作者はアローラの時間軸がわからないので、そこは独自解釈で同年代にしてます。あとはウルトラサン・ムーンではなく、サン・ムーンです。
『そうだ、カロスに行こう』
1人チャンピオンの玉座に座る中、いつかカントーの雑誌で見たそんなフレーズが頭によぎった。
今さっき挑戦者を退けたばかりだから、少し荒れたスタジアムを見て咄嗟に出る言葉がそんなものになるくらいには、私は追い詰められていた。
「チャンピオン、次の挑戦者がいらっしゃいました」
「分かりました。案内してください」
何度も言ってきた挑戦者を迎える台詞を思い返しながら、虚ろな目をチャンピオンとしてのものに切り替える。
「手合わせお願いします、チャンピオン!」
「アローラ地方初のチャンピオンとして! ミヅキがその挑戦、お受けします!」
初めて見る名も知らないトレーナーが繰り出してきたのはドリュウズ。じめん・はがねの複合タイプのポケモンで、物理面が強くて特殊面が弱いポケモンだ。
対して私が最初に繰り出したのは、チョッキを着てもらってる意地っ張りなバンバドロ。感じる練度からして、相手の方が早いけど耐えてくれるし、取り敢えずじしんで確定1発かな。
なんてことを、この一年戦い続けた頭が自動で瞬時に弾き出す。多分交代するけど。
アローラ地方初のポケモンリーグチャンピオンに就任してから、はや一年。案の定交代で出て来たファイアローが、いわなだれに巻き込まれ「ひんし」になるのを見ながら、そんな思いを私は巡らせていた。
◇
思えば、初代チャンピオンなんてものになったのが間違いだったのだろう。
あの時は行かなきゃと思ってたし、今まで戦って勝ってきた人の分もと思っていたけど……それが致命的な勘違いだった。もしセレビィに出会えたら、絶対に私は過去の私にやめておけと言うくらいには、チャンピオンに就任したことを後悔してる。
何せ、他の地方と違って私がなってしまったのは
まずポケモンリーグとして成立させる為の書類に『ポケモンリーグのイメージを損なわない為、最低1年間は必ずチャンピオンとして君臨してください』なんて項目があったのだ。要はリーグはその地方の最強を決める場所なのだから、そのイメージを壊さないようにしろとのことだった。
半年くらい経ってからポケモン協会に問い合わせて見たけど、支援なんてしてもらえなかった。全て自力である。みんなメタを張ってくるのに。
次に、ポケモンリーグの挑戦者の多さ。何せアローラ地方初のポケモンリーグ。島巡りを終えた人たちが、これ見よがしに殺到した。他の地方のチャンピオンの方々から聞く挑戦の割合とは、まるで桁が違う挑戦者数。その結果、半ばリーグはパンクしかけながらも、ギリギリの体制で今まで運営を続けてきた。四天王の方々、みんなのポケモン、そして私にかなりの負担を掛けて。
更に、私に回ってくる処理しなければいけない書類の多さも問題だった。博士やお母さん、四天王の方々にも手伝ってもらって判子を押すだけの物が多かったけど、バトルの合間とか寝る間を惜しんでやらなければいけないほど、その数は膨大だった。
まだまだやるべきことは終わらなかった。
チャンピオンの力を借りたいと言われて奔走した、
グズマさんが率いてたスカル団の残党への対処。
他の地方のチャンピオンの方々への顔合わせ。
他の地方のチャンピオンの方からの呼び出し。
イッシュ地方で行われる、各地方のチャンピオンが集まるチャンピオンズトーナメントのへの参戦etc……
改めて、私みたいな子供がする仕事の量じゃないと思う。最初の頃は家からリーグまでリザードンに乗せてもらってきてたけど、いつからかずっとリーグに泊まり続きで家に帰れてないし。
数少ないリーグの定休日は家に帰って愛しいお布団で寝るしかなくて、連休にはガブリアスに乗って色々なところに行くから実質休みはない。リーリエと一緒のベッドで寝ることが、唯一の癒しみたいなものだ。
◇
そんなことを考えている間に、いつのまにかバトルは終わっていた。もうそんなところまで、頭は最適化されてるしポケモンも付き合ってくれるようになっちゃったらしい。
「まだ私達の方が上でしたね。またの挑戦をお待ちしています!」
お決まりの台詞に、涙を浮かべて去っていく挑戦者。飽きる程繰り返したソレに、やはりもうなんの感情も浮かばない。
「チャンピオン、本日の営業は今のバトルで最後となります」
「分かりましたー」
司会役の人に気の抜けた返事を返して、玉座に戻って座る。ふかふかのクッションだ……疲れ切っている身体を、すぐに眠りに誘ってくる。
「報告書書かなきゃ……」
でもそんなことは言っていられない。チャンピオンとして、色々とやることが残っている。司会役の人は既に帰った。定時退社だ、ファッキン。私は残業なのに。
「はぁ……」
大きなため息を吐きながら、玉座の裏からバインダーに閉じた書類を取り出した。ここ1年ずっと見てきたような書類だ、もはや慣れ親しんだそれを書いてハンコを押す作業に移る。悲しきかな染み付いた社畜根性、体は自動で動き出す。
シンオウ地方のシロナさんが羨ましい。チャンピオンと考古学者を両立出来るなんて。あの人後片付けは出来ないらしいけど。
「会いたいなぁ、カルムくん」
手だけが動くような作業を続けながら思うのは、初めてカロス地方に行った時に出会った男の子。向こうでは世界を救った英雄とか、グランデュークとか、ポケモンだいすきクラブ名誉会員とか呼ばれている人。
そして私の好敵手であり、ポケモンについて語り合う友人であり、片思いの相手だ。
「はぁ……」
2度目の大きなため息を吐く。彼と会うことが出来るのは、大体月に一回か二回。それ以外は私が激務なこともあって、貰ったホロキャスターでも連絡を取ることもほぼ出来ない。そして出来ても、大抵はポケモンについて語り合うだけで時間は過ぎてしまう。
別にそれが嫌なわけじゃないし、寧ろ為になる話も多いから好きだ。特にパソコンを通してやる、ゲームのようなターン制のポケモンバトルとかは本当に楽しいし為になる。
ではなくて。私だって華の十代、恋の1つや2つくらいはする。ハウはなんか違うし、グラジオさんはカッコよかったけど会えないし、四天王の人達も違う。要は彼しかいないのだ。
「終わらない……」
なんて強がっても、書類の山は消えたりしない。やっぱりアレだ、チャンピオンなんてハウに譲ってしまおう。ハウならなんの役職もないし、強さも人格も十分。何回か負けてるから殿堂入りもしてるし、資格は満たしてる。
そして私は一介のトレーナーに戻るのだ。でもって告白してOKして貰えばもはや敵なし。いつか会った、子持ちのオカルトマニアのお姉さんは言っていた……さいみんじゅつを使って既成事実を作ってしまえば、相手の影を踏んだも同然と。私にはデンジュモクとZさいみんじゅつがある、相性有利としか言いようがない。
「唯一の懸念は、私自身の実力不足……」
セレナさんと比べると、正直私自身の魅力が全然足りてない気がする。
同年代スタイル良し相棒属性と、年下貧相ボディ後輩属性……タイプ相性が良いのがどっちだか分からない。やっぱりおっぱいなんてあついしぼうは、役割を持てないぼっぱいであるはずなのだ。世間的にはヤっぱいらしいけど。解せぬ。
「まあ、多分なんとかなるでしょ」
根拠はないけど、なんか行ける気がする。イッシュ地方の元チャンピオンのメイさんも、勢いでベルさんとくっ付いたらしいし。逆にトウコさんはNさんとは健全なお付き合いだったらしいけど。
「チャンピオン辞める挨拶回りに、お母さんの説得に……いけるいける」
夢の実現はすぐそこだ。この一年苦痛でしかなかった面子を保つ作業も、多分あんまり苦ではない。お母さんはきっと応援してくれる。完璧な計画だ。
「そうと決まれば、今まで書きだめしておいた書類で!」
既に引き継ぎのための書類は揃っている。こっそりハウに対する審査も終えている。ポケモン協会からの許可も取り付けてある。本人の同意は……多分マラサダを奢りながら話せば取れる。
わるだくみを重ねて、有給休暇をたくわえて、恋のビーストブーストの掛かった私に不可能はない。勝った、第6部完。
「はっはっはっは!!」
響き渡る高笑いのハイパーボイス。この広いチャンピオン部屋に反響して、りんしょうのように鳴り渡る。
眠気に負けることのないよう、カルムはカゴのみを食べながらファイアローとサイクリングしていることを、ミヅキはまだ知らない。
ミヅキの手持ち
バンバドロ Lv56
じきゅうりょく
いじっぱり とつげきチョッキ
HA252 B4
じしん ヘビーボンバー
いわなだれ ばかぢから
ミミッキュ Lv56
ばけのかわ
いじっぱり きあいのたすき
AS252 H4
シャドークロー かげうち
つるぎのまい じゃれつく
アブリボン Lv56
りんぷん
おくびょう いのちのたま
CS252 B4
かふんだんご ムーンフォース
サイコキネシス エナジーボール
ジバコイル Lv57
がんじょう
れいせい こだわりめがね
HC252 B4
10まんボルト ラスターカノン
ボルトチェンジ きあいだま
ドデカバシ Lv56
スキルリンク
いじっぱり オボンのみ
HA252 S4
くちばしキャノン タネマシンガン
ロックブラスト かわらわり
アシレーヌ Lv58
げきりゅう
れいせい アシレーヌZ
HC252 B4
うたかたのアリア アクアジェット
ムーンフォース サイコキネシス
《チャンピオン ミヅキ》
赤い帽子に黒い髪の、デフォ主人公姿。ただし髪型はカロスの美容院でポニーテールにしている。本編終了一年後のため12歳。意図せず就職した職場はクソブラックだった。おこづかいの額は凄まじいけど、使い道が殆どない。
カルムや他のチャンピオンとバトルする時は、ちゃんとUBや準伝説、全国図鑑に対応したPTを組む。鈍足天国アローラらしく、どちらかというとサイクル戦が得意。
愛しの彼はサイクリスト(主に育て屋周辺コース)
チャンピオンではあるけれど、アイテムは一切使用することなく、代わりに交代をバンバンしてくる設定。
コンセプトは最初の島(街)+印象に残ったアローラのポケモン達。なにかとバンバドロは出て来たし、ミミッキュはガチホラーだったので。
じめん・はがねのポケモンが全体的によく刺さるけど、割と対抗されるので単体じゃ辛い。一番有効な対抗策は、きっとレベルを上げて殴ること。6350でもなきゃレベルが正義です。読み合いとか弱点なんざ高レベルで捻り潰せばいいんだよ(暴論)
本当は作者が初回殿堂入りした時の手持ちを、ガチ戦闘用に努力値振りしてもちものを持たせた姿。技はそのまんま。
アブリボンが