転生したら月雲了になってたんだが軽く詰んでる   作:あけび

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誘拐はいかんと思うんですよ

 

今俺は気分が良い。もしここがテレビ局出なければスキップして踊り出すところだが、一応社長という身分もあって鼻歌でおさめる。

 

何故こんなにも上機嫌かというと、ZOOLのレッフェスへの出場が決まったからだ。

レッフェスというのはレッドヒル・フェスティバルの略称で、デンマークで行われる世界的なロックフェスだ。

 

ZOOLがレッフェスへ出場することは、本来のアイナナ4部のストーリーで決まっていたことだが、いざ出場させようとなると結構大変だった。

なにせ海外のフェスなので、大幅なスケジュール変更や国外に出るための準備など、やることがてんこ盛りなのだ。

 

そう考えると、月雲社長のアイドルを邪魔することにかけての情熱がいかに凄まじいかを実感する。いや、もっと他のことに情熱を注いで欲しかったのだが…

 

まぁそんなこんなでルンルン気分で楽屋のドアを開けると、どこか空気の沈んだZOOLの面々がいた。更に言うと、俺が来たことで余計に嫌そうな顔をした。地味に傷つく。…とにかく報告するか。

 

 

「レッドヒル・フェスティバルへの参加が決まったよ!おめでとう!」

 

「レッドヒル・フェスティバル?」

 

「あっ花束もプレゼントしちゃう」

 

「デート中にレストランでグロテスクな話をして突き返されたのかと思いました」

 

「えっそんな人で無しなことしない…」

 

「了さんにしては珍しく言い返さないな…」

 

 

別に言い返さないよっ!生憎本物と違って皮肉に皮肉を返せるような人種ではないのだ。

 

 

「レッドヒル・フェスティバルってデンマークでやる世界的な規模の野外ロックフェスだろ?」

 

「熱狂的なロックファンが世界中から集まるイベントですね。バンド演奏をしない私たち、まして、新人アイドルは歓迎されないのでは?」

 

 

ここでZOOLは、この高いハードルを越えようとする中で自分達の過ちに向き合い、心から歌うことで大歓声を浴びる。だが、その感激をグッと堪え、4人を煽るように歪んだ笑みを浮かべる。

 

 

「いいよ、泊がつくから」

 

「ブーイングされてもか」

 

 

悠が眉を顰めるが、構わず言葉を紡ぐ。

 

 

「たとえ海外のロックフェスで非難されようが、メディアは大規模なフェスに出場した手柄だけを取り上げるからね。世間にも良い噂だけが届く」

 

「俺は嫌だ。俺を振った女をデートに誘うようなものじゃないか。突き返されるとわかってる花束は用意したくない」

 

 

虎雄が反対し、他のメンバーがそれに対してバラバラな感想を述べたりしたが、全て無視してもう決まってしまったと不満を打ち切った。

 

 

「どうせ3年のファッドだから、賞賛されようがされまいが関係ないだろう?お前たちは、今のアイドルをめちゃくちゃにしさえすれば良いんだから」

 

 

 

「そんなのは、嫌だ」

 

 

 

「俺は、もっとこいつらと一緒に、本気で歌いたい」

 

「ロックフェスにでて本物の喝采起こさせてきてやるよ!そしたらあんたも考えを変えるはずだ、俺たちは3年間で終わりじゃない」

 

「ZOOLが新しい時代を作るシンガーだってな!」

 

 

俺の言葉は、トウマの心に火をつけたようだ。

 

俺は内心ほくそ笑むと、精々頑張ればいいさと言ってそさくさと楽屋を後にした。

 

 

ふふ、これでZOOLは新たな一歩を踏み出す準備ができただろう。楽屋に入った時と同じようにルンルン気分で帰ろうとすると、ふと嫌な予感がした。

 

頭の中に浮かぶのは、前世の俺が3部をプレイしていた時に見た、Sakura Massageを歌うナギを見て憤る巳波、そして今日の出来事__

 

 

もしかして今日は、ナギの誘拐される日なのでは…!?

 

 

 

 

 

 

「見つけたよ」

 

 

ゼロアリーナの前に佇むナギは、こちらを振り向くと、険しい顔つきになった。

 

 

「…ワタシに何の用があるんですか?」

 

 

あれから色々と考えたが、結局大した案は浮かばず、こうして連れ去られる前のナギに直接会いに行く案しか思いつかなかった。それにしても顔が怖い。

 

鋭い氷のように冷たい雰囲気にたじろぎかけるが、気を持ち直して1歩前に踏み出す。

 

 

「単刀直入に言う…もうすぐここにノースメイアからお前を連れ戻しに男達が来る。だから見つかる前についてきて欲しい」

 

 

ナギは一瞬驚いたが、すぐに俺を睨みつける。

 

 

「何故ワタシが追われていることを知っているかは聞きません。ですが、そう言われて大人しくついていくわけがないでしょう?」

 

 

だよな。今まで自分の仲間達を散々傷つけた奴だし、信用するわけがない。

でもな、それでも何とかしてやりたい。たとえ罪を犯した身だとしても、放っておくなんて出来ない。

 

 

「だからって連れ去られるのに黙って見ているなんてしたくない。とにかく追手が来る前に急いで来るんだ!」

 

 

そう言って俺はナギの手を取って連れていこうとする。

とは言ってもナギの方が力が強くて無理やり連れていくことは出来ないので、これで断られたら俺は撤退するしかない。

 

部下を連れていくのも考えたが、個人のデリケートな問題に対して事情を知らない人が関わるのは気分が良くないだろうし、俺の独断にあまり部下を巻き込みたくはなかった。

 

あまりにも低い賭け。身勝手で、悪あがきにも等しい行為。

 

 

 

そんな可能性にかけたどうしようもない男の手を、ナギは振り払わなかった。

 

 

「あなたが何を考えているかは分かりません。ですが、聞き入れましょう」

 

 

その瞳には確かな決意が灯っていた。

 




原作と流れはほぼ同じなのに月雲社長中心にセリフが変わっているのは、月雲社長の中身が違うからです。本編よりややマイルドな言い回しになっています。
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