時は少し遡る。俺はようやく仕事を終わらせ、一時の休息を手にしていた。
(運良く手に入れたRe:valerのライブのチケット、無駄にならずにすんでよかった〜!)
社長になって色々苦労してきたが、様々なコネとライブにいっても痛まない財布の存在には感謝したいと思う。金持ちバンザイ。
それはそうと、こう仕事が早く終われたのもひとえに部下達のおかげである。今度お土産を買ってあげよう。なんか高級そうなお菓子にでもしようかな。
ところで、俺が出かけようとする時に部下から、「護衛を連れていかれないのですか?」とかなり不穏なことを聞かれたのだが…護衛をつけて出かける奴って本当にいるんだな。
しかし、せっかく仕事がひと段落したのに、俺の趣味にまで付き合わせるのはなんだか可哀想だ。最近は素の俺を出てきたといえ、いきなりライブモードになればあまりの違いに怯えられそうではある。
せっかく仲良くなってきた(俺以外もそう思っていると信じたい)ところなので、これ以上好感度が下がる事態は避けたい。
その上ライブ終わりには、Re:valerファンの仲間(新たにできた同士である)と感想を語り合おうと約束しているのだ。
後ろにいるムキムキの人は誰ですか?とは言われたくない。
という訳で、部下の提案を丁重に断り、俺はRe:valerのライブ会場に向かっていた。
レンタカーを運転し、早く着きすぎた為途中で降りて、周辺の商業施設を散策する。
車自体は持っているのだが、あんな高級そうな車を運転するのは気が引ける上、ぶつけたらと思うと自然にこの選択肢になっていた。
月雲社長ならさっさと運転手を連れて向かうんだろうが、やはり、"俺"という意識はそうすぐに変えられないようだ。
そして、俺は月雲社長がどういう人間であるかも理解できていなかったのかもしれない。
彼がいかに影響力のある人物で、いかに恨まれているかを。
気がついた時には、体を強く押され、階段から突き落とされようとしていた。
「なっ!?」
背中に感じる衝撃と、宙に浮く感覚。そして目の前に広がる階段。
悪意を持ったそれに、息が詰まりそうになる。やばい、どうしよう。頭が恐ろしいほど回らない。
やがてくるであろう衝撃にそなえ、受身だけでもとろうともがくが、いつまで経ってもその衝撃はおとずれなかった。
「…?」
恐る恐る目を開けると、目の前に映し出されたのは、九条天の顔。
「えっ、無理」
そしてあまりの顔の良さと、推しに急接近しているという事実に頭をやられ、疑問を持つまでもなく意識を手放した。
*
目が覚めると、見知らぬ天井があった。自身は仰向けで、どうやらソファの上に寝かされているようだ。
恐る恐る辺りを見渡すと、どこかで見たことあるような家具の配置だなぁとぼんやりと思った。
「そういや俺、どうしてこんなとこに…」
「目は覚めた?」
ビクッと声のした方を振り向くと、案の定(俺が聞き間違える筈ないのだ)九条天がそこにいた。 推しとの邂逅に脳がショートしかける。
「えっあっ…その…」
「あなたは階段から突き落とされて、気絶したんですよ」
…そういえばそうでしたね。情報量過多ですっかり忘れていた。
というか突き飛ばされたのって絶対私怨だよな…一瞬見えた相手の顔はなんだか見覚えがあるような気がする。大丈夫だろうと思っていた矢先こんな目に会うとは、不覚である。
そしてそこにたまたま居合わせた天が、気絶した俺を天達の家まで運んできたと。
ふむ。このリビングに妙に見覚えがあるのも、ゲーム内で見ていたからか。納得納得。
しかし、そうだとすると疑問が残る。俺はとりあえず月雲社長に取り繕って尋ねてみることにする。
「なんで僕を助けたわけ?君にメリットなんて無いんじゃないの?」
対して天は、予想通りという顔で答えた。
「そうですね。あなたは僕にとって、いや、僕らにとって許せない相手だ。でも、これはチャンスだとも思った」
天はスっと目を細めた。それはまるで獲物を捉えようとする肉食獣のような目。自然と背筋が凍る。
「僕はあなたに聞きたいことがある。今、ここで答えてもらいましょうか」
ひょっとしなくても死亡フラグなんじゃねぇかこれ?