その壁は薄かった   作:充椎十四

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 カラオケからの帰り、送ってもらった先は米花駅。もろちん、間違えたもちろん写真を撮りまくった。夢の中であろうが関係ない。唸れ私のマイクロSDカード! ガイアが俺にもっと輝けと囁いている!

 

 とりあえず電車に乗っていれば最寄り駅に行けるだろうということで電車に乗った。思った通り着いた最寄り駅からスキップでアパートに帰り、ポストを確認して何も届いていないのを見て我が家に倒れ込む。

 

「あー……そうだわ」

 

 歌おうと思っていたのに歌い忘れた曲が何曲かある。

 

「死してなおこの世に未練遺せしは」

 

 野村◯斎は良い醤油顔。

 

「アラーアラーアラーアラーアラーアラーアーラー」

 

 ドナルドは鬼畜だ。なにせ他の仲間を潰して自分だけ生き残ったのだから……。ハン◯ーグラー、フライ◯ーキッズや市長たち、彼らはその存在を忘れられて久しい。バー◯ィーも可愛かったのに今では誰それ扱いだ。

 ドナルドだけが残ったのは彼が「つい殺っちゃった」結果だろうが、それなら先ずドナルドを抹殺すべきだったのだ。――気が付いたら、突発的に、ついうっかり仲間を殺すドナルドと比べれば、体が勝手に風呂場に行く大神隊長はまだ可愛い方だろう。

 

 でもセクハラは犯罪ですよ隊長。

 

「キープだ牛、呑ま呑まイェイ!」

 

 今日は呑んでない。嘘じゃないもんほんとだもん。トト◯はいるもん!

 

 カラオケで掠れた喉も浴室の湿気で完全回復、浴室にはリ◯ュネが掛けられているに違いない。いつも通り楽しく歌い上げて風呂を出た。

 

 ――その壁の向こう側、天井に近い位置。そこに米と塩と御神酒が並ぶ棚があるなんて、私が知っているわけがなかった。

 

※※※

 

 土曜日は一日寝て消えたらしい。目を覚ましたら日曜日の早朝で、すずからのメールと電話がすごい数になっていた。

 布団の上で正座して電話を掛ければ、3コール目ですずが出た。

 

『心配したんだよ』

「ごめん……本当にごめん」

『三十分たっても待ち合わせ場所に来ないし、電話してもラインしても全然繋がらないし既読もつかないんだもの』

「すみません寝てました……」

『もうっ!……でも、かなちゃんが元気で良かった! うっかり生活費を安室さんに注ぎ込み過ぎて死んだのかもなんて思ったよ』

「神の子フルヤへのお布施は毎月定額五万って決めてるから大丈夫。心配してくれてありがとう、すずちゃん」

 

 そうしてペコペコ謝り倒し礼も繰り返し、通話を切った。私としてはそれほど疲れている自覚はなかったが、どうやら体は限界だっようだ。まさか一日寝て消えるとは思いもしなかった。

 疲れを癒すにはフルヤ=キリストしかない。真摯に祈れば癒しと赦しを携えたフルヤ=キリストが私の脳内に現れ、『今日もお疲れさま。仕事を通じて日本を支える君を誇りに思いますよ』とか『今日は大変でしたね。ですが今の山場を乗り越えればあとは平地、もう一踏ん張りです』と言ってくださるのだ。

 ――ちなみにこれは安室モードであり、他にバーボンモードとゴッド・フルヤ・エディションもある。バーボンモードでは冷たく皮肉げに対応され、『完璧には程遠い仕事ぶりですね。やらないよりはマシ……といったところでしょうか。それで給料を貰っているとは驚きですよ』等と発破をかけられる。ゴッド・フルヤ・エディションでは『は?』『それで良くビジネスパーソンを名乗れるな』『……分かっているじゃないか』等と飴と鞭を使い分けられて私は忠実な豚になる。ぶひー!

 

 一日寝たにしては疲れが少し残っている気がする肩をぐるりと回し、昨日見た微妙に素敵な夢を思い返す。フルヤ=キリストの配役がしばらくはまだ顔を合わせずにいたい隣人であったことを除けば、かなり良い夢だったと思う。RX-7に乗れただけでなくアムサンドも食べられたし、物欲しげな顔や愛想の良い笑顔も見られた。

 撮りまくった写真が惜しいが、良い夢を見れたことだけで満足するべきだろう。本当に惜しいが俺たちの満足はこれからだ! 先生の次作にご期待ください!

 

 だが、存在するはずがないと知っていつつアルバムのショートカットをタッチし――目を疑った。

 写真がある。昨晩、夢の中で撮った写真がある。米花駅、カラオケ屋で食べた料理、デン◯クの予約履歴、リアルのすずであれば興奮のあまり鼻血を出すであろうと思い撮った安コっぽい写真、アムサンド、杯戸駅。

 なんだこれは。

 

「夢だけど……夢じゃなかった……!?」

 

 まさに隣の所沢のモンスター状態。ホームに戻ってラインを開き、すずとのトークで画像を送信。「ところでこの画像を見てくれ……こいつをどう思う?」と入力して送ったところでついた既読。

 ライン通話が来た。

 

『コラボカフェ?』

「それなら毎日通ってるよ」

『やばいすごい安室さん顔が良い完璧かコナンくん足細いやばい』

「それな」

『こんなのお尻におひねり捩じ込んじゃう……』

「ゲイストリップじゃないから止めよう」

 

 何故か私の頭は冷静で、荒ぶるすずに「Koolになれすず」とクールに繰り返す。

 

「昨日私は一日寝て過ごしたと言ったな……その時にポアロに行く夢を見たのよ」

『私は毎晩安室さんがコナンくんをぐちゃぐちゃにする夢見てるよ?』

「すげーなそれは流石に真似できないわ。すずちゃんの脳内がエロまっしぐら過ぎてもっとやれ歩道が空いている、行け。まあそれでね、夢の中で撮った写真が何故かスマホに残ってるの。もしかすると念能力に目覚めたのかもしれない。夢で撮った写真をスマホに送れるっていう」

『二十禁安コどちゃシコ同人誌送るから枕の下に敷いて寝て。夢見て念写して』

「試すわ。送って」

 

 その場の勢いしかなかった電話を終え、アルバムをスクロールする。ああ、ツイッターに載せたいとても載せたいすごく載せたい。世の中に数多いる安室の女に「信仰心が足りないんだよ、残念だったな!」と書いて炎上したい。恋や愛以上に盲目な感情を教えてやろう、信仰心だ、と高笑いして叩かれたい。否定的なコメントへ「でも羨ましいんでしょう?」って返したい。捨て垢を作らなくては今すぐにだ。

 ――でも、それをしてしまうと本郷さんに迷惑がかかる可能性が高い。リアル降谷零とか言われて自宅が特定され安室の女がアパートに鈴なりになり、やしろあ◯きみたいに路上から大声で名前を呼ばれる騒ぎが起きてしまう。そして届くのは三角コーンではなく髪の毛入りのチョコレート……。凄く怖い。

 

 私も成りきりネットマナーを学んだ歴戦の女、他人の迷惑を省みないようなことはできない。そんなことをしては雲雀さんに怒られてしまう。

 仕方ないから『念能力に目覚めました。こちら私が念写しました杯戸駅、米花駅、アムサンド、コナンくんです』と写真を四枚選んでツイットした。投稿した直後すずによるリツイがあり、数十秒で三十ほどのリツイや引用が続く。これは間違いなくバズると確信し通知を切った。

 

 昨日は一日寝て過ごしてしまったから今日は日曜日。掃除して買い物して、祈りを捧げ癒しを頂いて寝よう。

 よっこらセッ(笑)! と立ち上がり先ずは朝ごはんにトーストでも焼くかなと考えたその時、家のチャイムが鳴った。

 

 我が家に来る人なんてそういない。親なら事前に連絡をくれるし、友人は「ネットで繋がってれば対面なんてしなくて良いよね」というコミュ障ばかり。職場は……休日わざわざアポなしでアパートに来るようなストーカーはいないと思いたい。

 つまり訪問者は宗教か新聞かN◯K、これらのどれかで間違いない。ヘアスプレーと着火マンを手におそるおそるドアの覗き穴を確認し、目を丸くした。

 

「なぜなに本郷さん」

 

 先ずはこの訪問の理由を教えて!




 神棚はプラスチック板を加工いたしました。
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