僕のヒーローアカデミア~ビヨンド・ザ・リュウガ~   作:魔女っ子アルト姫

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問われる黒龍

「貴様ら、先程そこの奴よりも自分の娘を何よりも優先した。優先するだけではない、そいつを囮同然に使った。はぁっ……腐っているな、ビーストマンとミラー・レイディ……だったか」

 

数多くのヒーローをその手にかけてきたヒーロー殺し・ステイン。そんな彼が敏感に感じ取った鏡夫妻の本性に近いどす黒い内面、他人よりも自分の娘を優先するのはある種当然かもしれない、だがその為の行いがヒーローとは思えない。未だ未熟ながらも本物として物を秘めている少年、それを捨て駒のように誘導して自分達は娘を安全に逃がそうとしたのだ。親の愛……いや、価値あるものを守ろうとする守銭奴に映った。

 

「貴様らと違い、そこの二人は本物に成り得る。生かすだけの価値がある……だが、貴様らにはない。腐敗した世界の象徴に等しい……」

「黙れヴィランが!!お前の言葉など聞く耳持たんわ!!」

「貴方みたいな存在に人間を判別する資格なんてないわ!!」

「醜く見るに堪えないクズの境地の贋作……いや、ヴィラン以下の偽物が。粛清する」

 

刃こぼれした日本刀を構え、その切っ先を手始めにとビーストマンの心臓へと向ける。生かす価値もない屑は滅さなければならない、これは最たるものだとステインは思考しながら今まさにそれを実行しようとする。

 

「だああああぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!!」

 

危険察知、咄嗟にビーストマンを蹴って後ろへと飛び室外機へと飛び乗る。先程まで自分が居た位置へと黒い炎の奔流が迫った。ゆらり、幽鬼のように視線を彷徨ませ、黒炎の主へと目を向ける。そこには右腕に龍の頭を装着したリュウガ、ファイティングポーズを取るパワーコングに何時でも走り出せるようにしている飯田の姿がある。

 

「りゅ、リュウガ君!!?」

「緑谷君無事か!?まさか君までいるとは!!」

「知り合いみたいだな、よし全員纏めて助けるぞ!!」

 

助けが来たっ!と軽く笑っている二人、救援要請を出していたからこそ直ぐに助けが来るという確信であそこまでの余裕のあったのかは分からない。だがこれで二人の粛清が面倒になってきた、そう思う中で鏡夫婦は助けに来た中に龍牙が居る事に気付くと目を見開いた。

 

「りゅ、龍牙……!?」

「嘘、どうしてあの子が……!?」

 

それを見たステインは少しだけ瞳を輝かせながら、地面に降りながら真っすぐリュウガへと目をやった。

 

「はぁっ……黒鏡 龍牙……そうか矢張りそうなのか……貴様、何故こいつらを助けた」

 

問いを投げた。ステインの矛先はリュウガへと向けられていた、興味がわいたのか、それとも最初から気にかけていたのか。どちらにせよ理解出来なさそうに問いただした。

 

「こいつらは真性のクズだ、自らの地位や名誉の為にあらゆるものを利用する。娘を守る為に他に犠牲を強いた、そこの奴はその結果だ」

 

そう言いながら緑谷へと視線を向ける、緑谷もそれはなんとなく理解していた。ビーストマンとミラー・レイディの指示で少しだけ攪乱を狙いつつも隙を見計らうつもりだったが、ステインをそれを易々と上回って白鳥に迫った。それを緑谷は全身を使って庇った、それによって腕に浅くはない傷を負っている。だがそれは逆にステインには自身を犠牲をする事を厭わない姿が本物として判断された。

 

「何故、助けた。お前にこれらを救う理由があるのか」

「あるさ、俺はヒーローになりたいんだ。手を伸ばせば救える命があるなら助ける、それだけでしかない」

 

単純でシンプルな答えでしかない。確かに龍牙にとってはこの二人を救う意味なんてないかもしれない、だけどそれは龍牙自身の個人的な理由であってヒーローを目指すリュウガには当てはまらない。ヒーローが手を伸ばさないなんて馬鹿げている、自分は自分を救ってたヒーローと同じように手を伸ばすだけ。

 

「はぁっ……良い答えだ……今の問答だけで理解出来る、お前は紛れもない本物だ。いやそれ以上だ、未来の大英雄候補……お前は狙わない」

「ヒーロー殺し、ヴィランネーム・ステイン。そのまま大人しく確保されてくれ、俺としては大人しくしてくれると嬉しいんだけどな……」

「無理な相談だな……俺の成すべき事の邪魔はさせん」

 

そう言いながら再び日本刀を構えるステインに構えを取る一同、そんな時だった。自分達の背後に緑谷が白鳥を抱えるようにして落ちてきた。

 

「はぁはぁはぁっ……ごめん白鳥さんを連れてくるしか無理だった……!!」

「いや上出来だよ君!!君たちは下がっていろ、ここは俺達が何とかする!!」

「気を付けてください!!あいつに血を舐められちゃだめです、舐められたら動きが封じられます!!」

 

緑谷も血をステインに舐められていた、だが時間経過でそれが解除されて漸く動けるようになっていた。だがビーストマンとミラー・レイディはまだ動けない様子。ならば邪魔にならないようにと緑谷は白鳥を抱えて此処まで退避してきた、見事な判断だ。

 

「血を舐められたらアウト……しかも確かビーストマンの防具って普通の鉄以上だったと思うけど……それを突破するって相当やばい……アクセル、君は早急にその二人を抱えて退避しろ。君の脚なら確実に退避できる」

「承知しました、ですがコングさんとリュウガ君、気を付けて!!行こう緑谷君!!」

 

アクセルは少しばかり思う所があったが、直ぐに頭を振ってそれを振り切って緑谷に肩を貸しながらその場から離れていく。残された者たちは戦う意志を見せながら一歩も引こうとしない。

 

「リュウガ君、ステインに対して加減をしている暇なんてない。全力で行くぞ!!」

「ええっ全開で行きますよ!」

 

 

リュウガ……!!

 

 

黒炎を纏ったリュウガ、完全な戦闘態勢。完全に個性を発動させながらコングと呼吸を合わせるように並び立つ。それを見た鏡夫婦は完全に顔が引き攣っていた、何を思っているのか知らないが誰もそれを気に留めなかった。ステインはリュウガのその姿を見たとしても何も変わらずに刃物を構え続ける、寧ろ何処か喜んでいるような節すらあった。

 

「はぁっ……いいぞ、さあ来てみろ……ヒーロー!!」

「行くぞリュウガ!!!」

「ええっパワーコング!!!」


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