まだ、私たちはやりたい事がたくさんあるのに……。間もなく、慈悲もなくスコーピオンの尾が私を貫いて───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──私の大事な人たちを傷つけるなぁぁーー!!

 

 

 

 

 

 

 

 

…………えっ?

 

 

 

 

 

────尾は寸での所で停止していた。

スコーピオンの尾はそれぞれ十に近い本数が私を目掛けていた。しかしその全てが細い『糸』で固く結ばれて止められている。力強く、引きちぎれることのない糸は次に私の腕に巻きついて勢いで引っ張られる。

 

アクエリアスの水球から脱した。

 

「ごほ、ごほっ! ……い、樹。ありがとう、助かったわ」

「けほ……イっつんナイスタイミングー」

「遅くなりました夏凜先輩、園子先輩! 私も一緒に天の神と戦います」

 

目の前に立って居たのは『満開』をした樹だった。スコーピオンの尾を全てワイヤーの糸で切断すると、追い討ちに放たれていた尾を易々と巻き取って細断していく。そのどこか頼もしい背中は『姉』を彷彿とさせる。

 

「樹…! 友奈は、みんなは平気なの!? さっきすごい爆発があって──!」

「すみません夏凜さん、私も爆発は見えましたが詳細は分からないです……でもきっと大丈夫です。だから、ここは私たちがなんとかしましょう!」

「イっつんが気合いに燃えてる…! にぼっしー、確かに心配だけどイっつんの言う通りここで天の神を抑えないと町に被害が及んじゃうから私たち三人で頑張ろうよ」

「……そう、よね。ごめん、弱音を吐きっぱなしだったわ。やってやろうじゃない」

「その意気だよにぼっしー」

「周囲の攻撃は私が抑えます! お願いします夏凜さん、園子さん!」

 

そうだ。こうして背中を預けられる存在が私にはいる。

 

「(まだ……諦めるのは早い…!)」

 

友奈が辿り着くまで、私たちが今を繋いで見せる。友奈が掲げた『六つ目』を成し遂げるために……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────『私』は何のために生まれてきたんだろう。

 

 

ずっとその答えを探してきた。『結城友奈』の肉体に精神を宿し、『結城友奈』として生きることを強いられた……ううん、それは厳密には違うけど考えていたことだった。

 

一つは泣いている美森さんの涙を拭ってあげたかったから。それが始まりだったのは記憶に鮮明に残っている。

 

「……っ。う、ぅ」

 

頭がズキズキする。倒れている。なんで、と思考を巡らせてみれば先程凄い衝撃波が襲ってきて『根』に乗っていた私は吹き飛ばされてしまったんだ。さっきの衝撃は一体……。

 

「…っ、た、立て、ない──!」

 

地面に落ちたせいなのか、はたまた私の肉体が限界にきているのか定かではないけどうつ伏せに倒れたまま動くことが出来ない。まだ神樹様の所には程遠い。急がないと……いけないのに。

 

「ぜぇ、ぜぇ……かはっ、くっ、うぅ……」

 

息が荒い。視界が暗くなる。ただでさえ落ちてしまった視力、筋力は私の意思とは裏腹に言うことを聞いてくれないようだ。いや、とうに限界は超えていたんだ。それをみんながくれる温かな『熱』のおかげで動かせていたからここまで来れた。

眠気が襲ってくる。眠い……寒い。

 

(……あぁ、私。ここで………限…かい……美森、さ…)

 

暗い闇が迫ってくる。空っぽの闇が……私を……──

 

 

 

────

───

──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『───あの、風先輩。一つ訊いてもいいですか?』

『ん? なーに??』

 

────包むかに思われた。

 

…映像が流れてくる。これは身に覚えのあるものだ。確か私が自分のことを打ち明けて少し経った時のことだった……気がする。

いつものように部室でみんな集まって作業している時にずっと気になっていたものについて私は近くに居た風先輩に訊ねていた。

 

『あの勇者部五箇条って先輩が考えたんですか? それとも代々受け継いできた伝統的なものだったり?』

『あー…ふふ、そっか。今の友奈には教えてなかったわね』

 

目を細めて微笑みながら先輩は私の方に向き直って話を続ける。

 

『部活自体はアタシが立ち上げてね、これは樹と東郷そして「友奈」たちと一緒に考えて書いたものなのよ。やっぱり活動するに当たっては大事だと思ったしさ。こういうのあった方が一致団結できそうだし』

『そうだったんですか。結城ちゃんが……』

 

その時の私はなんて感じたのだろう。嬉しかった、のかな。結城ちゃんがここでの生活を楽しんでいることを実感できたからかもしれない。

 

『……おっ、いい事閃いた! 友奈、せっかくあんたもちゃんと仲間になったんだから追加で一箇条考えてみてみたら? 「六箇条目」!』

『……へっ? 私が、ですか??』

『あ、それいいアイデアだよお姉ちゃん。是非、書いてみてください友奈先輩!』

『樹ちゃんまで…』

『フーミン先輩、私とにぼっしーも新入部員なんですけど〜』

『あたしは園子と比べて別に新人ってわけじゃないし……ま、いいんじゃないの。代表して友奈が考えれば』

『そそ! アタシはそれが言いたかったのよ。乃木もそれでいいでしょ?』

 

同意を求めて視線を向ける先輩に倣って私も振り向こうとしたら不意に身体が重くなった。原因はそのっちさんだった。しかもニコニコ顔で。

 

『もちろんいいですよー。ゆっちーのセンスに期待っすね〜」

『そんなハードル上げないでよそのっちさん。わ、分かりました……えっと』

『じゃあ、その間にアタシは余白を作れるように書き直してー…樹と夏凜はそっち剥がすの手伝ってくれる?』

『はーい』

『しゃーないわね』

 

テキパキと準備を進めて行くみんな。はてさてどうしたものかと首を傾ける私。

 

『なんだか不思議ね』

『あ、わっしー』

『東郷さん…? 何が不思議なの?』

 

ああ、そういえば、この時はまだ東郷さんって呼んでたっけ。

 

『実はね、あの五箇条を書こうって提案したのは友奈ちゃんなんだよ』

『…! やっぱり結城ちゃんは凄いですね。何処にいてもみんなの中心にいるんですから』

『ええ、そうね。でも今の友奈ちゃんも同じだよ』

『え…?』

『そうだよぉーゆっちー♪』

 

美森さんの言葉にそのっちさんが強く抱きしめてくれる。私は苦しくも嬉しくありながら周囲を見渡してみると風先輩、樹ちゃん、夏凜ちゃんがみんな笑ってくれていた。

 

『みんなゆっちーのことが大好きなんだよ。真面目なゆっちーも頑張り屋さんなゆっちーも楽しんでるゆっちーもみーんな引っくるめて、ね。私は前のゆっちーとあんまりお喋りできなかったけど、きっと変わらずみんなの陽だまりなんだろうなぁって想像できるよ』

『そのっちの言う通りよ友奈ちゃん。だからあの時の友奈ちゃんのようにあなたの「想い」をここに書いて欲しいな』

『……はい』

 

みんなの優しさに包まれて今の私がいる。そうした時に私は何を願ったのだろうか────ああ、そうだった。

 

『───できた』

 

さらさらと書いていくと、みんなが覗き込んでくる。

 

『あっはは、なんというか友奈らしいじゃない』

『そうだねお姉ちゃん。とってもいいと思います』

『友奈が考えて書いたなら良いと思うわ』

『うん、とってもゆっちーらしさが溢れてるねぇ』

『ふふ…きっとどっちの友奈ちゃんでも同じことを書いてたかしらね。優しさが垣間見える一箇条ね』

『あは……なんだか照れるよー』

 

私がこの部活に、みんなに掲げる『願い』は一つ。これはきっと私の生まれた理由の一つでもあったものなのかもしれない。それをここに綴ることにした。

 

 

勇者部六箇条、一つ────『みんな 幸せであること!』

 

 

 

────

───

──

 

 

 

────ソウダッタ。マダ、ナニモナシテイナイ。

 

────まダ、やるベキことが……私にハ、あるんダ。

 

────最初の頃のナにもない自分はもういない。そうだ。こんなにも私に『(おもいで)』をもらったんだから……みんなの『幸せ』を願って、結城ちゃんの『幸せ』を願って叶えていくためにも足掻いていこうじゃないか。

 

先輩(ゆうな)からもらったバトンを託すために。今一度立ちあがろう。

大丈夫、私は何度だって立ち上がれる。だから前に、進もう。

 

────……遠くで何かが聴こえてくる。

 

なんの、音だろう……?

 

 

 

────

───

──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────……鳴り続ける。これは……私の端末の……お、と?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────

───

──

 

 

 

 

 

 

「───…っ?! はっ、は、ぁ……!?」

 

 

 

…意識が浮上した。忘れていた呼吸で荒々しく酸素を取り込んで循環させていく。今、私は危なかった。みんなとの『(おもいで)』を走馬灯のように思い出さなければ或いは事切れていたかもしれない。

 

ふと、音の出所を辿る。先程から耳に届く機械音は倒れている私の少し前にあった。私の端末。美森さんから隠れて渡してくれたその端末から着信が鳴っていた。

 

「けほ…っ、く、う…!」

 

これはきっと電話だ。手を伸ばして私は端末をなんとか手繰り寄せてそのまま直ぐに通話開始ボタンをタップした。

 

スピーカーにしてしばらくすると、ノイズの中で誰かの声が聞こえてくる。

 

『──ぃ! おい! 聞こえてるか結城!!』

「シズク……さ、ん?」

 

電話の主はまさかのシズクさんだった。そして私の掠れた声が聞き届いたのかその声色はどこかホッとしている様子であった。

 

「シズ、クさん…私……」

『今どこにいる!? あの馬鹿でかいバケモンはまさか…天の神…!』

「はい……あれは…天の神だと思います。身体の『タタリ(きず)』が凄く……痛いほどに疼いてます。今、私は神樹様の所に向かってる…最中です」

『…だからか。今あの場所を起点にバーテックスたちもわんさか溢れ出て来てやがる! ゴールドタワー(こっち)にもかなり来てて応戦してる最中だ……取り敢えず、オマエが生きてて安心した』

「……あは」

 

わざわざ心配して、世界がこんなになっているのに電話をしてきてくれるなんて……繋がるかもわかんないのに……すごく優しい人だなぁシズクさん。

 

「今……さっき危なかったですけど…シズクさんのおかけでなんとか戻ってこれました」

『……そうか。良かった』

「…ねぇ、シズクさん。私……あと少しなんです。目的地まで……私自身があの向こうにいるんです……でも、体が…うまく動かせなくて」

『───結城。オレたちには目的があるって前に言ったよな?』

「…はい」

『オレはしずくを守るために生まれた存在だ。結城、オレたちには生まれた理由や意味が必ずある。そしてオマエもとうとう見つけた』

「……はい。漸く、遠回りでしたけど…見つけました」

 

生まれた意味。理由。それらの根底は……私が『わたし』に出会うため。結城ちゃんに出会うために私は生まれた。そして、彼女の過ごした日常を守るために私はここにいる。

 

『見つけたなら…意味を見出したのならオマエは立ち上がれるはずだ。いつかのオマエがオレたちを助けるために戦場に立ったように』

「はい…っ。く、うぅ…!」

『立て、結城。オマエなら必ず成し遂げられる。その時を見せてくれるって言ってくれたじゃねェか』

「……ぐ、うぅうぅぅ!!」

 

シズクさんの言葉に突き動かされる。背中を押してくれる人がいる。そうだ……私はいつだってそうしてきたんだ。今もそれは変わらない。

 

手足の感覚はほぼ無い状態だけど私は立ち上がった。足は震え、汗がたくさん出てくるし感覚がない癖に痛いのはなくならない。それでも私は立ち上がることができた。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……ありがとう、ございます。シズクさん……私、行きます」

『ああ、行って…そしてしずくに会いに来いよ……。言いたいことはそれだけだ。じゃあ、オレも持ち場に戻るからよ──またな結城』

「…………うん、必ず。またね、シズクさん」

 

通話が終わる。見上げれば神樹様までまだ遠く感じた。

 

でも今なら進める。歩める。

 

「ぜぇ……っ、は、ぁ…」

 

前に進め。手足の感覚が無くなろうとも、進む意思さえあれば身体は動かせた。一歩が鉛のように重く、気持ちばかりが先行して中々苦労させられる。だけど、進む。進むと決めたんだ。

 

「……っ。──────はっ、っぁ……!」

 

朦朧とする視界の中、私は再び歩みを始めた。

 

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