真・家賃1万2千円風呂共用幽霊付き駅まで縮地2回   作:ウサギとくま

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遠藤寺part2

 例によってこの辺りで俺の自己紹介をしておこう。

 男の自己紹介なんて興味ねーんですよ! そんな事に貴重な人生を浪費したくねー! まだ阿〇寛の爆速ホームページ読んでる方がマシ! という人の気持ちは多いに理解できるので、そういう人は読み飛ばしていいよ。誰だってそーする、俺もそーする。

 

 名前は一ノ瀬辰巳。年齢はひみつ。ピチピチの大学1回生だ。

 呼び方は好きに読んで欲しい。タツミンとかタッツン、たーちゃん、たつのじとか、何だったらたっつ・みーさんみたいに畏怖を込めて呼んで欲しい。

 どこにでもいる朝起きたら貞操逆転世界になってないかなぁと願ってる普通の大学生だ。

 家族はヘビースモーカーで放任主義の母親、何かヤバイけど可愛い妹が実家で暮らしている。父親は知らん。

 大学入学を機に1人暮らしを始めた俺だが、何か俺が越してくる前からその部屋には女の子の幽霊がいたらしく、なんやかんやあって生活を共にすることになった。

 それから3ヵ月、大学で親友である遠藤寺と勉学に勤しんだり、趣味が同じ大家さんと遊んだり、所属する同好会の先輩にスタンガンをお見舞いされたり、妹にメールで恐喝を受けたり、ハゲでロリコンのおっさんに粘着されたり。人生初めてのダイエットに挑戦したら、現役生フレッシュJKとお友達になったり。

 

 そんな3か月を過ごしてきて、今日に至る。

 異能バトルが起こるわけでもなく、異世界に飛ぶわけでもない、普通の人生だ。 

 

 

■■■

 

「そろそろ行こうか」

 

「だな」

 

 講義室に残っていた他の生徒たちが全て居なくなった後、俺と遠藤寺は荷物を纏めて立ち上がった。

 何でわざわざ最後に出て行くかっていうと、遠藤寺があまり目立ちたくないらしいからだ。

 大学生活も1学期が終わるわけだが、未だに遠藤寺に奇異の視線を向ける輩は多い。

 まあ、そりゃゴスロリ服なんて来てたら目立つに決まってるし、止めればいいのに……という事を以前言ったことがあるが

 

『それは無理だね。この格好はボクの探偵としての生き様を表したものであり、同時に縛りでもある。……まあ、いつか話すさ』

 

 みたいな事を言って煙に巻かれた。ぶっちゃけ意味が分からん。それから

 

『君はボクだけが目立つ格好をしているように言っているが、君の恰好もそれなりに……』

 

 的な事を言われたので、一般的模範大学生――いわゆるモブの俺にナニ言ってんだコイツと思った。

 

 そのまま出口に向かう。

 

「ふむ、夏休みの大半を君と過ごすことになるなら、かなり予定を変更しなければならないね。タマさんにも伝えておかないと」

 

 前を歩きながらそんな事を言う遠藤寺だが、その言葉に面倒臭いといった感情は一切なく、どこか楽しそうに思えた。

 まるで遠足に持っていくおやつを選ぶ小学生のような機嫌のいい口調だった。

 

「やれやれ、車の手配も改めてしなおさないと。また提出する書類の書き直しだ」

 

 溜息と共に自嘲的に笑い、肩を竦める。

 でもやっぱりどこか嬉しそう。

 だって足取りが違う。

 普段のノーマル遠藤寺は非常に姿勢がよく、歩く時の態勢も全くぶれない。

 だが今は……

 

「ああ、そうだ。今年も例の館に招かれるなら……君の分の部屋も用意してもらわないとね。まあ、ボクは別に同じ部屋でもいいんだが……うん。その方がいいかもしれないな。よし、では敢えて先方には君の存在を伝えないようにしておこう」

 

 揺れてる。

 スカートがヒラヒラ揺れてる。

 足取りがいつもより軽快なせいか知らないが、普段は微動だにしないスカートが……ゆらゆらしてる。

 膝裏くらいの長さのスカートがゆらゆら。ゆらりと持ち上がり、白いオーバーニーソックスの付け根まで見える。

 

 ほう、白ニーですか。やりますね。

 近くに寄ってよく見てみれば、ソックスの付け根の部分が猫ちゃんの耳みたいになってて可愛い。

 こういう普通は見えない部分のお洒落っていいよね。俺も見習って見えない部分、例えば普段はいてるパンツを攻めまくった物に変えてみようか。股間の部分がメッシュになってやつとか。そういうお洒落に気を遣わないと隣で歩く遠藤寺に恥をかかせちゃうし。

 

 しかし、白ニーに包まれたこの太もも、いい感じにむっちりとしてていいなぁ。幻想的ですらある。

 この幻想的な2本の足の間を潜ったら、その先はもしかしたら異世界に繋がっているんじゃないだろうか。俺、今まで異世界への扉とか探して見つからなかったけど、もしかしたらこういう場所に存在するのかもしれない。入ってみようかな……

 

「おっとそうだ。夏休み中の何日か、泊りがけで君を連れていくことになるが、問題は――おい」

 

 遠藤寺門に突入するか否かをマジで考えていると、咎めるような声と共にお尻の辺りが手で隠されてしまった。

 これじゃ、門が潜れない! そうやすやすと通らせてはくれないってわけか。

 

「君、さっきからボクのどこを見ながら話を聞いているんだい?」

 

「どこってお前、太ももの間にある異世界――」

 

 いや、待て。理性が薄くなりすぎて、いらん事を言おうとしているぞ。

 冷静になってみれば、かなりヤバイ人の発言だ。どうやら遠藤寺の魅惑の太ももにヤられてちょっと頭がどうかしてしまったらしい。

 落ち着いて答える。

 

「スカートを見ながらだけど、何か問題あるか?」

 

 あくまでスカートの揺れから現在の風速を測っているんですけど、みたいな数学者の顔で答えた。

 模範的な回答でありつつ、知的さも伺える……ナイスな返答だ。

 

「いや……言い切られると逆に困るんだが。ボクのスカートなんか見て楽しいのかい?」

 

「すごくたのしい!」

 

 実際スカートのヒラヒラを見るっての凄くの愉しいから、反射的にそう答えてしまった。

 いや、マジで楽しい。

 このスカートの揺れを打ち寄せる海波に見立てて、体育座りをしたままぼんやり余生を過ごしたい。

 

「な、なんて純粋な目で言うんだ君……いや、まあ別にいいんだけどね。他に誰もいないし。興味が無いと言われるよりはずっといいか」

 

 そう言うと遠藤寺は再び歩き始めた。

 どうやら素直に答えた事でグッドコミニケーションに繋がったらしい。やっぱ素直さって大切やね。ワシントンさんの偉人伝読んでてよかった。

 

「いいとは言ったが……やっぱり、何だか落ち着かないな」

 

 小さく呟きながら、遠藤寺はそのまま手をどかさなかった。

 まあ、それはそれでエスカレーターに乗って短いスカートを隠す女子高生っぽくてよい。

 

 遠藤寺と喋りながら歩いていると、例の部屋に辿り着いた。

 一見ただの教室だが、全ての窓がカーテンで覆われており、中の様子を一切伺えない。

 窓や扉のわずかな隙間からは、怪しげな瘴気が漏れ出ている。

 見ているだけでPOW値の低いプレイヤーはSAN値が下がりそう。

 うーん、ボス部屋っぽい。

 近くにセーブポイントとか行商人が配置されてるタイプだ。

 

 ここは俺が所属しているオカルト同好会『闇探求セシ慟哭』の部室だ。

 同好会のメンバーは先輩と俺の2人だけ。先輩曰く他にメンバーはいるらしいのだが、今のところ見たことがないので正直怪しい。

 

「さて、1学期の講義もこれで終わったことだし、どうだい? お祝いと言ってはなんだが、このまま飲みにでも行かないかい?」

 

 前を歩く遠藤寺が振り返り、手首をクイっと動かす。オッサンか。

 俺はこの後、同好会に用があるので右手で左目を覆うジェスチャーをしつつ「すまん、この後コレで」と返答した。

 

「……何だいそれ。視力検査でもあるのかい?」

 

 どうやら伝わらなかったようだ。まだまだ以心伝心には遠いな。

 

「同好会だよ。ちょっと先輩に呼びだされてな。夏休み中の活動がどうとかで」

 

「……むぅ、そうか」

 

 遠藤寺が残念そうな表情を浮かべた。うっ、ちょっと心が痛い。思わず『うっそー! 行く行くー☆ ゴートゥギャザー!』とイケイケドンドンしたかったが、先約である先輩を放置するわけにもいかない。あの人も結構根に持つタイプだからな。また黒魔術という名のスタンガンをお見舞いされちゃかなわない。

 

「ならここで別れるとしよう。ボクは帰って夏休みのスケジュールでも作成しておこう。いや、楽しみだね」

 

 そうか、夏休みに入るって事は、遠藤寺が大学に来ることはもう無いんだよな。

 つまり遠藤寺と先輩を会わせるチャンスはこの瞬間だけ。

 今までどうにかして、遠藤寺を先輩に会わせようと試みては来たが、どうにも上手くいかなかった。

 数少ない知り合いだし、どうにかこの2人を会わせて是非仲良くなってほしい。

 いずれは俺を放って2人で遊びに行ったりする関係になるとよりベネ!

 2人の美少女が育てる百合の花……ちょっと離れた所で愛でたいんだよ。

 

 というわけで言ってみた。これがラストチャンスだ。

 

「なあ遠藤寺。……いい加減、先輩に会ってくれないか?」

 

「いや、何だその……新しい妻に会って欲しいと息子を説得する不器用な父親みたいなセリフは」

 

 何だその例え。

 俺は畳み掛けるように、両手を合わせた。

 

「ちょっと! ちょっとだけ! ちょっと会うだけだから!」

 

「むぅ……」

 

 遠藤寺は困ったように眉を顰めた。

 

「いいじゃん、ちょっとだけだって。会って軽く挨拶するだけだって! 『ちーす』『どもどもー』『コンゴトモシクヨロー』『ミートゥー』みたいな!?」

 

「どこの部族の挨拶だそれは」

 

「別に手を繋げとか、ハグをしろとか、自販機の影で壁ドン+キスしろとか、酔い潰れて一緒にベッドにインしろとか、そういう事は言ってねーだろ!」

 

「君はボクをどうしたいんだ」

 

 遠藤寺が呆れたような視線を向けてきた。

 あ、いかんいかん。ちょっと興奮し過ぎた。すぐそこに百合の種子があると思ったらつい……。

 

「やっぱりダメ?」

 

「んん……」

 

「すっげえいい人なんだよ」

 

「君が紹介してくる人間だ。そこは疑ってないさ。ただ――」

 

 遠藤寺はやはり困ったような表情で髪を弄った。 

 む……この辺にしておいた方がいいかもしれない。そもそも遠藤寺と先輩、点と点だった俺の知人関係を繋げて線にしたい……みたいな俺のわがままだったし。あとマジで百合展開もちょっと希望してた。俺以外に友達がいない遠藤寺に他の友人を……みたいな自分勝手な押し付けもあったと思う。遠藤寺が俺以外に友達は不要だと言うなら、それを尊重するべきなんだろう。

 

「すまん遠藤寺、やっぱり――」

 

「いや……会おう」

 

「マジで!」

 

「ああ。正直、君が普段話す先輩とやらに興味が無いわけじゃないからね」

 

 あ、来てる? キマシタワーの土台出来てんじゃん! あとはジェンガの如く慎重に積み上げるだけ……。

 

「ただ、もう少し時間が欲しい。その先輩とやらに会う前に、もう少し地固めをしておきたい」

 

「は? 何? 地固め?」

 

 え、どういう意味? 地固めって……キマシタワー着工手伝ってくれんの? 心の中読まれちゃってる?

 

「キミとボクの関係性の話だよ。出来れば夏休み中にある程度は将来を見据えた盤石な形を作っておきたいのさ」

 

「え、俺? これ何の話?」

 

「君は分からなくてもいいさ。ただボクの方が精神面と身体面共にその先輩より近い場所にある、それが傍から見ただけで察することが出来るほどにはしておきたいのさ」

 

 あ、これ俺に分かるように話してないな。

 遠藤寺って頭いいから、結構難しい話とかするけど、俺に理解させたい時は凄い分かりやすい言い方するからな。

 これほとんど独り言だわ。

 

「ボクは勝てない戦いはしない主義だからね。既に勝敗は決した上で勝負に挑みたい。ボクは気に入った物を手放す気は一切ないんだ。ずっと側に置いておきたい。それが本にしろ、酒にしろ、関係でも。まあ、要するに――これはボクのだ、それが相手に分かればいい」

 

 自嘲気味に笑った後、遠藤寺は溜息を吐いた。

 

「むぅ……我ながら子供みたいな独占欲だな。これに関しては心のコントロールが効かない……困ったな。もっと余裕を持つべきなんだが、どうにもこうにも……世間一般の女性はこんな操舵不能な感情にどうやって手綱を付けているのか、ふむ……恋愛マニュアルの購入を検討するか……」

 

「遠藤寺?」

 

「ん? ああ、すまない。少し耽ってしまった。とにかく夏休みが明ければ、その先輩とやらに会うとしよう」

 

「お、マジで? 助かるわ」

 

 遠藤寺は言ったことは絶対に曲げないからな。あとは先輩側だな。

 先輩は先輩で遠藤寺に全く興味ないみたいだし。ここは言葉巧みに先輩を騙す……いや、諭すしかない。

 

「じゃあ、ボクはそろそろ行くよ」

 

「おう、気を付けてな」

 

「ああ、いい夏休みを……っと。そうだ、気を付けてで思い出したよ」

 

 そう言うと遠藤寺は鞄からメモ帳を取り出した。

 

「最近、町で妙な人間は見なかったかい?」

 

「妙って?」

 

「そうだな。振る舞い、言動、雰囲気もそうなんだが……特に妙なのは恰好だね」

 

「妙な恰好の人間か……」

 

 俺は妙な恰好のトップランカーである遠藤寺を見ながら考えたが、特にこれといって妙な恰好をした人間には遭遇していない。

 

「いや、見てないぞ」

 

「ん、それは良かった。最近、とある筋から妙に怪しい人間がこの町に入ったと聞いてね。近づかないように忠告しておこうと思って」

 

「そりゃありがたいが……妙に怪しいって、どんなヤツなんだよ」

 

 近づくも何も、どんな人間か分からなければ避けようがない。

 

「出来ればあまり説明をしたくないんだが。君が興味を持っても困るし」

 

 いや、気になるのは気になるが率先して会いに行こうとか野次馬根性は持ってないし。

 

「まあ、伝えておこう。その人間だが――冷蔵庫を引きずって歩いている少女だ」

 

「妙に怪しい!」

 

「そうだろう。鎖で繋いだ冷蔵庫を引きずりながら、ただひたすら町を歩き回っているらしい」

 

 何が目的なんだ……新世代のホームレスか?

 

「冷蔵庫売りの少女なんじゃ?」

 

「君、買いたいと思うかい?」

 

 想像してみる。

 夜中に歩いてたら、ズリズリと何かを引きずる音がする。恐怖に怯えていると闇の中からヌッと少女が現れ囁く。

 

『冷蔵庫……買いませんかぁ?』

 

 と。

 

 ま、漏らすよね。悲鳴とか、それ以外に色々。

 

「買わないよな。つーかそれ、マジ情報なのか? 正直信じられないんだが」

 

「ボクも信じたくはないが、ちゃんとした筋――昔から世話になっている情報屋からの情報だ。間違いない」

 

 サラっと言ったけど、普通に情報屋とかいるんだな。

 美少女で、探偵であり、情報屋との縁がある……コイツ主人公なんじゃね? あれ? じゃあ、俺って何なの?

 

「というわけで怪しい人間には近づかないように」

 

「お母さんかよ。つーかそれ聞いて近づこうと思うほど俺バカじゃないし」

 

「くくっ」

 

 遠藤寺がクスっと笑った。

 なぜ笑うんだい?

 

「いや、すまない。君がそれを言っても説得力が無くてね。なにせ、ボクみたいな変わった人間とこうして友達をやってるんだ。それに先輩とやらもかなりの変わり者だろう? そんな君だからね、ふふっ」

 

「人を変わり者ホイホイみたいに言わんでくれる?」

 

 俺だって普通の知り合いいるし。

 ……。

 ……いないな。そもそも知り合い自体、片手で数えるくらいしかいないわ。

 あれ涙が出てきた……おかしいな、はやおきしたからかな……。

 

「では伝えることも伝えたので、ボクは行くよ。……と思ったけど、最後に一つ」

 

 遠藤寺はこちらを心配するような表情を浮かべた。

 

「その、なんだ。君の部屋の幽霊少女の件だが……君は大丈夫かい? ほら、彼女は……」

 

「大丈夫だよ。何とか上手くやってる」

 

 嘘じゃなかった。俺は上手くやってるし、これからも上手くやる予定だ。

 エリザがどうなろうと、上手くやっていかなければならない。

 それは俺が決めたことだ。

 

「そうか。……ならいいさ」

 

 エリザが消えてからの騒動で、遠藤寺にも世話になった。

 言葉では礼を伝えたが、いつか別の形で礼をしないとな。例えば俺が酒を奢るとか。

 そんな今までしなかった事をするのもいいかもしれない。

 

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