台詞リクエスト一覧(順番適当)
「恋人といるときの雪って特別な気分に浸れて僕は好きです」
「俺が優しくするのは君と日本だけだよ」
「地球最後の日に食べたいもの?……それはお・ま・え♡」
「えっ大丈夫?セロリ揉む?」
「俺…このお風呂掃除が終わったら…彼女んちのトイレにある人形のミカちゃんと結婚するんだ……」
「戦いが終わったら、ぐっすり眠れるって保証はあるんですか!」
「明日の夕食は牛丼メガ盛り汁多めで!!」
「持つとしたらこう。(『メシャアッ』等形容し難い効果音と共に)」
「ぶったね…二度もぶった…!!親父にもぶたれたことないのに!!!」
「これは全部夢だよ」
セロリの香りにはリラックス効果があり、二日酔いや頭痛の鎮痛に効くらしい。ソファーに体を投げ出した、五徹で逆に寝れない様子の降谷さん――赤井も真っ青な隈をこさえた彼にセロリを差し出す。
「大丈夫ですか? セロリ揉みますか?」
「揉む」
揉むと言いつつ囓りだした降谷さんの思考はもう危険水域を超えているようだ。ディップのつもりでマヨネーズを渡したらセロリが土方スペシャルに変身してしまった。カロリー大丈夫か。
「美味しいですか、それ」
「しらん」
据わった目で土方スペシャルをバリバリ食べているだけでもやばいのに、味覚も瀕死らしい。間違いなくこれはヤバいやつだ。
「はいはい、じゃあ暖かくしましょうねー」
土方スペシャルの皿を取り上げてテーブルに避難させ、レンジでチンすれば三十分近く温かいあずきのパワーを肩に乗せてあげる。あずきの香りで癒されてください。同じくあずきのパワーのアイピローを乗せれば、口を半開きにしてソファーによりいっそう体を沈ませる。イケメンはこんな姿でもイケメンか……お疲れのフルヤ=キリスト尊い……。
いそいそと大きいたらいとヤカン二つにお湯と水、石鹸に柔らかいボディスポンジ、ふかふかのタオルとラベンダーオイルも持って降谷さんの足元に座り込んだ。
たらいに温いお湯を作り、ラベンダーオイルを数滴足らす。コンビニで買ったらしい靴下を引っこ抜いて降谷さんの足をたらいに突っ込み洗う。
ああ、ここに、神話が再現された。キリストの足を洗う信者(♀)! 香油を塗り足にキスをすればまさに新訳……ああ、嬉しすぎてやばい。
位置も効果もうろ覚えのツボを揉んだりしながら両足を洗っていく。たらいのお湯はぬるいのからだんだん熱くしていくのがポイントだ。私は佐吉、冷えた体にはぬるい湯から慣らしていくのが良いのさ……!
だらりと脱力した降谷さんが寝ている様子なのを良いことに、タオルで水気を拭った足の甲に触れ、そっと撫で、額に甲を押し当てる。
やばい! やばいすごい! 帰ってこない語彙力もやばい! 感動で胸が一杯だ。
――この足が日本を守るため棒になっているのだ。砂埃にまみれ雨に濡れ、積み上げた歩数は全て国を支える礎となる。
降谷菩薩が歩いてきたのはまっすぐな道ではなかっただろう。だが、それこそが必要で重要だったのだ。ただまっすぐ伸びるだけの基礎では、上に乗った板は左右に揺れて仕舞いには倒れるしかない。時には右へ左へ曲がり、蛇行もしている基礎だからこそ上の板は安定するのだ。複雑な模様を描く今までの路が屋根を支えるから、どんな圧力にも耐えられる。
私には想像もつかないほどの苦しみに悶えてきたに違いない。だからこそ作者をして「赤井がいなければ完璧」とまで言わせるのだ。歩き続けてきた足だ。苦しさを悲しさを全て背負う降谷菩薩の、前に進みつづけるための一揃いの足だ。
力強い足だ。頼り甲斐のある足だ。数多の困難を乗り越えてきた足だ。感動のあまり目から情熱が溢れる。涙で滲んでも尊い凄い。
ブルーアイズよりふつくしい足を撫でて、たらいを片付け風呂場でお湯を捨てた。
――リビングで降谷さんが顔を覆っていることなど、私が知るはずもなかった。
※※※
組織の残党が、どうやってかは知らないが、各地で一斉にテロを起こした。組織とも警察とも関係のない市民から死傷者が何人も出てしまった――その怒りで拳かぶるぶると震え、降谷は自らの不甲斐なさにも視界が暗くチカチカ輝くような失望を覚えた。
もっとしっかり、末端すら残さず殲滅していればこうならなかったのに!
やはり首都とあって東都でのテロは規模が大きく、銃や爆薬すら持ち出した凄惨な戦いは五昼夜に渡った。
「あちらは我々が死んでも構わないと思っている……なのに、どうして我々はあちらの命を尊重しなければならないんですかッ!」
二日目の夕方だったろうか。まだ二十三かそこらの青年が叫んだ。真っ白で視野の狭い正義は青臭く懐かしく、降谷はそれにふっと笑んだ。
「ここが法治国家だからだ」
犯罪者どもを法律で裁くべく、裁判所に投げ込むのが降谷たちの仕事だ。国民の選んだ国民の代表が決めたルールで、罪を償わせるのが降谷たちの仕事だ。
知識としては分かっていても理性が納得しきれていないのだろう若手の胸を軽く小突く。
「それが俺たち警察の掲げるべき、正義だからだ」
それがどれほど凶悪な犯罪者だとしても、裁判を受ける権利を失ってはいない。
たとえテロリストであれ、被害を量産している加害者であれ、国民であることに違いはないのだ。
「降谷さんの言うとおり、警察は『原則』が鉄則! 例外なんてのは特殊な場合だから別に書かれてんだよ。国民の身体と生命を守るのが俺らなんだからよ」
別の男に頭を撫でられながら、納得しきれない顔でハイと返事をした若手。自分にもあんな初々しい頃があったような気がしたが――綺麗な物はどれもこれも手から溢れていったから、きっと、記憶に残る暇もなく無くしてしまったのだろう。
しかし、そんな風に全体が余裕を持っていられたのは二日目までだった。三日目の深夜には一部が混沌とし始め、人員交代が決められた。
「気張っていこう! これを終わらせれば終わりだよ!」
「嘘だ! 戦いが終わったら、ぐっすり眠れるって保証はあるんですか! まとめないといけない書類だってたくさんあるんですよ!」
「腹減ってハッピーターンが止まらない……はぴはっぴー」
「腹減ったと言えば明日の夕飯は牛丼メガ盛り汁ダクダクでお願いします誰か注文控えといて紅しょうがは山盛りな」
「美味いお握りの作り方知ってるか? あれは手で握るんじゃなくて脇で三角形作りつつ表面に塩分を与えるんだよ。持ち方? 握り方? は……こう、ぐにゅっと」
「俺……このお風呂掃除が終わったら……彼女んちのトイレにある人形のミカちゃんと結婚するんだ……」
「え、お風呂? お風呂どこぉ?」
交代に現れた面々は、幸せそうな顔で気の狂った発言を繰り返す仲間を引きずってミニバスに放り込んでいく。
「はっぴーいや違うラッキーだよ癒しの天使はラッキー、だって有袋類だもん」
「牛丼は汁ダクダクこそ至高、なぜそれがわからないの?」
「寝ろ。車の中でな」
「動け動け動け動けよぉ俺の足」
「ふぇへへへへ、なにそれぇエヴァごっこぉ? 私もするよいーつまでもー」
「立てほら! 先ず目を開けろ!」
「ぶったね、二度もぶった……!! 親父にもぶたれたことないのに!!」
「元気じゃねーかよバカ歩け」
「ほらほら歩こうね」
交代人員が役に立たない面々を連れていく様はまるでヘルパーと要介護老人だ。
降谷や風見ら中心メンバー以外が一新されるはずのチームにはしかし、一人だけ、交代を望まない男がいた。
降谷より五歳ほど上だろう。この三日で伸びた無精髭とよれよれのスーツがくたびれた彼は、煙草を気付け薬にふかしながら苦笑した。
「すんませんけど、交代は遠慮させてください」
――正気を保った彼の名は、鶴園といった。
五日目の昼過ぎだった。ついにテロリスト側の前線が決壊し、警官らが彼らのアジトに雪崩れ込む。その先陣を切ったのは、鶴園。
「俺は今とても特別な気分だ……恋人といる時に雪が降った云々みてぇな、わくわくしてドキドキして、最高の気分だ。
だがどうしてだろうな? お前ってやつはまるでこの世の終わりみてぇな、明日世界が終わるとでも言わんばかりの顔してんじゃねーか」
東都におけるテロの指導者らしき平凡そうな顔の男を地面に叩きつけ、その額に銃を突き付けながら鶴園はハハと笑い声をあげる。
他のテロリスト達はみな他の公安警察官らが対応しているため安心しておしゃべりができる。
「とはいえ明日世界が終わりやなんてしないし、地球もゆっくり回ってる。
そうそう、もし明日が地球最後の日ならな、食いたいものがあるんだ。教えてやるよ。
……それはてめぇの、命さ」
鶴園が入庁してから四年目、初めて指導役になった新人は唯川と言った。唯川が組織に潜入するため数ヵ月でさよならしたが、初めて受け持った後輩だった。生意気な餓鬼だった――生意気で可愛い奴だった。
唯川と再会したのは、彼が物言わぬ姿になってから。情報を流出させないためスマホごと自らの心臓を撃ち抜いたのだと、聞かされた。
「てめぇも銃を学んだなら知ってるよな、銃口管理ってやつ」
鶴園は歌うように銃を取り扱う際のルールを二つ挙げる。
「全ての銃は装填済みとして扱う。それと、撃つと決めたとき以外は引き金に指をかけない。こりゃマナーだよな。これが出来てない奴の前になんて誰も立ちたくねぇもんさ」
恐怖に震える男に、鶴園は優しく甘い声をかけた。
「人を恐怖に叩き落とすのはそら爽快だろうさ。だが、そういうやつに限って自分が恐怖に叩き落とされるのは嫌いなんだよな」
鶴園は引き金に指をかけ、うっとりと微笑みすら浮かべながら――人差し指に力を込める。
そして、ぐっと、引いた。カチンとスライドが前後する軽い音が響き、ほぼ同時にアンモニア臭が漂いだす。
「はっ、撃たれる覚悟もないくせに武器触ってんじゃねーよ」
鶴園の復讐は区切りがついた。法廷に放り込むだけであることに不満を感じないと言えば嘘だが、鶴園は警察だ。
私刑の義務も権利もない公僕だ、ギリギリ許されそうなラインの復讐をした。鶴園は男を拘束すると口許をうっすら緩め、ベースで待つ上司に無線を繋ぐ。
「こちらA-256」
『6』
「3」
『何があった?』
「リーダーらしき男を確保しました。場所はベースから
五つ目の廃ビルの二階、東側北向きの角部屋です」
『了解』
無線通話を終え深く息を吐いた鶴園に、彼のペアで四周を警戒していた山口が声をかける。
「ゾノさん、終わりました?」
「ああ、わりーな……こんな個人的なことにまで付き合わせてよ」
「いいってことです。俺らん中にはこいつらに恨みを一欠片も持ってない奴なんていないんですし、俺だって」
あいつとはダチじゃありませんでしたが、尊敬している同期だったんですよ、と山口は言葉を続ける。
「そいつは俺が連行しますんで、ゾノさんは警戒をお願いできますか? 四徹なんすから階段でこけないように気を付けてくださいよ」
「わーってる、ありがとよ」
階段を下り外へ出れば、南中から少し西に傾いた太陽が明るく世界を照らしていた。
「眩しくて目が霞む……」
「バスで寝てください」
「うん……」
日陰から踏み出し、二人は太陽の下を歩く。短い影が東に伸びふらふらコンクリの上を踊る。
「お疲れ」
ベースに戻れば指揮官の降谷が二人を迎えた。
「お疲れ様です」
「お疲れ様ですっ!」
鶴園と同様に四徹のはずなのに、降谷は普段通り変わらぬ引き締まった表情だ。二人はベースの仲間にテロのリーダーを引き渡すとよたよたバスに向かう。
「降谷さん人間辞めてるだろ」
「サイボーグなんじゃないですかね」
そういえば警察学校ではバーサークゴリラって呼ばれてましたよ、という山口の発言に鶴園は風船が破裂したように笑い声をあげ……そして二人とも看護師にバスに引きずり込まれ、寝かされた。
――後始末と急ぎの書類作成が終わったのは次の日の晩。それらの書類の九割が混乱した日本語であるのは忘れるとして、明日一日はまるまる休める予定だ。
流石に靴下は替えていたが、六日のあいだ着た切り雀だった降谷は全体的に薄汚れている。癒しの待つ我が家へようよう辿り着くと上着を玄関で投げ捨てソファーにどさりと重い音を立てて沈み込んだ。
そんな降谷に、親切で騙されやすい平凡な天女が茶碗に短冊のセロリを差し出してきたりあずきのパワーを肩や目元に置いてくれたり、甲斐甲斐しく彼の世話を焼きだす。仕舞いには何やらごそごそ用意しだしたと思えば降谷の足を洗い始めた。
ぬるま湯がだんだんと、少し熱くて気持ちの良い温度へ変わっていく。
礼を言う気力すら起きずただその幸せに浸っていれば――足に髪が触れた。さらさらと足の甲をくすぐるそれが不思議で体を起こそうと考えた、その時だ。
「なんて尊い足なんだろう……」
背筋に力を込め少し身を浮かせた、その姿勢で降谷は固まった。
「色んな道を歩いてきた、凄い足だ。……凄い。この足で日本を支えてるんだね」
ぼそぼそとした声だが、鍛えた降谷の耳にはこれ以上なくはっきりと届いた。
足を優しく撫でられたと思えばゆっくりと床に下ろされ、片付けの音がしだす。
「夢だ……これは全部、夢だ……現実的じゃない」
この優しさは、この心遣いは美しすぎた。誰もが求める「美」そのものだった。――この時やっと、降谷は「黒の組織」から本当の意味で足を洗えたのだ。洗われたのだ。
だからその二ヶ月後。外堀という外堀を全て埋めた降谷は海の見える高台で天女の前に跪いた。
「これからも安室や本郷は国のために何でもする。利用価値があるなら誰にでも優しくするし肉体関係も結ぶ」
困惑しか見えない表情の彼女を真剣に見上げる。
「だが約束する。降谷零が、俺が優しくしたいのは、この日本という国と貴方にだけだと。――蛇行した道でも真っ直ぐな道でも、叶うなら貴方と二人で歩きたい。俺と二人三脚してくれませんか」
旅の同行者は降谷の差し出した手を取りながら、「後悔しても知りませんからね」と眉尻を下げた。
降谷は飛び上がるように立ち上がり同行者を抱き締める。
「後悔なんてしない、絶対に!」
――世界の壁は、思いを届けるには、こんなにも薄かった。
・降谷氏
夢みたいな現実にどきどきした。
・かなえ
夢小説みたいな現実にどきどきした。