もしサイタマの夢が正夢だったら   作:怪人C

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危機の実感

「先生、おはようございます!」

「アンタに慕われる理由なんかないんだけど?さっさと出てってくんない?」

「俺は先生のようになりたいんです!」

「フブキじゃあるまいし、私には部下は必要ないわ」

 

 朝っぱらからS級2位、戦慄のタツマキに大声で挨拶をしているのはサイボーグのジェノスである。Z市で観測された超高エネルギー反応にタツマキが興味を示し縄張りをZ市に移動させた所、ジェノスが蚊の大軍を束ねるモスキート娘と戦闘、自爆寸前であるところをタツマキが目撃、モスキート娘を瞬殺したのがこの両者の関係の切っ掛けであった。その結果タツマキの圧倒的な力を目の当たりにしたジェノスはタツマキの実力に少しでも近づくために、師匠と呼び慕っている。

 

 タツマキはシッシ、と手を振ってジェノスを追い払う仕草をする。

 

「そもそも私は超能力者、アンタはサイボーグでしょ?私に憧れても無駄でしかないわ。諦めなさい」

「俺は狂サイボーグに立ち向かえる力をつけるために先生のように強くならねばならないのです。先生に救って下さったこの命を無駄にしないためにも!」

「アンタ暑苦しいわね……私こういう男嫌いなんだけど」

 

 タツマキは頭を抱え、どうやってジェノスを追い払おうか迷う。もう超能力で無理やり追い出してしまってもいいかもしれない。ジェノスのように、タツマキの圧倒的な実力に心酔する人間は少なくない。

 しかしタツマキにとっては、単に煩わしいだけである。

 ヒーローが人助けをし、怪人を倒すのはタツマキにとっては当然のことであり、日常であるからだ。

 

 ジェノスのタツマキへの盲信はストーカーに近い。タツマキにとっては邪魔でしかないが実力行使も忍びない。どうしたものか。

 

「ハア……強くなりたいのなら取り敢えず、私から離れてヒーローでも目指しておけば?あの蚊との戦い見た限り、アンタならいい線行くんじゃない?S級になったら相手してあげてもいいわ」

「……!分かりました!」

 

 タツマキの提案を聞き、早速ヒーロー協会へと試験を受けに走るジェノス。

 ジェノスを暫く追い払うために適当に口にした、タツマキのこのアイデアが結果的にジェノスを本当にS級ヒーローへと誘うこととなるのだが……。

 

「これで暫く平和になりそうね」

 

 他人の実力を正確に把握していないタツマキは、弱いジェノスがすぐにS級ヒーローになれるとは微塵も思っていなかった。自身の安息がほんの僅かであることにタツマキは気付いていない。

 

 

 

「いてて……」

 

 その一方、地底王との戦いで全身を骨折したサイタマはA市のヒーロー協会付近の病院で治療を受け、ベッドに体を横たえて痛みを堪えていた。思い返すのは地底王との凄まじい激闘。結局両者痛み分けで決着はつかず、地底王は地の底へと再び戻っていった。

 

「あれと同じ強さの怪人が、三体も居るのかよ……洒落になってねー」

 

 サイタマは地底王が去り際に言い残した捨て台詞を思い出す。

 まだ地上の危機は過ぎ去っていない上に、地底王と同格の怪人が三体。

 サイタマは再び気分が高揚するのを抑えきれなかった。

 世の中は広い。自分と互角に戦える怪人はまだまだ存在する。

 

「怪我が治ったらトレーニングを再開しないとな」

 

 腕立て伏せ100回、上体起こし100回、スクワット100回、ランニング10km。

 サイタマがこれまで毎日行っていた鍛錬をもう一度しっかりしようと心に決めた、その時だった。病室のドアを開けて、大きな人型の銀色の機械が入ってきた。

 背中に複数の突起物があり、実にメカメカしい。

 

「なんだお前、ここってロボットも治療してもらえるのか?」

「ソンナワケハナイ。ワタシハヒーロー。S級7位ノメタルナイトダ」

「お前も趣味でヒーロー活動をしているのか、仲間だな!……S級って何だ?」

「一緒ニスルナ。オレハ協会カラミトメラレタプロヒーローダ……」

 

 メタルナイトはヒーロー協会の存在すらも知らない無知なサイタマに呆れていた。その結果片言ながらもメタルナイトはサイタマに説明する羽目となる。

 メタルナイトが病院に訪れた理由は単純であった。Z市で観測されたエネルギーの正体の一人、怪人と戦っていたのがこのサイタマであるとカメラ越しに確認できたからだ。メタルナイトの超科学力……超スローモーションカメラを使っても追いきれない程の凄まじい速度で怪人とこのハゲが戦っていたのは間違いない。

 S級を超えかねない力をサイタマが持っているのはメタルナイトからしても明らかであり、強大な戦闘能力を持ったサイタマに興味を持ったのである。

 一見ただのハゲにしか見えないサイタマだが、この細身のどこに凄まじいパワーを秘めているのか……?メタルナイトは自身の好奇心を満たそうとしていた。

 

「ソレデ、ケガハナオッタヨウダナ?」

「ああ、ヒーロー協会?ってのは分かったけど今日は土曜だからスーパーの特売日だし、早く帰って鍋の準備しねーといけねえんだよ」

「肉クライ、後デイクラデモ買ッテヤル」

「よし、話を聞こうじゃねーか」

 

 何とも現金な、てのひら返しが早いサイタマに機械越しに再び頭痛を覚えながらも、メタルナイトはある提案をした。

 

「オマエニハ私ノ実験二付き合ッテモラウ」

「いいけど……周りの患者やナースすげービビってるから、もうこの格好で病院には来るなよ」

 

 周辺は大パニックだった。機械の大きな体で病室に訪れれば、そりゃそうなる。

 

 数時間後、サイタマとメタルナイトが立っていたのは周辺に何もない岩場だった。ここならメタルナイトの本領である、周辺を焼き払うような高威力の攻撃も使えるだろう。メタルナイトは岩場周辺に大きなカメラを複数設置し、サイタマの詳細な戦闘データを取ろうとしていた。

 

「実験開始ダ……!」

 

 サイタマに向けてメタルナイトの背中から凄まじい量のミサイルが放たれ、大きく爆発する。

 

 噴煙の中から現れたサイタマは、無傷だった。

 その次にサイタマの元に差し向けられたのは、全身に拳が生えたような近接戦用のロボ。1秒間に数十発はあるであろう打撃に対してサイタマは肩を竦めるだけだった。

 

「おもしれーオモチャだな」

 

メタルナイトはロボと戦うサイタマの動きをカメラ越しで見て戦慄した。

 

「ナンテ無駄ナ動キナンダ……ソレナノニ、余裕スラアル」

 

「普通のパンチ」

 

 近接戦闘でどうすることもできず、災害レベル鬼上位に通用するであろうロボは一瞬で破壊された。サイタマは汗一つかかず、平然とした表情をしている。

 カメラで分析を行った結果、この時点でメタルナイトはサイタマの脅威を災害レベル竜並だと見抜いた。このまま機械を差し向け続けても無駄になるだけだと悟ったメタルナイトは、それでもサイタマの全力を知りたいがために実験をする。

 

その結果を後悔するとも知らないで。

 

「もういいか?」

「ツギデオワリダ。コノ周辺ニワ何モナイ。本気デ空中を殴ッテミロ」

「それで肉が手に入るならいいか。必殺マジシリーズ……マジ殴り!」

 

 サイタマの繰り出した単なる拳の衝撃は遠くのヒーロー協会すらも揺るがせ、凄まじいエネルギーとなって空中を突き進み、宇宙に到達。丁度Z市に向かっていた、観測される前の巨大な隕石をあっけなく破壊した。

 

 ビリビリとした衝撃を観測し、設置した観測用のメタルナイトの機械が衝撃で次々と破壊されていく。カメラ越しのボフォイは唖然としていた。

 

「これと互角の怪人が四体居るなどと、シババワの予言を待つまでもなく地球がヤバいのではないか」

 

 タツマキやブラストでも、サイタマに勝てるのか怪しいとボフォイは悟る。

 タツマキのデータは入手しているが、サイタマとは観測できるエネルギーが違いすぎる。圧倒的、それほどまでに思える程の桁外れの力。

 誰よりも分析が得意なメタルナイトだからこそ、察せてしまう地球の危機。

 メタルナイトは、茫然としながらサイタマを引き込みざるを得なかった。

 

「オマエ、S級二ナレ。危機二スグニウゴケルヨウニスル必要ガアル」

「まあ一応試験は受けてみるけど、ちゃんと肉奢れよ」

「ワカッテイル!」

 

元々災害レベル鬼すらも倒せる隔離枠としての側面もあるのがS級。データがあればヒーロー協会も納得せざるを得ないだろう。地球の危機に能天気なサイタマと、そんなサイタマに苛立つメタルナイト。

 

これがどこか凸凹とした両者のコンビの始まりであった。

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