ふと番外編のアイデアが思いついて書いてみたら、いつもより長くなってしまった…
時系列は、2話の後くらいです。
番外1 入手経路が非常に怪しいお金の使い道
俺は今、非常に困っていた。
「どうすんだよコレ」
手元にあるのは、『学問のすゝめ 』だか何かを書いた偉い人のお札__つまり万札が5枚。
それだけなら別に問題は無い。少々リッチな臨時収入というだけである。
ただし、これをくれたのはあの"月雲了"だというだけで。
__正直、かなり怪しい。
たがしかし、このお札に罪は無い。
黙って自分の懐に入れるのも気が引けるし、やはり使う他ないようだ。
「アイツら、来るかなぁ」
ZOOLを結成してからすぐに作ったラビチャグループ(本人達はあまり乗り気ではなかったが)に用件を打ち込む。
送信ボタンを押しつつも、1人も来ないだろうと思っていた。
…のだが、
『どーせ仕事終わりだしいいよ』
『まぁ、折角の機会ですし』
『一度普通の店の肉を食ってみたいと思っていたんだ』
まさかの全員OKであった。このお金には魔力がかかってんのか?
まぁ、これでみんなと外で食事ができるのだから嬉しい限りである。
少々浮かれながら仕事へと向かうのであった。
*
「お肉美味しい!」
「こういう店も悪くないな」
「久しぶりに来たけれど、美味しいですね」
焼肉は案外好評だった。
この店は、番組のスタッフと打ち上げに行った時に来た店で、結構美味しかったのでここにした。
3人が同じ場所で食べているのをみると、最初の頃に比べて、着実に仲良くなっているのだと実感する。
だが、ほっとしたのもつかの間、
「ところでさ、全部俺の奢りって言ってたけど、臨時収入でもあったわけ?」
ハルの素朴な疑問にうっと声を漏らす。体のいい理由を考えるが、そう思いつくはずもなく、思わす目を泳がせてしまう。
たちまち向けられた疑念の目に耐えきれず、俺は観念することにした。
「…実はそのお金は、了さんから、焼肉にでも行ってきたら?って言われて渡されたやつなんだ」
その瞬間、3人の箸の動きが合わせたようにピタリと止まった。
「はぁ!?トウマ、俺たちのこと騙してたのかよ!」
「べべ別に、聞かれなかったから…」
「それでこの重大情報を黙ってたってわけか?」
「そうやって私達を巻き込んだわけですね」
みんなからの圧が凄い。そりゃそうか。普段から数々の嫌がらせを受けている相手からのプレゼントなんて、いい気分はしないよな。でも…
「でも!俺は本当にお前たちと焼肉が食べたかったんだ!…黙ってたのは悪かったかもしれないけど、良い機会だなって思ったんだ。ダメ元で呼んだら、みんな来てくれたし」
あーくそ、まるで言い訳だ。いや、実際そうなのだが、この気持ちまで嘘だと思われたくはない。ZOOLを大事にしたいのに。
恐る恐る3人の方を向くと、何故か全員どこか呆れたような顔をして笑っていた。
「別に、そんなに怒ってないよ。そりゃあ騙したなって思ったけどさ」
「まぁなんだかんだ言って了さんのくれるもので、質の悪いものは無かったしな。大丈夫だろ」
「お前ら…」
感動のあまり少しウルっときてしまう。こんだけで泣くとか恥ずかしーなどとからかわれても、今はただ、安堵の感情だけが身を包んでいた。
「感動しているところで悪いのですが、店長らしき人物が近づいてきていますが」
廊下の方に目をやれば、眉を寄せ、険しい顔つきでこちらを見る強面の男が1人。
感動が一瞬で恐怖に変わる。
「あっ、もしかしてうるさかったっすか?すみません」
とりあえず相手の怒りを和らげようとできるだけ笑顔で対応するが、声が震えてしまう。
それはハルやトラも同じようで、どことなく表情が固い。
逆にミナは澄ました顔をしているので、こういう時に演技派が羨ましく感じる。
しかし、相手は表情を変えることなく、ずんずんとこちらに進んできた。
(このまま出禁なんかになったら、色んな人に迷惑をかけちまう。それだけはどうか…)
「あんた達__」
「ひっ」
「もしかして、ZOOLか!?」
「…は?」
「おぉ!やっぱりそうだ。実は俺、ファンなんだよ!」
まさかの展開だった。
*
「いや〜悪いねぇ。お邪魔かと思ったんだが、つい声をかけちまった」
そう屈託なく笑う店長は、本当に嬉しそうだった。
…どうやら、顔が怖いのは素らしい。
「いえいえ、こちらこそ」
店長と話しているミナは、最初から彼が怒っていないことに気づいていたらしく、ビビる俺たちを見て笑っていた。
何で気づいたんだと聞けば、店長の手首に、ZOOLのメンバーカラーのネックレスをはめていたらしい。よく分かったな。
「あんた達のことは、最初は気に食わなかったんだ。態度の悪い連中だってね。でも違った。あんた達の歌は理不尽な世の中に立ち向かってやろうっていう強いものだった。最近の若者は辛いことがあっても声を上げない子が多い。そんな中でここまでやれるのは凄いと思ったんだ」
思わず涙が出そうだった。
俺たちは、ZOOLはまだバラバラで、ぶつかり合って歪な存在だけれども、こうして誰かに認められていたんだ。
「ありがとう…ございます」
照れながらお礼を言うハルも
「そこまで言われるなんて光栄だな」
ハッキリ答えつつもどこか嬉しそうなトラも
「嬉しいです。ありがとうございます」
いつもの皮肉めいたものじゃなくて、本当に心からの笑顔を浮かべるミナも
「ありがとうございます!これからもがんばるんで、応援してください!」
今日一番の笑顔だった。
*
帰り際に、店長にサイン色紙をプレゼントとして帰る。もう冬だからか、外はすっかり暗くなっていた。
「楽しかった!またみんなで外で食べたりとかしたいな!」
「そんな暇じゃないし」
「女との予定が入ってるから無理だな」
「休日は有効に使いたいタイプなので」
みんなと仲良くなれたと思ったが、流石にそう簡単にはいかないらしい。それでも、最初から考えると、随分と進歩したと思う。
「ところでトウマ、さっき"これからも"なんて言ってたけど…」
そうだ。俺たちは"これから"なんだ。
「だってそうだろ、俺たちは止まらない。3年のファッドで終わらせたりなんてしない。
________ 俺たちなら、できる」
もう諦めまいと、固く拳を握って決意する。
俺たちを見下ろすように、大きな満月が輝いていた。