愛和創造シンフォギア・ビルド   作:幻在

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キャ「天才物理学者である桐生戦兎とガングニール装者である立花響及びS.O.N.G.所属の仮面ライダーと装者は、この俺キャロル・マールス・ディーンハイムとデイブレイク社と名乗る謎の組織によって、敗北を喫した」
エル「今は思えばあれがアルカノイズの初金星でしたよね」
キャ「ふん、所詮は烏合の衆。ただの雑魚に過ぎない」
エル「流石キャロル・・・生み出した張本人が故のディスり」
麗人「それにしても、私としては桐生戦兎たちの扱うライダーシステムが、歌でもなければ錬金術でもない『科学』の分野というものに驚いているのだが・・・」
詐欺師「そうよねぇ。錬金術より劣る筈の科学技術で、あれほどの戦闘力を引き出すことの出来るライダーシステムは、確かに脅威よね」
けん玉「末恐ろしワケだ」
錬金術師「世界融合の影響で、何やら世界の科学力がおかしなことになっていたからな。おかしいことではない」
俺様「あんたは相変わらずだな」
武人「ムッハッハ!それでこそ我が主!」
キャ「まだ登場先な癖に出てくるな!はあ、ともかく愛和創造シンフォギア・ビルド、その第五話を見ろ!」
エル「書き溜めがひと段落したためにかなり作者は燃え尽き症候群となって真っ白になってます」


銀色のフェアリー

錬金術師『キャロル・マールス・ディーンハイム』の拠点―――『チフォージュ・シャトー』内部にて。

「いっきまーす」

ガリィ・トゥマーンが、目の前にいるまるで何かで固められているかの如く動かない赤髪の縦ロールの少女の唇に、自分の唇を重ねた。

ちなみに、そこにはガリィとその少女の他、レイア・ダラーヒム、ファラ・スユーフ、そしてキャロルもいる。

そうして、ガリィと少女の『キス』がしばらく続くと、突如として少女の体が命を吹き込まれたかの如く動き出し、その場にへたり込んだ。

まるでブリキの人形の如く、がくがくと動き、やがて疲れたかのように俯く。

「はぅう・・・・」

それが、少女『ミカ・ジャウカーン』の覚醒だったりする。

「最大戦力たるミカの『思い出』を集めるのは、存外時間が掛かったようだな」

玉座にて、キャロルがガリィに向かってそう言う。

「いやですよぉ、これでも頑張ったんですよぅ?」

まるでおどけるような仕草。

「なるべく目立たずにぃ、事を進めるのは大変だったんですからぁ」

その割には、かなりの人間が干からびているわけだが。

「まあ問題なかろう。これで、自動人形(オートスコアラー)は全機起動。計画を次の階梯に進める事ができる」

そう、彼女たちは人間ではない。

その身は人と同じ肉ではなく無機物。まるで人のようにふるまうそれは、しかし、決して同じ人間と呼べるものではない。

「あー・・・・あうぁ~・・・」

そんな中で、ミカだけはまるでやる気なさげにそこ場で俯く。

「どうした、ミカ?」

キャロルが尋ねる。

「お腹が空いて、動けないゾ」

回答はこれ。ようは空腹である。

先ほどの接吻による『思い出』の受け渡しではまだ足りないらしい。

「ガリィ」

「ああ、はいはい。ガリィのお仕事ですよねぇ」

ミカはこの中でも最大の戦闘力を誇る存在。それがまともに動かないのであればそれが存在している意味がない。

「・・・ついでにもう一仕事、こなしてくるといい」

そんなガリィに、キャロルは命令を重なる。とはいっても、重要事項はミカへの燃料補給だが。

「そういえばマスター」

そんな中で、ガリィは自らの主に申告する。

「エルフナインは奴らに保護されたようですよ?」

その報告にキャロルは意に介さず応える。

「把握している」

 

 

 

 

 

 

 

どこかの豪邸にて。

「ほう、ビルドとタスクには通用しなかったと?」

一人の男が、目の前で跪く金髪の女性にそう尋ねる。

その金髪の女性は、先日ビルドを襲ったフラガラッハの所有者である。

「はい。どういうわけか、ラビットラビットフォームに変身したビルドとタスクには一切の効果がなく、仕留め損ないました」

「それは厄介だな」

男が、グラスに注がれたワインを一杯飲む。

「アハ、それはそれで面白そうじゃん」

そんな一方で、部屋の隅に置かれていたソファに座っていたジャードが子供のようにはしゃぐ。

「ジャード、少しは危機感を持ったらどうだ?」

「大丈夫だよ~、俺負けないし」

ローブを羽織った男―――先日クローズを襲った男である―――がジャードを咎めるも、ジャードは意に介さず。

そんな中で、ワインを飲んでいた男は状況を冷静に分析する。

「世界を分解するというキャロルの目的に、仮面ライダーは最大の障害足りえる。いくら彼女のオートスコアラーが優秀といえど、仮面ライダーの持つ潜在能力の不確定さは彼女の計画に何よりの影響を及ぼしかねない要素だ・・・だから、早急に彼らを消さねばならない」

「存じております」

男の言葉に、女性は跪いたまま答える。

「ふむ・・・ジーナ、君は桐生戦兎がライダーシステムに対アルカノイズ用の加工を施すまでにどれくらいかかると思う」

男が跪く女性『ジーナ・スカベンジャー』にそう尋ねる。

「エルフナイン、セレナ・カデンツァヴナ・イヴもいることを考えますと、数日はかかるものかと・・・」

「そうだな・・・よし、こうしよう」

男は立ち上がって、指を一つ立てる。

「最優先に殺すべきは桐生戦兎、彼さえいなくなれば、現状のライダーシステム、そしてシンフォギアシステムの全てを理解している存在を消す事ができる。そうなれば、これ以上のライダーシステムの強化は見込めないだろう」

くつくつと男が笑う。

「やることは決まったな」

ローブの男がそう呟く。

「ケイド、君は先日のダメージが残っているだろう。ジャード、君も今回は休みたまえ」

「了解した」

「えー」

ローブの男、『ケイド・アルカルネン』がうなずき、ジャードが不満げに呟く。

「代わりに、ミストとグレゴリ、そしてジャイロを桐生戦兎の元へ向かわせろ。何、学院で暴れたところで、どうせ()()()()()()

爽やかな笑みから吐き出される反吐が出るような言葉。

それが、彼らを率いる『リカルド・ダスト・クレイザー』という男だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

S.O.N.G本部にある、個室の一つにて。

「ボクはキャロルに命じられるまま、巨大装置の一部の建造に携わっていました」

戦兎を筆頭としたシンフォギア装者、仮面ライダー一同が、先日保護した子供、エルフナインの言葉に耳を傾けていた。

「ある時アクセスしたデータベースより、この装置が世界をバラバラに解剖するものだと知ってしまい、目論見を阻止するために逃げ出してきたのです」

「世界をバラバラにたぁ穏やかじゃないなぁ」

「ぞっとしない話だ」

クリスとシンの言葉に、エルフナインはうなずく。

「それを可能とするのが錬金術です」

「あれか?こう、手をパンってやってドン!てやる奴」

「あ、それとは違います」

「あ、そう・・・」

若干、龍我がボケるもエルフナインにばっさり切られて意気消沈する。

「ノイズのレシピを元に作られたアルカノイズを見ればわかるように、シンフォギアを分解する、万物を分解する力は既にあり、その力を世界規模に拡大するのが、建造途中の巨大装置『チフォージュ・シャトー』になります」

「チフォージュ・・・ジャンヌ・ダルクの部下だった、青髭ジル・ド・レが子供を殺害した城の名前か」

「なんすかそのとんでもなくやばい城は・・・」

「装置の建造に携わっていたという事は、君もまた、錬金術師なのか?」

「はい」

翼の問いかけに、エルフナインはうなずく。

「ですが、キャロルのように全ての知識や能力を統括しているのではなく、限定した目的の為に()()()()に過ぎません」

ふと、気になるワードがエルフナインの口から出てくる。

「作られた?」

「装置の建造に必要な最低限の錬金知識をインストールされただけなのです」

はて、一体どういう事なのか。

「インストールと言ったわね?」

「必要な情報を、脳に転送複写する事です」

「そんな事まで可能なのか・・・」

「はい・・・ですが、残念ながら、僕にインストールされた知識に、計画の詳細はありません・・・ですが」

エルフナインは、確信をもって、その事実を告げる。

「世界解剖の装置『チフォージュ・シャトー』が完成間近だという事はわかります」

即ち、世界が滅亡の危機にあるという事を示していた。

「お願いします!力を貸してください!僕は、ドヴェルグ・ダインの遺産をもってここまで来たのです!」

「ドヴェルグ・ダインの遺産・・・?」

「ダイン・・・?」

戦兎にとっては何かひっかかる名だ。

「・・・アルカノイズに、錬金術師キャロルの力に対抗しうる聖遺物―――魔剣『ダインスレイヴ』の欠片です」

それを聞いた瞬間、戦兎の中で、一つのピースがはまるような音がした。

 

 

 

 

 

「―――んで、こいつがロンドンで天羽々斬を壊したアルカノイズ?」

「ああ、我ながら上手く書けたと思う」

そこに書かれているのは、子供の絵とでも言うべき、ただの武士の絵が描かれているだけだった。

「アバンギャルドが過ぎるだろ!?現代美術の方面でも世界進出するつもりか!?」

「あのー」

そんな中で、慧介が差し出がましく挙手をする。

「よかったら、俺が描いてみましょうか?そのアルカノイズの絵」

「はあ?お前、絵なんか描けるのかよ?」

「ダイジョーブッ!!何を隠そう、俺は似顔絵の達人だぁああ!!」

「お前、適当に言ってないか?」

と、試しにロンドンで見たファラの絵を描かせてみたところ。

「出来上がり!」

(上手い!?でもなんか似てない・・・)

どこぞの岸辺〇伴のような画風の絵が出来上がってしまった。

「慧介は意外に多趣味なんだ。料理や大工作業はもちろんピッキングだってできるぞ」

「いやそれはできちゃいけないだろ!?」

「ちなみに教えたのは俺だ」

「教えちゃダメだろ!?」

なんともどうでも良いショートコントが繰り広げられているが、問題はそこではない。

「問題は、アルカノイズを使役する錬金術師と戦えるシンフォギア装者が、ただの二人。そして、仮面ライダーも実質二人だという事実よ」

現在、慧介のスクラッシュドライバーは、他のドライバーの改良の為回収され、クローズはチャージになれないだけで戦えない事はなく、ローグは政府長官という立場の為、あまり大きくは動けず、まだボトルの成分の復活も出来ていない他のライダーは戦えない。

結果、分解される可能性はあれど戦えるのは響とセレナと龍我、そして、真正面から戦っても大丈夫なのが戦兎、といった具合である。

しかし、その戦兎も戦いに出れるのか怪しいといった状況。

「戦わずに分かり合う事は、出来ないのでしょうか・・・」

そんな中で、響はそう提案を促す。

「・・・逃げてんのか?」

そんな響を一海は罵倒する。

「逃げているつもりじゃありません!」

「いいや逃げてるな。お前は力の責任から逃げてる」

しかし、響の反論を真っ向から一海は否定する。

「誰かを傷つける?そんなの当たり前だ。力を持つ以上戦う事から俺たちは逃げられねえ。だけど、その戦いから逃げちまったら、守りたいものを守れねえぞ」

「でも、適合して、ガングニールを自分の力だと実感して以来、この人助けの力で、誰かを傷つける事が、すごく嫌なんです」

「はっ」

そう、辛そうに言う響の言葉を、一海は鼻で嘲笑う。

「人助けの力で誰かを傷つける事が嫌だぁ?そりゃそうだろうよ。だけどな、お前はいつだって、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「―――ッ!?」

その言葉に、響は息を飲む。

「いいか。守るってのは、同時に何かと戦う時でもあるんだよ。その戦う事から逃げちまったらお前―――なんにも守れなくなるぞ」

 

 

 

 

 

 

 

そんな一海の言葉が、響の胸についぞ引っかかったままだった。

(私は・・・そんなつもりじゃないのに・・・)

そう、心の中で呟いた時だった。

「―――私的には、ついてるとかついてないとかは、あんまり関係ないと思うんだけど」

「えぇぇええ!?」

と、未来の発言に、何故かそこで響が驚いてしまう。

「ビッキー、何をそんなに?」

と、後ろにいる安藤がそう首を傾げる。

「えあ、だって、何がどこについてるのかななんてそんな・・・」

と、響が狼狽えている理由は、一海の件とは別、エルフナインの体に事についてである。

エルフナインの体に、実は『性別などない』のである。

無性と言ってもいい。とにかく、彼女か彼か分からない(便宜上、彼女と呼ばせてもらう事にする)体であり、本人いわく『自分はただのホムンクルス、故に怪しくはない』という事なのだが、その体の構造の時点で怪しさ満点なのは致し方ない。

・・・前々から思っていたが、妙に話が噛み合っていない気がする。

とまあそれは置いておいて、現在の状況だ。

「ついてるついてない、『確率』のお話です。今日の授業の」

寺島がそう説明する。つまりはそういう事。

「まぁたぼんやりしてたんでしょ?」

板場の言葉に、響は恥ずかし気に空笑いをする。

「あ・・・アッハハ~、そうだったよね」

「この頃ずっとそんな感じ」

「・・・ごめん、色々あってさ・・・」

未来の不機嫌そうな様子に、響はつい自分が情けなくなる。

本当に、何をしているのか。

本当に情けなく思えてくる。

と、そんな思考をしていると、突如として背後から寺島の悲鳴が上がる。

それに気付いて、思わず振り返ってみればそこには――――

 

色素が抜け、干からび真っ白になった人々が、死人のように倒れていた。

 

その光景に、彼らは茫然とし、唯一響だけが、その存在に気付く。

「聖杯に思い出は満たされて、生贄の少女が現れる」

どこかの伝記の一説か、そのような言葉を述べるは青のオートスコアラー、ガリィ・トゥマーン。

「キャロルちゃんの仲間・・・だよね?」

「そして貴方の戦うべき敵」

響の問いかけに、ガリィは答える。そして、その首を人形のように捻って響たちを見た。

「違うよ!私は人助けがしたいんだ!戦いたくなんかない」

そんなガリィの言葉を、響は精一杯をもって否定する。

だが、その言葉に、彼女らしい自信はなかった。

「チッ」

そんな響に、ガリィは舌打ちを一つ。

そして木陰から出て、その手にもって投げるのは―――アルカノイズのテレポートジェム。

地面に落ちて砕けたそれらは、すぐさま口寄せの方陣を出現させ、そこから何体ものアルカノイズを出現させる。

それを見た響以外の少女たちの反応は―――当然、悲鳴である。

「貴方みたいなメンドクさいのを戦わせる方法はよぉく知ってるの」

まさしく、他者を危険に晒し、無理矢理にでも戦わせる、王道な悪役の手口。

「こいつ、性格わる!」

「あたしたちの状況も良くないって!」

「このままじゃ・・・」

間違いなく、アルカノイズに殺される。

「頭の中のお花畑を踏みにじってあげる」

可愛い顔してなんと下衆いことを言ってのけるのか。

性根が腐っているとはこの事か。

そんなガリィが指を鳴らせばノイズはたちまちに彼女たちに迫る。

そんな状況で、響はどうするのか。

正解は―――もちろん、戦う。

相手が『人』でないのならば、彼女は躊躇いなくその力を振るうだろう。

そうして、胸のギアペンダントを取り出し、聖詠を口にしようとする。

 

―――だが、響の開いた口からは、何も出ず。

 

「・・・響?」

その異変に、未来は気付く。

「―――っげほ、っごほっ!」

咽る響。激しく咳き込み、喉の調子を生理現象のままに整える。

そして―――呟く。

「・・・・歌えない」

「・・・・え」

その言葉に意味を、未来はすぐには理解できなかった。

「いい加減観念しなよ」

ガリィは苛立ちをつのらせてそう呟く。しかし―――それは事実だった。

「・・・聖詠が、胸に浮かばない・・・」

それは、まさしく―――シンフォギア装者として、致命的過ぎる状態。

 

「ガングニールが、答えてくれないんだ・・・!」

 

 

 

立花響―――ガングニール、使用不能。

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――アルカノイズが出た!?」

リディアンの校門前で、戦兎がそう声を挙げる。

『響ちゃんたちのすぐ傍、そこでノイズの出現パターンを検知したわ!』

「まさか響を直接狙ってくるとはな・・・」

友里からの連絡を受け、戦兎は歯噛みする。

(敵の狙いはなんだ・・・仮面ライダーの命といいシンフォギア装者といい、何が目的なのかさっぱりだ。たかだかシンフォギア破壊するだけ破壊して、それで一体何を・・・)

だが、考えていても仕方がない。

今は響の元へ行かなければ。

そう思い、戦兎は響の通学路の方へと走り出そうとする、その寸前で、戦兎の前に、何者かが立ち塞がる。

それも三人。

ニットキャップを被った柄の悪そうな男に、ゴリラ以上の巨躯の男、そしてライダースーツに身を包んだ女。

「桐生戦兎、悪いがお前にはここで死んでもらう!」

そして、ニットキャップの柄の悪そうな男が、その見た目通りの声音でそう言ってくる。

「・・・デイブレイク社か」

エルフナインから聞いた、キャロルとは別に、一方的な協力関係を結んでいる謎の秘密結社。

その目的は不明ながら、どうやら、キャロルと同じく世界を分解する事を目的としているらしく、その構成員の数は不明との事。

だが、エルフナイン曰く、錬金術などの異端技術やオーバーテクノロジーを多く扱っていると聞いている。

「へえ、どうやらあたしらの事はすでに聞いているようだねえ」

ライダースーツの女が、口元を隠しながらそう含み笑いで言ってくる。

「そこをどいてくれ」

「お前話聞いてなかったのか?お前にはここで死んでもらうって言ってんだよ!」

次の瞬間、ニットキャップの男が高く跳躍する。

その高さは、とてもではないが人のそれを超えていた。

「ッ!?」

「死ね!ギガントプレス!!」

次の瞬間、男の右腕が巨大化。よく見ると右腕は篭手(ガントレット)でおおわれており、それが巨大化して戦兎を押しつぶさんばかりに襲い掛かってきていた。

「くっ」

それを戦兎は大きく後ろに飛んで躱す。

「やる気満々ってところか」

すかさず、戦兎の足元に鉄鞭の一撃が降り注ぐ。

どうにかこうにか躱し、戦兎は腰にビルドドライバーを装着する。

「さあジャイロ、行ってきなさい!」

すかさず、女が巨漢の体をその鉄鞭で打つ。

「――ゥ・ォ・ォオォォオオオ!!」

鼓膜が潰れそうなほどの咆哮が轟いたかと思えば、男の体が肥大化、さらにその体を巨大化させて来ていた服を破ってその体の下から筋骨隆々となった肉体を曝け出し、戦兎に向かって突進してきた。

その迫力故か、僅かにその体が大きく見えるような錯覚を感じるが、いずれにしても直撃すれば一溜りもない。

それを躱そうとした戦兎だが、

「きゃあ!」

「ッ!?」

悲鳴が聞こえ、振り返ってみればそこにはリディアンの制服を着た一人の女生徒が転んで倒れていた。

そう、ここは学校の校門の前。

それも帰りの下校時間の為、多くの生徒がこの街道を歩いている。

「くそっ!」

それを見た戦兎のとる行動は決まっている。

次の瞬間、ジャイロと呼ばれた男の体がリディアンの塀に激突する。

まるでウエハースのように砕け散る学校の塀。

ジャイロは、それを砕いたところで止まり、何やら手ごたえがない事に首を傾げる。

「ったく、もう少し場所考えて暴れろってんだ」

声がする方向、ジャイロが向いた先、そこには塀の上で先ほどの女生徒を横抱きして佇む戦兎の姿があった。

「大丈夫か?」

「は、はい・・・」

塀から降りて、そう女生徒に声をかける。安否を確認すると、その女生徒を下ろし、逃げるように促し、改めて敵に向き合う。

「やり合うってなら相手してやる。言っておくが、他の奴らに手を出すようなら、容赦なくお前らを倒す」

 

ラビットタンクスパークリング!』

 

ラビットタンクスパークリングをビルドドライバーに装填する戦兎。

「倒すぅ?おいおい俺たちをそこらにいる雑魚と一緒にしてもらっちゃあ困るぜ?」

「ふふふ、意外に見る目ないのねぇ。殺されるのは貴方だというのに」

ニットキャップの男とライダースーツの女が嘲笑う。

しかし、それに戦兎は意に介さず、ボルテックレバーを回し、ビルダーをすぐさま形成する。

「そうか?俺からすればお前たちは――――」

完全に展開されたビルダーに囲まれている中、戦兎はふっと笑う。

「―――それほど強いようには見えないけどな」

 

『Are You Ready?』

 

「変身」

 

シュワッと弾けるラビットタンクスパークリング!イェイイェーイ!』

 

その身を、ビルド・ラビットタンクスパークリングフォームへと変え、ビルドは、彼らと対峙する。

ちなみに、塀に隠れて周囲の人間の確認もした為、戦兎の変身が誰かに見られた訳ではない。

「さあ、実験を始めようか」

ビルドは、彼らに対して、そう告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その一方で――――

ガングニールが起動できない響。

その周囲には、響他、四人を囲むアルカノイズの集団と、敵の最大戦力の一人ガリィ。

「なんで、聖詠が浮かばないんだ・・・」

ガングニールを起動できない事に茫然とする響に対し、ガリィは脳内で思考。

(ギアを纏えないこいつと戦った所で意味はない・・・こんな時は、仲良しこよしを粉と引いてみるべきか・・・?)

などと、ゲスい考えがガリィの脳裏を過った、その瞬間、

 

ダァンッ!と、力強い足音が聞こえた。

 

その足音を立てたのは―――寺島だった。

「あぁー、まどろっこしいなぁ」

そして、なんとも予想外過ぎる声音と口調で、だるそうに言葉を捲し立て始める。

その行動に、一気にその場の注目を集める。

しかし、それを意に介さず、寺島はさらに言葉を立てる。

その言動は―――不良のそれ。

「あんたと立花がどういう関係か知らないけど、だらだらやんならあたしら巻き込まないでくれる?」

「お前、こいつの仲間じゃないのか?」

豹変した寺島の態度に、ガリィは苛立ち気味にそう口にする。

「冗談!たまたま帰り道が同じだけ。―――オラ、道を開けなよ」

完全に敵を舐め切った態度。今の状況を理解していないのか、あるいは理解した上での行動なのか。

とにかく今の寺島は正気の沙汰とは思えない行動をとっていた。

それに対して、ガリィは、その言葉に顔を大きく歪め、しかし腕を振る動作でアルカノイズたちを下がらせる。

その瞬間―――寺島は安藤に向かってアイコンタクト、それにうなずいた安藤が、すぐさま未来の手を取って―――

「行くよ!」

「ああ!?」

 

―――逃走を始めた。

 

「あんたって、変な所で度胸あるわよね!?」

逃げる最中、板場が寺島に向かってそう声をあげる。

「去年の学祭もテンション違ったし!」

「さっきのお芝居!?」

「たまには私たちが、ビッキーを助けたっていいじゃない!」

安藤に手を引かれるままに未来は彼女たちの行動に驚く。

「我ながら、ナイスな作戦でした!」

寺島はこれまでになく得意気だ。

 

が、その一方で、そんな彼女たちの行動を見過ごしているように見えるガリィは―――

「――――と、見せかけた希望をここでばっさり摘み取るのよねぇ・・・!」

性悪な笑顔で、彼女たちの行き先を睨みつけ、一気にアルカノイズたちを向かわせる。

アルカノイズと通常のノイズの違いは単純にして分解構造と位相差障壁。

通常のノイズは、位相差障壁によって攻撃が通用せず、なおかつ体のどこでも触れるだけで対象を自分もろとも炭化させる事の出来る能力を持つのに対して、アルカノイズは、腕や体の一部分にのみ『分解器官』と呼ばれるありとあらゆる物体を分解、消滅させる能力を持ち、しかし位相差障壁によって存在を希薄化できない為に、通常兵器はある程度通用するも、それでも豆鉄砲程度のダメージにしかならない。

だが、その分解能力を限定する事によって、アルカノイズは何度でも対象を分解する事が可能だ。

例えるならば、一回刺すだけで死ぬミツバチをノイズとするならば、何度でも刺せるスズメバチがアルカノイズといえるだろう。

その分解器官を、丸めた状態から伸ばし、まるで鞭のようにしならせ、引きずりながら彼らは響たちに迫る。

そんな彼らを、ガリィは足元を凍らせて滑る事で追いかける。

「上げて落とせば、いい加減戦うムードにもなるんじゃないかしらぁ?」

どこまでいっても性根が腐っている。

「アニメじゃないんだからぁ!」

追いかけてくるアルカノイズたちに対して、板場がそう声を上げる。

その最中で、人型のアルカノイズの一体が、その右手の分解器官を響たちのぶつけようと振るう。

「ッ!?」

それが、一番後列を走っていた響の足元に直撃、響の靴の踵を掠め、響の靴を分解。

それに驚いた響はバランスを崩し転倒、どうにか受け身をとるも、その手からガングニールのギアペンダントが離れ、宙を舞う。

「ギアが!?」

宙を舞う、響のガングニール。それが、落ちていく先にいるのは―――

 

「―――全く、何をやってるんですか貴方は」

 

――――一人の少女が、立っていた。

 

「―――Seilien coffin airget-lamh tron(望まぬ力と寂しい笑顔)―――」

 

聖詠が響き渡り、純白の光が場を包む。

纏われるは、銀の右手。されどその手は左手にあり。

歪んだ伝承。されどそれは、確かな存在であり力。

その胸に宿るは戦いに対する哀愁。しかし同時に宿るは仲間を守る為の闘志。

 

今ここに、セレナ・リトルネッロ・ヘルカート改め、セレナ・カデンツァヴナ・イヴのアガートラームが顕現した。

 

「セレナちゃん!?」

「セレナ!?」

突然のセレナの登場、白銀のギアを纏う彼女は、落ちてきたガングニールのギアペンダントを掴み取ると、それを少し眺め、続けて響の方を見た。

果たしてその目に宿るは軽蔑か哀れみか。

しかし、今はそんな事を考えている暇はない。

セレナは、自らの纏うシンフォギアから奏でられる戦慄のままに、胸に浮かぶ歌を紡ぐ。

 

「―――誰かのためのヒカリになれるのなら…と」

 

左手から無数の短剣を引き抜き、遠隔操作。

宙を舞うそれらは某ロボットアニメのファンネルの如く動き、次々にアルカノイズを殲滅していく。

『セレナ君!』

無線から弦十郎の声が響く。

『発光する攻撃部位こそが解剖器官!気を付けて立ち回れ!』

敵陣に突っ込みながら、セレナはその声にうなずく。

無数に振るわれる銀の短剣。それらが縦横無尽に戦場を飛び交い、次々とアルカノイズを切り払っていく。

ノイズの数が減ると同時に、ガリィはさらなるアルカノイズを投入。

敵の数が増え、それでもセレナは敵の司令塔であるガリィを目指して突っ込む。

ノイズの殲滅をファンネルダガーに任せ、セレナは単身ガリィに接近。その手に短剣を握り締め、一気にガリィに突き刺すべく突進する。

そして飛び上がり、その短剣を一気にガリィに叩きつける―――が、しかし、その一撃はいとも容易く防がれる。

その理由は掲げられたガリィの両手。

その両手に冷気が集まり、氷の壁を形成していた。

(氷の壁―――!?それなら!)

すぐさま左手のギアを変形、巨大な砲身へと変形させる。

「なっ―――」

「ぶっ飛べ!」

 

HORIZON†CANON

 

放たれる熱線。それがガリィを吹き飛ばす―――かに思われたが、ガリィは寸でのところで躱しており、セレナの懐に入り込んでいた。

「しまっ―――」

「頭でも冷やせやァぁあ!!」

次の瞬間、ガリィから放たれた氷の槍がセレナを襲い、大きく弾き飛ばす。

どうにかアームドギアである短剣を地面に突き刺して踏みとどまる。

「くっ」

そして、その戦闘能力の高さに戦慄する。

「決めた。ガリィの相手はあんたよ」

ガリィが、性の悪い笑顔と共にそういい、バレリーナのような構えを取り出す。

「いっただっきまぁーす!」

次の瞬間、氷のラインが出来る度に、瞬間移動でもするが如き動きでガリィが迫る。

「なっ―――」

そして、その左手を氷の剣で固め、その短剣をセレナに―――突き刺した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、リディアンにおけるビルドの戦闘では―――

「くお!?」

鞭の攻撃をどうにか避けるビルド。

「アハハ!さっきの威勢はどうしたのかしらぁ!?」

ライダースーツの女『ミスト・ヘルガンディア』がそう高笑いをして鞭を振るう。

鞭とは、振るえばその先に行くほど威力とスピードが加速増幅する武器である。

だが、この鞭はそのアドバンテージだけでなく、まるで蛇のように狙いすました攻撃ができる為、ビルドのスパークリングの速さに追いついて攻撃を当ててきていた。

だが、威力についてはそこまで気にするほどではない。だが問題なのは、そのノックバック性能。当たれば高確率で態勢を崩す。

そこへ、他二人の超重量の攻撃だ。

「喰らいやがれェ!」

「うがぁぁあ!!」

一方は上空から、もう一方は横から襲い掛かってくる。

巨大化するガントレットと、砲弾並みの威力で突っ込んでくる肉弾。

その連携が、スパークリングのスピードをもってしても凌ぐのは至難の業という所業へと昇華していた。

スパークリングの特性は泡。泡の破裂によって、全ての身体能力を向上させ、凄まじいスピードや攻撃力を獲得している訳だが、事実ラビットラビットやタンクタンクには負ける。

(あの二つ出して敵に戦力図られるの避けてスパークリングにしたが、流石に舐め過ぎてたか!)

「くっ」

「俺たちの事をそれほど強いようには見えないって言ってたけどなぁ、それを言うならお前は聞いてたほど強くねえじゃねえか!期待外れもいいところだなぁ!」

ニットキャップの男『グレゴリ・ガウマーン』がそうビルドを嘲笑う。

だが、そんな罵倒に、ビルドは乗らずに冷静に状況を分析していた。

「そうだな・・・まあ、しばらく後手に回ってみて得られた収穫はあった」

「はあ?」

「お前らのその常人を超えた強さの理由は、肉体改造をしているからだ」

戦ってみて分かったが、この三人の異常な身体能力は、ただ鍛えただけでは絶対に手に入らないだろう。

何かしらの反則で肉体を改造していなければ不可能なほどだ。

シンであっても、ライダーシステムなしにスパークリングの動きについてこれる事は出来ない。

「はっ、それが分かったからってお前が俺たちに勝てる道理はないだろうがよぉ?」

グレゴリが言っている事は最もだ。

それが分かったからなんだというのか。

その程度の事でこの状況が覆る事はない。

「だけど、お前らの肉体改造がどういったものかは理解できる。お前が巨大化できる部位は右手のみ、そこの大男は肉体の肥大化、というよりは筋肉の増強。そして女は演算機能のついた義眼・・・そうだろ?」

その言葉に、彼らは息を飲む。

 

彼らは、それぞれ別々の形で肉体を改造している。

 

グレゴリは錬金術師。右手はとある事故で失い、それを補うための義手であり、それを自由自在にサイズを変えることが出来るのが、彼の錬金術。

そして、それを扱うために、パワー系の生物の遺伝子を体に仕込み、そしてそれを、自由自在に発現させることで、その巨大化した右手を操る事が可能。

ミストは改造人間(サイボーグ)。自らその肉体を改造した、科学技術の結晶。右目の義眼は、鞭と称したマニピュレータを操作するための演算装置であり、それを握る右手もまた機械。さらに、そのマニピュレータの重量に耐える為に、体のほとんどを機械へと改造している。

その為、彼女の体は完全に機械といっていい。

そして、ジャイロは薬品投与による肉体変化だ。その薬品投与によって脳の大部分が麻痺、まともな思考はできず、知能は調教された獣並み。

薬品による肉体改造によって彼が得たのは、ただ強靭なだけの肉体。

 

 

―――哀れという他ない。

 

 

「そんな事をして、一体なにをしたいのかわからないけどよ。お前たちの勝手な都合で、関係のない奴らまで殺すというのなら、俺はお前たちに容赦はしない」

ビルドが、ラビットタンクスパークリングをドライバーから抜く。

「容赦しない?はっ、さっきまで劣勢だった奴が何ほざいてやがんだ」

「まあ確かにそうだろうな。スパークリングは泡の破裂によって全ての身体能力を強化するフォームだが、それを全て超えられ、さらに連携で封殺されれば、何もできなくなる―――それだけだったらな」

フルフルラビットタンクボトルを取り出すなり、振り、兎が跳ねるが如き効果音が、重厚な鉄骨音に変わる。

 

―――ドンドンドン

 

そして、セレクティングキャップを捻り、タンクの柄を見せる。

 

タンク!』

 

再びボトルを折り、それをドライバーに装填する。

 

タンク(アンド)タンク!!』

 

そして、ボルテックレバーを回し、新たに七体の戦車『タンクアーマー』を呼び出す。

「ッ!?うお、なんだこいつら!?」

「く、邪魔よ!」

「うがぁあ!?」

その戦車たちがたちまちに三人を激しく攻撃する。

 

『ガタガタゴットンズッダンズダン!ガタガタゴットンズッダンズダン!』

 

その間に、ビルドはボルテックレバーを回し続け、鋳型のハザードライドビルダーを展開する。

そして、ある程度足止めをした所で戦車たちがビルドのすぐ傍の上空に飛び上がる。

 

『Are You Ready?』

 

「ビルドアップ!」

 

そしてビルドはハザードライドビルダーに挟まれ、その身を真っ黒な装甲に包んだあと、飛び上がり、その装甲を一気に身に纏う

 

『オーバーフロウッ!!』

 

鋼鉄のブルーウォリアー!!!

 

タンクタンクッ!!!

 

『ヤベェーイッ!!!ツエェーイッ!!!』

 

その身に青い装甲を装着し、ビルドの新たなフォームがその姿を現す。

パワーに特化した、ビルドのもう一つのハザードを制御する形態。

 

ビルド・タンクタンクフォーム

 

蒼き鋼を身に纏い、ビルドは、三人を睨みつける。

「さあ、反撃開始だ!」

そう叫び、ビルドは走り出す―――




次回!愛和創造シンフォギア・ビルドは!?

「へえ、全員守れたのねぇ。でも、次はどうかしらぁ?」

ガリィの猛攻を凌ぐセレナ。

「―――咆えろ、アガートラーム」

窮地に立たされたセレナが取った行動とは―――

「流石と言わざるを得ないな」

襲撃してきた敵、それらを倒したビルドの前に現れた人物とは!?

「―――我らは異端秘密結社『デイブレイク』!」


次回『穢れた世界を浄化する者たち』

「こいつが、ただ一つの戦力になる・・・」





セ「私、装着(へんしん)!」
翼「マリアが変身できない時は、セレナがギアを纏う事になっている」
マ「ちなみにギアデザインは本編アニメの私のギアの腰マントがなくなったバージョンよ。それにしてもセレナ可愛い」
セ「緒川さーん!どうですか私のギア姿どうですか」
緒「え、何故僕に・・・!?」
マ「どうせ私なんて・・・」
翼「だ、大丈夫だマリア!いつか振り向いてくれる時がくる!・・・たぶん」
マ「たぶんって何よたぶんって!?もういやぁああ!!!」
戦「マイクチェックの時間だオラァァア!!」ドアキックドーン!
緒「ここで全く違うネタをぶっこまないでくださいお願いします!」
セ「ああもう、戦兎先生のせいで感想聞けなかった・・・と言うわけで、次回も楽しみにしててください!」

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