人生どれだけ変わる?   作:ナマクラ

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ダンベル何キロ持てる?のアニメを見てふと思い浮かんだのでリハビリがてら思うままに筆を動かしました。


人生どれだけ変わる?

 長狭玲志郎(ナガサレイシロウ)。彼は決して恵まれない人間ではなかった。

 

 そこそこ裕福な家庭に育ち、概ね問題もなく大学まで進学した。

 不良ではないが決して優秀というわけではなかった玲志郎は、自分に出来ないことをこなす他人に劣等感と嫉妬心を抱きながらも、そこから問題行動を取る事もない、大人しい人間であった。

 またゲームやアニメなどのインドアないわゆるオタク趣味を持っていたが、それも過度にのめり込むわけでもなく、人生の色どりとしてうまく機能していた。

 

 そんな順風満帆だった玲志郎の人生にも、大きな苦難が訪れる。

 

 

 ────就職活動である。

 

 

 特に未来への展望も夢も持たず、ただ惰性のままに生きてきて、自己分析も特にしてこなかった玲志郎にとって、それは想像以上に高いハードルであった。

 何せ今まではある程度の成績さえきちんととれていれば何とかなっていたのに、就職活動ではそれがあくまで前提であり、当然の如くそれだけでは全く通用しなかったのだ。

 今までなんとなくで生きてきた玲志郎にとって、他人に比べて自身の優れた点など思い浮かばず、魅力的な自己PRなど出来るはずもなかった。

 

 そして大学を卒業したものの就職先が見つからず、就活浪人として一年過ごすも結果が出ず、ついに諦めて親のすねをかじって生きるようになってしまった。

 

 学生時代から体育くらいでしか運動をしてこなかったためにただでさえ弛んでいた体は、更なる不摂生な生活によって体力の衰えと脂肪の蓄積へと繋がり、鬱屈した精神状態はさらに歪んでいく。

 まさしく負のスパイラルであった。

 

 もちろん玲志郎の親もそれを黙ってみているわけではない。部屋に籠る玲志郎に対して諭すように口を出している。

 

 ────就職活動はどうなの?

「就活? やってるやってる(やってない)」

 ────ゲームなんてやってて大丈夫なの?

「明日から本気出すし。今は充電期間なだけだし」

 ────このままじゃダメなままじゃない。

「俺がダメなんじゃない。社会の方がダメなんだよ」

 

 

 そう言って罪悪感や不安に襲われつつも、言い訳だけを重ねて何もせずに時間を浪費する毎日を送るようになっていた。その末に自分の味方であったはずの両親の目も侮蔑が混じった心地の悪いものへと変わっていた。

 

 

 まごうことなきクソニートの誕生である。

 

 

 さて、そんな彼だが引き篭もってゲームやアニメを見る以外に外に出る趣味があった。

 

 それは人気コスプレイヤー・百合亞リコの追っかけである。

 

 コスプレイベントに現れるコスプレイヤーの百合亞リコは彼にとっての癒しであった。

 少し露出の多めな、率直に言ってエロめなコスプレが多い彼女だが、ファンに対して邪見に扱う事もなく、友好的に接してくれる。

 そうして彼女と接している間に、彼はこのような想いを抱くようになっていく。

 

 

「彼女、もしかして俺に気がある……?」

 

 

 ────全くの勘違いである。

 その行為が単なるファンサービスの一環であることは客観視すればすぐさまわかる事だが、しかしその事に気付けないほどに玲志郎は百合亞リコという存在に入れ込んでしまっていた。その熱意は留まる事を知らず、そして抑えられなくなっていった。

 

 ふと気付けば、なんと百合亞リコの個人情報を手に入れてしまったのだ。

 

 玲志郎本人としては悪気はなかった。ただ、好きという気持ちを抑える事が出来ずに、彼女の後を付けてしまっていた。そして名前と住所、職業などの個人情報を手に入れたのだ。

 立花里美。女子高の教師をしている彼女は、真面目だがかといって暗いわけではない清楚な立ち振舞いで、性格も明るめだが口調もキツイものではない。玲志郎にとってどストライクであった。

 そう、気付けば長狭玲志郎という男は、コスプレイヤー・百合亞リコこと立花里美のストーカーに成り果てていたのだ!

 

 ……犯罪スレスレではない。まごう事なき犯罪である。良い子も悪い子も真似しないように!

 

「里美さん……ふふ、可愛いなぁ……」

 さて、今日も玲志郎は趣味である百合亞リコこと立花里美の追っかけ(ストーキング)に精を勤しむ。

 時間は大体夕方、教師をしている里美が退勤する時間帯だ。同僚の女教師と一緒ならば飲みにいくと考えられるが、今日は一人で校門から出てきた。

「今日は一人か……ならとりあえず最寄り駅辺りまで帰るかな」

 玲志郎はそう予想した。自炊をしない里美の事だから多分最寄り駅まで行ったあとその辺りで外食するか弁当か何かを買うのだろうと踏んでいたのだが、その予想は外れる事となった。

「……あれ? 意外だな。公私を分けたがる里美さんなら職場の近くでこういう私生活を見せないと思ったんだけど……」

 里美が足を踏み入れたのは駅ではなくその途中にあるシルバーマンジムであった。

 玲志郎が知る限りでは里美は出来る限り公私を分けたいと考える人間であった。コスプレ趣味を隠したがるのもそうだが、ジムに通うにしても職場から近いこの場所を選んだのも意外に思えた。

「もしかしたら多少太ったとかかな? 別に問題ないのに……」

 もしかすると今までに見た事のない彼女を見れるかもしれない。

 しかしジムという空間では自身の異物感が浮き出てしまうかもしれない。

 ……悩んだ末に、玲志郎はシルバーマンジムへと足を踏み入れることにした。

 

 

 ●=●  ●=●  ●=●

 

 

「ようこそシルバーマンジムへ。どういったご用件でしょうか?」

「あ、お構いなく」

「…………はい?」

 受付嬢の言葉に軽く返して里美の姿を探して周囲を見渡す。

 そこそこの時間が経ってしまっていたので建物内を探す必要があるかもしれないと考えていると、三人の女子と共に歩いていく里美の姿を発見した。

「あれは……もしかして女子高生か? 」

「あ、あのぅ……どういったご用件で……?」

「しっ! 静かに……」

 話しかけてくる受付嬢に黙ってもらいながら里美達の会話に耳を傾ける。

 途切れ途切れではあるが、何とか聞き取れた内容から推測するに彼女たちは里美の教え子らしい。待ち合わせをしていたというわけではなくたまたまこのジムで一緒になったようだ。

 ここまでは順調に後を追いかけられたが、それは里美達がトレーニングルームに入る所までだった。トレーニングルームに入るための扉が邪魔をして中の様子が見えない。

「うーん、中が見えないな……」

「あ、あの……見学希望、なんですか……?」

 受付嬢の言葉が耳に入っていないのか、何とか見えないかと考えていると、トレーニングルームから誰かが出てきて扉が開いた。

 人が出入りすると扉の隙間から中の様子が見える事に気付いた玲志郎はその扉が開く瞬間を逃さないようにさらに意識を集中させた。

 

 そして次に誰かが出てきて開いた扉の隙間から、その瞬間を、目撃した。

 

 

「────入会しまぁす♡」

 

 

 里美は、青いジャージを着た男の前で、雌の顔をしていた。

 

 

「え…………!?」

 それを目撃した玲志郎の頭の中は真っ白になった。そして、

 

(バカな……何であんな“女”の顔に……!? 俺だって、今まで里美さんのあんな顔見た事……!?)

 

 その時玲志郎はようやく気付いた。彼女が自身に好意を抱いてくれているという考えは、全ては自身の都合のいい勘違いだったのだと!

 

「────」

「あ、あの~……?」

 

 それに気付いた瞬間、冷や水を浴びせられたかのように冷静になった思考が、自らの行ないの愚かさを叩き付けてきた。具体的に言えばストーカー的思考・行動、そしてそれに付随する犯罪行為である。

 

「ああ、ああ……俺は、なんて勘違いでこんな事を……!?」

 

 玲志郎は勘違いを自覚してようやく自分の行動を客観視ができるようになった。なってしまった。

 そして己がそこまで落ちぶれてしまった事に対して、怒りや情けなさ、失望感、あるいはそれら全て入り交じった負の感情が玲志郎に容赦なく襲いかかった。

 

「これじゃ単なるクソ野郎じゃないか……!?」

 

 ロビーにある椅子に座って頭を抱えてしまった玲志郎は自身の犯した事に対する罪悪感に押し潰されそうになった。

 声が掛けられたのはそんな時だった。

 

「────どうかしましたか?」

「あ、あなたは……」

「僕はこのシルバーマンジムでトレーナーをしています、街雄鳴造といいます」

 

 街雄鳴造────先程里美を雌顔にしていた青いジャージを着た爽やかイケメン、その張本人だった。

 

 

 ●=●  ●=●  ●=●

 

 

 挙動不審な玲志郎を怪しんだ受付嬢に呼ばれてやってきた街雄は、玲志郎を見て一目である事を見抜いた。

 

(…………! この人────────────トレーニング未経験者だ)

 

 スポーツ理論をアメリカの大学にて学び、トレーナーとして人間の筋肉に関して一家言を持つ街雄をしてみれば、目の前の男の身体が鍛えられていない事など一目瞭然であった。

 そんな彼がこのシルバーマンジムという身体を鍛えるための場所で受付にも話しかけずここにいたのは何故なのか……。

(────そうか! この人は……!)

 

 そして街雄は確信した。彼が何故ここに来たのかを!

 

「────もしかして、ジムの見学希望の方ですか?」

 

 街雄は玲志郎を、『トレーニングを始めたいジム初心者』で、おそらくいざ実際に来てみて初めてのジムという今まで体感した事がないであろう場に疎外感や敷居の高さなどを感じてしまい萎縮してしまったのではないかと推測した。

 

 

 ────完全な早とちりであった。

 

 

「あ、いや、そうではなく……」

 

 対する玲志郎は全てをぶちまけたい衝動に襲われていた。自身の犯した罪を自覚した事で、罪悪感に押し潰されそうになり、それから逃れるために誰かにその事を話したい、いっそ裁いてもらいたい……そう思うようになっていた。

 しかし、自分の事を何も知らない街雄に対してそんな事をぶちまけたところで相手が困るだけだと、言い淀んでしまった。

 

「大丈夫ですよ」

「え……?」

「初めてのジムでもしかすると気後れしているのかもしれませんが、大丈夫です。トレーナーである僕たちがサポートします。貴方の勇気を無駄にはしませんよ」

「勇気……でも俺なんかが勇気を出した所で何も……というか勇気を出す資格なんか……」

 

 歪んでいたとはいえ、勇気を出した結果起こしたのがストーカー行為である。玲志郎はそんな自身へ失望し切っていた。

 しかしそんな玲志郎の心情を知ってか知らずか、街雄は自身の考えを口にする。

 

「誰だって勇気を出すのに資格は要りませんし、何かのために勇気を出す事自体、僕は素晴らしい事だと思います。なのでその勇気の手助けをさせてください」

 

「────」

 

 ────玲志郎は、爽やかイケメンに憧れていた。

 生まれ変わったらどんな人間になりたいかと聞かれれば、爽やかイケメンになりたいと思うくらいには憧れを抱いていた。

 

 

 そして街雄鳴造は、まさしく玲志郎の抱く理想の爽やかイケメンそのものであった。

 

 

 ……もし玲志郎が女であったり、男色であったならば、間違いなく恋に落ちていただろう。

 

 できることなら自身も彼のような爽やかイケメンになりたかった。しかし体型はもちろん、性根も歪んだ自分がそのようになれるわけがない……そう諦めていた。

 

 だが、自身の理想の体現を目の当たりにした。自身が好きになった女性を惚れさせるような理想の体現者が。

 

(なりたい……彼のような爽やかイケメンに……! でも俺なんかがなれるわけが……でも、今のままじゃ……!)

 

 愚かな勘違い、勝手に敗れた恋心、苛む罪悪感、そして憧れに対する嫉妬と圧倒的な劣等感、それらが玲志郎を苛み続ける中で、何か一つでもいいから希望が欲しかった。

 

 

「────貴方のようになるには、どうしたらいいんですか……!?」

 

 

 気付けば、玲志郎は街雄に対してそのような問いかけを投げていた。

 

 本当であれば、自身の現状を全て吐露してしまいたい。けれど、初対面の他人、しかも自身の理想を体現する男に自身の弱みを告白するのは、自栄心や嫉妬心から避けたが、それでも自身の理想に近付くためのヒントを目の前の男から手に入れたかった。

 

 それに対して、そのような問いかけを投げられた街雄はその言葉から玲志郎の真意を読み取っていた。

 

 

(成程、つまり彼は────────────筋肉を鍛え上げたいという事か……)

 

 

 ────読み取れていなかった。

 

 

 そもそも街雄自身、自分の事を別段爽やかイケメンだとは自覚していない。他人が羨むだろう自身が持つ特徴としてまず思い浮かんだのは、この鍛え上げられた筋肉であった。

 故に街雄としてその結論に至るのは当然の帰結であり、だからこそ男への問いかけに対する返答もまたこうなるのは自明であった。

 

「もちろん、トレーニングです!」

「と、トレーニング……!?」

「はい! 身体を鍛えれば、貴方も僕のように(素晴らしい筋肉に)なれますよ!」

「つ、つまり筋トレすれば、貴方みたいに(爽やかイケメンに)なれるんですか……!?」

「もちろんです。僕も最初からこうだったわけではありません。弛まぬ努力の積み重ねこそ、理想(の肉体)へ至る重要な一歩なんです」

「で、でも俺は(性根が)腐ってるし……」

「貴方(の筋肉)は決して腐ったりはしていません。ただ、少し衰えてしまっているだけなんです。トレーニングをすれば、時間はかかりますがきっと(筋肉が)身に付きます」

「トレーニングで(誠実さも)身に付くんですか……!?」

「はい! トレーニングは自分を裏切りませんからね!」

 

 話の食い違いは進んでいく。が、誰もそれに気付いていないので止める者もいない。

 しかしそれでも、街雄の言葉は玲志郎の心に深く染み込んでいった。

 

 玲志郎は決意した────ちゃんと自信を持てるような自分になったら、今度はちゃんと正面から彼女に声を掛けよう。

 

 玲志郎は決意した────ストーカーなんて最低な行為じゃなくて、たとえフラれたとしてもいいから正々堂々告白をしよう。

 

 決意した玲志郎は、涙を流して膝から崩れ落ちながら、こう口にした。

 

「入会、します……!!」

「はい! 一緒に頑張りましょう!!」

 

 こうして、シルバーマンジムに新たな会員が誕生したのだった。

 

 

 ●=●  ●=●  ●=●

 

 

 それから、玲志郎のジム生活が始まった。

 

「いいですよ。5……6……7……その調子です」

「む、無理ぃ!? もうむりぃ!?」

「自分を信じて! あと一回! 10! よぅしOK! よく頑張りました!」

 

 誰かに認めてもらう。褒めてもらう。

 単純な事ではあるが、この近年かけられた覚えのない言葉に玲志郎の意欲は湧き出てきた。

 

「全然、出来なかった……やっぱり俺は屑だぁ……」

「そんな事ないです。最初から誰もができるわけじゃないんですから。一緒に頑張っていきましょう」

「街雄さん……! 俺、頑張ります……!」

「あ、でも無理は禁物ですよ。身体を壊したら元も子もありませんからね」

 

 例え規定回数ができなかったとしても叱られることはなかった。それよりも身体を大切にするようにと労わってくれた。

 出来ない事は悪い事じゃない。悪いのはただそこで終わってしまう事なのだと玲志郎は今さらながら理解した。

 

「2、9ぅ……!……3、0……ッ!!」

「はいOK! すごいですよ長狭さん! 前よりも出来る回数が増えたじゃないですか!」

「ま……街雄さん、とか……ジム、の人の……おかげ、ですよ……」

「いえ、これは長狭さんが頑張ってきた証拠です! この調子で頑張っていきましょう!」

「こちらこそ……お願い、します」

 

 湧きだした意欲は厳しいトレーニングを続けるための原動力となり、成果が目に見えて現れる事は更なる原動力へとなった。

 いつしか自分が変わるための苦行ではなくなり、筋トレ自体が楽しくなっていった。

 

「そんじゃ、いってきます」

「玲志郎、今日もジムに行くの?」

「いや、今日はバイト。日雇いのだけど。このままじゃダメだと思って」

「そう……頑張りなさい」

 

 最初ジムに通うと伝えた時、疑いの目を向けていた両親も日ごとに変わっていく玲志郎の姿を見て、両親も目に見えて安堵していた。

 冷えていくだけだった家族仲も、少しずつ改善されていった。

 

 

 そして、月日は流れた────

 

 

 ●=●  ●=●  ●=●

 

 

「かつてやりたい事もなく親に迷惑かけながら家に籠っていた私が、こうして外に出て社会復帰の一歩を踏み出せているのも、シルバーマンジムがあってこそです。特に街雄トレーナーは私の恩師といっても過言ではないですね。感謝してもしきれません」

 

 ────ジムに通われる前の写真を拝見しましたが、大分変わられましたよね。正直驚きました。失礼ですけどちょっと暗そうな太めの男性がこんな爽やかなイケメンになるとは。

 

「ははは、イケメンかどうかはともかく、見た目が変わった事については確かにそうですね。でも外見の変化よりも精神的な余裕ができた事の方が自分としては驚いています。誰かへの嫉妬や劣等感の塊で誰かと比べてはイラついたりへこんだりしていた自分が、違っていてもそれはそれでいいやって思えるようになって……まるで脂肪と一緒に心の負の面もなくなったみたいです(笑)」

 

 ────成程(笑)。以前は無職で実家で部屋に籠る生活をされていたと伺っていますが、そちらでも何か変化があったりしたんですか?

 

「はい。ジムに通い始めてから少しして日雇いのバイトに行くようになりました。当初はジムの会員費を稼ぐため渋々でしたが、当時両親は驚いていましたね。今は顧客としてだけでなく、アルバイトとしてシルバーマンジムで働かせていただいています。裏方で会員の方と接する事が少ないとはいえ覚えることも多く大変な事も多いですが、逆に会員のためにこんな所まで気を遣ってくれていたのかと感謝の念が絶えませんね」

 

 ────先程精神的に余裕ができたと仰っていましたが、心持ちが変わった頃で何か目標ができたり?

 

「ええ、あくまで個人的な目標なんですが、私を変えてくれたシルバーマンジムに何か恩返しができないかと思うようになりまして、そのためにシルバーマンジムに正式に就職したいという夢も持てました。まあトレーナーを目指すか、あるいは会社経営のための一助を担うか、方向性はまだはっきりと定まってないんですけど、とりあえずジムのトレーナーの方々のご厚意もあってトレーナーに関する勉強も始めました。ああ、もちろん勉強をしているからといって、就労経験も身体に関する知識もまだまだ足りていない私が目標を達成する事はとても困難な道のりだというのは理解しています。ですが、『夢を持っている』。それだけで生きていくモチベーションが変わるのだと実際に体感していますよ」

 

 ────では最後に伝えたい事がありましたらお願いします。

 

「私はトレーニングによって変われた。今では人生が充実しています。もし夢や目標もなく人生が苦痛だという方がいれば一度トレーニングで身体を鍛えることをお勧めしたいです。それがきっと何かのきっかけになると私は信じています」

 

 ────今日はありがとうございました。

 

 

 ────シルバーマンジム首括支部会員 長狭玲志郎────

 

 

 

「あれ? 何見てるの皆?」

「あ、立花先生! 見て見て! これなんだけどさ!」

「シルバーマンジムの公式HPに載ってるコラム記事ですよ。ジム利用者の生の声を紹介して皆に知ってもらうのが目的みたいですね」

「へー、シルバーマンジムってこんなこともやってるのね……あらこの人カッコイイじゃない」

「でしょ! しかもこの人ここのジムの人みたいでさー」

「え、そうなの? ……彼女とかいるのかしら」

「トーンがマジですね先生」

「言うほどカッコイイかしら? ほら、見える所だけでも前腕筋に上腕筋の辺りとかも少し鍛え方が甘いような……」

「いや筋肉基準だけで考えんなよ」

「これくらいがちょうどいいんじゃない」

「確か恋愛に関して書いてあったような……あ、あったわ。『恋愛よりも今は筋トレが楽しくて……筋肉が恋人みたいなものですかね』ですって」

「筋肉に負けた……!?」

 

 

 ────立花里美。自分の与り知らぬ間に、自分に惚れていた自分好みの男を筋肉に寝取られる。

 




長狭玲志郎(ナガサレイシロウ)… 引きこもり系ストーカーから筋トレ好きの爽やかイケメンに劇的ビフォーアフターした主人公。名前の由来は『流される意志』。大学卒業まで教育課程に流され、百合亞リコへの溢れる想いに流され、街雄への憧れに流され、筋トレに目覚めた自分の意思に流されて、結局ヒロインだった立花先生へ告白するという決意を忘れた不届き者。ちなみにマッチョにはまだなれていないためモブマッチョたちの中には混ざれない。

立花里美… ヒロイン、だったはず。本人の知らない間に自分を好きになってくれた好みの男を筋肉に寝取られていた悲劇(笑)のヒロイン。筋肉に男を寝取られたヒロインとか前代未聞では……? なおストーカーされていた事には全く気付いていなかった。すまない……丁度いい落ちがなかったんや、すまない。

街雄鳴造… ヒーロー。爽やかイケメンで主人公を真人間に変えたまさしくヒーロー。シルバーマンジムのアルバイトを主人公に紹介してくれたり、シルバーマンジムへの正規雇用を目指す主人公のためにトレーナーの知識を指導してくれたりと主人公は世話になりっぱなしのまさに恩師。

受付嬢… モブ。不審者の主人公に一人で対処するのが怖くて街雄さんを呼んできた、ある意味主人公の恩人。ここで街雄さんではなく警備員を呼ばれていたら主人公の人生が別の方向に変わっていた。爽やかイケメンにジョブチェンジした主人公をいいなと思って狙っている……という設定が頭に浮かんだが、受付嬢自体の描写がほぼないのでゴミ箱にシュートされた。


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