掌は軽い凍傷で、体全体は幼い頃に石の床で薄い毛布も無しに寝かされた時の様に冷えきっています。
それよりも問題なのはロキ・ファミリアの一級冒険者の前で大型モンスターを倒してしまった事ですね。
いや、相手が強い上に知能も高かった故の油断に漬け込ませてもらっただけで、敵扱いするに値しない雑魚と認識されていなければ途中で叩き落とされていましたよ?
つまりは色々と含めてお師匠様に怒られる案件な訳で……。
おのれ、ベル・クラネル!(八つ当たり!)
「お戻りになる前に何とかご機嫌を取る準備を整えなければ……」
「おーい! こっちの手当てを頼むぜ、嬢ちゃん」
「あっ、はーい! ……今はお仕事お仕事っと。今後の為にも此処との繋がりは重要ですからね」
少し無茶をしたせいか痛む足を動かして怪我人の治療をして回る。冒険者にとって中継地点であるリヴィラは必須な場所、故に此処での立場を確立しておけば他のファミリアへの牽制にもなるのですよ。
こういうならず者気触れにとって面子は大切ですからね。恩を売っておけば、私に手を出すと此処の住人の反感を買うと思わせるだけで十分。
幸いにも死人は居なかったので廃材を添え木にしたり怪我を消毒して包帯を巻いたりしていけば応急処置は問題無く進む。
さてと、こっちは良いとして、あの女を追跡しに行ったお師匠様はいつ頃戻って来るのでしょうか?
笑顔のまま怒る恩人の機嫌が治った状態で戻って来て欲しいと祈るのですが、地上に降りた神様って知識や知能以外は頼れないので無駄でした。
寧ろうちの主神、商品を考えなしに配り歩くとか商売舐め腐ってましたし、団長も主神目当てのお客様を追い返すとかの有り様だし。
「ぶっちゃけ赤字ですね」
多分地上に戻る事になるでしょうし、私が不在の際のお店を考えると……いや、売れた恩やロキ・ファミリアへの売り込みを考えれば……はあ。
田舎での悠々自適な医者生活は何時になったら手に入るのやら。さっさと次のランクアップをしたいのですけれどね。
……あっ、ローンも未だ残ってましたっけ。
「あらあら、まあまあ、こんな物が存在するなんてビックリです」
逃げ出した赤い髪のお嬢さんを追ってたどり着いたのはどう見ても人工物な通路、ダンジョンとは不思議な場所と思っていましたけれど、此処は少し違うみたいですね。
結局例のお嬢さんは迷路になった此処で見失ってしまいましたけれど、構造を把握しつつ出口を探すとしましょうか。
「まさか閉じ込められるだなんて……」
誰にも私の姿は見えない、そんな油断はリリという例外が居ますので捨て去って慎重に進んだ結果ですが、中に入った瞬間に扉が閉まり、通路も至る所にオリハルコン? の扉で塞がれた状態。
時折姿を見せる怪しい人達が目玉の様な物を翳して開けるのを滑り込み、距離を取って追跡する。
目指すのは上、人が居る以上は物資の補給は必須ですし、どうも人目を避けたいご様子ならば地上に隠し通路が……おや?
「少し違うみたいですが同類の様ですね」
鼻腔を擽る酒の匂いに思い出すのはリリが以前所属していたファミリアで配られていた人を狂わせる酒に似た香り。
咄嗟に袖で口元を覆って物陰から様子を伺えば怪しい二人組、片方は後ろ姿ですが、こっちを向いているフードに仮面という怪しい人。
その怪しい人が仮面を外そうとし、黒い髪と長い耳が見えた瞬間、背中を向けていた男性が此方を振り向いた。
「……おや? 誰か居ると思ったのだが。何か気配は感じるかい?」
「イエ、全ク」
っ!? 私が見える? いえ、違いますね。あの男神、私の存在を感じ取った!
咄嗟に反転して逃走、街中でも私の姿が見えずとも誰かが居るのを何となく感じ取って首をかしげる神様は居ましたが、まさかこんなタイミングで出会うなんて。
待避を優先したから後ろ姿と声しか分かりませんでしたが、それでも十分な収穫でしょう。この様な怪しい場所で何かをやっている神が私を知覚可能だと知れたのですから。
「……並んでのお出かけは控えた方が良さそうですね」
お出かけは楽しいのですが、あの神をどうにかしない内は文字通り外では距離をおく必要があるでしょう。
柱だった頃と違って任務も研究もありませんから自由な時間が増えましたし、弟子との時間を楽しみたかったのですけれど。
「まあ、この様な厄介なネタがある以上、稽古はもっと厳しくしませんと」
あっ、ちょうど地上に向かうらしい会話をしている人達が居ますね。ちょうど良いので同行させてもらいましょう。
「蟲の呼吸 蜻蛉ノ舞 複眼六角!」
リヴィラの街の一件から少し経ち、前回中断したロキ・ファミリアとダンジョンでの長期滞在、ロキ・ファミリアからはサポーターの方が一人増え、リリも少しお願いをして同行者を追加させていただきました。
「炎の呼吸 壱ノ型 不知火!」
ええ、ベル・クラネル……一応ベル様と呼ぶ事にした彼です。地上に戻った後、今後の為にと引き合わされたのですが、此処で会ったが百年目! 目を付けられる原因となった彼に注目を分散させようと一緒に来てもらいました。
常中こそ習得していませんが、軽く滲ませた血を塗った刀を包む炎は炎の呼吸と組み合わせれば中層のモンスターすら容易に仕留めてしまいます。
あのパワーはリリには無いのがちょっと羨ましいですね。
「ベル様、今回はあくまでサポーターですし、あまり前に出ないようにお願いします」
「う、うん!」
そう、今回ベル様にはリリのサポーターをお願いしています。ガン・リベルラの頭を銃で撃ち抜き、前に出過ぎなのを注意するのですが……うーん。
「どうもサポーターをやってもらうというのは妙な感覚ですね」
休憩中、リリ達の取り分であるドロップアイテムを検品しながら呟く。
これは質がいまいち、こっちは新薬の材料の候補で、これは……。
「へー。リリってサポーターを雇ってなかったんだね」
「ミアハ・ファミリアは弱小ですし、リリも本格的にダンジョンには潜りませんでしたからね。だからこうしてご一緒させてもらえるのは感謝していますよ、ティオナ様」
「気にしなくて良いよ! それよりもベル、前に見た時よりも強くなったね。あの魔法もモンスターだけ焼いてたし驚いちゃった!」
「わっ!?」
そんな呟きに反応したのはティオナ様、どうもミノタウロスをLv.1で追い詰めたベル様を見て気に入ったらしく、アマゾネスの距離感のおかしさで密着してますし。
けっ! お似合いじゃないんですか、爆発すれば良いのに。
あー、リリにも尻に敷けて家事万能な年下の殿方が見つかれば良いんですけれど!
え? ベルも年下? なんか恋愛対象とは違うんですよねー。
ベル君の魔法は?
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原作通り
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何でお前は燃えてないんだ
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オリジナル