愛和創造シンフォギア・ビルド   作:幻在

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切「ついにアタシたちも!」
調「名前、開放・・・!」
慧「おめでとう調、切歌」
シ「さてこれでF.I.S全員の名前が出たが・・・」
マ「首謀者は私ではあるんだけどQueen's of musicで起きた騒ぎの中、仮面ライダービルドである桐生戦兎は、どう対処しようか迷っていた」
翼「一方現場の風鳴翼は、生中継という視線の檻に囚われ、天羽々斬を纏えないでいた」
戦「その状況を打開する為、今、桐生戦兎は動くのだった!」
切「さてあらすじ紹介は終わったデスね」
一同「え?」
調「先生・・・覚悟・・・!」
戦「え?なんでお前らそんな殺意マシマシなの!?」
切「あの名前の恨み、忘れた覚えはないデス!」
調「農具って何?確かに稲刈りには役立つけど・・・」
マ「そういえば私の事もよくも『ただの やらしい マリア』略して『タヤマ』って呼んでくれたわねぇ・・・・」
戦「いやだってあれ以外呼び方ないだろ」
マ「せめて『黒グニール』のままにしなさいよ!」マリア・カデン粒子砲
戦「うぉぁぁぁあ!?」鋼のムーンサルト!
調「ビルド死すべし慈悲は無い!」ひき肉コンボ
戦「うぎゃぁぁああ!?」輝きのデストロイヤー!
切「今までの恨みぃぃい!!」金木犀の剣(千本桜)
戦「それ違う作品のや―――ひぃぃい!?」未確認ジャングルハンター!
慧「ついでにお前も・・・」
シ「待て。お前はまだライダーに変身していないんだからそれではネタバレになる」
響「あ、ああ・・・」
ク「はあ・・・じゃあ、波瀾起こりまくってる第二四話をどうぞ」
作「今回も丸一話分デス」
万「そんなに書いてて大丈夫なのかよ?」
作「大丈夫、自分のスタイルは書き溜めだから」サムズアップ
万「あっそう・・・」


その胸の想いは正義か偽善か

黒いガングニールを纏った、マリア・カデンツァヴナ・イヴ。

その存在は、その場にいる翼や戦兎だけでなく、二課の面子全員を驚かせた。

『我ら武装組織『フィーネ』は、各国政府に対して要求する』

マリアが、全世界へ向けて報道される中継に向けて告げる。

「そうだな・・・差し当たっては、国土の割譲を求めようか?」

「馬鹿な・・・・」

その行動に、翼は呆然と立ちすくむ。

「何考えてやがんだ・・・」

『もしも二十四時間以内に、こちらの要求が果たされない場合は、各国の首都機能がノイズによって不全となるだろう』

マリアの言葉に、戦兎は訝し気に睨みつける。

「はい・・・はい・・・人質がいるために下手には動けませんが・・・はい、分かりました・・・状況の変化次第、即時対応します・・・」

二課本部との連絡をするセレナ。

「どうだ?」

「仮面ライダーなら顔バレはありません。こちらの状況判断で動くようにとのことです。中継については、緒川さんが・・・」

「分かった」

戦兎はポケットからラビットフルボトルとタンクフルボトルを取り出す。

後は向こうのタイミング次第だ。

「一体どこまでが本気なのか・・・」

『私が王道を敷き、私たちが住まうための楽土だ。素晴らしいとは思わないか?』

ラビットフルボトルの効果で強化された聴覚で、ステージ上の会話は、マイクを使われなくとも分かる。

(だけどなんで国土の割譲だ?いくらなんでも現実的じゃねえだろ。アイドル大統領とでも呼べばいいのかこのウスラトンカチ!)

「戦兎先生、意外に苛立ってます?」

「ああ、こんなふざけた状況で何もできないという事に苛立ってるよくそったれ」

未来の言葉に、戦兎はぶっきらぼうにそう答える。

「何を意図しての騙りか知らぬが・・・」

翼がその手のマイクを握り締める。

「私が騙りだと?」

その言葉にマリアはマイクを使わずに応じる。

「そうだ!ガングニールのシンフォギアは、貴様のような輩に纏えるものではないと覚えろ!」

そう叫び、翼は、聖詠を唄い出す。

「な!?ちょっと待て!」

それを聞いて戦兎は慌ててボトルをスロットに入れようとする。

 

「―――Imyuteus amenohaba―――っ!?」

 

しかし、その聖詠が唐突に途切れる。

「ん?・・・緒川か!?」

おそらく緒川が連絡を入れて止めたのだろう。

確かに、今の状況で天羽々斬を纏えば、全世界に彼女がシンフォギア装者だとバレてしまう。

その状況は芳しくない。

「確かめたらどう?私の言った事が騙りなのかどうか」

マリアが挑発的に尋ねる。

しかし、翼は応じず。それに対してマリアは不敵に笑って見せる。

「なら―――」

そうして彼女の次の行動はこれだった。

『会場にいるオーディエンスたちを開放する!ノイズたちに手出しはさせない・・・速やかにお引き取り願おうか!』

「ハア!?」

これには流石の戦兎も驚く。

「一体何が・・・」

「まあ、どちらにしろこちらにとっては都合がいい。お前たちはこれに乗じて会場から出るんだ」

「戦兎先生は?」

「なに、動けないお姫様を助けにいくさ」

戦兎は不敵に笑って見せる。

それに未来とセレナは頷く。

「分かりました」

「先生、どうかお気をつけて」

そのまま二人は、板場たち三人を連れて会場を出る。

 

 

 

その一方で―――

『何が狙いですか?』

マリアの通信機に、一人の女性の声が入る。

『こちらの優位を放棄するなど、筋書には無かったはずです。説明してもらえますか?』

その厳しい口調に、マリアは答える。

「このステージの主役は私・・・人質なんて、私の趣味じゃないわ」

『死に汚れる事を恐れないで』

強い口調で、相手が言う。

しばしの沈黙――――

『・・・ふう、調と切歌、そして慧介を向かわせています。作戦目的をはき違えない範囲でおやりなさい』

「了解、マム。ありがとう」

その言葉を最後に、マムと呼んだ女との通信を終える。

 

 

 

 

避難は、順調に進んでいた。

 

 

「んじゃ、翼が戦えるようにするための準備はそっちに任せた」

『ええ。そちらも、時間稼ぎをお願いします』

「分かった。ま、仕留めてやってもいいんだが・・・そう簡単には行かなそうだな」

『ハハ・・・では、そちらは任せましたよ』

「ああ。頼んだ」

そうして緒川との通信を切る戦兎。

「そんじゃあ、行きますか!」

両手のボトルを振る。そして、周囲にありとあらゆる数式を浮かばせる。

十分にボトルの成分を活性化させた所で、ベルトのスロットにボトルを差し込んだ。

 

ラビット!』『タンク!』

 

ベストマッチ!』

 

ボルテックレバーを回し、スナップライドビルダーを展開させる。

 

『Are You Ready?』

 

覚悟は、良いか?

 

そんな何百回も聞いた問いかけの答えは、既に出ている。

 

「変身!」

 

ファイティングポーズと共にそう叫び、展開されたスナップライドビルダーで形成された装甲をその身に纏う。

 

鋼のムーンサルトラビットタンク!』

 

その身に赤と青の装甲を纏い、戦兎は左足の脚力を使って、一気にステージに飛ぶ。

そのまま床を踏み砕きながら、マリアと翼の間に着地した。

そして、その複眼の奥からマリアを睨みつけた。

「―――待っていたわよ、仮面ライダー」

そしてマリアは、不敵に現れたビルドを見つめていた。

「俺の事を知っているのか?」

実は仮面ライダーの事は公表されてはいない。

理由は、フルボトルが聖遺物以上に未知のアイテムであるという事だ。そして、ライダーシステムを悪用する輩が現れないとも限らない。

この世にネビュラガスがないとはいえ、フルボトルの存在が知られればそれを奪いに来る輩が現れるかもしれない。

フルボトルは、いわば聖遺物以上のロストアイテム。そんなもの、どの国だって喉から手が出る程欲しいものだろう。

「ええ、こちらにも仮面ライダーに詳しい人がいるからね」

「なんだと・・・?」

仮面ライダーに詳しい?それはつまり、自分と同じ『世界の異物』として旧世界の記憶を持ち込めた人間だとでもいうのか?

そんな人間が、他にいるというのか。

「どうやらお前には色々と聞かないといけないようだな・・・」

ドリルクラッシャーを取り出し、それをマリアに向ける。

「そう急くな。丁度いい機会だし、()()()()()()()()()()も紹介してあげる」

「何・・・!?」

今、なんと言った。

 

こちらの仮面ライダー、と言ったのか。

 

「シン」

マリアが呼ぶ。

すると、ステージの裏側から、一人の大きな長方形のケースを背負った男が歩み出てくる。

「お前は・・・!?」

その男に、翼は目を見開く。

「知ってるのか?」

「マリア・カデンツァヴナ・イヴのマネージャーのシン・トルスタヤだ」

「マネージャー?」

ビルドはその男を見やる。男は、ビルドを見つめつつ。マリアの斜め前に立つ。

その腰には、見た事のないベルト―――

「それは・・・!?」

男はそのベルトのグリップを掴むと一度引いて、もう一度押し込んだ。

 

『Ready』

 

無機質な電子音声が鳴り、ベルトから待機音が流れ出す。

その状態で、シンはトリガーを引く。

 

「変身」

 

『Penetration Armor Type-Empty』

 

次の瞬間、シンの周囲に無数の鎧が展開され、それが彼の体に着装される。

そうして組みあがったのは一人の鎧戦士。

顔面はv字のバイザーで覆われ、全身を黒い装甲で覆い、どこかスリムで無機質なデザインのボディ。

戦兎(ビルド)の見た事のないベルト。そして、それによって現れた、謎の戦士。

「仮面ライダークライム・・・彼こそが、私たちフィーネの仮面ライダーよ」

マリアが、そう告げる。

「仮面ライダー・・・だと・・・?」

翼が、拳を握りしめ、怒りを込めた声で呟く。

「仮面ライダーは、誰かの為に戦い、守り抜き、愛と平和の為に戦う戦士だ!お前たちのような輩が軽々と名乗っていいものじゃない!!」

それは、彼の―――ビルドへの侮辱に等しい。少なくとも翼にとっては、それと同等の事だった。

「・・・・であるならば」

ふと、黒い仮面ライダー『クライム』がそう呟いた。

「何故世界から争いがなくならない?」

その言葉に、翼は言葉を詰まらせる。

しかし、その言葉にビルドが答える。

「確かに、愛と平和というのは、世界で最も弱くて、脆い言葉だ。そんな言葉で戦争はなくならないのかもしれない・・・だけど、だからこそ俺はこの力を使って争いを止める。力をもってしまったから。そして、誰かを守れる力を持っているから」

ドリルクラッシャーを掲げ、ビルドはそう高らかに言ってのける。

「桐生・・・」

「ありがとうな。そう言ってくれて嬉しかったぜ」

「・・・ああ」

ビルドの言葉に、翼は笑って答える。

「そうか・・・」

ふと、クライムが呟く。

「それがお前の信念か」

「ああ、俺はこの力を、愛と平和の為に振るう」

「であるならば―――」

クライムが、背中のケースに手を伸ばし、そこから突き出ている突起を掴み取る。

そこで、翼は一つ違和感を覚える。

(あの突起物、何かに似て・・・)

そして、それを掴み取った瞬間―――

「ッ!!剣だ!」

「ッ!?」

翼が叫び、ビルドが防御態勢に入る。

次の瞬間、掲げたドリルクラッシャーに凄まじい衝撃が迸る。

「ぬぐあ・・・!?」

「その信念、どこまで本気か試してやる」

気付けば、クライムから斬撃を振り下ろされていた。そして、その手には一本の剣。

やや曲がった形状の諸刃の刀身。それは、機械的に作られた剣。

そして、僅かに聞こえる、不快な音。

「高周波ブレードか・・・!」

「その通りだ」

剣を弾き、すかさず追撃の一撃が迫る。それをどうにか飛び退って躱すも、凄まじい連撃がビルドを襲う。

「桐生・・・!」

(あの男・・・出来る・・・!)

剣の太刀筋から見て我流だが、その冴えは翼から見てもあまりにも洗練されたものだった。

おそらく、あの装甲はライダーの身体能力に追いつくためのものに過ぎない。そして、その身を敵の攻撃から守るためのもの。

彼はその気になれば、剣だけでビルドを圧倒出来る程の実力を秘めているのだ。

「なっろぉ・・・!!」

「くっ・・・!」

ビルドが苦戦している。翼は思わず胸のペンダントを握りしめ、前に出ようとするも、そんな彼女のすぐ傍にはガングニールを纏ったマリアが立ち塞がっている。

そして、世界中が彼女を見ている。

下手に動けない。

その状況に、翼はただ悔しそうに歯を食いしばる事しか出来なかった。

 

 

 

 

その一方で、

(今は戦兎さんが足止めしてくれているとはいえ、翼さんは未だ世界中の視線に曝されている。その視線の檻から、翼さんを解き放つには・・・)

「うわっ、人がきてっぞ!」

「こっちデス!」

ふと、どこからともなく声が聞こえてきた。見上げてみれば、階段の上から三人の人影が見えた。

(まだ人が・・・?)

そう思い、緒川はそちらに向かって走り出す。

その一方で、その人影三人の方では。

「やっべえアイツこっちに来るデスよ!」

小声で他の二人にそう耳打ちするのは金髪の少女の『(あかつき)切歌(きりか)』。

「どうすんだよ!?ここで計画がおじゃんになったらマムに怒られるだけじゃすまないぞ!?」

その一方で慌てている童顔の彼らより身長の高い『涼月(りょうげつ)慧介(けいすけ)』。

「大丈夫だよ切ちゃん、慧くん。いざとなったら・・・」

そして、胸のペンダントを取り出して見せる黒髪ツインテールの少女は『月読(つくよみ)調(しらべ)』。

この三人が物陰に隠れていた。

「うぉぉ!?何それ出してんだ調!」

「穏やかに考えられないタイプデスか!?」

ちなみに『!』は出てますが小声です。

調が取り出したものを慌てて仕舞わせる。

「どうしたんですか!?」

「うぇえ!?」

が、そうこうしている間に緒川に見つかる。

「早く避難を!」

「あーえっとデスね~」

切歌がどう言い訳しようかと考えていると、慧介が作り笑いで緒川に言う。

「じ、実は彼女がトイレ行きたいって言ってまして、それでトイレ探してたんですけど色々と迷っちゃって・・・」

と、何故か緒川をじーっと見つめる調の前に立ちながら慧介はそう言い訳をする。

「そ、そうですか・・・では、用事を済ませたら、非常口までお連れしましょう」

「ああいえお構いなく!ここらでぱぱっと済ませるので・・・」

「分かりました。でも気を付けてくださいね」

緒川も緒川で急ぐ理由があったために深くは追及せず、さっさと行ってしまう。

「は、はい、そっちも・・・」

そうして緒川が完全にどこかに行った事を確認すると、慧介と切歌はそろって安堵の息を吐いた。

「ど、どうにかなった・・・」

「デス・・・」

「じ~~・・・」

「ん?どうした調?」

「私、こんな所で済ませたりしない」

「ああ・・・」

調の言い分に苦笑いを浮かべる。

「でもお前がいきなり物騒な事を言うからだぞ?」

「あれが一番最善だと思った」

「そのジェノサイド思考から少しは離れようか」

「全く、調を守るのはアタシの役目とは言え、いつもこんなんじゃ体がもたないデスよ?」

「もう少し良い教育しておけばよかったかな・・・」

「ふふ、いつもありがとう。切ちゃん、慧くん」

そうお礼を言う調。

「さて、こっちも行くとしますデスかね」

「ああ」

「うん」

そうして、二人は走り出す。

 

「―――ビルドから()()()()()()デスよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「なっろ・・・!!」

クライムという仮面ライダーは重いくも細かい斬撃と、恐ろしいまでの小回りの利く地上高機動。

まるで黒い疾風。そのスピードに対抗するには―――

「だったらコイツだ・・・!」

片手にある缶型のアイテムを振る。まるで炭酸が溢れるような音が響き、そのまま片手でプルタブパーツ型のスイッチを起動する。

そのまま元から装填されていたボトルとそれを交換した。

 

ラビットタンクスパークリング!』

 

『Are You Ready?』

 

「ビルドアップ!」

 

シュワッと弾けるラビットタンクスパークリング!イェイイェーイ!』

 

ビルド・ラビットタンクスパークリング。

泡による破裂で加速できる―――!!

「オオ!!」

「ッ!?」

加速したビルドドリルクラッシャーによる一撃を受け止めるクライム。

しばしの鍔迫り合い。しかし、すぐさま互いに弾き飛ばし、そこから二人の高速戦闘が展開される。

ステージの上で、いくつもの金属の衝突音が鳴り渡る。

「桐生・・・」

「随分と余裕ね」

「!」

マリアが話しかけてくる。

「観客は皆退去した。もう被害者が出る事はない。それでも私と戦えないというのであれば、それは貴方の保身の為」

「くっ」

「貴方は、その程度の覚悟しか出来てないのかしら?」

マリアに指摘されて、翼はただ歯噛みする事しか出来ない。

ふと、マリアが剣型のマイクを構える。

そして次の瞬間、そのマイク―――否、剣を翼に向かって突き立てる。

それを翼はどうにか逸らす。やはりシンフォギアの身体強化が効いている。

「翼・・・!」

「余所見をしている場合か!」

「ぐぅ!?」

ビルドは手助けに行くことが出来ない。

翼はマリアの放つ連撃を防ぎ続けるも、突如としてマリアがマントを翻す。

そのまま回転し、そのマントの裾を、一陣の刃の如く振るう。

それを剣で受け止めるも、予想以上の切れ味に翼は思わず体を反らして躱す。

(マントが武器になるのか・・・!?)

どうにか距離を取るも、その手の剣は折れて使えない。

それを見て、翼はそれを投げ捨て、徒手空拳のように構える。

「翼!」

そこでビルドが四コマ忍法刀と忍者フルボトルを投げる。

「すまない!」

それを受け取り、翼はその刃をマリアに向ける。

それでもなお、マリアは自分の優位は覆らないとでもいうかのように、その刃を振るう。

 

 

 

「中継されている限り、翼さんはギアを纏えない・・・!」

ヘリから見れる中継を見ながら、響はそう声を挙げる。

「どうすんだよ・・・!」

「おい!もっとスピードあがらないのか!?」

「あと十分もあれば到着よ!」

未だ何も出来ない事に、彼らはただ戦いを見る事しか出来ない。

 

 

 

 

二つの剣戟が繰り広げられる。

クライムとビルドが繰り広げる高速戦闘。ステージ全体を駆け抜けるような戦いは、まさしく苛烈の一言に尽きる。

その一方で、翼とマリアは、ギアの装着と非装着という決定的アドバンテージの差故か、ボトルによる強化をもってしても押されている一方的な展開を見せていた。

(せめて、ギアを纏えれば・・・!)

マリアの猛攻を防ぎつつ、翼は思考する。

そして、下がりながら戦っていたからか、ステージの端に辿り着き、その視界にステージの裏側へ続く通路を見つける。

(カメラの眼の外に出てしまえば!)

それを認識し、翼は左肩のマントを目隠しのように脱ぎ捨てマリアに向かって投げる。

そして、マリアの視界が遮られると同時に、翼はステージ裏に向かって走り出す。

マントを振り払い、それを見たマリアは翼に向かってその手のマイクを投げる。

それを翼は飛んで躱し、そのままステージ裏に駆け込もうとした所で、踏み出した足の靴のヒールが―――折れた。

「な・・・」

「貴方はまだ、ステージを降りる事を許されない」

一瞬の動揺。それによって許してしまった、マリアの接近。

マリアの足が迫る。

「くっ・・・」

ギリギリの所で四コマ忍法刀で防ぐも、その脚力によって、大きく蹴り飛ばされ、ステージから出てしまう。

そこには、ノイズが待ち構えていた。まるで翼に群がるようにだ。

「ッ!?勝手なことを!」

それを見て、マリアは驚き、翼はそのまま落ちていく。

(決別だ・・・歌女であった私に・・・)

その状況を見て、翼は、諦めた。

そして、落ちる中、翼は叫ぶ。

「聴くが良い!防人の歌を!!」

 

 

 

「おらぁあ!!」

その一方でビルドはホークガトリンガーを乱射していた。

その弾丸の嵐を、クライムは自ら突進。そして、一切スピードを衰えさせず、迫り来る弾丸を全て叩き落していた。

「なんだと!?」

「ハアッ!!」

下段から刃が迫り、それを間一髪で躱す。しかし、返す刃は躱しきれず、その身に一太刀受ける。

「うぐっ・・・」

「セェイッ!!」

そしてすかさず、もう一度斬撃を喰らい、弾き飛ばされる。

「があっ!?」

飛ばされて床を転がる。

(つ、強い・・・!?)

想像以上の強さに、ビルドは戦慄する。

おそらく、システムの優位なら、こちらの方が上だ。だが、その差を一気に埋める程の戦闘技術が、彼にはあるのだ。

(一体どうやったらこんな強さを・・・!?)

ふと、ビルドの視界に見覚えのあるものが映る。

「あ・・・!?」

それは、フルボトルだ。それも二本。

「やべえ・・・!」

ビルドが取りに行こうとする前に、クライムがそれを拾う。

「・・・狼と虎か・・・」

そう呟いたクライムは、その二本のフルボトルをしまった。

「それをどうするつもりだ・・・!?」

「簡単な話だ」

クライムがビルドの問いかけに答える。

「使う」

そして、すぐにビルドに斬りかかった。

 

 

 

 

そして、翼が落ちていく最中――――突如として映像が切れ『NO SIGNAL』と表示される。

 

「ええ!?なんで消えちゃうんだよぉ!」

その瞬間を、響たちは見ていた。響は驚いてテレビの故障かなんかとテレビに齧りつく。

「現場からの中継が切断された?」

友里が、携帯端末を見て、そう呟いた。

「いや待て!?映像があったから、翼は変身出来なかったんだよな?」

「って事はつまり・・・?」

「ええ」

「え?え?」

響だけは唯一分かっておらず、他の者たちは、不敵な笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

そして、翼が―――歌を唄う

 

 

「―――Imyuteus amenohabakiri tron(羽撃きは鋭く、風切る如く)―――」

 

 

光が迸り、その身に蒼き鋼の装甲を纏う。

 

シンフォギア『天羽々斬』の起動である。

 

シンフォギアを纏い、非装着という弱点を克服した今、風鳴翼に恐れるものは何もない。

自らノイズの集団を駆け巡り、その一陣の刃を振るう。

会場を埋め尽くしていたノイズの集団を、その手の刃で駆逐し尽くしていく。

「中継が遮断された・・・!?」

そして、マリアは今起きている事態に驚いていた。

翼がシンフォギアを纏うためには世間の視線を断つ必要がある。

だからこそ、その優位性のままに、翼を追い詰めようとしていたが、それが遮断された事によって、翼は身軽に刃を振るう事が出来る。

 

 

そして、映像を管理している施設に、緒川はいた。

「シンフォギア装者だと、世界中に知られて、アーティスト活動が出来なくなってしまうなんて、風鳴翼のマネージャーとして、許せる筈がありません・・・!」

息を挙げて、緒川はそう言った。

 

 

 

そうして、全てのノイズを殲滅、再びステージの上に立つ。

刀の切っ先を向け、翼はマリアと対峙する。

その翼をマリアは笑いながら見つめる。

「いざ、推して参る!」

そう叫んだ直後、一際すさまじい衝撃が鳴り響き、二つの影が二人の側に降り立つ。

「ハア・・・ハア・・・」

一方は息を挙げて呼吸をするビルド。

「・・・・」

もう一方は何気に平然としているクライム。

「大丈夫か?」

「ああ・・・くっそ、意外に強いぞアイツ」

翼の言葉に、ビルドはそう答える。

「シン、どう?」

「意外に粘ってくる。ハザードレベルにそれ程差はない筈だが・・・」

一方のマリアとクライムは若干の優位を感じてもいない。

「やはり、マリアが楽屋に来た時にはいなかったが、こうしてみると明らかに手練れだという事が分かる・・・」

「お前から見てもそう思うか・・・」

並び立ち、二人は武器を構える。

「どうにかしてシンの方を抑えてくれ。そうすればこの剣をもって奴を仕留める」

「分かった。頼んだぞ」

互いに頷き合う。

「作戦会議は終わったかしら?」

ふとマリアが挑発的に話しかけてくる。

「心配するな。今終わった所だ!」

翼が飛び出す。

その翼の前にクライムが立ちはだかる。しかし、そこへビルドがクライムを横から押し出す。

「ぐっ!?」

「お前の相手は俺だ!」

ビルドがクライムを抑える。その間に、翼はマリアを仕留めにかかる。

翼の振るう剣の連撃を躱すマリア。そして、攻撃の瞬間に生まれた隙にマントの一撃を叩き込んで下がらせる。

随分と使い勝手がいい。何より、翼の刃に叩きつけられた一撃に、翼は思い知る。

「このガングニールは、本物!?」

「ようやくお墨をつけてもらった。そう、これが私のガングニール!なにものをも貫き通す、無双の一振り!!」

マリアが仕掛ける。

マリアのマントから繰り出される一撃一撃を、翼はその技量をもって凌ぐ。

「だからとて、私が引き下がる道理など、ありはしない!!」

その一方で、ビルドとクライムの戦いも熾烈を極めていた。

クライムの放つ連撃、それをビルドは泡の破裂による瞬間加速で躱していた。

そして、一気にクライムの間合いから離れ、ハリネズミフルボトルを装填したドリルクラッシャー・ガンモードとホークガトリンガーの射撃を放つ。

それをクライムは正面から叩き伏せる。

「どうなってんだよお前のその剣技は!?」

「忍びの如く走り、立ち塞がるものをありとあらゆる手段でねじ伏せているだけだ」

状況的に、ビルドが不利なのは変わりがなかった。

(くそ!ボトルを奪われたのもそうだが、こいつたぶん素でかなり強い・・・おそらくライダーシステムはコイツの身体能力のただの延長に過ぎねえ!)

振りかざされる刃、それを両手の武器で防ぎ、さらに距離を取って撃ちまくる。

それでもクライムは止まらない。

「くっそ!」

「遅い!」

クライムの斬撃がビルドの右側から迫る。

「オッラァ!」

それに対して、ビルドは右腕のブレード『Rスパークリングブレード』を叩きつけて弾き飛ばす。

弾き飛ばした所で地面に片足をつける。そこでもう一度泡を炸裂させてクライムに接近する。

その手にはすでにブレードモードにしたドリルクラッシャーと持ち替えた四コマ忍法刀を持っていた。

そのまま剣戟に持ち込む。

クライムの放つ高速斬撃に対して、ビルドは四コマ忍法刀を盾にするように使い、ドリルクラッシャーで攻撃を仕掛けるような戦法を取る。

激しい打ち合いが繰り広げられる。

その最中だった。

『マリア、シン、お聞きなさい』

マムからの通信である。

『フォニックゲインは、現在二二パーセント付近をマークしてします』

「なっ・・・」

その言葉にクライムは思わず動揺する。

「ッ!オラァ!!」

そこへすかさずビルドが斬り込み、また、同様に隙を見せたマリアに翼が仕掛ける。

「私を相手に気を取られるとは!」

取り出した二対の剣、その柄を連結させて双身刀にするや、掌の上で高速回転。その切っ先に炎を燃え上がらせ、まるで輪入道のように振るう。

そして、足のブースターによって床を滑り、一気にマリアに突っ込み、その回転と炎を纏ったまま、マリアを一刀の下斬り伏せる。

 

風輪火斬

 

それと同時に、ビルドの連撃がクライムに叩き込まれる。

「オォォオオ!!」

右足、左足、左の斬撃、右の斬撃、そして、交差させる二刀同時の振り下ろし。

「ぐぅあ・・・!?」

吹き飛ばされ、床を転がるクライム。

「話はベッドで聞かせてもらう!」

そしてその間に、翼は止めを刺すべくマリアに二撃目を叩き込もうとする。

だが、そこでビルドは気付く。

「翼、後ろだ!」

「ッ!?」

背後から、無数の円盤。それらが翼に向かって襲い掛かる。

翼は思わず立ち止まり、その円盤を双身刀をもって防ぐ。

 

 

「―――首を傾げて 指からするり 落ちてく愛をみたの」

 

 

α式 百輪廻

 

 

歌が、響き渡る。

それは静謐にして過激な歌。

薄紅と黒のシンフォギアを纏った少女の頭部に取り付けられたギアから放たれる無限軌道の鋸。

その少女の背後から、今度はダークグリーンと黒のシンフォギアを纏った少女が鎌を携えて飛び上がる。

そしてその刃を複数に分けて、構える。

「行くデス」

そして、その刃を鎌を振るうのと同時に放つ。

 

切・呪リeッTぉ

 

放たれる二の刃。それが弧を描いて鋸の乱射を防いでいる翼に迫る。

その刃が翼に直撃する、その寸前、ビルドが掻っ攫って直撃を避ける。

「あっぶな!?女の子のくせしてなんか相当バイオレンスな武器を持ってるんだが!?」

「私が知るか!?」

そして、二人の装者がマリアと翼、ビルドの間に立つ。

「危機一髪」

「まさに間一髪だったデスよ!」

装者が、三人。

「面倒くさい事になったな・・・」

「装者が三人・・・!?」

ビルドと翼は武器を構えつつそう呟く。

「調と切歌に救われなくても、貴方程度に遅れをとる私ではないんだけどね」

「人の事は言えないが、十分に遅れを取っていただろう」

「う、うるさい!貴方は黙ってて!」

「はいはい、夫婦喧嘩はそこまでにして」

「夫婦じゃない!」

「まだって付け加えてればさらに弄れたのに・・・」

「殴るわよ流石に!」

「ご、ゴメンナサイデース!」

何やら目の前でショートコント染みた会話が繰り広げられているが、状況が芳しくないのは事実。

 

―――の、ように見える。

 

「貴様のような奴はそうやって・・・」

翼が、言い放つ。

「見下ろしてばかりだから勝機を見落とす!」

「・・・ッ!?上か!」

見上げれば、既に二人の装者がヘリから飛び降りていた。響とクリスである。

「土砂降りな!十億連発!」

 

BILLION MAIDEN

 

クリスから放たれるガトリング砲の嵐。

それを調と切歌は左右に避け、マリアはマントを硬質化させて弾丸の雨を防ぐ。そしてクライムは、なんと雨に逆らって飛び上がってきていた。

弾丸も全て自らの剣で一発の漏れなく叩き落している。

そのまま、落下してくるクリスに斬撃を叩き込もうとした途端、クリスが不敵に笑い、響と同時に押し合い、空中で避けると、その背後からクローズイチイバルがブラストシューターの銃口を向けていた。

「クローズッ!?」

放たれる弾丸、予想外な死角からの攻撃。それをクライムはどうにか防ぐも、威力故か飛び上がる為の勢いを削がれる。

 

『Set Up!Blast Blade!』

 

そして叩きつけられる光刃。

「テメェの相手は俺だ!」

「くっ・・・」

そのまま空中で乱撃。

その間に響が足のガジェットを炸裂させて地面に向かって加速、その拳をマリアに向かって叩きつける。

それをギリギリの所で躱されるも、すぐさま翼とビルドを掻っ攫って距離を取る。

クローズの二刀の斬撃がクライムを下にしたまま斬撃を重ねる。

しかし、ここでクライムが振り下ろされたクローズの左手首を掴み、そのまま引っ張る。

それと同時に、何故かその手の高周波ブレードを()()()

その刃はそのまま空中を舞い、クローズとクライムの高さが同じになった瞬間―――

 

()()()()()()()ブレードでクローズを叩き落した。

 

「ぐおあ!?」

そのままビルドたちの所へ落下する。

「龍我!」

「いってて・・・大丈夫だ。ギリ防いだ」

どうにかクローズが起き上がった所で、彼らは対峙する。

フィーネと名乗った武装組織の装者と仮面ライダー。

特機部二の保有する仮面ライダーと装者。

その二勢力がここに集結した。

「やめようよこんな戦い!」

そこで響が説得を始めた。

「今日出会った私たちが争う理由なんてないよ!」

しかし、その言葉が、調の琴線に触れる。

「ッ・・・そんな綺麗事を・・・」

「え・・・」

響にはどういう事か分からない。

「綺麗事で戦う奴の言う事なんか、信じられるものかデス!」

切歌が、刃を向けてそう叫ぶ。

「そんな、話せば分かり合えるよ!戦う必要なんて―――」

「―――偽善者」

調の怒りの籠った言葉が響く。

「この世には、貴方のような偽善者が多すぎる・・・!!」

敵が、動く。

「・・・・偽善、か」

ふと、ビルドが呟く。

 

「―――だからそんな世界は伐り刻んであげましょう!!」

 

調の歌が鳴り渡り、放たれた無限軌道の鋸の機関銃弾が放たれる。

茫然と立ち尽くす響に向かって放たれたそれを、ビルドがホークガトリンガーをもって迎え撃つ。

 

FULL BULLET!』

 

無数に放たれる鷹の弾丸。

それらが狙い違わず調の放った刃を叩き落す。

「ぼさっとするな!」

「え・・・あ・・・」

クリスとクローズが両側に出て、彼女たちに向かって銃撃を放つ。

「偽善だがどうだか知らねえけどな!俺たちはそもそも愛と平和の為に戦ってんだ!それが偽善だとか言わせねえっての!」

足のホイールを回転させて、クローズが前に出る。

他の者たちもそれぞれの相手に応戦する。

その最中、調が響を集中的に攻撃してきていた。その頭のアームドギアを展開し、巨大な無限軌道の鋸を高速回転させて響を切り刻むべく振るう。

「わ、私は、困ってる皆を助けたいだけで、だから―――」

「それこそが偽善・・・!」

調の、なおも厳しい言葉が響に突き付けられる。

「痛みをしらない貴方に、誰かの為になんて言ってほしくない!!」

 

γ式 卍火車

 

今度放たれたのは巨大な円盤鋸。

「あ・・・」

それが、響に向かって迫る。

その円盤鋸が、響に叩きつけられようとした、その瞬間―――

 

輝きのデストロイヤーゴリラモンド!イェイ・・・!』

 

ビルドの放った剛腕が、その二つの円盤鋸砕く。

「「ッ!?」」

それに、二人は驚き、すかさずゴリラモンドフォームに変身したビルドが調に迫る。

「くぅ!」

叩きつけられた拳の重さに、調は顔を歪める。

そのまま大きく後退させられるも、ビルドは追撃しない。

代わりに、彼女に問いかけた。

「・・・偽善って言ったな」

「・・・?」

「確かに、お前らから見たら俺たちのやってる事は偽善かもしれない・・・だけど、俺は本気でこの力を誰かの為に使おうって思ってる。その想いに嘘はない」

「ッ・・・人の痛みも知らないで・・・!」

「分かるさ。痛いくらいに」

調の言葉を遮って、ビルドは言う。

「誰かを失う痛みも、誰かに裏切られる痛みも、誰かを救えなかった痛みも、誰かを死なせてしまった痛みも、全部分かる・・・」

自分の手を握りしめて、ビルドは調に語り掛ける。

「貴方は・・・」

その言葉に、調は、思わずたじろぐ。

「お前は、一体なんの為に戦ってるんだ」

「え・・・」

「俺は、愛と平和の為に戦っている。そんなもの、叶う訳がないというかもしれないけど、俺は本気でそれを貫き通すつもりだ。何故なら俺は、その為だけに科学者になったんだから」

戦兎は、調に歩み寄る。

「もし、出来る事なら―――俺にお前たちを、救う事は出来ないのか?」

ビルドは、調の間合いで、そう語り掛ける。

「・・・・」

調は、そのビルドの言葉にしばし茫然とする。そのうち俯いて、体を震わせる。

「・・・・う」

そして――――

「うるさい!!」

調が鋸を展開してビルドを攻撃する。それをビルドは距離を取って躱す。

「貴方に・・・私たちの何が分かるというの!!」

頭のギアから、再び円盤型鋸を無数に放つ。

ビルドは、それを地面を叩いて鉄板を叩き起こし、それを防ぐ。

するとすかさず、その鉄板がいきなり宝石へと変わる。

「え・・・」

 

ボルテックフィニッシュ!!』

 

砕かれた宝石の板。

そこから放たれる、宝石の散弾銃。

それを調は慌てて巨大鋸で防ぐも、威力が思った以上に強く、鋸が砕かれて宝石が炸裂する。

「きゃぁあぁああ!?」

吹き飛ばされて、しかし直撃は幸いにもなく、どうにか持ち直す。

そして視界の先に、右手を突き出すビルドを見た。

「だから―――」

ビルドは、調に向かって言い放つ。

「知ろうとするんだ!」

「・・・ッ」

ビルドの、真っ直ぐな言葉に、調は言葉を失っていた。

 

 

「ぐおあ!?」

一方のクローズはクライム相手に苦戦していた。

クローズイチイバルはその攻撃力と機動力の高さから防御力に乏しい弱点を抱えている。

クライムの動きはクローズイチイバルの高機動に対応しており、苦戦を強いられていた。

「くっそ!」

「無駄だ。お前では俺には勝てない」

クライムの冷酷な一言。

「そうかよ・・・だったら、こいつだ!」

クローズは、その懐からスクラッシュドライバーを取り出す。

そう、掲げた瞬間だった―――。

 

何者かがクローズの背後からスクラッシュドライバーを掠め取った。

 

「と、取った!取れたぞ!!」

それは、一人の少年だった。

「・・・ん?え?・・・ああ!?」

数秒遅れてクローズはスクラッシュドライバーを奪われた事に気付き慌てだす。

「スクラッシュドライバーを取られたぁ!?」

「はあ!?何やってんだよ!?」

クローズ渾身の失態。それにクリスが怒鳴る。

「慧介、よくやった」

「何、こんな事じゃまだまだだ!」

慧介と呼ばれた少年は得意げに言って見せる。

そして、それはビルドたちの方にも聞こえてきた。

「スクラッシュドライバー・・・奪えたんだ」

「なんだと・・・!?」

ビルドが、明らかに動揺しているのが分かった。

それは、奪われた事に対してではない。

「くそ!」

ビルドは思わず走り出す。しかし、その前に切歌が立ちはだかる。

「させないデスよ!!」

鎌の一撃がビルドを襲う。その一撃をビルドは左腕で受け止める。宝石において最高級の硬さを誇るダイヤモンド並みの防御能力を持つフローレスガードアームは、切歌の刃を通さない。

「そこをどけ!あれは、あのドライバーは―――!」

そこで、ステージ中央で、光が迸った。

そして、見るも大きなノイズが出現する。

「わぁぁあ・・・・何あのでっかいイボイボぉ!?」

「なんか醜いなアレ!?」

「・・・増殖分裂タイプ・・・」

「こんなの使うなんて、聞いてないデスよ!」

「でも逆に都合がいい。目的の一部は達成している」

そこでクライムらフィーネ側に連絡が入る。

『五人とも引きなさい。当初の目的の半分は達成しているのです。今はこれで良しとしましょう』

「・・・分かったわ」

マリアが動く。その手のアームドパーツを変形させ、それを一振りの槍へと変形させる。

「アームドギアを温存していただと!?」

すかさず、マリアが槍を出現した巨大ノイズに向ける。

その槍の穂先から粒子の砲撃が放たれ、ノイズを穿った。

 

HORIZON♰SPEAR

 

貫かれたノイズは、そのまま爆発四散する。

「おいおい、自分らで出したノイズだろ!?」

何故そのような行動を取るのか。

四散したノイズは、その体を無数にばら撒く。そして、その最中で彼らは逃げていく。

「ここで撤退だと!?」

「おいコラ俺のベルト返せ!!」

クローズが指差しながら叫ぶも彼らは止まらず。

「くそっ・・・すぐに追いかけないと、あのベルトは・・・!!」

ビルドが彼らを追いかけようとした時、ビルドは気付く。

散らばったノイズが、いきなり増殖してきたのだ。

「ノイズが・・・」

「なんだこれ!?増えてんのか!?」

どんどん大きくなっていくノイズ。

まるで急速な細胞分裂をしているかのような。

「ハア!!」

翼が斬撃をそのノイズに叩きつけるも、炭化したものより増殖したものの方が明らかに多かった。

「コイツの特性は、増殖分裂・・・!」

「つまりどんだけ倒しても増えちまうって事か!?どうすんだよ!?」

「このままじゃそのうちここから溢れだすぞ!」

「くっ・・・!」

ビルドが歯噛みする中、緒川から連絡が入る。

『皆さん聞こえますか!?会場のすぐ外には、避難したばかりの観客たちがいます!そのノイズをここから出す訳には・・・・』

「アイツらを追いかけられないってことか・・・くそっ!」

思わず悪態を吐くビルド。

「すぐに取り返さなくちゃいけないってのに・・・!」

「観客・・・皆が・・・!」

クローズは自分の失態を恥じ、響はこのライブに来ていた友達の事を思う。

「迂闊な攻撃では、いたずらに増殖と分裂を促進させるだけ」

「どうすりゃいいんだよ!」

「せめてナックルさえ使えれば・・・!」

クローズマグマの大火力ならあのノイズの増殖を抑えつつ焼き尽くす事が出来る。

だが、マグマナックルは故障で使えない。

であるならば―――

「・・・絶唱」

響が、そう呟く。

「絶唱です!」

「まさか、アレを使う気か?」

「あのコンビネーションは未完成なんだぞ!?」

クリスの言葉に、響は頷く。

「確かに、アイツの増殖を上回る一撃を放てるあれならどうにかなるかもしれないが、それでもお前への負荷はすさまじいぞ?」

「それでも、今やらなくて、いつやるんですか!?」

ビルドの言葉に、響はそう言い返す。

それに、ビルドは黙り込み、そして頭を掻いて、折れた。

「あー分かったわかった。じゃあ俺と万丈でどうにか抑えっから、任せたぞ」

「ありがとうございます!」

ビルドに礼を言い、響と翼、クリスは互いに頷き合う。

「万丈、やるぞ」

「その、戦兎・・・」

「ドライバーを取られた事については後だ。今は、この気色悪い奴をやるぞ」

「・・・ああ」

ビルドの言葉に、クローズは申し訳なさそうに答える。

「俺たちは散らばった奴を片端から片付けていく。絶唱が終わるまで邪魔をさせなければいいから無理して倒そうとするなよ」

「おう!って迂闊に攻撃したらやばいんじゃ・・・」

「細かく刻めばちゃんと炭になるから。ほら、行くぞ!」

そう言ってビルドは左腕を増殖していくノイズに掲げる。

するとそのノイズは一瞬にしてダイヤへと変わり、それを右腕の剛腕で砕く。するとそのダイヤは一瞬にして炭となって消える。

その一方でクローズは両手の剣をとにかく我武者羅に振って三人に近付こうとするノイズを片付けていく。

そして、その間に、装者三人が、響を中心にして手を繋いだ。

「行きます!『S2CA・トライバースト』!」

そして、彼女たちは、歌う。

 

「「「―――Gatrandis babel ziggurat edenal―――」」」

 

S2CA―――正式名称『Superb Song Combination Arts』―――『超絶合唱技』。

 

「「「―――Emustolronzen fine el baral zizzl―――」」」

 

『トライバースト』装者三人の絶唱を重ね合わせ、協奏曲として調律・制御するS2CAの最大の大技。

 

「「「―――Gatrandis babel ziggurat edenal―――」」」

 

『手を繋ぐこと』を己がアームドギアとし、力を束ねる事に特化した響にしか出来ない必殺技。

 

「「「―――Emustolronzen fine el zizzl―――」」」

 

 

しかし、その必殺技には、一つ、欠点があった――――

 

 

 

「――――セット!ハーモニクス!」

 

 

 

ハーモニクス―――弦楽器の弦を正しく、絶妙な位置にて軽く押さえる事で発生する、超高音の名を冠し、その絶大な力を発動する。

三人の周囲を、絶唱の三段重ねによって引き起こされた虹色の光を纏った衝撃波が吹き荒れ、増殖しようとしていた増殖型ノイズを一気に吹き飛ばす。

その強大なエネルギーは、響一人だけから放たれている。

 

そう、S2CAの欠点は、その負荷が全て、立花響に掛けられるという事。

 

「ぐ・・ぅ・・・あぁぁあああぁぁあああぁぁあぁぁああああ!!!!」

 

体中を苛む痛み。それに、響は絶叫を挙げて悶え苦しむ。

「耐えろ、立花!」

「もう少しだ!」

翼とクリスが響に呼びかける。

「・・・ん、おい!あれ!」

クローズが指差す先。そこには、分裂増殖型のノイズがいた場所に、おそらくその核と思われるノイズが佇んでいた。

その体は・・・やっぱり醜い。

いつの間にかラビットタンクフォームになっていたビルドは、それを見て叫ぶ。

「今だ!」

「レディ!」

響のギアに変化が生じ、まるでエネルギーを放出するための準備とでもいうように割れる。

そして、両手のギアを合体させて、巨大なガントレットとして形成する。その瞬間、虹色の光が響に収束していく。

「フルボトルバスター!!」

そしてビルドもまた動く。

ビルドドライバーから巨大な剣『フルボトルバスター』を取り出し、そのグリップ部分とブレード部分を降り、スロットを露わにする。

そしてそこに、三本のボトルを装填する。

 

ラビット!』『ゴリラ!』『クジラ!』

 

『ミラクルマッチでーす!』

 

それを、そのノイズに向かって、バスターキャノンモードで構える。

「行け!タイミングはこっちで合わせる!」

「お願いします!」

全ての光が響に収束した瞬間、響は飛ぶ。

「ぶちかませ!」

クリスの叫びを背中に受け、響は飛ぶ。

「これが私たちの―――」

それと同時に、ビルドがフルボトルバスターの引き金を引いた。

 

ミラクルマッチブレイク!!!』

 

放たれたエネルギー弾が、響がノイズに拳を叩きつけるのと同時に炸裂する。

 

 

「――――絶唱だぁぁぁぁぁぁあああ!!」

 

 

そして、超速回転してエネルギーを増幅させた一撃が、ノイズに叩き込まれ、そして、天に虹色の竜巻となって吹き荒れた。

その虹色の光は、星の輝く夜空に天高く昇って行った。

 

 

 

そして、その様子を、『フィーネ』の装者たちは見ていた。

「なんデスか、あのトンデモは・・・!?」

「綺麗・・・」

「あんなものがあるなんて・・・」

「こんな化け物もまた、私たちの戦う相手・・・」

「・・・」

隣で歯噛みするマリアを見やり、クライムは、もう一度光の竜巻が吹き荒れるステージの方を見た。

「・・・仮面ライダービルド・・・桐生戦兎」

 

『俺は、その為に科学者になったんだ』

 

ビルドの言葉に、クライムは今一度考える。

(このドライバーと俺の技術をもってすれば、計算上は俺はビルドを圧倒出来る筈だった。だが、実際はスパークリングでこちらがやや優勢だったとは言え、ほぼ互角・・・)

受けた刃の一撃を思い出し、クライムは―――シンは自分と戦兎との差を考えた。

(考えられるとすれば、ハザードレベルの差・・・か・・・)

一体どれほどの差があるのか。その時のシンには、思いもよらなかった。

 

 

 

 

 

 

そしてまた、『COMPLETE』という文字を前に、マムと呼ばれた女性はほくそ笑んだ。

「夜明けの光ね」

「・・・」

その一方で、隣の男は顎に手を当てて考えていた。

(何故圧倒出来なかった・・・当時の桐生戦兎のハザードレベルは多めに見積もっても『4.5』の筈・・・なのに何故、我がライダーシステムで圧倒出来なかった・・・?)

装着者の戦闘力は申し分ない。ライダーシステムも葛城のライダーシステムを超えるものを作った。しかし、それを埋める程の何かの要素が、予想していた結果と違う結果を生み出した。

(まだまだ改良が必要という事か・・・・)

しかし男は、取り乱すようなことはしなかった。

ただ、改良の余地あり、と改めて認識しただけだった。

 

 

 

 

 

 

 

そして、ノイズが全て消し飛んだライブ会場にて――――

「・・・」

戦兎は、敵が消えていった空を見上げていた。

 

『痛みを知らない貴方に、誰かの為になんて言ってほしくない!』

 

「・・・本当に、知らない訳じゃないんだよなぁ・・・」

そう呟いて、戦兎は、その場で膝をついて空を仰ぎ見ている響を見た。

「無事か!?立花!」

「キュルー!」

そんな響に、翼たちが駆け寄る。

振り返った響は、笑っていても、その双眸からは涙を流していた。

「へいき・・へっちゃらです・・・」

涙を拭い、響はなんでもないとでも言うように言った。

だけど、その様子から見ても明らかに大丈夫じゃない。

「へっちゃらなもんか!?痛むのか?まさか、絶唱の負荷を中和しきれなくて・・・」

そんなクリスの憶測を、響は大きく、何かを振り払うかのように横に振った。

「・・・私のしてる事って、偽善なのかな・・・?」

そして、胸の中にある想いを吐露する。今にも張り裂けそうな程苦しい、その胸の内を。

「胸が痛くなることだって・・・知ってるのに・・・・う・・ひっぐ・・・」

響の小さな嗚咽が、鳴り渡る。

「お前・・・」

そんな響に、戦兎が前に立って屈みこんで話しかける。

「見返りを求めたら、それは正義とは言わないぞ」

「ひぐ・・・え・・・?」

「お前は、誰かを助ける時、何をしてほしいかなんて考えるのか?」

戦兎は、真っ直ぐに、涙に濡れた響の瞳を見つめた。

「ちが・・います・・・・」

その問いかけに、響は迷いなく答えた。

「だったら、それでいいじゃねえか」

響の頭を撫でて、戦兎は笑って言う。

「お前のその想いはお前だけのものだ。他の誰でもない『立花響』って奴の想いだ。その想いに、嘘なんてないだろ?」

「・・・・」

戦兎が、自分の信念である『愛と平和』を貫き通すように。

「お前の手は、誰かと手を繋ぎ、そして想いを届かせるものだろ?だったら、お前の胸の内の想いを届かせて見せろ。それが、立花響の『(ちから)』だろ?」

元気づけるように、戦兎は、そう響に言った。

「・・・戦兎先生」

響は、俯いて、戦兎に尋ねる。

「・・・私の願いは、この拳は、この想いは・・・あの子に届くでしょうか・・・?」

少女のものにしては、随分と硬くなってしまった掌を見て、響をそう尋ねる。

その質問に、戦兎はしようがないとでもいうように息を吐いて、言う。

「届くかどうかじゃない。届かせるだろ?」

「・・・・そう、ですよね」

顔を挙げた響の顔は、いつも通りの笑顔になっていた。

「この想いは、届かせるものですよね」

「ああ」

どうやら元気を取り戻したようだ。そう、クリス、翼、龍我は思った。

「ああ、それともう一つ」

だが、戦兎は指を一本立てて響の前に出す。

「辛い時は吐き出しても良いんだぞ。俺には、あんまりそういうのは出来なかったからさ」

「―――っ」

そう言って、響の額を小突く。

その小突きが、意外な決定打となって、響の顔を歪め―――

 

 

 

 

 

 

戦兎の胸の中で泣く響の頭を、そっと撫でる戦兎を、遠巻きに眺める、一人の男がいた。

その手には、奇抜な形をした杖。

 

その男の口が、嘲笑うかのような笑みに歪んだ。




次回、愛和創造シンフォギア・ビルドは!?

行動を起こさない武装組織『フィーネ』

「特に何も考えてねえよ」

学校で忙しい戦兎に代わり、情報を集める龍我と緒川。

「なんなの・・・アイツ・・・!!」

ビルドの言葉が頭から離れない調たち。

(やはり『ネフィリム』とは・・・人の身に過ぎた―――)

敵の首領、ナスターシャが語る、ネフィリムとは。

「ここで間違いないんだよな?」

そして突き止めた敵の本拠地にて―――

「変身!」

次回『旧世界からのサイエンティスト』

『潰れるゥ!流れるゥ!!溢れ出るゥッ!!!』

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