僕のヒーローアカデミア~ビヨンド・ザ・リュウガ~   作:魔女っ子アルト姫

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もしも、龍牙が本家である神使の家に引き取られたらのIFルート。


もし、龍牙が祖父に引き取られたら その2

『標的は500m先を高速移動中、確保は不要。排除せよ』

「―――命令承諾、バラウール行動を開始する」

 

闇の帳が降り、漆黒の闇の中の樹海を突き進む男が一人。全身が枝などで傷ついていくのも気が付かない程に必死になって走り続けていた。男はヴィランだった。罪状は強盗、強姦、暴行、殺人、テロと手広く起こってなっていた第一級危険指定ヴィランとして全国指名手配を成されていた超極悪ヴィラン・エレクトロ、そんなヴィランを確保したのは平和の象徴たるオールマイトだった。そしてその男は3度目の脱獄に成功した。

 

「掴まって、たまるか……俺は、もうヴィランなんてやめるんだ……足を洗って、誰にも迷惑を掛けないようにして暮らすんだ……!!」

 

全身から閃光を迸らせながら駆け抜けていくエレクトロ、その個性は高圧電流を自在に放出し操る。故に付けられた名前こそがエレクトロ、だがその稲妻を纏うヴィランは顔いっぱいに恐怖を張り付けながら少しでも遠くへ、一歩でも遠くへと逃れようとしているかのように動き続けている。電気と共に前に進む中、不意に―――辺りが闇に包まれた、自らの電撃で照らしているのにも拘らず闇に閉ざされたそれにエレクトロは錯乱した。

 

「ぁぁ、ぁぁぁっっ……来るな、来るなぁ……頼む、俺りゃもう個性なんて使えなくていい、だから頼む……殺さないでくれ……!!」

 

―――罪深き者、懺悔は意味を成さず既に汝の命運は無、既に晩鐘は汝の名を指し示した。この時を以て……永劫の淵へと焼け堕ちろ。

 

「ぁぁぁぁっっ―――」

 

闇が閃光を飲み込んでいく、闇を照らす光である筈のそれを侵食し消していく。そして闇は遂にエレクトロにまで到達し喚くヴィランを飲み込んでいく。悲鳴すら聞こえない程に包み込まれた闇は瞬時にそれを消してしまい、後には何も残っていなかった。それを見届けた天を舞う黒龍に座する黒い外套の男は静かに報告する。

 

「此方バラウール、任務完了。ヴィランネーム・エレクトロの排除完了」

『了解。帰還せよ』

「バラウール、了解……帰るぞ」

『ゴアアアアァァァッッ!!』

 

黒龍は声を上げるとそのまま空を舞うようにして樹海を後にするように行く、そして黒龍がまた一つ咆哮を上げると眼前に歪んだ龍の紋章の形を模った鏡が出現しその中へと飛び込むように突撃する。鏡の中へと入っていくかのように龍の姿が消えていくと鏡も砕け散って後には何も残らなかった。

 

 

神使一族は遠い昔より神に仕える一族、それは形を変えながらも確かに神に尽くし続けている。政府直轄のヒーロー公安委員会の実働部隊という役目を与えられており、それは闇へと潜む悪へ視線をやりながらも時には確保が失敗されたヴィランの始末をする事。影から世界の平穏を守る彼らの仕事は常に命懸けであり、命を奪い続ける事でもある。

 

決して褒められる事ではないそれらを神使は実行し続ける、それが世界の平穏を守る手段の一つであると許容しながらも自分達の行いが世界を守っている事を理解しているからである。陰と陽、表と裏、表裏一体、何方が欠けてもいけないこの世の中において彼らの仕事は絶対に求められる事、そんな神使の家に平和を守る新たな男が参入した。それは神使 翁が直々に鍛え上げたという存在、その力は圧倒的。

 

天を我が物顔で舞い昇り、あらゆる障害を焼き尽くし、天より悪を見張る龍が如く―――バラウール。

 

 

「やぁっお邪魔してるよ」

 

任務を終えた男に声を掛ける何処か軽薄そうな男、その実は確りとした芯があると分かっている筈なのに如何にもそんな印象を受けてしまう。その男は通称"速すぎる男"№3ヒーローのホークスだった。

 

「ホークス、報告書なら上げたが」

「いや上がってくる物より直接話聞きに来た方が早いからさ」

「……相変わらずだな」

「まあまあそう言うなよ龍牙君」

「その名で呼ぶな、今の俺はバラウールだ」

 

隣に座り込んだバラウールの外套を無理矢理払うようにしつつも肩を組むホークス、その下にあったのは何処かうんざりしているような表情を作っている神使 龍牙の姿。当主への報告も書類を統べて上げたというのにこの男は毎回毎回自分の部屋に話を聞きにやってくる、ある意味自分の同僚とも言える存在ではあるが、如何にもホークスからかなり気に入られてしまっているらしくやや困っている。

 

「エレクトロの脱獄を阻止したの俺だしさ、その責任というか後始末させちゃったようなもんじゃん。だからお詫びを含めてきたんだよ、ほらっお土産に博多いちごフロマージュとパティスリー・ジョルジュマルソーのチーズケーキ・フォンデュ買ってきたから自由に食べてよ」

「はぁっ……」

 

龍牙が神使の家に入ってから既に10年が経過している。龍牙は真の意味で神使の家にはいる事を望み、その為の鍛錬を祖父であり、歴代最強当主と名高い翁に直接指導を受けてきた。その過程で自らの個性に欠けていた黒龍を取り戻し、真の黒龍へと至ったりする過程ではホークスに酷く世話にもなった。その時は祖父と共に前線へと出てオールマイトと共に悪の帝王とも戦った、その末に真の黒龍へとなった。

 

「それで何しに来たんだ」

「親友に会いに来ちゃ駄目だったかい?」

「……駄目じゃないけどさ」

 

本心、だった。祖父の役に立ちたいと思い個性を徹底的に鍛え上げながら異常な肉体改造を行った末に龍牙の身体は16の少年とは思えぬほどに仕上がっていた。ややガタイが小さいオールマイト、と言えばその異常性が分かるだろうか、その過程で本来得るはずだった物を捨てて神使の家に奉仕し続けているその姿は痛々しい。だがそれを癒すように使用人や神使の使徒として活動する者達が支え続けている、それはホークスも同じ。唯一無二の親友というホークスは自称しているが龍牙自身もホークスを絶対的に信頼し慕っている。

 

「ンで高校にはやっぱり通う気0?」

「通って意味がない、それに俺が抜けると問題が起きる」

「起きるならカバーすればいいだけの話、俺が最速でするさ」

「世話は掛けられない」

 

龍牙は高校には通っていない、家にて受けられた学習で既に高等学校卒業資格を取得しているので通う意味を無くしているし本人としても興味すら湧いていない。彼にとって大切なのは神使の家の役割を全うする事、それが結果的に自分の守りたい家族を守る事にも繋がると思い任務をし続けている。だがホークスとしては通うべきだと思っている、だが事実として龍牙に抜けられると辛いのも事実であった。

 

「龍牙も青春に勤しむ年頃なんだからなんかしたらしいじゃん、次期当主って言われてるんだからせめて相手位作ったらどうよ」

「この家の事を許容出来る相手がいるならいいけどな」

「ああまあそれはあるけど、何だったら俺の方で手配して見合いでもする?」

「まだ16だぞ」

「いや今の龍牙を見て16だと思う奴はいない」

 

身長208㎝、体重145kg、そして肉体は筋骨隆々で無駄な脂肪なんて付いていない龍牙を見て誰も未成年なんて思う事は無いだろう。以前食事の際に悪戯で度数がかなり強い酒を黙って飲ませた事があるがケロッととしていたので酒にも相当強いので誰が如何にも成人にしか見えない。

 

「それとホークス、異能解放軍が勢力を伸ばそうとしている情報を掴んだ。以前言っていた潜入はこれに乗じるべきだ」

「おっマジで?いやぁ俺も速すぎる男なんて言われてるけど龍牙も相当早いよね、本当に助かるわ」

「その名で呼ぶな、今の俺はバラウールだ」

「はいはいバラウールバラウール」

 

歪んでいるがその歪みは世界を守る為に彼が全てを承知して飲み込んだ物、それだとしてもホークスは友人として知って欲しいのだ。人としての幸せを、人に愛される事の意味を。神使 龍牙という名はもう殆ど使われない、バラウール、使徒となった際に与えられた名を真の名として名乗り続ける―――だが、自分といる時は使徒ではなく人としてそこにいる。それをもっと表に出して欲しいというのがホークスの願いだった。

 

「んじゃバラウールの好みのタイプってどんな人なん?」

「……考えた事ない」

「え"っマジで?」

「マジで」

「おおう……これは翁さんに言ってちょっとお願いしないとなぁ……重症だ」




このルートのヒロイン、どっすっかなぁ……。

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