私の名前は『結城友奈』である   作:紅氷(しょうが味)

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七十一話 愛情の絆

◾️

 

 

 

上か下か、左か右かも分からない。

生まれた時と同じ闇の中に落とされた。

 

終着点に到達した私の最期はどうだったのだろう。

美森さんに気持ちは伝わったかな…?

 

 

────…。

 

やるべきことはやってきた。結城ちゃんに『私』を還すこと、それを目指してやってきた。だからここから先は私自身の問題だ。

 

────……、

 

暗闇は続く。けどなぜだろう。さっきから『雨』が降っている気がする。

こんな場所でそんなことはありえないはずなのに。

ぽた、ぽたと滴るような雨粒は顔辺りに落ちている。

 

───…?

 

そういえばなんで『顔』って判断ができるんだろう?

そもそも私はどうしてこうやって思考ができているのか……なんて考えた辺りで自分の置かれている状況を漸く認識していくことができた。

 

そもそもが目の前が暗闇なのも目を閉じているだけだった。

 

「……んん、ん?」

 

恐る恐るといった感じで瞼を開ける。

 

『……っ、ひっく……ぅ』

「……え?」

 

目の前に映ったのは一人の少女の顔だった。それもよく知っている顔だ。大粒の涙を目尻に溜めて、溢れたものが私に降り注いでいたのが原因だった。

呆然とする中で何とか振り絞った言葉が、

 

「──もしかして結城、ちゃん…?」

 

その容姿は見間違うはずもなく、私が今日まで生きてきた彼女そのものだったから。

結城ちゃんの背後には大きな桜の木が生えている緑が豊かな場所だった。その下に私たちが居て、そこで私は結城ちゃんに膝枕をしてもらっている形になっていた。

 

『どうして……こんなにボロボロになってまでここまで来ちゃったの?』

 

下から見上げる彼女はすすり泣き、私のためにとても悲しんでくれた。自分の心配ではなく、他の人の安否を気にする所は彼女の人柄が出ているんだろう。

 

「それは私が結城ちゃんに会いにきたかったからですよ。その結果がそういうことになっただけです」

『でも…でもこうならない道もあったかもしれないんだよ。園ちゃんや風先輩、樹ちゃんに夏凜ちゃん……東郷さんがいるあの勇者部で楽しく日常を送ることだって出来たはず──』

「それも時間の問題だった筈だよ結城ちゃん。もう神樹様も限界に近かったのもあるし……それに私はきっとどういう道を辿ったとしても最後には此処に来てたと思う。例えば立場が逆だったとしても……ですよね?」

『……っ、それは』

 

分かってる。でもだからといってその人が傷つく姿を見るというのは堪えるのも理解できる。

 

「私は後悔してないよ。辛いことも痛いことも苦しいことも……決して楽な道のりではなかったけどさ……楽しかった。それらを超えるぐらい充実したからこそ、やっぱり結城ちゃんにはあそこに戻るべきなんだと私は思うよ」

 

元々はあなたの人生なんだから。これからまだまだ色んなことが未来で待っているから。自分を犠牲にしてまでその道を塞ぐ必要はどこにもないんだから。みんなと前を向いて歩いていって欲しいと私は切に願っている。

そう言ったら結城ちゃんは更に涙を溢れさせてしまった。

 

『…っ、わたしが、戻っちゃったら……あなたは…消えちゃうんだよ?』

「収まるべきところに、あるべきところに戻るだけだよ。むしろこんなにボロボロになっちゃってごめんなさい。きれいな体で戻してあげたかったんだけど……」

『ううん、いいんだよ。わたしの方こそ……あなたのことを沢山神樹様を通して見てた。わたしの日常を守ってくれてありがとう……』

「うん。こちらこそ、私に楽しい日常を過ごさせてくれてありがとうございました」

 

キッカケは偶然だったとしても、この思い出はずっと先に続いていく。私にはそれが分かったから。だから私は『わたし』に還す。借りていたものを、漸く還すことが出来る。

 

そう考え安心していると、私の身体が淡く輝きゆっくりと光の粒子を浮かび上がらせてきた。その様子を見ていた結城ちゃんが驚きと悲しみを混ぜ合わせた表情を浮かべる。

 

私は安心させるように腕を上げ、手のひらを彼女の頰に添える。

 

────もう、あなたにそんな顔は似合わないのに…。

 

「───っ、友奈ちゃん!(、、、、、、)

『あは。名前を呼んでくれるなんて嬉しい……悲しまなくていいんだよ。むしろ笑っていてくれる方が、嬉しいかな?』

「──っ、そう、だったね。笑顔……っ、スマイル、だから…これは悲しい涙じゃ、ないから!」

『うん……こうしてお話しすることはもう出来なくなるけど、わたしは結城ちゃんの中で生き続けるから……わたしはあなたの力になる。ずっと傍に居る』

 

漂う粒子は結城ちゃんの胸の中に次々と流れていく。わたしは貴方の中でちゃんと続いていける。だって────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────だってわたしは、

 

 

 

 

 

 

 

 

『───…あなたの「勇気」だから』

 

 

 

 

 

 

 

わたしはあなたの中で生まれ持っていたものがカタチになった存在。ここまで前に進んで来れたのもそのおかげ。

 

例えわたしという『意識』が消えても育んできた『勇気』は消えることはなく、力となって、これからも彼女と一緒に困難を乗り越えていくものとなる。

 

しずくさんを守るシズクさんみたいに、わたしも彼女を守れる存在でありたい。

 

『わたしからの願い(バトン)を……受け取って…「私」…』

「────うん、確かに受け取ったよ。今までありがとう…『わたし』…必ずやり遂げてみせるから」

 

わたしの手をぎゅっと握って力強く返事をしてくれる。あったかい……陽だまりのような温かさの中に揺れてとても心地がいい。

 

一度目を閉じて、そしてうっすらと開ける。

 

 

─────あぁ、そっか…。

 

────先輩たちから受け取った願い(バトン)を手にして。

 

───『勇気』を『友奈』に繋げて。

 

──(わたし)は『勇者』になるんだ。

 

 

 

 

 

消えゆく刹那、桜の木の木漏れ日に美森さんの笑顔がチラついた。

 

 

 

 

 

 

 

──

───

────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

光の粒子が私の中に流れてくる。あったかい感情が私の中に満たされていく。彼女はやり遂げたんだ。私に笑顔を向けながら満足そうに。

 

握っていた手は既に虚空を掴み最初で最後の邂逅を果たすことができた。

 

「………ありがとう」

 

両手を握り胸のところに持ってくる。

溶け込んでいく。一つになっていくにつれてあの子が抱いてきた、生きてきた『熱』が駆け抜ける。神樹様を通して見てきたあの子の軌跡を感じられる。

 

みんながあの子を受け入れてくれてよかった。私の半身、大切な『勇気』はみんなに笑顔を咲かせてくれた。

私は立ち上がって振り返ると、大きな山桜が風に靡いて花びらが舞う。

 

「…………。」

 

私の代わりにあの子が生きてくれてもよかった。けれどあの子は私が進んで、そして一緒に生きていこうと言ってくれた。

 

──これで漸く私の覚悟は決まった。

 

「行こうか。みんなの所に」

 

そこに一羽の青い鴉が私の肩に降りてきてくれる。私が『幽体』になってから何度も助け導いてくれた子。

『道』は視えている。いつしか私の立っていた場所に穴が空き、抗わずに下に落ちていく。

 

神樹様は『(わたし)』が一つになるのを見計らってこうして行動に移してきた。

神婚を成立させるために。

 

でも、私は神婚を受けない。神様としていっぱい色んなことを助けてくれたけど、人は人の足で歩いていく…それを証明したい。侵攻している天の神にも同じように。

 

「待っててね、東郷さん」

 

早く元の世界に戻らないとね。心配させちゃってる親友のところへ一刻も早く向かう────。

 

 

 





バトンは受け継がれて───。

『私』は『わたし』へ、『勇者』は『結城友奈』に引き継がれました。
彼女という人生(ストーリー)はここで幕を閉じます。

けれど彼女は結城友奈に宿る『勇気』として生き続けることとなりました。
そしてようやく結城友奈が本筋に返り咲く。
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