僕のヒーローアカデミア~ビヨンド・ザ・リュウガ~ 作:魔女っ子アルト姫
初めて、カッコいいと言われた。初めて、褒めてくれた。
あの時ほど刺激的で喜びを感じた時はなかったかもしれない。
俺の個性は恐ろしい。いやそうではないと慰める言葉は幾らでも聞いてきた、それはそれで嬉しくはあったけど。
やっぱり……誰かに褒めて欲しかった、認められたいと欲求がある。
だけどこの日、俺は……それを叶えられてもらった。一人の少女に。
とても恐ろしく凶悪な風貌をした個性を持つ龍牙、彼の個性を見た生徒達は固まっていた。あのような恐ろしい個性も存在しているのかと、そしてその個性が持つ圧倒的な力も目にした。連想させるのはその力が自分に向けられた場合という最悪の状況が脳裏を過ってしまう。余りにも恐ろしい風貌がそのような事を誘発してしまっている、あの真面目な飯田も汗を流しながらそのような考えをしてしまう。
「(……発破をかけるどころか逆効果だったか)」
相澤もこの状況は望ましくないものだったのか、如何したものかと思案する。彼の個性が酷く恐ろしい見た目なのは知っている、だがそれでも力を見せ付けるには必要だと判断した。これで多少なりともやる気を出して欲しいと思ったのだが力が予想より強かったせいか、皆委縮してしまっている。大きな力を見たら委縮するのは当然の心理、だがそれはこれからヒーローとしての道を歩もうとする者としてはあまりいい反応ではない。目を細めた時、一人の少女が龍牙に駆け寄っていった。彼女は素直に凄いと彼を褒めた。
「私よりもずっと派手でカッコいいし強いって凄いと思うよ!」
「……有難う、えっと……」
「あっそっかまだ名前言ってなかったね、私は葉隠 透だよ」
「黒鏡 龍牙、宜しくね」
そう言いながらそっと左手を差し出す龍牙。傍から見れば龍牙は手を差し出したままだが、実際は透明な葉隠の両手が確りと握っている。そこから漏れてくる葉隠の嬉しそうで楽しそうな声、そして龍牙の柔らかい声がする。それを聞いて飯田はハッと我に返った。自分は何を思っていたのかと、見た目で判断してそれが敵だと思い込んでいたというヒーローを目指すものとして非常に恥ずかしい行為に歯ぎしりをさせながら彼も龍牙の元へと駆け寄った。
「済まない龍牙君、俺は君が恐ろしく思ってしまっていた!なんて情けない……だが俺は君が凄い力を持っていると尊敬している、それは本当だ。どうか受け取ってほしい!!」
「……大丈夫だ気にしていないから。見た目については勘弁してくれるとありがたい、お化け屋敷にでも就職するのも悪くないと思っている」
「いやそれはそれで仰天して失神者が続出するぞ!!?」
「あははっ龍牙君って面白いね~!!」
そんな龍牙の気の利いたジョークと葉隠の笑い声、そして飯田の真面目な言葉で場の空気がいくらか軟化した。個性こそ怖いが本人は面白い奴と思う者、笑い声に釣られて笑う者、真面目な意見に耳を澄ませ自罰的になり反省する者とそれぞれだったが、皆やる気を出し自分も同じような記録を出してやると意気込む者が続出していった。やや遠回りになったが相澤は発破掛けの成功とヒーローとしての道に指を掛けている者達で少し安堵するように息をする。
「(黒鏡 龍牙、個性『リュウガ』……自分と同じ名前の個性、自分への戒めか象徴か。お前がどれだけやれるか見せて貰おう)」
そんな相澤の期待に応えるかのように龍牙はその力を存分に振るって次々と記録を叩きだしていく。50メートル走、握力、立ち幅跳び、反復横跳び、ボール投げ、次々と大記録を打ち立てていく。ボール投げに関しては先程よりも角度を調整したのか2603mまで吹き飛ばしている。次第にその力を見ていく者たちの印象も変わっていき、恐怖が頼もしさと力強さという物へと変化し始める。個性把握テストからずっと個性を発動させ続けている龍牙だが、気付けば彼の周りには人が居るようになっていた。
「黒鏡、同じ闇の者として是非友好的な関係を築きたい」
「俺で良ければ」
「有難う」
自分の事を何処か憧れるような視線を向ける常闇という友人も出来ていた。彼の個性は『
「その腕の龍、炎を吐けるのか……黒い炎、黒炎、黒炎龍いや闇の炎の龍、闇炎龍……!!」
「カッコ、いいのか?」
「無論!!」
と力強く肯定してくれる常闇に釣られるように龍牙はそうかっと嬉しそうな声を出すのであった。
「良かったね龍牙君!お友達出来て!!」
「葉隠さんのお陰だと思う、有難う」
「何もしてないのにお礼なんて変なの~♪」
そんな風に言い方こそするが、龍牙は本気で葉隠に感謝している。常闇にも感謝はしているが最初に声をかけてくれた葉隠にはそれ以上のものを向けている。誰かに認められた事が心からの喜びとなって心身を満たしていた。満足げに吐き出す息はそのような声色に包まれている。そんな中、龍牙はとある視線を生徒へと送っていた。それは―――指を腫らし苦しげな表情を作りながらもボール投げで700メートル越えの記録を出した緑谷。彼は自分と同じく入試にて0ポイントの仮想敵を倒した超パワーを秘めた個性の持ち主らしい、だがその個性を使用した彼の指は酷く腫れている、コントロールが難しい個性なのだろうか。
―――もしかして、彼も自分のように個性の事を苦労してきたのかもしれない……そう思うと緑谷の事が気に掛ったのか龍牙は緑谷へと近づいて行った。
「緑谷」
「はっはい!?え、えっと黒鏡、君でしたっけ!?」
指に痛みに耐えながら歯を縛っていた緑谷は突然話しかけれた事に驚いていた。しかも話しかけてきたのは見た目が完全にヴィランな龍牙なだけあって流石にビックリしてしまっている。
「そうだ。指、大丈夫か」
「へっ!?ゆ、指?」
「ああっ随分と腫れ上がっているな……内部出血も酷そうだ、保健室へ付き合うか」
「う、ううん大丈夫だよ……!この前より痛くないから!」
と掛けられる言葉は全て自分の事を気遣ってくれている言葉ばかりだった、心なしか覗き込むかのような体勢での瞳は目を細くしているのか光が優しげになっている。それを聞いて個性による姿こそ恐ろしいが実際は優しい人なんだなぁと緑谷は理解して思わずホッとしてしまった。
「そうか……お前も個性で苦労しているんだな」
「お前も……ってもしかして黒鏡君も……」
「どういう事だおい……オイデクテメェ!!」
二人が話している所に突っ込んでくる少年が居た、荒々しい口調で飯田と言い争いをしていた龍牙が完全に不良と思っている爆豪だった。手のひらから爆破を連続させて起こしながらこちらへと走りこんでくる。規模が少しずつ大きくなっている爆発を見て龍牙は緑谷の前に立つ。そして殴りかかってくる爆豪の拳を右腕で受け止める、爆破で少なからず痛みを感じるがそこまででもない、そして龍牙は瞳を今まで以上に朱く爛々と輝かせながら爆豪を睨みつける。それを見た爆豪は寒気を感じたのか後ろへと飛んで距離を取った。
「問題を起こすな、次何かするならば……俺の牙がお前を噛み砕くぞ」
「テメェッ……ヴィラン野郎!!」
「上等、俺の事は好きに呼べ。先生、ご迷惑をおかけしました」
爆豪の言葉を一蹴すると龍牙は静かに頭を下げた。相澤は自分が個性を使わずに済んだからいいと適当に流した。本人曰くドライアイだから個性は使いたくないらしい。この後、テストは円滑に進められていく。流石に上体起こしや長座体前屈などは個性を解いて生身で行った。そして全てのテストが終了し結果が発表される事となった。
「あっ因みに除籍は嘘だから、君たちの最大限を引き出す合理的虚偽」
『……はぁっ~!?』
このテストで最下位を取ったものは除籍されると脅しを掛けられていたのだが相澤はあっさりと嘘だと白状した。龍牙はこのテストで1位を取る事が出来ていた、が彼は知っていた。自分が世話になっている人が相澤に関する注意をしてくれていた。
『君の担任だけどね、ちょっと困った所があるのさっ!!』
『困ったところ、ですか』
『そう、入学初日から除籍されないように気を付けてね!!』
『何それ怖い』
「雄英は自由が売り……成程、それも自由という訳か」