私の名前は『結城友奈』である   作:紅氷(しょうが味)

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七十七話 輝く心

◾️

 

 

天の神は倒され、約三百年の長きに渡る戦いは終わった。

神樹様は天の神が広げた炎の世界を書き換え、やがてその大樹は枯れ果てていってその姿を消失させた。

 

樹海化が解けて元の世界に戻ってきた私たち勇者部は園ちゃんが抱えていた大赦の人達によって救出されて病院に運ばれる。

検査をして身体に異常がないか、怪我の程度はどうかとか様々なことをしてくれた後にそれぞれ病室へ案内された。

 

「また、ベッドの上だね東郷さん」

「うん。でももうこれっきりにしたいわね」

 

なんて冗談が言える程度には心は落ち着いてる。私と東郷さんは『タタリ』の影響を強く受けていたせいで他のみんなに比べて少し入院期間がいるらしい。そしてもう一人、

 

「─でも今度は夏凜ちゃんも一緒の部屋だね!」

「……しょーがないじゃない。私は『大変身』の影響で身体機能が衰弱してるんだから。まさか力比べで樹に負けるとは思わなかったわよ」

「体力は元に戻りそう? 夏凜ちゃん」

「医者が言うには私の頑張り次第だと。まっ、全快とはいかなくてもいくらかは取り返してみせるわ」

「そっか。一緒にリハビリがんばろーね夏凜ちゃん!」

「……そういえば友奈ちゃん。『ゆうちゃん』の時の記憶はあるんだったっけ?」

「もちろん! あの子が託してくれたものはちゃんと覚えてるよ。だからみんなには沢山感謝してるんだ」

 

言いながら私は包帯の巻かれている『右目』に触れた。二人もその様子を見て静かに微笑んでくれた。

『わたし』が歩んできて、その目で見てきて、感じてきたものは『私』のものとして馴染んできている。いずれそれらはお互いに溶け合って一つになっていく。あの子は本当に私のために沢山のことをやってきてくれたんだなぁって感じられる。

 

そして、何よりも────。

 

「……? どうかした友奈ちゃん。私の顔をじっと見て」

「へっ!? う、ううん。何でもないよ東郷さん! えへへ」

 

笑って誤魔化してみせた。心臓の高鳴りが強まっていくのが分かる。

『わたし』から受け取った様々な『記憶』はただ一つに限っては物凄い勢いで私の心から溢れてきていた。

その『感情』を……。

 

(うぅう……ちょっと凄すぎるよぉー『わたし』ぃ……!)

 

絶対頬っぺた真っ赤だ。東郷さんだって気にしてるし…。

私が今まで感じてきてこなかった初めての『感情』に戸惑うばかりだ。

 

「──やっほーー!!! 乃木さんちと犬吠埼んちがお見舞いに来たぜベイベーッ!!!」

「うわ!? なによ、ビックリした!」

「ちょっと乃木ぃ! 病院内では静かにしなさいってば!!」

「友奈さん、東郷さん、夏凜さん。お見舞いに来ちゃいました!」

 

どうやって整理をつけようか考えたところで突如勢いよく扉が開けられてそこから園ちゃんと風先輩と樹ちゃんがやってきた。

ドタバタと一気に空気が明るくなる。

 

「…って、あんたらも怪我人でしょうに」

「アタシたちは軽いもんだからいいのよー。本当は来てくれて嬉しいくせに〜♪」

「包帯まみれのアンタが言うか! というかべ、別に嬉しいわけでもないからねっ!!?」

「お姉ちゃん、あんまり夏凜さんを弄っちゃダメだよ」

「にぼっしーは期待を裏切らないよねぇ〜」

「仲が良いことは素晴らしいことよそのっち」

「…ふふ」

 

(わたし)が求めていた日常。こうやって賑やかに過ごす時間はいつぶりなんだろうか。

しばらく談笑をしながら過ごしてから、会話の区切り目で園ちゃんが別の話題を切り出した。

 

「──さて、じゃあ今の世界の現状を分かる範囲で伝えるね」

 

本題はそこだとみんなの顔は引き締まる。

 

「天の神との戦闘の際に神樹様はゆーゆに力を与えるために自らが『満開』をすることによって無事、勝利に収めることができた。でも私たちが知っているように『満開』の後に待っているのは『散華』だよね。神樹様はその全てを代償にしたせいで神樹は枯れ果ててしまったの」

「それってつまり……もうこの世界に『神樹様』はいないってこと?」

「うーん、正確には少し違うんだけど…そもそも『神樹様』って複数の神様が人を守るぞー! って協力するために出来たものなんよ。で、その依代を『大満開』で失ったってことが正しいかな? 神様そのものが死んだわけじゃなくて、その神様たちは今も私たちの視えない所で存在している。それは同様に天の神も同じと言えるの」

 

それぞれが『依代』を失ったせいでこちらに干渉が出来なくなったということらしい。

 

「神樹様を失ったということは受けていた恩恵も失ってしまったってことになる…?」

「わっしー正解! 今日まで神樹様が助けてくれていた部分をこれからは受けられないっていうことになっててね。もー大赦の内部や外部の組織がてんやわんやしてるんよ。一部の上役なんて『小麦』になっちゃったしね」

「いつも思ってたけど、園子アンタさらっととんでもないことを言うわよね……」

「いや〜それほどでも〜」

「そ、それは褒めているんでしょうか…?」

 

ぽやーって空気を出しながらも目が笑ってない園ちゃんが少し怖かった…。大赦の愚痴をあの子が聞いてたことがあるみたいでそこから察するに色々言われてるんだろうなーって考えてしまう。

 

「要するに、これからの生活がガラッと変化してしまうってことでいいのよね乃木?」

「そうですねフーミン先輩。今はまだ蓄えやら何やらとあるけれど、いつまでもそうしてはおけないからねーこれからが人類の踏ん張りどころになるわけさ」

「天の神が現れた時も一般人の人がたくさん目撃しちゃってますし……きっと不安になっていますよね」

「それは可哀想だったけど、大赦が何でもかんでも秘匿しておくのがいけないのもある!」

 

にんまりと笑いながら園ちゃんはポケットから端末を取り出す。

 

「というわけで私は今から大赦に追撃してくるであります!」

「そのっち!」

 

ビシッと敬礼した園ちゃんを東郷さんが静止させた。

 

「もう無茶ばかりしないで……お願いだから」

「わっしー…うん、無茶はしないよ。これはちゃんと私が考えてやってるから」

「それなら私とお姉ちゃんが園子さんが無茶しないように見ておきます!」

「イっつん?」

「一人で抱え込むのは良くないです。それと私とお姉ちゃんも大赦直属の人間ですからもしかしたら何かお役に立てるかもしれません」

「樹……そうね。何なら日頃の鬱憤を紛らわすためにも一肌脱ぐしかないわねー乃木?」

 

樹ちゃんの言葉で園ちゃんはきょとんとしたけどすぐに笑みを浮かべると頷いてくれた。

 

「うん! よろしくね二人とも。いやーこれで暴走しちゃっても止めてくれる人がいるから安心だねぇ」

「いや、そこは抑えなさいよ!」

 

夏凜ちゃんのツッコミで笑いが起きる。よかった…さっきまで感じた園ちゃんの『熱』は不安な感じがしたけど今は穏やかになってくれた。

それに先輩と樹ちゃんが一緒なら東郷さんも安心してくれるだろうしね。

 

「まったく。嵐のようにきて去ってくんだから」

「…あら? また来客のようだわ」

 

園ちゃん達が出て行ってから少しして病室の扉がコンコン、とノックされた。東郷さんが「どうぞー」と招き入れると、現れたのはまさかの人だった。

 

「───っ。芽吹」

「芽吹ちゃんだ!」

「…こんにちは」

「友奈ちゃんと夏凜ちゃんの知り合い?」

「うん、『わたし』の時にお世話になった人だよ。芽吹ちゃんは『防人』っていう部隊の隊長でね、私たちとは違う御役目をしていたんだ」

「そうだったんだ……初めまして楠さん。東郷美森といいます」

「初めまして。楠芽吹です……みんな無事だったみたいね。夏凜は……ボロボロだけど」

「な、なによ悪い? これは名誉の負傷よ。芽吹こそ、ボロボロじゃないの」

「私たちの装備だと防衛で精一杯だったのよ。だから、これは名誉の負傷よ」

 

そう言う楠さんも見た目は夏凜ちゃんと同じぐらいの包帯で、二人は顔を見合わせた後に小さく笑っていた。

向こうもおそらく壮絶な戦いだったんだろうと彼女を見て思う。

 

「友奈…よね?」

「うん芽吹ちゃん。私としては初めましてだね…あの子がお世話になりました」

「…っ。なんだかあの子と比べてぐいぐいくるのね。名前呼びなんて少し驚いたし」

「迷惑だった…?」

「ううん、違うの。新鮮だなって思っただけ。友奈の好きに呼んでくれて構わないから」

「ありがとう芽吹ちゃん」

「私からも御礼を言いたいわ。芽吹さんって呼んでもいい?」

「ええもちろん。話は友奈から聞かされていたわ。あとお礼も何も私は特別なことは何もしてないから……しずく…うちの隊の一人が一番友奈のことを気にかけていたからお礼を言うならその子にお願い」

「そっちもみんな無事なんだね。良かった……」

「友奈のことはみんな気にかけてたから、退院したら会いたがってる子も沢山いるわよ」

「うん!」

 

『記憶』からすごくみんなには良くしてもらったのは分かってた。だから改めて言われて凄く嬉しい。

 

「芽吹もこの病院で入院なの?」

「私はこれから上司に報告しにいくのよ。ここを出る前にあなた達がいることは聞いてたから顔を出しにきたの」

「…大変ね」

「ほんとよまったく。ここ数週間のドタバタときたら……でも、それも今日で片がついたから良しとしてる」

「ねぇ…私が天の神と戦ってたときに先に攻撃をしたのって芽吹たちだった?」

「ええ、『千景砲』というものよ。私達『防人』の御役目はゴールドタワーを死守することだったから」

「──そっか、ありがとう。あれが無かったらきっと私はやられてた。芽吹たちの一撃があったからこそ、天の神を倒すことができたわ」

「…………そう」

「あ、芽吹ちゃん嬉しそうだー。良かったね、夏凜ちゃん」

「友奈、うるさい」

「えー」

「べ、別に。御礼を言っておかないと気が済まなかっただけだから」

「仲が良いのね二人とも」

 

みんな怪我はしたけど、死ぬことなくここまでこれた。その安心感みたいな空気が場を占めていた。

 

「友奈、さっきも言ったけど退院したらしずくたちに会いに来てほしい。それを伝えたかった。その時は東郷や夏凜も一緒に」

「もちろんだよ! 私も勇者部のみんなを紹介したいしね。楽しみにしてるよ」

「ぼたもちを沢山作っていかないとね」

「あっ、いいアイデアだね東郷さん。芽吹ちゃん東郷さんのぼたもちはすっごく美味しいからこっちも楽しみにしててね!」

「ええ。それじゃあ私はこれで……夏凜、また連絡するわ」

「うん。道中気をつけなさいよ芽吹」

 

そう言ってひらひらと手を振って芽吹ちゃんは病室を後にした。

 




気がつけば大満開の章も終わり(終わるまでには完結させたかった)年も明けてしまった……(愚痴

一応、本編はあと三話ほどで終わらせる予定でいますのでお付き合いください。
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