転生したら月雲了になってたんだが軽く詰んでる
目が覚めると
「…は?」
朝、いつものようにベッドから身を起こそうとしたところで違和感に気づいた。マットが昨日まで寝ていたものより、明らかに上質なものなのだ。
その上、目に移る部屋の内装が、自宅のごちゃっとした4畳半の寝室でなかったのでビビりまくった。
(な、ここどこだよ!?こんな金持ちそうな部屋、俺のダチにもいねーし、まさか誘拐とかじゃ__)
とにかく状況を確認しようと部屋を歩き回ってると、偶然、これまた高そうな鏡に自身が映るのを見て、
「なんだよコレ…」
今にいたるというわけだ。
紫の髪と高級そうなスーツ、日に焼けていなさそうな肌につり上がった目。
鏡の前で唖然としている男は間違いなく、月雲了である。
「おいおいおい嘘だろ!?なんで月雲社長になって_」
昨日はいつも通り仲間たちと集まって、スポーツ施設でサッカーしたり、ゲーセンで遊んでいた筈だ。確か、その後カラオケに寄ったら遅くなって終電逃して、それで友達と一緒に歩いて帰ることになって…
思い出した。俺はその後突っ込んで来たトラックから友達を庇って、
助かるはずもなく呆気なく死んでしまったのだった。
「でも、こうして違う世界で生き返った。転生ってやつなのか?」
そうかそうか俺は転生したのか。なるほど。
…ん?
マジで転生したのか!! アニメとかだけの世界だと思ってたのに!!!
突然のことに戸惑っていたが一気にテンションが上がる。だってあの転生だ。俺も転生ものは一通り読んでハマっていたので、転生した主人公がその世界で地位を獲得して、第二のハッピーライフを送るストーリにはわくわくしたものだ。
わずか二十年で前の人生を終えてしまったのは悔やまれるが、記憶持ちで転生できたのは幸福だ。サンキュー神さま!!
ただな、一つ言わせてくれ
「何でよりによって月雲社長なんだよぉ!!!??」
室内に一つの雄叫びが上がった。
*
俺の前世の話をしよう。
俺はどこにでもいる普通の大学生で、顔が良いわけでもなければ、頭がめちゃくちゃ良いわけでもない。趣味はサッカーで、大学内でもやってるし、時々友達ともやったりしている。
そんな俺に他の人と違うところがあるとすれば…
「やった〜!SSRきたー!!」
俺が重度のアイナナファンであるということか。
男子アイドルの育成ゲームなんて、普通男がやる機会なんてないだろうし、俺も最初は興味が無かった。
だが、姉が部活の合宿で推しイベを走れないからと、俺にアイナナイベント周回を命令してきた。
断ろうにも俺と姉の家庭内ヒエラルキーは雲泥の差がある。断るという選択肢は選べない。
結局、ストーリーも読んでいいからと丸め込まれ、イベント周回をすることになったのだが…
まぁ、見事にハマってしまいました。
普通の乙女ゲームかと思いきや、人間関係や芸能界の世界を中心に緻密にストーリーが練られていて、キャラ一人一人に魅力がある。
その上楽曲も素晴らしいときたらハマらないことがあろうか。(いやハマる)
キャラデザもドツボにはまってたしさぁ…
ちなみに、俺の推しは九条天である。
とにかくそんな訳で、重度のアイナナファンの俺からしたら、推しや他のメンバーを貶めようとする月雲社長というポジションはなかなか複雑な気持ちなわけで。
別に月雲社長のことが嫌いなわけではないのだが、どうせならアイナナ世界のモブとかくらいが良かった…。そしたら、コツコツとお金を貯めてライブとかに行きまくるのになぁ。それに、俺に主要キャラとかいう大役は無理ですって。前世凡人大学生の俺にいきなり社長とか、無理ゲー過ぎだろ。
…待てよ? 月雲社長になったって事は__
アイナナの事件を未然に防ぐことが
出来るのでは!!?
そうだ!最近のアイナナの事件って大抵こいつが起こしてるし、俺がやりさえしなければ事件なんてそもそも起きないのでは!?
そうと決まれば日付を確認しなければ!この世界での時間がいつかによって、防げる事件の数も変わってくるだろう。
(えっと、どれどれ…)
月雲社長のと思われるスマホを確認する。どうやらロックは指紋認証だったらしく、パスコードが分からなくても開くことができた。
スマホでスケジュール表に何か書いてないか確認しようとし、謝って検索ページに飛んでしまった。
(おっとミスった…ってこれって今年のMOPの記事じゃないか?)
検索ページの下にある、最近ホットなニュースのピックアップ、その中のMOPの記事に、
TRIGGER返り咲き!という見出しが躍っていた。え、つまりそれって__
「もうやることやった後じゃねぇか!!かなり手遅れなやつだコレ!!!!」
室内に、本日二度目の咆哮が響いた。