更新話の月雲社長を見る度に、こっちの月雲社長をどうしようかと迷ってしまいます
ナギの穏やかな顔を見て、俺は胸を撫で下ろした。こりゃ頑張って時間稼ぎしたかいがあった。
とは言っても、捜索しているノースメイアの人と話して足止めさせたり、こことは違う目撃情報を教えたりしただけだが。
「追っ手がここも探し始めてる。逃げるなら今のうちだけど…」
「もう逃げ回る必要はありません。ワタシから向かいます」
やっぱり。ナギはこれ以上逃げ回っても意味が無いと分かっているのだ。
彼らが躍起になって探せば、他の人にも迷惑がかかるかもしれないから。
「1つ聞きたいことがあります」
「なんだい?」
「あなたは、何者なんですか?」
「えっ…」
驚く俺の反応を見て、ナギは更に続ける。
「あなたは焦っている時、いつもと口調や一人称が違います。気づいていましたか?」
あっ
やっちまったぁぁあ!!!!
やべぇ全然気づかなかった!でも思い返してみるとそうだったかもしれない…
行動だけでなく、喋り方まで変わると流石に混乱させてしまうと思って月雲社長の口調に合わせていたのだが、まさかボロが出ていたとは…
「あなたに何があって性格が変わったのかは分かりませんが…助けてくれてありがとうございます」
最後に少しだけ微笑えんでこの場を立ち去ったナギの背中を、俺は複雑な顔で見つめることになったのであった。
これからどう誤魔化そうかなぁ…
*
次の日、俺は歌番組で6人のアイドリッシュセブンを観た。ナギの欠席をインフルエンザだとするアイナナの顔はどこか曇っている気がする。
6人の歌うメロディが、ナギを助けてやれなかったことを思い出させた。でも、
『…ありがとうございました!』
ステージのライトが消える間際に見えた、みんなの表情。
不安げな表情をしつつも、決意を固めた彼らの顔を見て、全くの無駄じゃなかったんだと思わされた。
アイナナの出番終了を告げる声、そして、ZOOLの入場が促される。
「確かZOOLは、アイナナにナギのことを聞かれて喧嘩になったんだっけ?」
まぁ、喧嘩になったのは巳波と悠と虎雄なんだけども。
歌う彼らの姿はいつも通りだが、きっと内心は揺らいでるんだろうな…
ZOOLの歌を聞きつつ、外に出る支度をする。この後ある番組がやるのだが、移動中に車内にある小型テレビで観ることができるだろう。
__ある番組とは、悠と虎雄の出るお悩み相談番組である。
*
「テレビ観たよ。てっきり炎上すると思ってたのに、若いご意見番ZOOLだって」
「知らねぇよ。…ダセぇ」
俺が4人の元に訪れ、早速番組の感想を伝えると、虎雄に心底嫌そうな顔をした。
若いのに色々な経験を積んでいてこういうことに向いてそうだけど、本人は気に入らないようだ。
「了さんは俺たちに嫌がらせしたかったみたいだけど、何も起こんなくて残念だったな」
…単にお悩み相談をする悠と虎雄、楽しそうにラーメンの大食いをするトウマと巳波が見たかっただけなのだが、そういうことにしておこう。そ れ よ り だ。
「ラーメンうまかったし、今度ハルとトラも行こうぜ。ミナも連れてさ…」
「ふん」
「あらあら、お嫌いみたいですねぇ。とっても残念です」
「お前らいい加減仲直りしろよ」
いつの間にかまた険悪なムードになっていた。おいおい俺をほっとくなって。泣くぞ。
「なになに?ケンカしたの?…どうせ大したことじゃないんでしょ?早く仲直りした方が良いよ」
「了さんには関係ないし…」
「あぁ、今仲良くなった問題ない」
「つれないなぁ。…折角デンマークのフェスの後、一週間くらいの休暇をあげようと思ってたんだけど、やめようかなぁ」
「ちょっ、休暇くれるのか!?」
「ハワイとかどこでも良いよー。フェスで生卵投げられて、落ち込んだまま仕事されても困るしね」
「あのさ、ハワイとかじゃなくてノースメイアでいい?虎雄のホテルがあるんだって」
「あぁ、巳波が留学してたとこね。この時期に寒い所に長期滞在とか風邪ひきそうだけど」
なんか悠がさぁ、こう拒絶されても、どこか諦めてないところにぐっときてしまう。みんなが少しずつ歩みよろうとしている証だよなぁ。
…それでもここは、これからのZOOLの為に突き放さなければならない。
「まぁ場所は任せるよ。せいぜいフェスで頑張って、ブーイング浴びて傷心旅行でも楽しみなって」
"傷心"ってところをこれでもかという程強調して、ニタリといかにも悪役っぽく笑うと、虎雄の顔が強ばった。
「了さん、いい加減にしろよ…。あんたが俺が必要だからってついてきたが、降りてもいいんだぞ」
「トラっ!」
「へぇ、でもあんまり役に立ってないじゃないか。お互い使い捨ての関係だし、降りたって構わないけど」
巳波、フェス用の新曲よろしくね。なんて言って部屋から出たら、去り際にみんなの悔しそうな顔が見えた。
これでみんなが、お互いのこと、ZOOLのことを見つめ直すことができれば良い。
変えられる未来もあれば、変えちゃいけない未来もきっとあるだろうから。
*
了さんが退室した後、ハルは絶叫した。誰もが自分を必要にしない、1番にしないのだと。
俺はハルが1番だと思ってるし、それはミナもトラもきっと同じだろう。
それでも、この空気が、そう言うのを躊躇わせてる。
…思えば、了さんの言葉はいつも俺たちを掻き乱した。
その手ですくい上げてくれたのに、ステージに上がった途端、めちゃくちゃにされた。いや、俺たちの中に僅かに残っている希望を、要らないものだって握りつぶしたんだ。
でも、
今の了さんは何かが違う気がする。
さっきだって、俺たちを傷つける言葉を言うことを、どこか躊躇っているように感じた。
自然に言うのではなく、まるで言わなくてはならないといった感じだった。
…俺たちを、わざと高ぶらせるように。
掌の上で転がされているような不吉な感じがしたが、それでも首をふってそれを打ち消す。
了さんが俺たちの気持ちを引き出すなら、それに乗ってやったら良い。
胸の中で燻っていた言葉を、更に自信を持って発する。
「4人で歌おう」