もしサイタマの夢が正夢だったら   作:怪人C

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予言の日

 ついに予言の時が来た。

 サイタマは童帝から手渡された小型の発信器を持ち、メタルナイトと共に最前線に出ている。サイタマとメタルナイトの視界を覆いつくしているのは、既に壊滅状態のJ市を更に飲み込もうとする巨大な津波。市民の避難は既に完了しており、民衆の被害を気にする必要がないのは幸いだろう。

 

「これはやべーな」

「波ノ中カラ複数ノ想定以上ナエネルギーヲ観測中ダ。一瞬モ気ヲユルメルナ」

「おう」

 

 真剣な表情で気を引き締めるサイタマへと、発信器から童帝の通信が入る。

 

「サイタマさん、海から出現する怪人の反応を確認したら連絡するよ。あなたの働きに世界の未来はかかってる」

「自覚はあるぜ。愛人族とやらに負ける気はねえよ」

「……カイジンゾクダ」

 

 キリっとした顔のサイタマだが自分と同格に戦える者の種族名すらまともに覚えるつもりがないどこかとぼけた様子は相変わらずであり、良い具合に力は抜けているようだった。

 

「サイタマさんが打ち漏らした怪人は後衛のボク達で倒すけど、戦力差を分析するとキングさん以外はS級全員でも一匹を相手にできないかもしれない」

 

 発信器から聞こえてくる童帝の冷静な分析は正しいが、声からはどことなく悔しさが滲んでいる。司令塔として冷静に振舞うべきだと分かってはいるがやはりS級5位としてのプライドがあるのだろう。

 サイタマと機械のメタルナイトのみが前衛なのは、S級であっても怪人との力の差がありすぎるのが明確であり、大勢で挑もうとも被害が増えると判断したための苦渋の決断だった。フラッシュやクロビカリといった実力に自信があるS級は猛反発したもののメタルナイト、童帝、ジェノス、タツマキといった面々が声を上げサイタマとキング以外は戦いにすらならないと説得。

 

 そのキングの一声でサイタマが前衛、キングが後衛となることで話はついた。

 

 波が轟音と共に無人のJ市を丸ごと飲み込んでいき、水の中から9体の海人族達が現れる。

 怪人達はそれぞれタコ、イカ、魚など様々な海の生物たちが巨大化した容姿をしていた。

 

「タダ複数体出現スルダケデ市全域ヲ壊滅サセルノカ……」

「海がヤバいとかいう予言はマジだったみてーだな」

 

 前日に襲い掛かってきた海人族の肉体は回収し、データは万全なもののメタルナイトは改めて地球の危機を感じ取り、サイタマもそれに同意する。

 海人族の脅威は最早自然災害そのものだ。1体も逃す訳にはいかないだろう。

 

「イクゾ!」

 

 メタルナイトがイカ怪人に向け無数の特製催涙弾を発射する。これはメタルナイトにしかできない戦法であった。確かに災害レベル竜以上の海人族は、ミサイル等単なる兵器程度では肉体を傷つけることはできないだろう。しかし元が海の生物であるのならば食事は取っているはずであり、体内を刺激すれば効果がある成分は存在するはず。

 

 メタルナイトの予測は当たっていた。効き目は僅かではあったが、立ち止まり軽くくしゃみをするイカ怪人。勿論倒すことはできない、だがその一瞬があれば十分だ。

 怪人の頭部をサイタマの拳が襲う。しかし怪人は、全身が軽くひび割れたもののなんとパンチを耐えた。

 

「固えなこいつ……!」

 

 マジ殴り程ではないがかなり本気で殴ったのだが、サイタマの拳にはビリビリとした感触が残った。どうやら数が少ない分海人族のほうが単体では地底人より強いらしい。昨日と違って怪人の全身が濡れているのも理由の一つだった。

 

「連続パンチ」

 

 拳の連打でようやく怪人を一体倒すことができたもののサイタマですら最早普通のパンチでは力不足。これと同格の怪人は残り8体、それに加え深海王もいる。

 サイタマはたかぶる感情を抑え切れなかった。

 地面が海水でぬかるんでいるため前回のようにマジちゃぶ台返しを使うこともできない。同じ理由でマジ走りも全力で使用できないだろう。

 

「ピンチだが……だからこそ燃えるぜ。ぜってー負けねえ叩き潰す!」

 

 サイタマは生き生きとした表情で怪人達にマジ走りで飛び掛かり純粋に肉弾戦を仕掛けていった。濡れた海人族達はパワーも凄まじく、その気になれば一撃一撃で地球を割ることができる剛力の持ち主。触手が叩きつけられ、両腕で防御したにも関わらずサイタマの体は軋みをあげ、数百メートル以上空中を舞う。

 

「まだ、負けるわけにはいかねーぜ!」

 

『必殺マジシリーズ……マジ急降下』

 

 サイタマは東京タワー程の高度から重力を味方につけ即反撃し、怪人の一体を流星のようなパンチで粉砕した。

 

「改メテレベルガ違イスギルガ、楽シソウダナサイタマ……」

 

 ナイトの体は戦闘の衝撃波で既に機動部分が壊れてしまっていた。結局、メタルナイトは最初の一体を倒す手助けができただけだったのだ。

 

「俺ハ蚊帳ノ外ノヨウダガ……俺ニモ誇リガアル」

 

 今はこの戦いに混じることはできないだろう。

 しかし、いつか自慢の科学力でこの戦闘に耐えられる兵器を作ってみせる。

 最後の海人族をマジ殴りで葬るサイタマのデータを必死に取りながら、改めてそう決意を固めたメタルナイトに童帝からの通信が入ったのはその時だった。

 

「メタルナイト、海からのエネルギー反応が一体こっちに向かってる!」

「ナニ!?サイタマ、早ク……!」

 

 メタルナイトは前衛の戦闘データ収集に集中していたため、童帝達に気を配る余裕がなかった。最悪なことにサイタマに渡された通信機は既に衝撃で壊れている。この緊急事態をサイタマに呼び掛けようとするナイトの体が、何者かによって踏み潰され言葉が途切れた。

 

「悪いけど、教えられちゃ困るのよねぇ」

 

 メタルナイトを踏み潰したのは、王冠をかぶった半魚人だった。

 サイタマは手下から受けた傷で軽くふらつきながら、最後の敵……深海王と向かい合う。

 

「てめーがボスか」

「私の兵達をよくも殺してくれたわねぇ。あなたもお返しにぶっ殺してあげる」

「……マジで強かったぜ、お前の手下。いくぜえええ!!」

 

 本体ではないとはいえメタルナイトが完全に破壊された怒りもあるのだろう、珍しく必死の形相のサイタマの拳と深海王の拳がぶつかり合い、衝撃で既に荒廃しているJ市全域の地表が大きく罅割れていった。

 

 その一方、後衛のキング達S級ヒーローにも危機が迫っていた。

 

 たかが下っ端怪人1匹、しかしそのレベルは竜以上である。

 

 残りの脅威は海人族1匹と深海王のみ。ヒーロー達の戦いは最終局面に入ろうとしていた。


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