現実世界にポケモンをぶち込んだらサバイバル系B級パニック物になってしまった   作:ケツマン

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ほのぼのもたまにはいいでしょ?


2ー1 束の間の平穏

「ふう」

 

 

両手にベッタリとこびり付いたモンスターの血液。通称『小鳥』の血を濡れ雑巾で拭う。

むわりと匂い立つ血生臭い空気をから少しでも逃れる為、俺は大きく息を吐き出して汗を拭った。

 

 

モンスターを狩り、獲物を捌く事にもようやく慣れてきた。

もちろん、本業の猟師から見たらまだまだ拙く、素人の猿真似にしか写らない事だろう。

それでもスマフォ片手に四苦八苦しながら解体の手順を調べ、内臓の処理を半泣きになりながら、怖々しながらも何とかこなしているのだから大目に見て欲しい。

 

血抜きが不十分な事に気付かず作業を始め、部屋中に鮮血が滴り落ちては、生臭い悪臭に包まれて吐きそうになったり。

切り込みを入れた腹部に手を突っ込み内臓を取り出す時の生暖かく滑った独特の感覚に思わず硬直してしまい、ニュルニュルと滑る腸を足の上に落として悲鳴をあげたり。

何の根拠も無い直感と、昔テレビで目にした朧げな記憶を頼りに、おっかなびっくり『小鳥』を始めとする鳥型モンスターの身体を無駄に切り刻んでは途方に暮れていた。

 

そんな最初の頃と比べれば、出来栄えは雲泥の差なのだから。

 

 

「まあ、だいぶグロ耐性ついたよな、俺も。今なら人間の死体見てもどうとも思わなかったりしてな」

 

 

やや錆が残る肉厚の鉈を血塗れにしたまま右手に。そして羽毛を雑に毟った小鳥の首無し死体を左手に持ちながら呟く元男子高校生の図。

側から見たら中々に猟奇的な光景だろう。

 

だが仕方ないのだ。生きて行く為には食わなければいけない。

そしてポストアポカリプスまっしぐらな終末世界の現代では、コンビニやスーパーで丁寧にバラされた新鮮な肉類など手に入らないのだから、自分で何とかするしかない。

 

現実ポータブルゲームとは違い一つ一つの作業が酷く面倒な上に血やら汚物で、すぐに汚れる。

中学時代に盛大にハマったモンハンみたいにボタン一つで素材回収が出来たら果たしてどんなに楽な事やら。

心の中でそんな栓無き愚痴を零した回数はもはや数えきれない。

 

 

「あー肩が痛いし腕も痛いし腱鞘炎とかにならねえだろうな? 狩りそのものよりも、解体の方がキツイまであるぞ? これ」

 

 

とは言え、何だかんだ文句を言いつつも淡々と血抜きや解体作業をこなせるようになった俺の内心は満更でもなかった。

 

 

(何つーか、こう、生きてる‼︎ って感じするよな。一日一日に満足感があるっつうか。いやそれ以上に疲労感もあるんだけどさ)

 

 

そう。何だかんだ言いつつも俺はすっかり、このなんちゃって狩人としての生活に染まっていたのだった。

 

 

 

 

 

 

本日の獲物はほぼ毎日のように狩っている、茶色とベージュの羽毛が特徴の『小鳥』が二羽。

それから最近よく見かけるようになった、小鳥と同じ鳥系モンスターでもやたら好戦的な『鬼鳥』が一羽の計三羽だ。

 

『鬼鳥』に関しては小鳥と同じような大きさで、異様に鋭い三白眼の目つきと、逆立つ茶色い羽毛。

そして何より翼の部分だけが紅茶のような赤みがかっているのが特徴のモンスターだ。

 

強さや攻撃パターンも小鳥と殆ど変わらないので、不意さえつければ俺の包丁槍だけで倒せる程度。

最近はこの程度の雑魚モンスターならスマイルの援護も殆ど必要無くなっている。

 

ちなみに角が生えている訳でも無いのに、何故『鬼鳥』などという厳つい名前で呼んでいるかと言うと、小鳥と比べてヤケに好戦的なうえに「オニーオニー」と、スマイルとどっこいどっこいな妙な鳴き声をする事から名付けた。

実はその特徴的な骨格から『鬼雀』と名付けるかとも悩んだりもした。

だが常識的に考えて、こんなデカイ雀などいるわけ無いのでボツ。

果たしてモンスターの生態に常識を求めるのが正解かは分からないが。

 

 

(これでもし角でも生えてたら『小鬼鳥』、もしくは小鬼をもじって『ゴブリンバード』。なんて名付けてたかもな)

 

 

また、獲物とは別に狩りの途中で襲撃をしかけてきたモンスター達もいた。

 

アゲハ蝶の幼虫を体高30センチ程にまで巨大化させたような、気色の悪い緑色の芋虫『大芋虫』が二匹。

それから大きく突き出た前歯と、やけに丸っこいずんぐりむっくりとした茶色の毛皮が特徴のネズミ型モンスターである『丸鼠』を一匹、追い払った。

 

 

(スマイルと俺のコンビだけで何とかなるレベルのモンスターばかりだから良いものの、やっぱ種類が多すぎて、特に初見のモンスターを相手にするのはビビるんだよなあ)

 

 

狩りに関してはスマイルの『影踏み』(相手を逃げられなくする謎のパッシブスキル。『シャドウバインド』というちょっと厨二臭い洋風の名前にするか悩んだが、スマイルが影を踏みしめながらドヤ顔するのが可愛くて命名)無しでは成り立たない。

 

だが、食用として仕留めるつもり無いモンスターはただの害獣。もしくはスマイルの成長の為の経験値リソースでしかない。

傷を負わせて追い払う程度ならば俺一人でも案外何とかなるものだ。

 

『大芋虫』は助走をつけて思いっきり蹴り飛ばし。

『丸鼠』は見た目こそ不恰好だが実用性は抜群である手作りの包丁槍でチクチク刺せば悲鳴をあげて逃げていった。

 

 

(何だかんだでモンスターパニックが起きてから、もう二週間……か。そりゃ、俺もこんな生活に慣れてくる訳だよな)

 

 

もともと運動はそこそこ出来る方ではあったが、性根が生粋のインドア派である俺は身体を動かす事とは殆ど無縁の生活をしていた。

それが今では槍を振り回し、未知の怪物を退治して、あげく狩りをして糧を得る。などとアウトドアというよりも原始的な生活を送っているのだから、随分と変わったものだ。

 

 

「つーかこんなB級パニックモンスター映画みてーな世界で、ぐだぐだダラけられる程に俺も肝が座ってる訳でも無ぇしな」

 

 

 

そんな事どうでも良い事ををボヤキつつ、俺は処理を終えた三羽分の鳥肉を適当にブツ切りにし、夕飯用の一羽を鍋に適当に放り込む。

 

残りの二羽は保存食の代名詞である干し肉にする為、これから塩漬けにするのだ。

 

 

「狩猟協会の人達って、自分で狩った獲物は自分で料理すんのかな? 釣り人は何となくイメージ出来るんだがな」

 

 

大量の塩でパンパンに膨れ上がった45リットルのポリ袋の口を開き、腕を突っ込む。

何度か掻き混ぜると、塩の海の中からいくつかの干からびた肉塊を取り出す。

これは二日前にバラし、塩漬けにした鳥肉だ。

これがガチガチになるまで部屋の床隅に引いてある新聞紙の上でしっかりと乾燥させる事によりファンタジー世界で有名な保存食である干し肉が完成するのだ。

 

 

(まあ塩オンリーでスパイス何か一切使ってないから、本当に塩味の硬い肉の塊ってだけなんだけどな)

 

 

以前味見した時の、強烈な塩っ気を思い出して顔をしかめた。

とは言え贅沢も言ってられないので、今日もまた取り出した肉の代わりについ先程捌いたばかりの肉を塩の海の中に沈めた。

きっと二、三日経つ頃には水分が抜けきっている事だろう。

 

本当は塩ごと取り替えた方が衛生的なのだろうが、そんな細かい事を気にしてる場合では無いのでスルーする。

 

 

 

「しかし何とか定住できる拠点を見つけられたのはラッキーだったな」

 

 

都心から離れるように歩き続けて三日、ようやくたどり着いた安住の地がこの小さな古屋だった。

平和だった時代なら近付こうともしない程のボロ屋だが、住めば都とはよく言ったもの。一人と一匹の生活はあっという間に日常と化した。

 

 

「何だかんだで、もうすぐ二週間は経つのか」

 

 

鳥を捌いた鉈の血をボロ布で拭い、目の前の壁に薄く切り込みを入れる。

一日に必ず一本、斜めに斬りつけている壁の傷は、今日で丁度バツ印が六つ。

二日でバツが一つ出来る訳だから、今日でこの小屋で生活して十二日目という計算だ。

スマホのカレンダーを見れば日付の感覚を忘れる事などあり得ないのだが何となくワイルドな雰囲気に憧れ、あえて原始的な暦の数え方をしている。

こんな下らない事を楽しめる程、生活に余裕がある証拠だろう。

 

 

「ナノナノー」

 

「おー。水汲みサンキューな」

 

 

スマイルが持ってきた水桶を受け取り、血で汚れた手を軽く洗ってから頭を撫でてやった。

小さな身体だと言うのに両手を掲げてチョコチョコ歩きながら重量のある木桶を頑張って持ってくる様子は見ていてとても癒される。

毎日の狩りから始まり軽い雑用まで、我が相棒は笑顔を絶やさずに進んで行ってくれる。

 

 

「お前と会えて、本当に良かったよ」

 

「ソーナノー?」

 

「そーなの」

 

「ソーナノー‼︎」

 

 

胸元に飛び込んで来たスマイルを抱きしめる。

もし一人だったらこの拠点に来るまでに何度死んだ計算になった事だろうか。

 

あのハイエナのような獣型モンスターを殺した後、俺とスマイルは引き続き人気の無い方へ移動をしていた。

モンスターの鳴き声を避け、余計な荷物になりそうな他人の気配を避け。

夜になるとほぼ廃墟と化した民家やコンビニに忍び込み、夜を明かして物資を漁ったりしていたので、移動にはかなりの時間がかかった。

 

ただタナボタだったのはコンビニからは意外にもかなりの量が残っていた水や食料を。

お世話になった民家からは槍の材料になったダクトテープをはじめとした、便利グッズや日用生活品をいくつか入手出来た事だ。

 

不法侵入に窃盗までしでかした俺は平時ならまず刑務所行きとなるだろう。

だがもはや倫理も道徳も無価値となった、こんな世紀末まっしぐらな世の中なのだから、生きる為にと目をつぶって欲しい。

信じてもない神様と自分自身の僅かな良心に詫びながら、せっせと物資を強奪したのを思い出した。

 

そして歩き続ける事、三日。

今俺たちが生活しているこの拠点を発見したのだ。

 

 

(頼りになる相棒に、安心して眠れる住処。世界は最悪な事になってるが俺の運はどうやら尽きてなかったようだな)

 

 

木造建築のこの古屋は恐らく物置かなんかに建てられ、長らく放置されていたのだろう。

遠くに田んぼの見える竹藪に半分埋もれる形のボロボロの小屋。

錆びついた斧や工具に塩や酒、何故か石灰まで備蓄してある小さめの部屋。

それから大きな木製の作業机とその上に乗る、だいぶ古そうなカンテラ。同じく木製の椅子が二つ置いてあり、壁にはこの近辺の町内地図が額縁に飾ってある大部屋に別れていた。

言うまでもなくあらゆる物が埃まみれで小汚い。

そこらに蜘蛛の巣がいくつも張ってあり、一部の壁は腐食して穴が空いている始末。

だが周りに余計な人が居ない静かな場所だ。

そして何より、小さな井戸が付いていた事からすぐさま修復を開始。

一部の竹を斧と鉈で伐採したり、穴の空いた壁に布を貼り付け(流石に釘やハンマーは無かった為)て穴を塞いだり、害虫とスマイルが戦いながら掃除したりと。

そんな苦労もあってこの拠点は完成した。

 

ちなみに肉を捌く解体場とキッチンを小さい部屋、寝室兼リビングを大部屋として使っている。

 

 

「ほれ、飯にするぞ」

 

「ナノナノー」

 

 

皮を熱してから比較的涼しい所で瓶詰めして保存した鳥油で炒めた『小鳥』のステーキ。

ちなみに味付けは塩のみ。

付け合わせは栽培に成功しつつある、もやしとカイワレの野菜炒めだ。

食器なんて贅沢なものは持ってこれなかったので鍋から直接取って二人きりの晩餐だ。

その内、時間がある時にでも竹の食器でも作ってみよう。

 

 

「さて、今日も今日とて小鳥のステーキだが文句を言わずに美味しく頂くぞ」

 

「ソーナノー」

 

「はい。ではご唱和ください。いただきます」

 

「ナノナノナー」

 

 

捌きたての『小鳥』の肉は固く、味付けも粗野でやや塩っぽく、旨味のカケラも無い。

豪勢と言う言葉とは無縁の晩餐だが、こんなご時世に肉を毎日、腹八分目まで食えるのだから、俺たちはかなり恵まれているだろう。

 

 

(味が濃いモノ食いたくなるな。でもカップラーメンとかは節約しとかないと後悔しそうだよな)

 

 

一応、持ち込んだ食料は殆ど手づかずで残っている。

だがカップラーメンや缶詰など、美味しくて保存が確実な物は極力ケチっていくつもりだ。

貧乏性の自覚はあるが、いつ何があるか分からない。

 

ちなみに甘味などの菓子類はスマイルのみ食後に少しだけ渡している。

自分だけ甘いものを食べる事に提案した当初は申し訳無さそうな鳴き声をしていてが、キラキラした笑顔で食べる相棒に癒されるのだからWIN-WINみたいなものだろう。

今日はグミを食べさせる予定だ。

 

 

「うん、淡白だけど十分食える。胡椒があったら万々歳だが贅沢は禁物だな」

 

「ソーナノー!」

 

「明日は干し肉を茹でてスープにでもしてみるか? 食べられる野草を二人で探して、ちょっとだけ贅沢なスープを作るんだ」

 

「ナノナノ‼︎」

 

「そうか。俺も楽しみだよ」

 

 

笑顔のまま食べカスをつけたスマイルの口を拭う今の俺は、きっと優しく微笑んでいるだろう。

 

街明かりが作り出していたネオンの濁流が消滅し、月と星々がキラキラ輝く都会の夜からは考えられない静かな夜。

 

古ぼけたカンテラの優しい灯りがぼんやりと光り、時おり響くフクロウの鳴き声を聴きながら。

 

俺たち二人は、笑顔のまま晩餐を続けた。




・オニスズメ ことりポケモン(ノーマル/ひこう)
ポッポの肉よりさらに固く、癖が強い。逆にこの癖を活かす為には棒棒鶏やよだれ鶏などの中華をオススメする。

今後の展開

  • 本編を早く進めて欲しい
  • 番外編を進めて欲しい
  • ソラが主役の話が読みたい
  • 新キャラを沢山出して欲しい

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