現実世界にポケモンをぶち込んだらサバイバル系B級パニック物になってしまった   作:ケツマン

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サブタイトルをしっかりつけるか悩み中。


2ー3

「ピジョーーーーーッ‼︎」

 

 

耳をつんざくような叫びと共に巨大な化け物鳥は大きく翼を広げた。

器用にも上空に浮いたまま不自然なぐらい大きく身体を捻りって翼を振るう。すると辺りの空気が大きく歪み、竜巻もかくやという暴風を生み出す。

 

 

「ピジョッ‼︎」

 

 

そして荒ぶる風の塊を打ち出すように翼を羽ばたかせる。

ゴォッと轟音を立てながらこちらに飛んでくる小さな竜巻は物理法則など完全に無視した、まるで風の魔法だった。

こちらに近付いてくる度に風圧が増し、少しでも力を抜けば身体が吹き飛ばされる事だろう。

 

迫り来る風。勢いよく増す風圧。巻き起こる砂嵐。

竜巻が地に這う俺たちに牙を剥かんとしたその時。笑顔のスマイルがピョコンと竜巻に向かって跳ねた。

 

 

「ソーナノー‼︎」

 

 

カキンッと氷がヒビ割れたような、それとも金属に何かがぶつかったような音が響く。

それと同時に竜巻は進路を変え、その産みの親である怪鳥の元に進んでいく。

その勢いと轟音を倍増させ、吹き荒ぶ様はまさに鎌鼬の如くだ。

 

 

「ピジョッ⁉︎」

 

 

驚き慌てふためく怪鳥は狼狽し、何とか躱そうともがいたのだろう。

だが既に翼は荒ぶる風に絡みつかれ、自由を奪われまともに動く事も出来ない。

そして爆発的に推進力を増した大竜巻は怪鳥の身体を切り刻みながら飲み込んだ。

 

 

ゴキリ。という鈍い音が聴こえた。

砂埃から庇うようにして閉じていた目を開くと、其処には1Mはあろう巨大な怪鳥の成れの果てが転がっていた。

本来、鳥類は空を自由に飛ぶ為に骨の作りが軽く出来ていると聞いたのを思い出す。あの高さから落ちたのだ、全身の骨が粉々になっている事だろう。

場合によっては竹の火槍でトドメを刺すつもりだったが必要なさそうだ。

予めアトラトルにセットしていた、鳥脂を燃料に燃やした竹槍の先に強く息を吹きかけて火を消す。

俺は急いで地面に尻もちをつくスマイルの方に向かった。

 

 

「ナノナノ〜?」

 

 

どうやら風の衝撃が思ったより強かったのか、反射の反動で宙に吹き飛ばされてコロコロと地面を転がったようだ。

口元は笑いながらも器用に目をグルグル回すスマイルを揺すり起こして頭を撫でてやった。

 

 

「偉いぞスマイル。身体の大きい相手によくやってくれたよ」

 

「ナノナノ‼︎ ソーナノー‼︎」

 

「お前のお陰で俺は生きていけるんだ。本当に感謝してるよ……おっ?」

 

 

スマイルの身体が白く発光する。レベルアップの時間だろう。

いつもならカメラのフラッシュのようにピカッと光ってすぐ終わりなのだが、どうやら今回は様子が違うらしい。

発光してすぐに収まるのはこれまでと同じだが、それが二回も起きた。

しかも二回目はヤケに光を放つ時間が長かったのだ。五秒程度だろうか?

いつもなら強くなった事を嬉しそうに飛び跳ねてアピールしているスマイルも、今日は何だか身体を強張らせて小さく震えている。

まるで何かに耐えているようだ。

 

 

「スマイル、どうした? 身体が痛いのか?」

 

「……ナノ。ノーナノ」

 

「んー、無理すんなよ? 見たところ一気に二回分はレベルが上がったみたいだからなぁ。成長痛か何かかな?」

 

「ソーナノソーナノー。ナノ」

 

「ん? 抱っこか。待っててくれな」

 

 

アトラトルに付属した自作の紐を肩にかけ、両腕をこちらに差し出して甘えるスマイルを抱き上げる。

本来なら仕留めた獲物を拠点まで引きずり、早いとこ血抜きと解体を済ませるべきなのだろう。

だが俺の為に身体を張ってくれているスマイルの頼みだ。特にこうして大物を仕留めた時やレベルな上がった時は、めい一杯に甘やかせて褒めてやる。

 

 

「お前は本当に凄いよ、スマイル。あんな身体の大きい相手に臆せず向かって行けるんだからな。本当に、俺の自慢の相棒だよ」

 

「ナーノ。ナーノー」

 

「んー。どうしたどうした? 今日は随分と甘えたがりだな。よしよし、好きなだけ撫でてやるからなー」

 

 

頭のぷにぷにした突起をグリグリと俺の胸に押し当て、短い両腕で必死に俺を抱き締めるスマイルに思わず頬が緩む。

まだ十六歳のガキだと言うのに、なんだか子持ちになったような気分だった。

自分は将来、親バカになるだろうなぁと馬鹿な事を考えながら抱き締める腕に力を込め、心ゆくまで頭を撫でてやった。

 

 

「……ナノ」

 

 

弱々しい笑顔に陰りを見せるスマイルの姿にも気付かずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

獲物の血抜き、解体。そして食事に罠の見回り。

それらをこなしている内にあっという間に時は過ぎ、夜の帳が下りてから暫くが過ぎた。

スマフォを確認すると時刻は既に午後十一時。

普段ならとっくに寝ている時間だ。

 

 

「……はぁ」

 

 

俺は包丁を彫刻刀代わりにして、手慰みに鹿の角を削っていた。

ショリショリと角が削れ落ちる音と、スマイルの規則正しい寝息だけが響く室内に俺の溜め息が交じる。

 

眠れない。身体は疲れているが、どうしても昨日の事が忘れられない。

あの時出会った、圧倒的な存在がどうしても忘れられなかった。

寝ても覚めても何て言葉とはまさにこの事だろうか。

 

 

「恋する乙女かっていうの、俺は」

 

 

まともな恋愛経験どころか初恋すらもまだなのに。

そんな馬鹿げた自嘲的な言葉を漏らしながら、俺は僅か五分にも満たなかった逢着に想いを馳せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺はその時、素直に『美しい』と思った。

 

堂々としたその巨躯から伸びるスラリとした四本の脚。

大樹の幹を思わせる焦茶色の体毛は風に揺れる度に上質なベルベット地のように滑らかに光を反射した。

叡智の輝きを見せる大きな瞳は波の無い海のように澄んでおり、只の動物とは格が違う事が一目で分かる。

 

そして頭上に伸びる角は、自然に根付く木々から伸びる枝そのもの。

その根元から生き生きと伸びゆく青々とした緑の葉は密かに輝いている。

そしてそこにチラホラと混ざる一目見ると梅の花のように見えるソレは、春が終わり夏が始まる六月という今の季節を表しているようだ。

生きる芸術とは正に、かの存在の為の言葉では無いだろうか。

いや、そうに違いない。

 

ろくに美術や芸術の知識も無い癖に。いや、無知な俺ですらそう思わせてしまうほどの荘厳な立ち姿は、生命力という抽象的な存在をその体躯で表す芸術作品のようだった。

 

俺の目の前に堂々と立つこの『鹿』の体高は約2m。

今朝俺が狩った鹿等とは比べ物にならない大きさだ。

それは単純な身体の大きさというだけでなく、その神秘的な存在感と言うべきものか、モンスターとしての格の違いか。

とにかく、あの獲物と比べても。俺のような矮小な人間と比べても。途方もなく大きな存在が目の前に悠然と立っている。

 

 

「……なんて」

 

 

今まで見たモンスター達とは何もかもが違う。

ただ悪戯に暴を振るう凶暴な怪物の姿とも違う。

今までの獲物のような既存の動物をただ巨大化したような姿とも違う。

スマイルのような未知ながらヌイグルミのような親しみやすい姿とも違う。

 

動物としての姿と自然である木々や草花が混ざりあっているにも関わらず、まるで魔法にかかったように違和感一つ感じられない。

子供が夢見るような神秘的で、夢のようなファンタジーの具現化。

そんな存在が今、目の前にいるだなんて。

 

嗚呼、なんて。なんて美しいのだろうか。

無意識のうちに、そんな言葉が溢れ落ちようとしたその時。

 

 

「ギィィ……!」

 

 

怒りの唸り声と共に。

時が、止まった。

 

 

そよ風に踊る木々の騒めきも。

辺りを飛び交う鳥の声も。

花に止まっていた虫の動きも。

音という音が一瞬で停止し、時が止まり。

 

 

「あ……」

 

 

俺の心臓も。

確かに一瞬、止まったのだ。

 

 

 

カランと何かが転がる音がした。

それが俺の手から零れ落ちた槍の音だと気付くその直前

 

 

「……キィ」

 

 

耳が痛くなる程の静寂は呆気なく溶けて消えた。

風は踊り、小鳥は歌い、虫は戯れ、世界は柔らかな暖かみを呆気なく取り戻した。

時が再び動き出す。

 

 

「……はぁっ⁉︎ はぁ……‼︎」

 

「ナノ⁉︎ ナノナノ⁉︎」

 

 

極度の緊張感と寒気から解放された俺は力なく倒れて、そのまま無様に尻餅を着いていた。

スマイルが心配そうに俺の身体を揺するがそれに答えてやる余裕すらない。

俺の身体からはドクドクと音立てるように汗が滝のように流れ、脈も乱れている。

抑えつけるように心臓の上に手を当てる。

動いている。当たり前のように動いている。

だが一瞬。一瞬だがあの時、俺の心臓は止まっていた。

 

 

「殺気って……こんな怖ぇものなの、かよ……」

 

 

血の匂いがこびり付いた得物に警戒をしたのだろう。

一応気をつけておくか。その程度の軽い警戒心。ほんの僅かな殺気。

たったそれだけで俺は動けなくなったのだ。

蛇に睨まれる蛙よりも惨めで哀れな姿だろう。

 

 

「キィ」

 

 

そんな俺に呆れたのか、緑を司る鹿のモンスターは小さく鼻を鳴らして林の奥に消えていった。

俺はそれを呆然と見送り、暫くそのまま呆けていた事にようやく気付いて心配そうなスマイルの頭を撫でてやった。

僅かに目が潤んでいる。ああ、お前も怖かったんだな。

 

 

「なあ、スマイル?」

 

「ナノ?」

 

「お前、今のアイツに勝てるか?」

 

「ナノ⁉︎ ノー‼︎ ノーナノー‼︎」

 

「だよなぁ」

 

 

全身を使って嫌々無理無理と身体を揺らすスマイルに苦笑しながら俺は相棒を抱き締めた。

強く強く、抱き締めてやった。

未だ震える自分の身体ごと抑えつけるように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「痛っ」

 

 

回想に耽り過ぎ、手を滑らせる。

人差し指に2cm程の切り傷が入った。

俺は顔を顰ませながら舌先で滲み出した雫を軽く舐めた。

当たり前のように血の味がした。

 

ずっと妙だと思っていたのだ。

俺が今まで狩ってきたモンスター達は、槍や包丁なんかで簡単に血を流す。

膂力や体高、そして魔法のようなスキルは既存の動物とは比べ物にならないが、あくまで一生物の生命力は普通だ。

普通に傷ついて、普通に血を流して、普通に死ぬ。

 

だがそれはおかしい。

何故なら俺が過去にネットの動画で漁ったモンスター達は銃弾の一斉掃射でも即死せず、大砲に耐え、戦闘機をぶち壊すような規格外ばかりだった。

そんな奴らにチマチマ槍やら包丁やらで立ち向かった所で擦り傷すら碌につかないだろう。

林で出会ったあの『季節を司る大鹿』だってそうだ。

仮に装備を整えたとしても、火矢を使おうが落し穴に落とそうがダメージどころか怯みもしないだろう。

それだけ格が違うと、一目見ただけで分かる。

 

単純に種族的な格差もあるだろう。

自然界にも弱い動物と強い動物がいる。

コロセウムに放たれたライオンとハムスターじゃ勝負にならない。

動物の姿を模したモンスターが多く存在する事をから、そういったある種の必然的な戦闘能力の違いというのもあると考えて間違いない筈。

だがもう一つ。モンスターの格の差を明確に左右するものに.、俺は心当たりがあった。

 

 

「それがレベル」

 

 

寝息を立てるスマイルを見る。

常日頃からピョンピョンと跳ねている相棒だが、出会った当初はせいぜい俺の下腹程度の高さまでしか跳べなかった筈だ。

だが今朝の狩りでは怪鳥に立ち向かう際、優に2mは確実に跳んでいた。

恐らく何度もレベルアップを繰り返た事による身体能力の上昇の結果だろう。

そう言えば以前は水桶を運ぶ時は精々が早歩きだったのに、今では跳ねださんばかりに走りながら運んで来ている。

 

大物を狩った今、食料には余裕がある。

暫く狩りメインの生活は控えスマイルのレベルアップをメインの生活に切り替えるべきだろう。

 

 

「だけど明日は一日休ませてやらなきゃな」

 

 

本人自体も傷跡自体も大したことなさそうに見えるが無理は禁物だ。

拠点を探す時に拝借した消毒液と包帯、そして睡眠を取ることで自然回復を促す以外に傷を癒す手段が無い。

スマイルが疲労を隠して無理を続ければ、いざという時に共倒れとなりかねない。

 

 

「ゲームで言うポーションみたいな回復アイテムがあれば良いのに」

 

 

そんな都合の良いものある訳がない。

我ながら馬鹿な事を言ったとのだ。自分の独り言に苦笑いをしながら、俺は眠気が来るまで包丁を細かく振るった。

この調子ならきっと明日も寝不足だろう。

明日の自分に負担を押しつける事に溜め息を吐きながら。

 

だが俺はこの時、予想だにもしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『皆さん! この不思議な木の実があれば、傷も疲れも‼︎ それからもちろん食料事情だって万事解決しちゃうんですよ‼︎』

 

 

翌朝、あんまりにも都合の良過ぎるチートアイテムの存在を画面越しに知る事など。

 

 

 

 

 

 

予想出来てたまるかボケ。

 

 




・ピジョン とりポケモン(ノーマル/ひこう)
ポッポよりも身が引き締まり歯応えが増す。その大きさを目で楽しむ為にも甘辛い照り焼きソースをたっぷりと使う、贅沢な丸焼きで堪能して頂きたい。

今後の展開

  • 本編を早く進めて欲しい
  • 番外編を進めて欲しい
  • ソラが主役の話が読みたい
  • 新キャラを沢山出して欲しい

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