(本編完結)なのはのクローンたちが聖王のゆりかごにスターライトブレイカーするそうです。   作:観測者と語り部

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本編
なのはのクローンたちが聖王のゆりかごにスターライトブレイカーするそうです。


 何処かの研究施設で目覚めたとき、わたしは自分が高町なのはだという事に気づいたのは、施設で出会った子供たちがみんな同じ姿をしていたからだ。

 

 わたしには前世の記憶がある。朧気だけど大好きなアニメの記憶があって、魔法少女リリカルなのはの知識から自分の置かれた状況を理解してしまった。プロジェクトF。その技術を応用すれば、管理世界で必要とされる高ランクの魔導師の量産だって可能になるから。

 

 わたしたちは、時空管理局か、違法組織の手によって作られた高町なのはのクローンなのだと、そう納得するのに時間は掛からなかった。

 

 姉妹たちはみんな無口で、感情に乏しい。生まれたばかりで情緒教育もろくにされずに育ったから仕方ないのかもしれない。わたしの中にも戦闘用の知識があって、魔導師としてどう戦えばいいのか、知識が最初からインプットされている。

 

 それに、今の状況にあまり動揺していないのは、たぶん感情を司る部分にリミッターが付いているからだとも思う。そうでもなければ、小学生くらいの生まれたばかりの子供たちが冷静で居られるわけがない。みんな、無表情で、淡々と命令に従うだけの存在だった。

 

 イレギュラーな存在は、わたしだけ。だから、頭の中ではどうやって状況を乗り越えようか考える。出来る限り姉妹たちを助けつつ、無事に脱出する方法はないか考えようとする。だけど、それもすぐに始まった訓練のせいで徒労に終わる。

 

 戦闘訓練は、別の意味で過酷だった。

 

 別に同じ顔の姉妹たちで殺しあえとか、性能を試すためにガジェットと戦えというわけではなかった。ただ、ほんのちょっとしたシミュレーターを受けさせるだけ。頭を覆うような端末を被せられて、ベッドに寝かされて。それから手足や胸やおなかに、何かの計測器具を付けられる。

 

 けど、そのシミュレーターが問題だった。

 

 オリジナルの高町なのはが解決してきた事件を追体験するという内容で。それが休むことなく続けられる。

 

 ある時は、覚醒したジュエルシードモンスターになぶり殺しにされた。レイジングハートも、ユーノ・スクライアもいない状況で、様々なジュエルシードモンスターと対峙させられる。戦わせられる。

 

 シミュレーションで感じる感覚は現実と変わらなくて、傷つくたびに痛くて、泣きそうになって。それでも逃げられずに立ち向かわなければいけなかった。逃げても殺されるだけだからだ。

 

 ある時はジュエルシードを狙ったフェイト・テスタロッサと戦って、返り討ちになった。為す術もなく殺された。プレシア・テスタロッサと対峙して雷の魔法で焼き殺された。あるいは介入してきた執務官と武装局員たちと戦闘になってしまい。彼らに殺された。

 

 しかも、なまじ高町なのはの知識と経験。それから僅かな記憶と思い出が残っているから性質が悪い。ジュエルシードモンスターとの戦いで、海鳴の町が壊されて、家族や友達が巻き込まれるのを見るたびに、高町なのはとしての心が張り裂けそうになる。

 

 目の前で家族が死んだときは、目の前が真っ黒になった。それでも、この悪夢みたいなシミュレーションは終わらない。まるで、出来の悪いゲームみたい。死を強要される理不尽なゲーム。

 

 シミュレーションが終わったとき、何人かが嗚咽を漏らしていた。泣いていた。あるいは怒っていたかもしれない。悔しそうな顔をしていたかもしれない。苦しそうな顔をしていたかもしれない。

 

 でも、本当に悲しかったのは、何人かの姉妹が廃人になってしまった事だった。あまりにも過酷な追体験に心を壊してしまった。どんなに恐怖とか悲しみとか、感情を抑制されていても、子供の感受性豊かな心は失われてはいない。

 

 高町なのはの心と記憶を持たされた不完全な子供たちだから、尚更に耐えられなかったに違いない。

 

 わたしも、目の前で高町家のみんなを、家族を、学校の友達を守れなかった。失ってしまった。そして、なのはとしての記憶と思い出が、会ったこともない知っているだけの人が死ぬたびに、心が張り裂けそうになると。苦しんで泣くのだ。

 

 それは、自分が何度も死ぬよりも辛くて、苦しくて、悲しいことだったに違いない。なまじ、高町なのはの精神に似せられた部分があるせいで、余計に辛く感じるから。

 

 そして、わたしたちに不屈の心なんてない。主人公のようにどんなに理不尽な目にあっても立ち上がるような強さも、同じような魔法の才能も、機転と戦術で物事を覆すような発想も何もない。

 

 ただ、普通の人よりも魔力と魔法の資質が優れているだけの女の子。ただ、感情を凍りつかせた子供でしかない。

 

 その日、何人かが廃棄処分されたみたいだった。腕に刻印された番号で誰かを管理して、判別しているのだけど。整列した時に数字が欠けていたから気づいてしまった。見覚えのある番号が明らかに足りていない。

 

 でも、わたしたちにそれを気にする余裕も、状況を覆すような力も何もなかった。

 

 ただ、日々を過ごすだけで精一杯だった。自分の無力さに涙を流して、枕元を濡らすだけだった。

 

 あの追体験のせいで、逃げる気力は毎日のように削がれていく。そして、心を壊したわたしの姉妹は消えていき。また、補充されていく。

 

 そして、徐々に戦闘用に調整された姉妹が増えていく。同じ顔をしたなのはのクローンだけど、より無表情に、より人間らしくなく。より機械的になった子供たちが。大抵は培養槽の段階で調整されるけど。中には腕に痛々しい注射の跡があって、魔力とか身体能力を薬で強化された姉妹もいた。

 

 それでも、逆らう気力はなくて、日々が過ぎていく。

 

◇ ◇ ◇

 

 生まれてくる高町なのはのクローンたちに、偶に個性がある子が生まれてくる。それは研究所からすれば、いわゆる失敗作。だけど、わたしにとっては心を励ましてくれる存在だった。

 

 研究所の中はアンチマギリングフィールドと呼ばれる対策がしてあって、魔法を使うのはとても不便だった。それでも、姉妹の皆と念話くらいは使えるので、シミュレーターとか実験が終わって休んでいる時間に、内緒話をする。夜の寝る前とかにちょっとしたお話をする。

 

 みんなで励ましあって、寂しい夜を凌いでいる。研究所もいちいち個室で管理するのは贅沢なのか、ある程度まとまった人数で大部屋に押し込まれるから、ひとりぼっちの寂しさはあまり感じない。

 

 念話を使うのは研究所の人たちに話を聞かれないようにするため。わたしたちに感情が芽生えて、余計な知恵をつけ始めたら、きっと記憶をリセットされるか、廃棄処分されるに決まっているから。

 

 わたしにはちょっとしたレアスキルがあって、似た形質のリンカーコアを持つ人とネットワークのような物を構築できた。リンクとでも言えばいいのか、それはなのはの姉妹たちの確かな繋がりとなって、皆を支える絆となっている。

 

 わたしの管理ナンバーは十二で。十二番の高町なのはって呼ばれていた。十二番の子とか、一番しっかりした子とかそんな感じ。いつのまにか年長者扱い。これでも、研究所ではちょっとした古参になってしまった。といっても半年も経ってないが。

 

 一桁ナンバーの子もいるけど、とっても無口な子になってしまった。研究所の理想とするような子で、戦闘においては一番優秀な成績を修めている。その分、感情表現がより乏しいので、本当に人形のような子になってしまった。お話しても返事をしてくれないけど、ネットワークの繋がりを維持してくれているので、嫌われているわけではないみたい。

 

 わたしはネットワークの繋がりを利用して、姉妹たちを励まし続けている。心が挫けて、心を壊してしまったら、研究所に処分されてしまうから。少しでも長く生きてほしいから。明日に希望はあるって信じたいから。姉妹たちを励ます。

 

 こういうとき、前世の記憶に感謝している。もう、ほとんどなのはの記憶と経験で塗りつぶされて、趣味趣向もオリジナルと似通ってしまったけれど。残っているものはたくさんあった。

 

 高町なのはのクローンであるわたしたちは、寂しいのが苦手で、だからお互いに励ましあって日々を過ごしていく。時には家族の話とか、知らないけど美味しいと思うおかーさんのシュークリームの話とか。

 

 あと、わたしは前世の記憶の残滓から、みんなの知らない世界の話とか、日常生活とかの話をする。微かに覚えている絵本のお話も好評だった。時には即席で物語を考えて、寝物語の代わりに話したこともあった。

 

 特に歌の記憶が残っていたのは幸いだった。心に残る歌の記憶を、ネットワークで歌って流して、それで姉妹たちをよく慰めた。Innocent starterとか、ETERNAL BLAZEとかどっちかと言えばフェイトちゃんが歌うような曲だけど、それでも心の励みになっているみたい。

 

 特に皆がお気に入りなのは、ねこねこロックンロール。辛い時も、悲しい時もみんなでにゃーにゃー歌って明日の不安を紛らわせるの。鋼鉄艦隊グレートガイア・鋼の戦機・グレートガイアも人気。思いっきり叫ぶことで、悲しい気持ちを紛らわせてた。

 

 わたしが、ネットワークで歌うようになってから、廃棄処分される子はほとんどいなくなった。それが嬉しくて疲れていても毎日続けている。

 

 そして、最後に眠る前の子守歌として『守りたい世界』を歌う。こんな明日も見えない日々の中でも、わたしたちが大切なことを見失ってしまわないように。大切なことを覚えていられるように。

 

 高町なのはの記憶と経験をシミュレーションさせられたおかげで、口調とか仕草とか、オリジナルの高町なのはに似ていってしまう。だから、わたしの前世?の記憶みたいなものはすっかり抜け落ちちゃったけど。

 

 それでも、大切な想いだけは、忘れたくないと思ったから。

 

 たぶん、わたしたちが何らかの方法で支えあっていることは、研究所の人たちも気づいている。それでも、見逃しているのは、廃棄処分する必要がなくなって、戦力として失う無駄がなくなるからだと思う。研究員の一人が残っているクローンの人数を確認していたから。たぶん、目覚めてない姉妹を起こして補充しているんだと思う。

 

 わたしたちも生み出すのに、コストがいくらかかっているのか知らないけど。そう簡単に廃棄してしまうほど容易い存在じゃないと思いたい。

 

 明日も見えない日々はまだまだ続く。

 

 それでも、わたしたちは生きていたい。

 

 ある子は、学校に通ってみたいと言った。ある子は、家族に会いたいと願った。ある子は、友達とお喋りしたいと言った。ある子は、美味しい思い出の料理が食べたくて。ある子は、魔法で空を自由に飛んでみたいと語った。

 

 わたしは、翠屋のシュークリームが一度でいいから食べてみたい。

 

 そんな事を、ささやかな夢を希望に変えながら、わたしたちは生きている。

 

 きっと明日は来ると信じている。

 

◇ ◇ ◇

 

 ある日、研究所のアンチマギリングフィールドの電源が落ちた。システムもダウンして、予備電源に切り替わり、非常灯が点灯し始める。

 

 わたしはどうすればいいのか分からずに戸惑っている姉妹たちに提案して、研究所の制圧に乗り出した。姉妹たちで研究員たちの独り言とかを共有して、ここの防衛戦力が少ないことは確認している。

 

 今までずっと従順な振りをして、命令に大人しく従って、人形のふりをしてきたから。わたしたちの反乱は予想外だったみたいで、ほどなく制圧できた。ガジェットも出てきたけど一型ばかりで、脅威の三型はいなかったのが幸いだった。

 

 デバイスがなくても、ある程度の砲撃は使えたし、姉妹で協力し合えば何とかなった。特にネットワークの存在のおかげで、みんなで意思疎通ができて、魔法の負荷も分散できるのがとても大きかった。

 

 研究員たちは殺さずに制圧した。怒りとか、復讐心よりも、明日が来るのかどうか不安のほうが大きかったし、別に人殺しがしたいわけじゃないから。恨みとか憎しみみたいなものもあるかもしれないけど、今は自由になりたい気持ちのほうが大きかった。

 

 捕まえた研究員たちを一か所に纏める。そして、主任らしき人物とか、偉そうな人とか、わたしたちに同情してくれそうな人とか。とにかく情報を集めることにした。ここが何処で、今が何年で、どこに何があるのか知ることは重要だった。

 

 何人かが、事情を話してくれた。もちろん脅された恐怖とか、自己保身のためだろうけど。それに、勝手に殺されると思って怯えてるだけだったし。とにかく情報は聞けた。

 

 ここはミッドチルダの郊外にある研究所で、電源が落ちたのは都市の電力を賄う発電施設が落ちたのではないかと言われる。年月から計算すると、ストライカーズのJS事件が起きている最中らしい。

 

 だけど、いらない情報も教えられてしまった。その言葉はわたしたちを絶望させるに充分すぎた。

 

 わたしたちの寿命は最低でも一か月はないこと。長くても数か月しか生きられないこと。

 

 元々は戦闘データと稼働データを収集して、それをより完成度の高いクローンに情報を移して、オリジナルに近づける計画だったこと。長く生きて余計な知恵を付けないように、最終的には三年程度の使い捨てにするつもりだったから、テロメアが短くても問題ないこと。そして魔法を使えば使うほど衰弱してしまうこと。だから、シミュレーターでの訓練を受けさせられていたらしい。

 

 とにかく要らないことをべらべらと喋ってくれたので、一桁ナンバーの姉妹が、彼を黙らせてしまった。魔法で昏倒させて失神させる。彼らの所業を考えれば本当は殺してしまってもいいのかもしれない。けど、高町なのはの優しい心がそれをさせなかった。誰もが姉妹を人殺しになんてさせたくなかった。

 

 とりあえず、研究者の全員を失神させて、魔法による拘束から、物理的な拘束に変えておいた。姉妹を拘束する道具には事欠かなかったから。

 

 誰もが暗い顔をしていたし、わたしもどうすればいいのか分からなかった。ただ、言いようのない不安だけが漠然と残ってる。そんな中で、誰かが言い出した。お家に帰ろうって。地球に、海鳴の町に帰ろうって。

 

 ただ、明日を迎えることだけを考えて、人生の夢とか希望もなかったわたしたちは、とりあえずその言葉に従うことにした。

 

 研究所の電源が落ちて、培養槽が維持できず。目覚めさせられた数人の幼い姉妹たちを連れて、わたしたちは初めてミッドチルダの外に出た。百数十人近い高町なのはのクローンが、姉妹たちがいた。

 

 全員で簡易デバイスを拝借する。訓練用のだが基本的な性能に問題はない。レイジングハートを模して開発されたストレージデバイスはわたしが使うことになった。ネットワークのレアスキルを持っているわたしが使ったほうがいいと、皆は判断したらしい。

 

 同じ姿。病院着みたいな衣服を着た同じ顔をした裸足の少女たち。誰かが目撃すれば混乱することは間違いないだろうと思ったけれど。研究所の外は孤島で、周囲を海に囲まれているようだった。

 

 幸いなことにわたしたちは全員が空を飛べる。だから、行こうと思えば脱出は簡単だった。問題はどこに行けばいいのか。逃げたとして何をすればいいのか。海鳴に帰るにしても、転移しなければならないし、座標がわからなければ地球には帰れない。誰もが地球の座標なんて知らなかった。

 

 その時、わたしのネットワークが誰かの声を拾った。遠く離れていたので受信するのが精一杯だったけど、確かに聞こえた。

 

 わたしたちの誰よりも大人びた声。わたしたちのオリジナル。エースオブエースと呼ばれる本当の高町なのは、その人。

 

 わたしたちは、声にする方向に導かれるままに空を飛んだ。少しでもつながれば居場所と方角がわかるようになるのは便利だった。バリアジャケットを展開し、飛ぶのが不慣れな子を支え、目覚めたばかりの幼い姉妹を抱きかかえながら、わたしたちはミッドチルダの首都、クラナガンを目指して飛ぶ。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 クラナガンに着いたとき、そこは戦場の真っただ中だった。

 

 記憶にあるジェイル・スカリエッティの反乱を思い出す。目の前でガジェットと管理局の魔導師が戦っている光景。どうすればいいのか迷う中、数人の姉妹が駆け出した。

 

 わたしたちは今までの高町なのはの記憶と経験を追体験させられていたから、目の前に襲われている人たちがいて、放っておけなかったのだと思う。それに、姉妹たちには、ミッドチルダを守らなきゃいけない使命感のようなものが芽生えてた。たぶん、調整されてる時に植え付けられた感情の一つなんだろうと思う。

 

 とにかく、ガジェットに襲われる人たちを放っておけなくて、戦える子は全員で加勢した。どこか幼いエースオブエースを思わせる容姿に驚かれたり、杖を向けられたりもしたけど、強引に戦って、助けて、割り込んで。夢中になって人助けしているうちにクラナガンでの戦いは落ち着き始めていた。

 

 白い髪のおじさんにお礼を言われた。事情聴取も受けそうになったが、空での爆発音を聞いて、わたしたちは空を見上げる。みんな、それを見て驚いていたが、私だけは落ち着いていた。

 

 聖王のゆりかごと呼ばれる巨大な戦艦。いま、あの中でオリジナルの高町なのはが戦っているに違いない。声が聞こえてこないのはアンチマギリングフィールドによって念話が遮られてるからだろうと思う。

 

 フェイト・テスタロッサはスカリエッティの研究所を自爆させないために奮闘しているかもしれない。八神はやてはきっと空の上で、無数のガジェットと闘いながら指揮を執っているだろう。そして、高町なのはは最愛の娘を助けるために、今も戦っている。

 

 声が聞こえた。高町なのはと、他数名が聖王のゆりかごの中に取り残されているらしい。救助のためにスバルとティアナがヘリからバイクで突入するとのことだった。

 

 そんな中で聖王のゆりかごが煙を噴いて落下し始める。内部から爆発しているように見える。そして、進路をこちらに向け始めた。

 

 念話で、どうやらスカリエッティの最後の悪あがきらしいことを知らされる。二つの月の公転上に到達できなければ、あらかじめ仕組まれていたプログラムに従ってクラナガンに落ちる予定だったらしい。その為に、アインヘリアルも沈黙させたらしいことも。

 

 白い髪のおじさんが避難勧告の指示をとっさに出し始めた。管理局の局員たちも陸、海問わずに動いていく。事情はともかくキミたちも避難したほうがいいと言われたが、わたしたちは姉妹たちと顔を見合わせるだけで動こうとしなかった。

 

 頭の中で今から避難しても間に合わないことは誰の目にも明らかだと結論する。あれだけの質量が落下すれば、クラナガンに甚大な被害が出るし、避難したとしても今からでは間に合わない可能性が高い。

 

 ひとつだけ可能性があるならば、ゆりかごの落着前に空中で破壊してしまうことだ。管理局の艦隊も向っているが、アルカンシェルを地表に向けて撃つわけにもいかないだろう。純粋な魔力砲撃で破壊する必要がある。それも、只の砲撃じゃなくてトリプルブレイカー級の強力なやつを。

 

 だけど、オリジナルの高町なのはは疲弊していて、すぐに砲撃を撃てる状態じゃない。八神はやてもゆりかご内部で、ヴィータと共に孤立している。そして、こちらに迅速で向かっているかもしれないフェイト・テスタロッサを待っている時間はない。

 

 でも、ここには私たちがいる。高町なのはのクローンである私たちは、当然スターライトブレイカーを使える。魔法だってオリジナルには劣るが、ネットワークの力で制御と負荷を軽減して、魔力を一転に集中させれば、トリプルブレイカー以上の強力な収束砲撃魔法が放てるはずだ。計算上は。

 

 だけど、そうしたら、それは私たちのほとんどが死んでしまうということだ。あの研究員の話が確かなら、わたしたちは魔法を使えば使うほど衰弱する。現に何人かの子は顔色が少し悪いみたいだった。他の姉妹たちに支えられて、座って休ませている。

 

 皆で顔を見合わせる。たぶん気持ちはみんなひとつだと思う。ネットワークで繋がっているから、護りたいという暖かい想いと、この危機から逃げたくないという不屈の決意がネットワークを通して皆からあふれてくる。

 

 示し合わせたように、姉妹みんなで頷く。

 

 まだ、目覚めたばかりでどうすればいいのか分からない幼い姉妹を白い髪のおじさんに預ける。もしかしたら、この子たちは生き残れるかもしれない。それに、まだ世界を知ったばかりの末っ子たちを巻き込みたくはなかった。

 

 どこかきょとんとしている妹たちに、十二番のわたしは姉妹を代表して言った。お願いだから、良い子にしてねって約束と。それから皆の願いを代わりに叶えてくれたら嬉しいってこと。その代わり、明日の未来を掴み取ってきてあげるって約束する。ぼんやりと頷かれる。何人か、勘の良い子がいてちょっと泣かれてしまったけど。まだ、感情が抑制されてないから素直に泣けるんだと思うと、ちょっとだけ嬉しく思う。

 

 わたしたちはあんまり泣けないし、いまでもうまく笑えなかったから。

 

 何をするんだと告げる白い髪のおじさんに、幼い姉妹たちをお願いする。周囲の止める言葉を無視して、わたしたちは一斉に杖を構える。わたしたちで落ちてくるゆりかごを迎撃すると告げて。

 

 空を飛んでいる余裕はない。本当なら空中で行ったほうが、スターライトブレイカーは安定するのだが、途中で落下してしまったら本末転倒だから。

 

 姉妹たちみんなで声を合わせて呪文を唱える。

 

 それは皆の決意の証。

 

 不屈の心はなくても、オリジナルのような強さはなくても、みんなで支えあえばきっと大丈夫。

 

 風は空に、星は天に、そして不屈の魂をこの胸に――

 

 星よ集え、全てを撃ち抜く光となれ――

 

 クラナガンの街の空に膨大な光が収束する。戦場となっていた街から、空から、使い終わった魔力を集めて収束させる。

 

 だけど、チャージに時間が足りない。

 

 その時、幾条もの光跡が空を駆け抜けていく。ネットワークを通して繋がってくる他の姉妹たちの声と想い。他の研究所の高町なのはの、クローンの姉妹たちが、至る所から駆けつけてきたようだった。

 

 魔法が得意な子は、収束とチャージに協力してわたしの負荷を軽減してくれる。足りない部分はその身を魔力そのものに換えて、大気に光の粒子を残して消えていく。そして、光の残滓はスターライトブレイカーの一部となって還元される。

 

 魔法が不得意な子は、少しでもゆりかごの落下を食い止めようと、ゆっくりと下降してくるゆりかごに張り付いて、少しでも押し返そうと踏ん張る。進路を定めてしまえば、ゆりかごはクラナガンに向けて一直線に加速する可能性がある。それを少しでも抑えようとする。

 

 脱出したオリジナルの高町なのは一同の乗ったヘリと、駆け付けようとするフェイト・テスタロッサを離れさせる子もいた。わたしが、迷いなく撃てるように。

 

 あまりの事態に待ってほしいと声を掛けようとするのに、思うように声が出ない。ただ、空しく手を伸ばして、悲しそうに顔を歪めることしかできない。

 

 今動いたら、姉妹たち全員の気持ちが無駄になる。それに、限界を超えたスターライトブレイカーの負荷はあまりにも凄まじく気を抜けば今にも気絶してしまいそうだった。

 

 ふらついて倒れそうになる身体を、他の姉妹たちが支えてくれる。霞む視界で目を向ければ、一桁ナンバーの子が私に抱き着いて支えているようだった。今にも死にそうな顔をしていて、苦しいのにそれでも笑顔を絶やしていなくて。あんなに感情表現に乏しかったのに、ピンチのときにふてぶてしく笑っていて。

 

 だから、わたしもつられるようにして笑ってしまった。でも、周囲で倒れ伏している姉妹を見ては、お互いに涙を流してしまう。ネットワークにつながっている子たちの意識が一つ一つ消えていくのが分かる。みんなが後を託して消えていく。

 

 それから、皆で皆を励ますために『守りたい世界』を歌う。きっとわたしたちの頑張りは無駄じゃないって。みんなで声を合わせて歌っていく。

 

 みんなの、想いが、歌を通して流れ込んでくる――

 

 怖いよ。本当は死にたくないよ。

 

 わたしも同じ気持ちだよ――

 

 ゆりかごを支えていた子たちが全員、光の粒子となって消えた。

 

 生きて、いたいよ!

 

 わたしも、みんなと生きていたかったよ――!!

 

 わたしに魔力を供給し続けていた子たちが全員、光の粒子となって消えた。

 

 でも、守りたい世界があるから。明日を生きて笑っていてほしい。大切な人たちがたくさんいるから。

 

 だから……!!

 

 最後に、隣で支えてくれていたお姉ちゃんが消えた。

 

 支えを失って倒れそうになるのを気合で耐える。駆けつけた幼い姉妹が、わたしを支えてくれる。

 

 高町なのはの、魔法に、砕けないものなんてない。

 

 絶望なんかに負けない。

 

 いつだって、希望の明日は、信じた未来が、必ずくるんだからーーーっ!!

 

 ありったけの想いを込めて、叫ぶ。すべてを解き放つように。

 

 

 

 

「スタァァアライトっ! ブレイカァァァァァーーー!!」

 

 

 

 

 

 

 そして、消え行く意識の中で、思うんだ。

 

 フェイトちゃん大丈夫かな。

 ヴィータちゃん無理してないかな。

 はやてちゃん、抱え込んで悩んでないかな。

 

 スバルとティアナは無茶してない? キャロとエリオは大丈夫?

 

 アリサちゃんとすずかちゃん。元気にしてるかな。

 ユーノくんは、クロノくんは、頑張ってるのかな

 

 本当のわたしは無事なのかな。

 ヴィヴィオはひとりで泣いてない?

 

 おとーさん。おかーさん。おねーちゃん。おにーちゃん。

 皆に会いたかったな。

 

 わたしの大好きなひとたち。

 どうか元気で、健やかでありますように。

 

 そして、先に行って待っている姉妹たち。

 みんなが微笑んで、頑張ったねって手を差し伸べてくれてる。

 

 わたしは、まるで夢でも見てるみたいにその手を取って、優しい夢を見るための眠りにつく。

 

 わたしは、皆を護ることができたのかな?

 

 分からないけど、きっと大丈夫だよ。

 

 うん、そうだね。きっと大丈夫。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翠屋のシュークリーム。

 

 姉妹みんなで食べてみたかったなぁ――

 

 

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