僕のヒーローアカデミア~ビヨンド・ザ・リュウガ~   作:魔女っ子アルト姫

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対話する黒龍

見事に騎馬戦で優秀な成績を見せ付ける事が出来た龍牙、そんな自分を導いてくれた緑谷に礼を言いつつも次に行われるガチバトルトーナメントではライバル同士という事を伝え、必ず勝つ事を宣言して彼は一人廊下を歩いていた。今現在は任意参加のレクレーション大会のようなものが行われている、トーナメントに参加する自分は任意で参加するかを選択できるので、その場の気分で決めようと思っている。だが今は生憎出る気はない。

 

「……よぉ白鳥、察するに―――そっちが」

「―――久しぶりだな龍牙」

「……」

 

龍牙はとある場所である人物たちと出くわしていた。トイレも終えてこれから観客席にでも行こうとしていた時の事だった。顔を少し青くして気まずそうにしている妹の両肩に手を置きながらこちらを見つめる二人の人物が此方を観賞用の芸術を見るかのように見つめてきている。彼らは良く知っている、ああよく知っているとも。

 

「こういう場合は初めましてっていうのが正解なのかね」

「久しぶりでいいのよ龍牙、本当に大きくなったわね」

「あれから10年ぐらいだからな、そりゃでかくもなる」

 

何処か素っ気ないようにも思えるような言葉遣いをする龍牙、相手の事を余り思っていないような感情の乗せ方に白鳥は矢張り会わせないほうが良かったのだろうかと後悔し始めている。そう、彼女の傍にいるのは―――彼女の両親、即ち龍牙の実の父と母でもある。

 

 

「う~んねぇ居たぁ?」

「ううんまだだよ、葉隠さんは?」

「ダメ何処にいるんだろう」

 

廊下を共に歩いているのは龍牙と共に騎馬戦を勝ち抜いた緑谷、そして透明である為に体操着だけが緑谷の隣を歩いているように見えてしまう葉隠。

 

「う~んクラス対抗の男女混合の二人三脚は龍牙君にお願いしたいんだけど……」

「まだ時間があるから大丈夫だよ、こんな事なら龍牙君の連絡先を聞いておけばよかったかなぁ……」

 

二人は共に龍牙を探していた。理由は葉隠が出場する男女混合型の二人三脚リレーのパートナーを龍牙に是非お願いしたいからであった。他の男子にお願いするという選択肢もあったのだが、葉隠としては是非とも龍牙と組みたかったらしい。ちょうど探しているときに緑谷に遭遇し、彼も龍牙の捜索に手を貸していた。

 

「身長的にも龍牙君とはいい感じだからなの?」

「う~んそれほどでもないんだけど、一番仲が良いからかな?」

「成程ねってあっ葉隠さんあそこ!」

 

そんなこんなで捜索を続けている緑谷と葉隠だが、中々見つからないので一旦観客席に戻ろうとした時の事だった。龍牙の姿を見つける事が出来た、誰かと話しているようだが物陰で相手が見えない。話の邪魔をすると悪いからとそっと近づいて曲がり角の壁の身体を隠すように覗き込むとそこには龍牙の外にも白鳥、そして二人の人物が居た。そんな人物は良く知っている人物だった。

 

「あ、あれって変身ヒーローのビーストマンに反射ヒーローのミラー・レイディ!!?凄いどっちも超凄腕で有名なプロヒーローだ……!!」

「でもそんなヒーローが如何して龍牙君と一緒なんだろ……?」

 

そう、龍牙の両親はプロのヒーローであった。しかも確かな実力と人気を兼ね備えた超実力派ヒーロー、誰もがその強さを認める程のヒーロー。二人は何故そんな二人と一緒なのかと首を傾げつつも会話に耳をつい傾けてしまった。聞くべきではなかったかもしれない、会話を。

 

 

「……それで何の御用ですかね、かの有名ヒーローに声を掛けられるとは俺も捨てたもんではないようですが。貴方方と俺は関係が無い筈ですが」

 

わざと仰々しい身振りで礼をして見せる、軽い煽りもあるがそこには本心も含まれている。白鳥という関係もあるがそれを頼りにして話しかけるのは違和感がある。そんな事を言う龍牙に二人は苦笑をしながらも話しかける。

 

「そんな他人行儀な事を言わないで欲しいな、私達は家族だろうに」

「そうよ龍牙。私達は家族じゃない」

「家族、ねぇ……白々しくないかい、一度も会いに来てくれなかった割には」

 

ギロリと瞳で睨みつけるようにする、龍牙からすればこの二人は家族、ではない。生みの親ではあるのだが自分にとっての親とは育ての親である根津や師匠の事を指す。そんな言葉を受けても目の前の二人は顔色一つ変えない。溜息を吐きながら龍牙は言う。

 

「まあプロヒーローですし、忙しかったのかもしれないしそれは良い。俺の疑問は何の用かって事なんですけど」

「―――用事は簡単だ。俺達との関係を誰かに言ったか」

「随分な物言いだな、俺はヴィランか。まあ個性の見た目はそうだしな、それに合わせてるのかな」

「茶化さないでくれるかしら、龍牙」

 

その声色は酷く低くまるでヴィランに対して掛けられるような威圧感のある声だった。到底子供にかけるようなものではない、脅しをするような言葉にファンでもあった緑谷は顔を青くした。

 

「(いったい何の話をしてるんだ……!?あのビーストマンとミラー・レイディが龍牙君に何を……)」

「(緑谷君、これって……)」

「(分からない、分からないけどこれって……)」

 

それを向けられている龍牙は余り気にも留めていない、というよりもこうなる事を考えていたかのようにまた一つ、重い息を吐く。

 

「言ってねぇよ。俺の保護者は知ってるが言いふらす気はない」

「そうか、ならいい」

 

それを聞くとまるで台風が過ぎ去ったように穏やかで優しい声に変貌する。余りの切り替えの早さに緑谷と葉隠は寒気を覚えた、態度が一変しすぎている事に不気味さを覚えてしまった。そしてそれは白鳥も同じだった。

 

「これからも誰にも言わないことを望むよ」

「そうですか」

「龍牙、私達と一緒にまた暮らしたい?私たちは一緒に居たいと心から思ってるわ」

 

久方振りに向けられる母からの瞳は優しかった、甘い花の香りのような印象を持たせる。そして白鳥の肩から自分の肩へと移る手、10年ぶりに感じる母の温もりに不思議と胸がざわついた。

 

「お前にした事は心から悪いと思っている、本当に済まないと思っている。だからそれを埋め合わせる為にも俺達のところに来ないか。やはり家族は一緒にいるべきだ、白鳥もそれを望んでる」

「あっえっその……」

 

言葉を振られた白鳥はしどろもどろに言葉に詰まる。確かに望んでいた、兄と一緒に居たいという純粋な気持ちが彼女にはあった。あったのだが……両親の言葉やその振る舞いを目の前にして戸惑いを隠せずにいる。父はそれを照れていると解釈したのか、白鳥を龍牙へと近づける。

 

「ほらっお兄ちゃんと一緒が良いって言ってたじゃない」

「で、でもその……」

「ほらっ白鳥、遠慮なんかしないで―――」

 

「悪いけど断る」

 

拒否、拒絶の言葉に二人は龍牙を見つめる。

 

「いやだって俺の保護者に一言もなしで決めるとか流石にないだろ。普通顔合わせて話すべき内容でしょ」

「そ、そうよねそう言う事よね。ごめんねお母さんたち焦っちゃって……」

「そうだよな!!うんまずは今までお世話になった事をお礼しないと……」

「んじゃ俺悪いけどそろそろ行くわ、友達と約束してるから」

「あっじゃ、じゃあ私も……」

 

そう言って龍牙と白鳥は二人から離脱していく、その後姿を見つめる両親は笑いながらそれを見送っていくが白鳥は背中の影で俯いた表情を作っていた。

 

「……悪いな白鳥、俺も出来るだけ歩み寄りたいがあれは……」

「ううん、いいの……お兄ちゃんは悪くないから、悪く、無いから……」

 

 

「龍牙君……君は、君って……」

「私達、聞いちゃいけないことを……聞いちゃったんじゃ……」




エンデヴァーとはまた違う親をイメージしてます。

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