私の名前は『結城友奈』である   作:紅氷(しょうが味)

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七十五話 明日に期待して

◾️

 

 

 

「はぁ、はぁ……お姉ちゃんどこにいるの…?」

 

息を切らし、小走りに移動しながらお姉ちゃんを探す。戦い続きで身体はあちこち痛むけど一刻も早く安否を確認したかった。

『天の神』は友奈さんが見事に倒し、天はガラスのように砕けて光の粒子が辺りを占めている。

 

戦闘の余波によって先輩たちとは散り散りになってしまったけど、あの人たちならきっと無事にやり過ごしているだろうと当たりをつけてこちらを優先させてもらっている。

 

だけどお姉ちゃんは見つからない。

 

焦りが募る一方で、冷静な思考となるわけにもいかずに時間だけが過ぎていってしまう。

 

『焦らないで』

「…っ。あ、あなたは…?」

 

声がする方に振り向いてみたら白装束に身を包んだ少女が立っていた。

 

『私は伊予島杏といいます。樹ちゃん、あなたをお姉さんのところに案内するためにここに現れました』

「現れた…? それに私の名前……あ、待って!」

 

ふわり、と風に揺れる粉雪のように伊予島さんと名乗った少女は先に進んでいく。よく分からないけど私はその道を辿るように追いかけていった。

 

私が探していた方角とは逆の方へ。

 

「道……全然違ってたんだ」

『今は天の神との戦闘で地形がめちゃくちゃだからしょうがないよ。でも安心してね。さっきも言った通り必ずお姉さんの所に案内するから』

「伊予島、さんは一体どういう……?」

 

突如目の前に現れた少女の全体像が掴めずに疑問符ばかり浮かんでしまう。そんな様子を知ってか知らずか伊予島さんはクスリと微笑み、

 

『私のことは杏でいいよ樹ちゃん。敬語とかもいらないからね。えっと…話せばすごく長くなるんだけど……掻い摘むと私もあなたと同じ「勇者」だった一人、かな。西暦──今から三百年ほど前のね』

「──っ! 前に園子さんから話を聞いたことあります」

『そうなんだ。きっと若葉さんが頑張って繋いでいってくれたおかげだね』

 

『若葉』という名前を聞いて私の中で繋がっていく。なら本当に目の前の人は勇者なのは間違いない。でもなんで過去のその人が今ここに存在しているんだろうかという更なる疑問が浮かぶ訳だけど……。

 

それでも、なんとなく感じられるものがある。

 

「──助けに来てくれたんだ。杏さんや皆さんが……私たちのために」

『うん。私たち以外の他の人も志したものは同じだったから。本当に凄いことだよ。あの天の神を倒しちゃうなんて……』

「ううん…凄いのは友奈さんだよ。私なんてフォローするので精一杯だったから」

『謙遜しなくてもいいのに。友奈、さん……かぁ』

 

何か巡らせているようだけどその内は分からない。懐かしむような、そんな感じの表情を浮かべていた。

進んでいくことしばらくして私はその先にあるモノを見つけることができた。

 

お姉ちゃんが使っていた『大剣』だ。

 

私はすぐに駆け出した。杏さんを追い抜いてその場所に向かう。大剣は地面に刺さっているだけでお姉ちゃんの姿が見えない。

 

「お姉ちゃん…!」

『そこにいるよ。剣の裏に』

「えっ? ……あっ!! お姉ちゃん!!」

 

居た。大剣の腹を背に地面に座り込んでいたお姉ちゃんを発見した。ボロボロで擦り傷がいくつも見られて痛々しく見えてしまう。

 

「…おー我が愛しの妹よ。無事でなによりだわ」

「お姉ちゃんこそ…こんな、血がいっぱい出て…平気なの?」

「ヤバい負傷はないから安心していいわよ。敵が多すぎて捌くのに苦労しただけで、ここで疲れて休んでたの」

「よ、良かったぁー……」

 

緊張の糸が緩み力が抜ける。へたり込む私の頭をお姉ちゃんは優しく撫でてくれた。

 

「頑張ったね樹。みんなのフォローお疲れ様」

「お姉ちゃん…」

「立派になったわね。まさかこうやって肩を並べる日が来るなんてね……姉として誇らしいわよ」

「……っ。うん──!」

 

涙が出てくる。嬉しくて。憧れてた姉にこうして認めてもらえることが。その様子を後から来た杏さんが自分のことのように喜びを滲ませながら私たちを見ていた。

 

『良かったね樹ちゃん』

「ありがとう、杏さん」

「そちら様はー……んん? 私の目の錯覚かしら……ふよふよ浮いてない…?」

『まぁ言っちゃえば私って幽霊みたいなものですし。存在としては曖昧なんですよ』

「ゆ、ゆゆゆ幽霊っ?!! ひぃぃー!!?」

 

ぎゅーっと私の袖を握りながら後ろに隠れるお姉ちゃん。対して杏さんは悪戯っぽい笑みを浮かべていた。

 

「あまりお姉ちゃんを揶揄っちゃダメだよ」

『ふふ、ごめんなさい』

「い、樹が幽霊と仲良くしてる…? やだ、私の妹ってば急成長しすぎ…?」

「もう何言ってるのお姉ちゃん。杏さんは私たちと同じ勇者なんだよ。私をこうしてここに連れてきてくれたの」

「そ、そうなの…? それはご丁寧に感謝します……」

 

なんで畏まっちゃってるの、と苦笑していたら今度は視界の端にからからと笑う人物が立っていた。

 

『そーかそーか。風はオバケが苦手なのかーならタマのことも同じように驚くが良いぞ?』

「…いや、タマのことは別になんともなかったわ」

『えー…なんだツマらん。ご苦労さまだったなーあんず』

「…? あの人も勇者、だよね杏さん??」

『うん、私にとっての風さんかな。ただいまタマっち先輩』

 

言いながら杏さんはその人の元に戻っていく。そして二人はにこやかに視線を交わせた後にこちらに向き直ると、その空の上から青い鴉が降りてきた。

 

杏さんとタマっち先輩と呼ばれた人たちの少し後ろに青い鴉は羽を下ろす。そこにはもう一人……巫女の衣装に身を包んだ少女が立っていた。

 

『道案内ありがとうございました杏さん。球子さんも』

「あなたは…?」

 

お姉ちゃんが訊ねるとその巫女さんは深々とお辞儀をする。

 

『私は上里ひなたと申します。こちらでは初めまして、ですね。犬吠埼風さん、樹ちゃん』

「は、初めまして!」

「上里って……『乃木』に連なる家柄の名じゃない! そんな人がなんでここに…?」

 

肩に青い鴉を乗せた彼女はゆっくりこちらに近づき、

 

『私たちは皆西暦の時代に勇者とその巫女として戦ってきた者です。始まりとして、そしてその代表として天の神を退けた貴方がたに改めて御礼をしに参りました』

『加勢しにも来たぞ』

『余計なことは言わなくていいのタマっち先輩』

 

どうやら私の知らないところで、この人たちは私たちのことを助けてくれていたらしい。お姉ちゃんは心当たりがあるみたいな顔をしている。

 

『三百数年と長きに渡る戦いに終止符を打ち、感謝致します。まもなく、神樹様がこれまで侵食された土地を元に戻していきます』

「元にって…あの炎の世界から戻すことなんて出来るの?」

『天の神が広げていた炎の世界は神樹様で言う樹海と同じものなんです。私たちの世界に上乗せする形で炎を拡大させていた……なのでその影響力を取り払えば元の世界が還ってきます』

『しかしまぁ、三百年以上も放置された土地なんて酷い有様なんだろーなぁ』

『それはそうなんだけど言い方があるでしょタマっち先輩』

 

杏さんがこほん、と一つ咳払いをする。

 

『ともあれ私たちの御役目はここまでですね。樹ちゃん、風さん……あの先で勇者部の方々が友奈さんの元に向かっています』

『タマたちの身体も消え始めたし、ここでお別れだな風』

 

一歩前に出てきた二人はそのまま私たちの手を握った。

 

「球子……あんた」

『そんな悲しい顔しなくていいんだぞ。それと、姉妹仲良くな! タマが言いたいことはそれだけだ』

「言われなくてもわかってるわよ。ここまでありがとう球子」

『おう!』

 

爽やかな笑顔で二人がお別れを告げる中で杏さんは微笑みを浮かべていた。

 

『樹ちゃん』

「うん…」

『お姉さんといつまでも仲良くしててね。本当はいっぱいお話したいことがあったんだけど……きっとあなた達なら幸せに生きていけるから』

「杏さん……もちろんだよ。だってお姉ちゃんは私のお姉ちゃんで『家族』だから。ありがとう、私たちを助けてくれて」

『うん』

 

初めて会った筈なのに、こうも名残惜しくなってしまうのはどうしてなんでだろう? 答えは分からないけれどきっと大切な繋がりがみんなとはあるんだろうって思う。きっと私たちと同じ時代を生きていたら仲良く出来た筈だ。

 

手をそれぞれ離して私たちは目配せする。

 

「いこっか樹。みんなの所へ!」

「うん! お姉ちゃん!」

 

今度は私たち二人で手を繋いで。見送られながらみんなの所に走っていった。

行かなきゃいけない場所がある。背中を押してくれたこの人たちの分まで私たちは明日に進んでいこう、と強く願って。

 

 

 

────

───

──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小さくなっていくその背中を見送る少女達。奇跡によって作られた肉体は消えかけていく。

 

 

『終わったんだなぁ全部』

『そうだねタマっち先輩…ひなたさん』

『長い間、お疲れ様でした。私たちもこうしてまた会えたことを嬉しく思います』

『だな!』

 

かつての戦友たちが、友と再会できた喜び。それだけでも彼女たちからすれば奇跡そのものだと言える。

 

『タマたちが先っぽいな。先に行くぞひなた、若葉(、、)!』

『最後にあの二人に会えて良かったよねタマっち先輩』

 

まるで自分達がこうでありたいと望んでいたようなあの姉妹と最後に顔を合わせることが出来て良かった、と満足そうに笑う。

 

『はい。もう少ししたら私たちもそちらに行きます』

 

少しの時間の差だが彼女は見送る。そして残った一人と一羽は目を見合わせる。

 

『私も先に失礼しますね若葉ちゃん。もう少しの間、この世に留まるんですよね?』

「…………。」

『はい、いつまでも待っています。何せ時間はたっぷりありますから』

 

頬を鴉に擦り合わせる。そして鴉は羽を広げ羽ばたき始めた。

 

『そういえばあのお二人は……あぁなるほど、そういうことですか。なら邪魔してはなりませんね。行ってらっしゃい、若葉ちゃん』

 

始まりの巫女はそう言って笑顔を浮かべながら消えていった。

青い鴉はその最後を見届けた後、戻りゆく世界の空に羽を広げていった────。

 

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