「××って自分勝手だよな」
「ちょっと他より上手いからって偉そうだし」
これは…昔の記憶…なのか?
「俺たちは××のことを信頼してません。キャプテンにするのは反対です!」
「俺も!」 「私達も、反対です!」
随分と昔の、しかもかなり嫌な記憶だ。
その時、先程言葉を発した面々がこちらをギロっと睨みつける。
「ゲームのキャラになって未来を変えようとしてるけど、今ごろって感じだし…」
「結局自分の為にやってるんだろ?」
ガバッ
驚き身体を起こすと、最近見慣れてきた月雲社長の寝室が広がっていた。
スマホのボタンを押すと、午前4時44分と映し出される。不吉か。
(嫌な夢を見た…いつぶりだろ)
とにかく一旦落ち着こうと、ベットから起き上がり、汗でびっしょりと濡れた服を着替えて、水を飲む。
冷えたお茶を飲んだことで頭が冴えていく。
(3、4年くらい前の夢だよな。でも、最後のは
起床まで時間があるため再び寝ようしたが、また悪夢を見るのを恐れて、眠りに落ちることは無かった。
*
「どうしたんですか?」
「あーいや、ちょっと寝不足なだけだよ」
心配そうにこちらを見つめる女性の手には、TRIGGERの団扇が握られている。
俺は今、最初にTRIGGERのライブに行った時に知り合った、2人組の女性とカフェで雑談をしていた。
知り合って以来、ラビチャで度々連絡を取っていて、今日こうして同じライブに行くことができたというわけだ。
「いや〜またこうやってお話しできて良かったです!ねぇ〜瑠奈!」
「うん!私も碧も楽しみにしてたんですよ!」
「俺も、同じ趣味の人と喋れて嬉しいよ」
二人は会社員らしいが結構自由が効く職らしい。こうして度々ライブに行ったりしているらしい。一方俺の方は、変に遠慮されたくないのでどっかの会社の部長くらいで通してる。
ちなみに、俺がタメ口なのに対し彼女達が敬語なのは、単純に俺が年上なのと、なんか見た目から社長感を醸し出してるらしい。まぁ一応社長だもんね。…職偽ってる意味無くね?
と言ったって、我ら同士に敬語からくる距離感などなく、結構普通に話したりしているのだが。
「Bang!してって団扇掲げた時に、ほんとにやってくれるとは思わなかった〜!」
「尊すぎた…死ぬ」
「いや生きてよ!その尊さ糧にして生き返って!?」
いやあの時は、天と目が合ってドキリとした。変装してるといえどバレる可能性はゼロじゃないから…というのは建前で、実際は最推しに撃ち抜かれたからだ。おかげのその後のライブを生き残るのに苦労した。
「もう、まじでカッコよくて無理だわ…」
「そっちも!!?」
…ところでBangといえば一織を思い出すな。前会った時に思わず脅してしまったけれど、大丈夫なんだろうか?
変に怪しまれて本編より警戒されるオチは避けたいのだが…
俺がそう考えている内に、話題は最近のアイドル事情___ナギの休みに移っていた。
「ナギくん、もう10日も休んでるけど大丈夫かな?」
「インフルってこんなにやばかったっけ?」
「……ん〜インフルって繁殖力高いし、大事をとって休ませてるんじゃない?」
「そうかな…」
やっぱ直接のファンじゃなくてもナギのインフルエンザは話題になっているらしい。そりゃあ10日近くも休めば不審がるのも無理はない。だからこそ、アイナナにはあまり時間が無い。
「天くんもインフルかからなきゃいいけど…」
「あんた結局そこに行き着くのね。佐藤さんはアイナナも好きって言ってましたけど、らやっぱり心配ですか?」
あっ、佐藤というのは俺の偽名だ。月雲なんてごつい名前使えないし、1発で身元バレそうだしな。
「心配ではあるよ。でも、きっと大丈夫だって信じてるから」
ナギを日本に留めることができなかった俺が言うことではないけれど、後はアイナナ達を信じるしかない。
「きっと良くなりますよ。絶対に…」
彼女の言葉は、TRIGGERの事務所脱退やスキャンダルを乗り越えてきただけあって、どこか重みがあった。
___俺は俺自身の手で、これらの悲劇を変えられるんだろうか?
「あっつ!!」
そう思いつつコーヒーを飲めば、口に含む量を間違えてやけどした。
やはり俺にシリアス展開は無理なようだな!
名前ありのモブキャラはちょくちょく増える予定です。
ちなみに、
瑠奈(るな)→ラテン語で月
碧(あお)→ハワイ語で雲 という感じで名付けました。