僕のヒーローアカデミア~ビヨンド・ザ・リュウガ~   作:魔女っ子アルト姫

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番外編、リューキュウルート。

今回の番外編において、初期に葉隠さんが怖がり話しかけなかった場合というIFになっております。なのでかなり異なっている所があるのでご了承ください。


番外編
二つの龍が手を結ぶ日


「ねえねえ二人とも、なんでリュウガ君って二人に対してちょっと距離を置いてる感じなの?不思議だね~」

「えっと、それは……」

「ケロッ……」

 

それはインターン時に聞かれた事だった。インターンとしてリューキュウの事務所にいる時、麗日と蛙吹はねじれからそんな事を問われた。リューキュウから直接誘いを受けて同じ事務所でインターンを行っている龍牙、だが彼は何処か二人に対して距離を置いているように思える。何処か大人しく、線を引きそこから先へと踏み込まないようにしているような印象を受けている。彼を見つけたら取り敢えず確保して撫でるねじれはそれを特に感じた。

 

「それは……ウチらが悪いんです……」

「はい、今思えば本当に悪い事をしちゃって反省してるんです」

「何々何があったの?」

 

バツが悪そう且つ酷く落ち込んでいるような顔つきになってしまった二人に対してねじれは詳しく事情を聴きだしてみた。それはある意味致し方ないとも思えるような事だった。

 

『だああああぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!!!』

 

入学直後の個性を含めた上での身体能力や個性の力を確かめる為のテスト、そこで龍牙は皆の前で個性を使用した。その時、A組の皆はその姿を酷く恐れてしまった。誰も声を掛ける事も出来ずただただ委縮してしまった。相澤がその場の進行を行うまで、誰もが龍牙の恐ろしさに飲まれていたのだ。そして龍牙はその時から、全員と距離を置くようになった。

 

唯一仲良く出来ているのは常闇と焦凍程度でその他のメンバーは未だに上手く馴染めていないような状況が続いている。仲良くしようとする者もいるが龍牙の方が遠慮をするような形で距離を取り続けている。過去の経験とその時の状況と瞳が、余りにも似すぎていたのが原因だった。

 

龍牙にとって実の親に捨てられる事になった忌まわしい過去の出来事と、あの時の状況は彼にとってあの時の事を想起させるには十分過ぎた。故か皆に苦手意識を持ってしまったのと同時に怖がらせない為に自ら距離を置くようになってしまった。

 

『何であの時に何も言わなかったって今でも後悔してるんです……龍牙君、常闇君と轟君とだと本当に楽しそうなのに、ウチらと一緒だと……』

『ヒーローを目指してるのにあんなことをしちゃったなんて……本当に、本当に……』

 

二人の言葉は恐らくA組の殆どが持っている総意に近いような物、だが彼らの恐怖も理解出来る物。それほどまでに龍牙の姿は恐怖を掻き立てられる、本能的に恐れてしまう類の物なのだ。ある意味何も思わないねじれが異常とも言える。

 

「―――っていう事らしいよ。不思議だね、そんな龍牙君って怖くないのにね」

「まあそれは色んな経験をしたからだと思うけど、納得はしたわ。それで龍牙君があんな目をしてたのか、分かったわ」

 

今回の事を聞きだしたのはリューキュウからの指示、それを報告をするねじれの言葉を聞きながら同時にリューキュウは納得がいった。ヴィランの確保などで連携を取る際、彼女らとなんらかで接する時に龍牙が何処か辛そうな瞳をする意味を事情を把握する者として。彼はトラウマに等しい過去を想起させてしまう彼女らと接する時に沸き上がるものと必死に戦っていたのだ。表に嫌悪感などを出さないように必死に……。

 

「有難うねじれちゃん、二人のフォローは任せてもいいかしら」

「うん任せて~。後輩のお世話も先輩の役目だもんね~♪」

 

と言った風に先輩として接する事に何処か嬉しさを覚えつつも歩き出していく姿を見つつも龍牙の事を考える。彼とてきっと分かっている筈、仲良くしようと接してきてくれることは重々理解しているだろうがそれ以上にトラウマを刺激されて上手く接する事が出来ない。自分を守る為でもあるし、彼女を守る為にも一歩引いている。同時にそれは凄まじい苦しみとも戦っている。

 

「変わろうとしても変われない……か」

 

席を立って龍牙の元へと向かう事にする、今自分にしてあげられる事、味方になると誓ったのだから精一杯に彼を支えてあげる為に行動をしようと思ったリューキュウは作業を行っている龍牙と対話をする事にした。

 

「今日もお疲れ様リュウガ、紅茶でいいかしら」

「いえお気遣いなく」

「遠慮しないの、子供は大人に甘えるのも仕事よ」

 

丁度作業が終わった龍牙を誘って事務所内にある自分の部屋へと案内した、自分の部屋と言っても私室ではなく事務所にある自分の部屋、執務室のような物だが……。そんな龍牙は普段通りにしながらも何処か暗い表情を隠すように振舞っている。そんな龍牙に素を出しやすいような環境を作ってあげながら紅茶を差し出す。

 

「正直言って貴方がうちに来てくれて本当に助かってるわ。このままサイドキックとして卒業後、入らない?」

「リューキュウさんにお世辞でもそう言って貰えて光栄です、インターンに来て一番嬉しいかもしれません」

「フフフッこれでも本心よ、根津校長とオルカにはこっちから交渉させてもらうわね」

 

そう言いながら紅茶を飲むように勧めてようやく飲み始める龍牙、暖かな紅茶とその香りと味に何処かホッとして一息ついてしまうが直ぐに平静を装うとする姿に何処か悲しさを覚える。彼にとって何かを重ねるのがある種当然になってしまっているのかもしれない。

 

「インターンには慣れたかしら、色々慣れない事もあるでしょ」

「ええまあ……でも師匠との修行に比べたらそこまで苦じゃないですよ」

「あれと比べられたら大抵の事は楽だと思うわよ……」

 

そんな風に雑談を交えながら距離を測るリューキュウ。何処か龍牙も素に近い対応をしているように思える、彼にとっては同年代よりも矢張り年上の方が接しやすいのかもと思いながらも本題に入ろうとカップを置きながら彼の隣に座り直す。

 

「ねぇっリュウガ、無理をしているならもうしなくていいのよ」

「無理なんてそんな……俺は全然」

「ウラビティとフロッピーを前にしてもそれが言える?」

 

そう問いかけた時、動きを止めてしまう龍牙。僅かな沈黙の後に言えると答えるが振り絞るように言葉を出している。それを見て改めて龍牙が抱える物が重いと強く理解する。

 

「貴方が二人に対して如何しても距離を置いているのは分かってたわ、何か事情があるなら聞くわ。私としても何か問題を抱えてるのにそれを放置するっていうのは見逃せない。貴方さえよければ力になるわ」

「……いえ、これは俺自身の問題です。俺も何とかしたいとは思ってます、これは俺自身で何とかしないといけないんです」

 

龍牙も何とかしたいと心から思っているのだろう、だがそれが中々上手くいかない。彼の中でも一線を置いて接するのが苦心の末に出した妥協案のような物。自分を守る為にもあれが譲歩した結果でもある。だがリューキュウはそっと龍牙の肩に手を回して自分に寄せてやる、震える彼を抱きしめるように。

 

「悩んでいるなら素直になりなさい、それが解決のための第一歩よ。一人で難しいなら助けを求めなさい、それも大人になるって事なのよ」

 

優しく、温かく、母のように龍牙に囁く。抱き寄せながら頭を撫でながら促す、龍牙は顔を伏せてしまって答えないが彼女はそのまま頭を撫でながらずっと待ち続けた。彼が心の準備を終えて自分から話してくれるのを。ある程度待っていると、龍牙は漸く口を開いた。

 

「俺は……俺だって二人が俺と仲良くしてくれようと、してくれるのは分かるんです……でも、でも―――それを受け入れるよりも先に……拒否してしまうんです……!!」

 

身体を大きく震わせながら、まるで怯えている小動物のようになりながら、瞳から大粒の涙を流しながら龍牙はずっと胸の内に秘めていた本心を吐露した。

 

「俺の見た目については分かってます、理解もしてますし皆の反応だって正しいって分かります。でも―――あの時の瞳がどうしても、如何しても、あの時と重なって……!!」

 

龍牙だって皆と仲良くしたい、一緒に遊びにいったりお昼を食べたり、談笑をしたりしたい。その事を思えば常闇や焦凍には本当に感謝している。

 

「皆が俺に気を遣ってくれてるのは分かってるんですよ、でもでも……俺がいけないんですよ、俺が俺がいつまでもあの時の事を引きずってるから……!!」

 

光を与えられ、温かさを得ても消える事の無い楔。心の深くに突き刺さった光景が何度も何度も脳裏を過ってくる、あの時の言葉が、光景が、全てが。

 

「また同じ事が起きるんじゃないかって思ってる、そんな事は無いって何度も自分を納得させようとしているのにどうしても……!!!」

 

そこにあったのは恐怖、周りに恐怖を与えてしまった少年が最も恐れていたのは再度の拒絶だった。ただの拒絶ではない、一度仲良くなった者から再び与えられてしまうかもしれない途轍もなく深い深い拒絶。あれをもう一度味わった立ち直れないかもしれないという恐怖があった。だから彼は他人を拒絶する、だがそれでも自分の中にある誰かと仲良くしたい、共に居たい思いで友を作った。それも必死に恐怖と戦いながらの物。

 

ギリギリの所で彼は踏み止まっている、常に恐怖と戦いながら夢に向かって歩き続けている。それほどまでに彼の根本にある恐怖は強大であり、夢は偉大な物であるという事。その狭間で苦しみ続けているのも事実、そんな彼の内側を見たリューキュウは彼を強く抱き寄せて抱きしめた。柔らかい感触に包まれるが龍牙はそうではなく、リューキュウの嗚咽で我に返り、上を向いた。その時にあったのは涙を流しながら自分を抱きしめている彼女だった。

 

「いいのよ、もういいの……貴方は泣いていいの、我慢なんてしないで……。本当に良く頑張ったよ……」

「リューキュウ、さん……」

「私しかいないから、良いよ……」

 

その言葉を聞いて今までの我慢で溜まっていたものが全て流れ出した、塞き止められていたものが全て流れ出してしまったように大粒の涙を流しながら泣いた。涙と共に胸の内にあったものを一緒に。それをリューキュウは抱きしめながら受け止め続けた。大人として、彼の味方として決めた者の責務として。自身も涙を流しながら―――長い時間が流れて、漸く龍牙の雨は止む事が出来た。

 

「すいませんリューキュウさん、その……胸を借りちゃって……」

「いいのよ、胸を貸すのも大人の役目。それとも柔らかくて感触を楽しんじゃった事を謝ってるのかしら」

「ちっ違いますよ!?確かに凄い暖かくて凄い安心出来る感じがしたって言うかああもう何言ってるんだ!?」

 

泣いて彼は今度は大慌てといった様子だった、そんな姿を楽しみつつもリューキュウは微笑んでいる。それは龍牙が元々自分の好みだったからか、それとも彼の胸を内を聞いて親しみを覚えたからか。

 

「というかリューキュウさんも放してくれていいんですから!!存分にお借りしましたから!!?」

「良いって事はまだ貸して欲しいって事よね、なら存分に貸してあげるわよ。ほらっ楽しんじゃないなさいって」

「ちょちょっとお願いですから勘弁を……!!?」

 

そう言って更に強く抱き寄せると龍牙は面白いように取り乱してしまっている。今の行動が自分に対して失礼に当たったりするのだろうと心配しつつも、何処か頬が緩んで安心しているような表情を浮かべている。彼も男なのだと思いつつも心の何処かで何処か母性を求めているのかもしれない、そんな姿にリューキュウは心を刺激されて胸が高鳴っていた。

 

「ううっ大人って意地悪だぁ……」

「そう言いながらも頬が緩んでるわよ、もうっ龍牙のエッチ」

「うぐっ!!?」

 

わざと意地悪な言葉をぶつけてあげると面白いように落ち込んだり、小さくなる姿が余計に愛おしく見えてしまう。母性を刺激する姿が堪らなく愛おしい、リューキュウは思わず少し悪い笑みを浮かべながら次の一手を打つ。

 

「ねぇっ龍牙、意地悪な事を言っちゃう私って嫌いかしら」

「嫌い何てそんな……思った事もないですよ」

「ホント?」

 

少しだけ目を潤ませてそう問いかける、龍牙は初めて見るリューキュウのそんな表情を見て胸が高鳴った。姉替わりであったミッドナイトや自称姉のMt.レディもしなかったからか、酷く胸が高鳴ってしまった。酷く魅惑的なものを感じつつも、少しだけ震えた声を出す。

 

「そんな事ありませんって!!」

「じゃあ―――好き?」

「そりゃもう好き―――ですよ」

 

それを聞いてリューキュウは目を輝かせながら、潤んだ瞳の雫を拭いながら確かめるように本当かと聞く。そして本当だと答える龍牙に笑いかけながら、言う。

 

「嬉しい……私も好きよ龍牙」

 

そして―――リューキュウはそのまま何処か戸惑いを見せ続けていた龍牙の唇を奪う。突然の事に目を見開いて何が何だか理解出来なさそうにしている龍牙は唯々困惑するばかり、一方でリューキュウは龍牙の唇を奪い続けた。そして唇を離すと困惑で震えている龍牙、それを見てまた笑う。

 

「あ、あああああのリューキュウさん……!?な、何をやって、るるんですかぁ!!?」

「キスよ、もしかしてファースト……だったかしら」

「そうですけどそうじゃなくてあのその……!?こ、こういうのは恋人同士でやる事であってその俺なんかとする事じゃ……!?」

「大丈夫よ、私は貴方の事が好きで貴方も私の事が好きなんだから。恋人同士、といっても過言じゃないでしょ?」

 

そう言って再び唇を奪うリューキュウに好きといってもそういう意味じゃないと言いたかったが、再びのキスで言えなくなり、言おうにも全身を満たすような幸福感に思考が溶かされるような感覚に思わず酔ってしまう。長く続くそれに龍牙は思わず身を委ねてしまう。

 

「もう貴方は平気よ、私が貴方を一人にはしないから安心して。私が貴方を支えるから」

「リュー、キュウさん……」

「もうそんな風には呼ばないでね、龍子って呼んでね。二人っきりの時は」

「―――龍子さん……その、なんか恥ずかしいです俺……」

「うふっ可愛いわね、そんな所がまた、そそっちゃうじゃない」

 

そう言うと再びキスをする、が今度は龍牙は自分を抱きしめる彼女のように相手を抱きしめ返して答える。それを感じて更に抱きしめを強くすると彼もまた強くする。

 

「―――何時か、時間が出来たら校長とオルカにご挨拶に行かないとね。貴方と結婚したいって事を」

「あの、早過ぎません……?まだその、交際とか全然なのに……」

「大丈夫よ、貴方がインターンで此処にいる限り一緒に居られるからその時に絆を育みましょ。一緒に居れればそれは交際と一緒よ」

「―――そうかもしれませんね、これからお願いします……龍子さん」

「こちらこそお願いね龍牙」

 

この時から龍牙は新しいスタートを切った。この時から少しずつではあるがA組の皆とも打ち解けあえるようになっていく、過る過去を新しく出来たら強い絆が打ち消して新しい世界へと踏み出す勇気へと変えていく。そんな変化を遂げた彼に皆喜びながら、友情を紡いでいく。一方で龍牙はリューキュウこと、竜間 龍子と愛を育んでいく。ぎこちない彼をリードする龍子とそんな彼女に手を引かれながらも歩調を合わせようと努力する龍牙。

 

「そう、大分リードが上手になってきたわね。あの頃が懐かしいわね」

「先生が凄い上手ですからね、それを真似て俺も上手くなってますから」

 

二人の間には強固な愛という絆の橋が生まれ、それは深く絡み合いながら新しい物を生み出す事だろう。そんな二人は唯一無二のドラゴンヒーロータッグとして―――世界に名前を刻む日も遠くない未来だろう。




―――という訳で番外編第一弾のリューキュウこと竜間 龍子さんが恋人になるという話でした。

……やばい、こういう大人のお姉さん書くの超楽しい。なんだろう、私の性癖的何かが出てるのかな……。こういう大人のお姉さんがリードというか相手をからかう的なの最高過ぎんだろぉぉおおおお!!!龍牙貴様羨ましいんじゃぁぁぁあああああ!!!!

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