◾️
────炎が爆ぜる音が断続的に鳴り、空気が震えると共に衝撃波が広がる。
(身体がすごく軽いけど……長くはない…か)
この『大変身』は時間が限られているのが直感で分かった。湧き出る力に合わせて『ナニカ』が無くなっていくような、そんなイヤな感覚。
斧を振るい相手の攻撃を弾き飛ばしていく。噴き出す炎でブーストさせて今まで以上の実力を発揮できている。
私の『大変身』は現状『満開』以上の出力を得ようとしていた。
「──それで十分じゃない。ありったけを込めてアイツに当たってやる!」
勇者の資質を賭けて、私という全てを賭けて。
『想い』を燃やせば出力はどこまでも伸びていく。強い意志はそのまま変換されて疾く、力強くなっていった。
「──ぐ、ぅ!!」
弾く中で負荷がのしかかってくる。今日まで肉体を鍛えて、調整をかけてきてもなおこの負担は、やはり常人では扱いきれない代物だと悟った。
それとも力を使う対価を既に支払い始めている影響もあるのかもしれない。勇者の力を失うということは私はちょっと身体を鍛えた一般人と何ら変わらないからだ。
そうなればもはや赤子をひねるより容易い。
(────っ!)
そんな中で幾度かの打ち合いに僅かな隙を見つけた。
私は足下を爆発させて一気に天の神の中心に飛び込み、両斧を大振りに振りかざす。
鐘が響くような、そんな音が辺りに広がるが私の斧はそれ以上進めなくなる。
……これでも、奴の懐には届かないのか。
だったら……更に強い『想い』を──っ!!
「……はあぁぁアア!!」
背中に炎の羽を生やしブーストさせて刃を少しでも前進させる。
…が、それも弾かれてすぐに私を囲うように全方位から針を出現させてきた。私はそれらを全身から放出した熱波で薙ぎ払う。
……いよいよ、天の神は私を始末しようと手数を増やしてきた。
「ま、だぁぁ!!」
──ここは、怖くても頑張りどころだろ。
思考の間に私の知らない記憶がチラついてきた。その感情が、想いがまるで私のモノのように広がり始めていく。
これが何を意味しているのか分からない。けれど止まらずに私は進んでいく。
『想い』を燃焼させる。私のモノを糧に更に力を強める。
──アタシに任せて、◾️◾️と◾️子は休んでな。
火球が繰り出され、それを私は一刀両断して破壊する。
私の抵抗力が増したせいなのか天の神の攻撃は更に苛烈になっていった。
……関係あるもんか。天の神の侵攻は確実に遅らせることができている。
その間にあの子が目的を果たせば…。
◾️◾️のために……っ、
「アタシ……
思考の乱れ。その隙をついてきたのか天の神の攻撃によって後ろにいる樹と園子に目をつけてきた。
────なぁ、須美。園子。ずっと友達だぞ!
頭に…知らない映像が、声が流れる。誰、だれの…。
「……っ!?」
「こっちに──! イっつん!!」
変身はしているものの、満身創痍に近い二人にヤツの攻撃が降りかかろうとしていた。
────…またね。
心の痛みが、伝わる。
自分でも感じるほど、とてつもない速さを出して二人の前に立った。
そして巨大な斧を盾代わりにヤツの攻撃を受け止める。
────瞬間、自身の炎とは別に真っ赤な鮮血が噴き出ていた。
防御も攻撃に転換していて、かつ勇者としての資質を喪失し続けている今の私にはこの一撃は重すぎたようで……溢れた衝撃が皮膚を突き破って出てきたんだ。
思えば戦いの中で血を流すことなんて無かったな、なんてどこか他人事に考えていた。
「が、はっ……っ」
「にぼっしー!!!!」
「夏凜さんッ!!!?」
駆け寄ってくる二人に対して私は手で制して、
「平気、よ。下がってて……樹、園子」
「何言っているんですか! こんなに血が、出て……!」
「樹、見た目ほどじゃないから。とにかく離れて隠れてた方がいいわ……アイツの攻撃が来ないうちに、早く…」
「そんなこと言われても無理だよにぼっしー! このまま戦い続けたらにぼっしーが死んじゃうよ…っ!!」
「園子……ぐ、うっ」
振り向いて彼女を見た瞬間に視界の半分にノイズが走る。
そのノイズの隙間から見える彼女の悲しむ顔が幼く見えて、目の前の園子と重なって視えた。
「にぼっしー!!」
「園、子……?」
彼女は私の制止を振り切って近づいてくる。
さっきから起こる現象に戸惑いを覚えるが、こうまで観せられると何となく言いたいことが分かってきた……気がした。
「だめ。こんな状態で行かないでにぼっしー。私……怖いよ」
「…………。」
園子は私の元まで近づいて優しく抱きついてくる。いや、表現としては抱きしめるが正しいか。ともかくこんな園子を見るのは初めてのことだった。
いつもふわふわして、でもたまに勘の鋭いしっかりとした一面を見せる彼女の身体は弱々しく震え、まるで怯えた小さな子供のように感じられた。
「今のにぼっしーの『力』。すごく強いのはよく分かった……けど、無茶してるよね」
「それは……」
「うん。にぼっしーがいっぱい考えて、答えを出した結果だってことは分かってるんよ。でも心配なの……
園子の心の痛みが伝わってくる。
今にも泣きそうな声で彼女は言う。その意味を私は胸の内から湧き出てくる『想い』が代わりに答え合わせをしてくれる。
────あぁ、そっか。あの子も……こんな気持ちを抱いて行ったのか。
友を、家族を、大切なものを守りたくて。そこにあったのは確かな────。
「……園子。大丈夫よ、大丈夫」
片方の斧を地面に突き刺して彼女を引き寄せる。
「にぼっしー……?」
「私は必ず帰ってくる。だから泣きそうな顔になんないでよ。安心なさい」
「…………っ」
「か、夏凜さん……あれ」
首だけ動かして振り向くと天の神を中心にとてつもなくイヤな気配を感じ取った。
どうやら、本気を出したのか知らないけど私たちにトドメを刺そうとしているのか……あのまま何もしなかったらここら一帯が消し飛ばされる可能性が高い。
私の『大変身』も……『勇者』としての稼働時間も残り少ない。ここが、正念場かな。
「──アレを止めてくるわ。樹、園子を連れて少しでもここから離れてちょうだい」
「は、はい!」
「ダメだよにぼっしー!! 行くなら私も行くから…!」
「行きましょう園子先輩!!」
うん……私の今見てきた映像を見ると彼女の根っこの部分は変わっていないことがわかる。
それが少しだけおかしくて、小さく口角が吊り上がるのを自覚しながら私は突き刺していた斧を手に取って肩に担いだ。
「にぼっしーっ!!!」
「ねぇ園子。
「……………ほんと?」
「うん」
息を吸って、そして吐き出す。炎の大翼が背中から現れて、更に『想い』を練り上げる。
『三ノ輪銀』の『想い』も乗せて。
「究極型勇者────三好夏凜に任せなさい」
地上から飛び立つ。
向かいながら『大変身』の出力を上げているが目の前の攻撃に果たして間に合うかどうかは賭けだ。
最初から弱音を吐くわけにはいかない。後ろで待ってくれている大切な人のためにも。
(……っ、やってやる…!)
両斧にある紋様が回転しそこから灼炎が噴き出して刀身を覆う。
ヤツと地上の中間辺りで放たれた一撃はまるで光の柱が落ちてくるかのようだった。他のバーテックスの攻撃とはまるで毛色の違うソレは紛れもなく神の一撃と呼ぶに相応しかった。
そして間もなく私と接触しようとしている所であるものが視界の隅で捕捉した。
(あれは……?!)
ほぼ同時に天の神に向かって別方向から巨大な砲撃がぶつかった。かなりのエネルギーを秘めた一撃は天の神を捉えていて、ヤツもそれをガードするのに幾らかリソースを割いてくれた。
一瞬どこかで戦ってあるであろう芽吹を思い浮かべたが、実際のところ確認する術は今はない。
兎に角一つ言える事は……またとないグッドタイミング────!!
「ぐぅぅううぅぅ……アァぁぁ!!!!!」
自身を鼓舞するために吼える。体を回転させて勢いをつけさせた両斧を砲撃に振りかざした。噴き出している全身の炎の火力を更に高め、勢いを殺さないように対応していく。
衝突した両者は拮抗する。
このまま押し負けて地上に落ちれば一帯が跡形も無く消し飛んでしまう。樹海化が行われていないこの現実の世界でそのようなことが起こってしまったらどれだけの犠牲者が出てしまうのか想像もしたくない。
超大な熱量の塊は私もろとも焼き尽くそうとしている。傷を負っていた箇所から再び出血が起こり痛みが全身に駆け巡る。
「大丈夫……だからっ!!」
それでもここから先には絶対に行かせない。
「
視界が真っ白に覆われていく。
間もなく勇者としての全てを失う。だとしても諦める要因にはなり得ない。
次第に音も遠のき、感覚が薄くなっていった。
──────
────
──
─
二つの輝きは天の攻撃を防ぎ切った。
彼方からの砲撃の一撃、そして地上から舞い上がった炎の大翼が確かに受け止めたのだ。
一撃を防がれた神はその輝きを視てどう感じたのだろうか。
天の神が顕現してから今までに侵攻を止められた時間は如何程だったか。
『勇者』たちは持てる全てを用いて戦った。
炎の残滓がキラキラと地上に降り注ぐ中で、空を仰ぐ人々にはそれは果たしてどう映って見えたのか。
『────────』
天の神の向かうその先……神樹の生えるその土地から一際大きな『蕾』が顕現する。
『蕾』から広がる樹海化が天の神のいる地上まで根を張っていき、全てのエネルギーが『蕾』に収束していく。
そして、ついに……。
────『蕾』が開花した。
夏凜の『大変身』は使用時間が短い分、威力が絶大の仕様(大満開未満)
彼女は守るべき者を知り、『愛』のために戦った。
遠くで戦っている戦友もまた同様に。
結果的に時間を稼ぐことに成功し、『蕾』が開花する──。