その壁は薄かった   作:充椎十四

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 クリスマスイブイブにフルヤ=キリストから食事に誘われた私の心境を答えよ。

 

 まぢむり……リスカしょ……。

 

 考えてもみろ相手はフルヤ=キリストだ! 自己犠牲な慈愛に満ちた微笑みを浮かべ地獄に糸を垂らす降谷菩薩だ!

 今日は外見的特徴から讃えていくぞ先ずはその小麦色の肌! 生まれつきの色味だとは分かっているが健康的! スポーツをしていらっしゃいましたか? ああテニスで全国大会に……そしてボクシングもですか。テニスは屋外競技だというのにこのアラサー、肌がお若くていらっしゃる。紫外線なんて跳ね返すほど自分自身が輝いているから当然だろ知ってた常識ですよねフルヤ=キリスト検定三級のボーナス問題だから誰でも答えられることだったね。シミシワ一つないパッツンパッツンでぴちぴちぴっち、それが降谷菩薩のお肌! まるでサンドペーパーで表面を丁寧に磨きあげたよう! びゅーちふる!

 そして次にその凛々しい眉! 意思の強さとその心の脆さを表すように少し細めで鋭利、まさに冷たく輝く氷の刃。その刃を笑顔に隠すのが安室透、蝋燭の揺れる光に透かすのがバーボン。救急搬送レベルで素晴らしい。誰か担架持ってきてェ!

 そしてそして――海外の空とは違う少し白みがかった優しい青の瞳はまさに日本の青空。つまり降谷菩薩は日本の空を切り取ってその双つの瞳に貼り付けてあるのだ――語彙力が焼失する。萌えと燃えのあまり脳味噌がバーニング、壊れたレコードのように「尊い」しか言えなくなるマジで。日本人で良かったー!

 

 だが何よりも注目すべきはその優しい色合いの金髪だ。実るほど頭を垂れる稲の色だ。真っ白な炊きたてご飯が輝く! 誇れよ日本の米を!

 炊きたてご飯と言えば、飯盒炊爨をしたことのある人は多いだろう――改めて考えてみれば小学校時代はもう十数年も前。時間が過ぎるのが速すぎる時よ止まれお前は美しいメフィストフェレスさんいらっしゃいませ。

 話を飯盒炊爨に戻そう。キャンプ場の炊事場で力強く磨いでしまって半ば砕けた米とプリントに書かれている通りの量の水を飯盒に入れ、薪が炎を揺らす耐熱煉瓦の竈に掛け……先に作り始めていたカレーの匂いに腹の虫を鳴らしながらお米を炊いた思い出。蓋の隙間からぷちぷちと白い泡が弾けるのを見てそろそろだと腰を浮かせ、蓋を下にして蒸らす時間はとても長く感じられた。手に付いた煤に大騒ぎしながら食べたご飯は美味しくて楽しかった。

 ――米とは日本の心である。つまり実る稲穂の髪を持つフルヤ=キリストは日本の心を擬人化したイメージキャラクター、ホンダ某さんと同じ存在なのだ。降谷の愛車はMAZ◯AだがHON◯Aと同じなのだ。恐れ入りますと言いながらHO◯DAがMA◯DAを乗り回すアニメが私の脳内で放映された。M◯ZDAは泣いて怒りそうだ。許せRX-7……どちらにせよ国産だ。

 

 話を戻して次は首から下、鍛え上げられた肉体だ。テニスとボクシングにより無駄を無くした美しい体。テニスの番組を見れば分かるが、テニスプレーヤーの脚は凄い。相手が右へ左へ打ち返す球を追う瞬発力とけして短くない試合時間を走り続ける持久力のどちらも兼ね備えた最強の脚だ。そして常に良い姿勢でラケットを振れるはずがなく、柔軟さと力強さが共存する上半身。なるほどサンデ……ボクサー向きじゃねーの。

 日本を愛しているというのに武器として選んだのが空手や柔道ではなくボクシングなのは、空手や柔道を復讐の手段に使いたくなかったからではないだろうか。警官に柔道や剣道は必須科目だったはず、警察学校に入る前から予習しておけば得はあれど損はない。だというのにフルヤ=キリストがボクシングを使っているのには理由があるはずだ。例えば正義の執行にしか柔道を使わないと決めている、とか。

 武術には詳しくないので分からないが、風見にかけた関節技は柔道の技に近いのではないだろうか? ボクシングに関節技などないし、警察には逮捕術という犯人を制圧するための格闘技があると聞いたことがある。

 警察であるために身につけた武力的手段を組織のためには使わない……尊すぎかよ。だって日本人だもん、涙が出ちゃう!

 

 外見からしてもう百点満点の尊さテストで百万点。ハーマイオニーでさえ百点満点で二百点が限度なのに降谷零の容姿はまさしく一粒万倍日! 磯野、田植えしようぜ! それか宝くじ買おうぜ!

 そして中身の方はといえば三つの顔を持つ男。鯉口を切られ僅かに顔を覗かせる濡れた刃紋降谷零、日溜まりに微睡む猛獣安室透、月のない夜闇に酒場の光を背負う影バーボン。そのどれも魅力的だというのに三つとも全て同一人物が担っているのだ、ときめかないはずがなかった。外見に中身を加算して総合ポイントは十兆点。加算ではなく乗算では、などという突っ込みは聞かない。

 

 ちなみなフリーザの戦闘力は五十三万、イニ◯スタは三十二億、世界の男は三十五億。くっくっくっ……兆の桁を数えられるのはフルヤ=キリストだけ! はっきりわかんだね!

 

 それでだ。その十兆の男降谷零と、カラオケ行ってショッピングして降谷宅で手作りディナーを頂くことになった。あまりの重責……お相手が勤まるとは思えぬ……なんの苦行だこれは。安全そうな私となら平和な休日が過ごせるとでも思ったのだろうか? 無茶言うな、私はそんな逆死神スキルなど持っていない。TOUTOは加藤保◯が平将門を復活させた帝都だったに違いないのだ、なにせ犬も歩けば殺人事件に巻き込まれるTOUTO。間違いなく呪われている。

 風水に頼れば良いのだろうか? 黄色が良いと聞いたことがあるような気もする。

 

 来週に迫るデートの予定を話し合うため布団に寝転がりながらすずとライン通話をしていて――そろそろ重い腰をあげようと決めた。隣人フルヤ=キリストのことを相談しよう、と。言おうか言うまいかずっと悩んでいたが――話そう。そして定期的に送られてくる安コ十八禁同人誌を返そう。念写は無理でござる。

 

「すずちゃん、カラオケで聞いて欲しいことがある」

『突然改まってどうしたのよ。……でも、私も実は話したいことと渡したいものがあるわ』

「え、何それ今聞きたい聞きたいうっきー!」

『堪え性のないおさるさんはバナナ食べてて』

「バーナーナッとってもハッピーフィーリング」

『はいはい鈍器鈍器。じゃあ二十四日にね』

 

 ――どうしたんだろうか、今日のすずはすずらしくなかった。良い意味で金持ちらしい余裕が見えず、何かに悩んで焦っているような雰囲気だった。

 一方的に切られてしまった通話が不可解で心配で、通話終了のマークを見下ろしながら眉根を寄せる。二十四日に何が待っているのか……嫌な想像が浮かびごくりと唾を飲み込む。

 

「まさか倒産の危機とか夜逃げとかじゃないよね……」

 

 すずの父親は名の知れたIT企業の創業者だ、ショッギョムッジョで盛者必衰とはいえ、そう簡単にあの規模の会社が潰れることはないと思いたい。

 

 ――世はクリスマスシーズン。街中では浮かれポンチがイキって喧嘩したり恋人がいなくてやけ酒に走ったりと大忙しで、警官も恋人たちを内心罵り独り身を憐れみながら秩序維持に右へ左へ。

 その明るく騒がしいイルミネーションの影で夜逃げを計画するすず一家……夜逃げ◯本舗で映画を一本作れそうだが、そんなことを言って笑ってられるような問題ではない。夜逃げと決まったわけではないがそれくらい重要そうだ。

 今までみたいに会うのが難しくなりそうな、胸が苦しくなるような理由なのではないか? それは、なんというか。

 

「嫌だなぁ」

 

 独り言は布団に吸い込まれて消えた。

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