もしサイタマの夢が正夢だったら   作:怪人C

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S級集結

「おー、でっけー建物だな」

 

 A市の中央で、周辺の建物より際立って大きい本部ビルを見上げたサイタマが能天気に感心する。サイタマとメタルナイト達S級はシババワの予言を深刻に捉えた重役達によってヒーロー協会本部に緊急招集されていた。

 

「ドウダ立派ダロウ。ヒーロー協会本部ノコノ要塞ビルハ、俺ガ作ッタモノダ」

「……メタルナイトって実は結構凄い奴だったりするのか?」

「今更ナコトヲヌカスナ。入ルゾ」

 

 無理やりS級にねじ込めるだけの力がある時点で察しろと苛立つものの、蒸気を噴き出しながらのそのそ歩くメタルナイトは、招集されたにも関わらず相変わらず微塵も物怖じする様子がないサイタマを頼もしいと感じていた。厳重にロックされている扉がサイタマとメタルナイトを認識し音を立てて開き、二人は内部へ歩みを進める。

 

 会議室に向かって歩く二人を出迎えたのは楊枝を口に加えた男だった。

 

「おお、メタルナイト。お前がくるとは珍しいな!その隣はサイタマか」

「招集二コタエルノハ不本意ダガ、コレホドノ危機ニハヤムヲ得ナイ」

「お前がそこまで言うたぁ腕が鳴るじゃねえか。期待できそうだ」

 

 ククク、と笑う男をメタルナイトはサイタマに紹介する。

 

「サイタマ、コイツハS級4位ノアトミック侍ダ」

「オッサンもヒーローなんだな、よろしく」

「おう、よろしくだなサイタマ。お前がアマイマスクを一撃で叩きのめす映像は見させて貰ったぜ。全くイキのいい新人が入ってきたもんだな」

 

 アトミック侍は手を伸ばすサイタマを受け入れ固く握手した。S級4位にはっきり実力を認められているのは間違いなくサイタマをサポートしているメタルナイトの影響だろう。サイタマのアマイマスクへ踏み込んだ速さ、パンチの攻撃力をアトミック侍は高く評価していた。それに加えてアマイマスク本人がはっきりと実力負けをしたと証言したこともあり、サイタマの実力に懐疑的な者は最早ごく僅かとなっている。

 

「後一応言っておくが俺はオッサンじゃねえ、まだ37だ」

「アトミック侍って呼ぶの長いしオッサンでよくね?」

「話聞けや、いいわけねぇだろ」

「……トットト会議室に入室シロ」

 

 相変わらず緊張感のないやりとりをしながら、三人は室内へと入った。

 部屋の中央には幅広い、立体映像を映し出せる机が設置されておりその机を囲むようにして他のS級ヒーロー達が座っていた。サイタマ達も座り、欠席のブラストを除いたS級2位からS級18位までの17名がここに勢揃いした。

 ここに居る人物は一人一人が災害レベル鬼の怪人を単独で倒し得る埒外の存在。

 サイタマに向けられる複数の視線は好奇心、無関心、僅かな敵意と様々だった。

 

 ほぼ全員が集合したことで扉を開けて、今回S級ヒーロー達が招集された理由を告げる者が現れる。

 

「皆揃ったようだな。私は今回の説明役を任されたシッチという者だ。大預言者、シババワ様が地球の危機の予言をお告げになられた。予言の内容は明日、海がヤバいというものだ。童帝くん、キミがS級の指揮を取って地球のピンチを救って貰いたい」

「ボクが指揮を取るのはいいけど、明日って急だなあ。それにそれだけじゃ怪人が襲ってくるのかも分からない。単に海が汚染されるとかそういう可能性もあるよ」

 

 シババワの予言は100パーセント当たるが、ごく一部の災害しか予言できない。

 今回の場合もはっきりした日時が分かったにも関わらず、具体的な内容までは分からなかった。だがヤバいという予言を聞いてもS級の面々はあまり危機感がない。皆自分の実力に自信を持っているからだ。

 

「シババワ様は今まで数多くの大災害を予想してきたが、ヤバいとまで表現したことはただの一度もない!未曽有の危機が海から迫りつつあるのだ!」

 

「……」

 

 シッチの熱弁が止み、部屋の中に静寂が満ちる。

 

 S級の中で口火を切ったのは、童帝ではなくタツマキだった。

 

「怪人が出なかった時の危機はアンタ達に任せるわ。そもそも私達の仕事は怪人を倒すことだし。アンタがそれほどまで言うのならもしかしたら災害レベル神を見ることができるかもしれないわね……私に勝てるとは思えないけど」

 

 ピンと指を立てて、シッチに挑発的な視線を向けるタツマキの仕草にはS級2位として自分の実力に絶対の自信がある様子が伺えた。災害レベル神が現れるかもしれないと聞けばヒーロー達もその強さをイメージしやすい。タツマキに触発されるかのようにS級ヒーロー達はそれぞれ思い思いの反応を見せる。

 

 流石先生と感動するジェノス、そんなジェノスと戦いを通じてお近づきになりたいプリズナー。神でもいけるぜぇと意気込む金属バット。舎弟達の安否を心配するタンクトップマスター。

 俺の速度に反応できるはずがないと思いながらも敵を侮らないフラッシュ。無表情で興味なさそうな番犬マン。強靭な筋肉を見せつけ強敵に喜ぶクロビカリ。我関せずに食事をしている豚神。無言の駆動騎士。気を張り詰めながらもS級の協調性のなさに呆れるゾンビマン。キングエンジンを猛烈に鳴らすキング。静かに目を細めるアトミック侍とシルバーファング。

 

 指揮官を務める童帝はこれはまとめるのは大変そうだと冷や汗をかきながらも大きく声を上げる。

 

「とりあえず海に近接しているJ市に避難勧告を出そう。現場のA級のヒーロー達には万が一のためこの本部を守ってもらう。そして……」

 

 そこまで策を考えた童帝の作戦立案を遮るように、会議室に必死の形相の人間が現れた。

 

「報告します。海人族を名乗る怪人がJ市に出現!A級のスティンガーを蹴散らし暴れまわっています!」

 

 会議室の机に映し出されたのは、身長2メートル程のタコのような怪人だった。

 怪人の名が海人族、海がヤバいとなると今回の事件に関係がある怪人なのではないだろうかと誰もが悟る。

 

「なんか見るからに雑魚って感じね。明日が本番でしょうけど、早々に片づけてくるわ」

「先生、お供します!」

「いやタツマキちゃん、ジェノスさんここはボクの指示に従ってくれないかな……!?」

 

 機嫌がいいのだろうか、気合が入ったタツマキが童帝の指示を聞くことなく真っ先に現場に急行しそれを追うように弟子を自負するジェノスも走り出す。

 

 後を追うように立ち上がったのは、メタルナイトとサイタマ。

 メタルナイトはサイタマに近づき耳打ちする。

 

「地底人ト海人族……類似点ハナイガ嫌ナ予感ガスルナ。サイタマ、オマエモ向カエ。タツマキガ危険二陥ッタラ助ケロ。俺モデータヲトリニムカウ」

 

 S級メンバーの中で、最も今回の敵を危険視しているのがメタルナイトだった。サイタマの実力を間近で見て誰よりも知っているメタルナイトはそれと同格の存在の怪人を知らされた結果、S級2位のタツマキが怪人を退治しようとしているにも関わらず欠片も油断することはなかったのである。

 

「……おう、行ってこようぜ」

 

 サイタマは真剣な表情を浮かべ宙にヒーローマントを翻し、メタルナイトと共にタツマキとジェノスを追いかけることにした。

 

「待ってよサイタマさん、メタルナイト……行っちゃった」

 

 後に残ったのは、サイタマ達4人を大声で静止したにも関わらず聞き届けられなかった童帝。

 

「はあ、ボクが子供だから舐められてるのかな……明日が不安だよ」

「お前がいつも努力しているのは知っている。頼んだぞ指揮官」

 

 がっくりと肩を落とす童帝を、比較的常識人のゾンビマンが慰めるのであった。

 

 タツマキが向かえば安心、本番は明日。

 安易にそう思い込んでいたS級の面々は数十分後、驚愕することとなる。

 海がヤバいというシババワの予言は、誇張でも何でもなかったのだ。

 

 絶望が、彼らヒーロー達に襲い掛かろうとしていた。

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