現実世界にポケモンをぶち込んだらサバイバル系B級パニック物になってしまった   作:薔薇尻浩作

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周りのポケモン作品読むじゃん? ホッコリしたりワクワクするじゃん?
この作品読み返すじゃん? 我ながらジャンル違い過ぎて悲しくなるじゃん?


2ー4

 

俺の目の前には既にお馴染みとなった『小鳥』がいる。

我が家の夕食の出演率驚異の九割超という、もはや俺たちの主食と言っていい鳥型モンスターだ。

 

時刻は午前十時。気温が徐々に上がって来る昼前。

俺とスマイル、そしてゲストの小鳥は拠点から五分程の場所にて向かいあっていた。

ちなみに小鳥は死にかけである。戦犯は俺。

 

血と砂埃で身体ドロドロのボロボロで、もはや飛ぶどころかまともに動けやしない。これ本当に大丈夫なの? と今まで散々に狩っては食ってきたにも関わらず、思わず心配になってしまうような絶妙なる半殺し加減である。

絶対に自力では動けない。苦しくて死にそうだけど、決して気絶は出来ない。

この塩梅に調節するのは結構な苦労をした。

相手をスマイルに任せたら、小鳥自身が勝手に特攻して反射スキルでそのまま自滅するのが目に見えてる。

かと言って俺の槍投だと手加減が効かない。

いくら俺の投擲スキルが神がかって上昇したとしても、モンスターにしては小さすぎて急所を外して当てるというのは無理ゲー過ぎた。

遠くに配置したスマイルのパッシブスキル『影踏み』を利用してその場から逃走を阻止、そして俺が小石をぶん投げて弱らせる。

もし俺がこの作戦を思いつかなければ実験の準備すら整わなかっただろう。

 

実験。そう、実験だ。

今回は狩りの為ではなく、とある実験の為にこの小鳥には犠牲になってもらう。

もちろん俺は悪戯に動物(モンスターだが)を虐待する趣味はないので実験が終了すればすぐに楽にした後、きちんと食材として頂く予定ではあるが。

 

 

「だからそんな顔で見ないでくれよスマイル。お前の為の実験なんだから」

 

「……ソー」

 

 

先程からスマイルの視線が痛い。笑顔なのに視線が痛い。

「うわぁ……ここまでヤるとかこいつマジかよ」って感じの視線は止めてくれ。

心の癒しであるお前からのその視線はマジで効くんだ。ダイレクトアタックなんだ。瀕死になっちゃうよ。

っていうか俺だってこんな実験はやりたくないのが本音なんだ。

 

いたたまれなくなりスマイルの視線攻撃からサッと顔を背ける。

俺は右手に乗せた今回の元凶を睨みつけた。

 

 

「これで効果が無かったら恨むからな」

 

 

掌に乗せた洋ナシ型の黄色い果実は当然ながら答えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

話は今朝に遡る。

寝不足になりながらも五時には起床した俺は槍の鍛錬から始まる朝の日課をこなして、朝食を取る。

そして半ば惰性で続けているスマフォでの情報収集にて思わぬ成果を得たのだ。

 

 

「『速報‼︎ ソラたんがチート木の実を発見‼︎』って何だこりゃ?」

 

 

某掲示板にてモンスターパニック関連のスレを漁っていると、異様に盛り上がっているスレッドを発見した。

クリックしてみると動画のリンクが貼りつけられ、先ずは動画を見る事。そしてなるべく多くの人にこの動画を拡散して欲しいと書き込まれている。

 

ダメ元でリンクをクリックすると、何処かで見覚えのある少女のバストアップが映り出した。

 

 

『皆さんお久しぶりです! 約二週間ぶりの配信。お送りするのは〜ドレミファ! ソラ! はい、私ソラでーす‼︎』

 

 

ボブカットに大きな黒目。ぷくりと膨らんだ桃色の唇。オマケに大きく膨らんだワンピースの胸元からは深い谷間が見える。

誰が見ても美少女だと宣言するであろう俺と同い年くらいの少女。

この妙に頭に残る変な挨拶で思い出した。

確かこのソラという少女は初めてモンスターに接触した事を動画配信していた娘だ。

その証拠に最初の動画で餌付けしていた茶色いモンスターの長い耳がピョコピョコ映っている。

あの動画以降、配信が無かった為にネット内では死亡説が流れていたが生き残っていたのか。

 

 

『えーとですね。皆さんご存知の通り。今、日本だけじゃなくて世界中で大変な事になっています。こんな非常事態に何を呑気に配信なんか! って思う方もいらっしゃると思うんですが……』

 

 

話が長い。スライドして飛ばす。

問題のシーンは10分を過ぎた辺りと書き込まれていたのでその辺りで再生。

 

 

『……でも、皆さん信じられないかと思います! だから今から私が証拠を見せます‼︎ 今からやる事、見てて下さいね⁉︎ クッキー君、お願い‼︎』

 

 

何がどういう展開かは分からないが、ソラは『クッキー君』と名付けたであろうモンスターに腕を伸ばすと合図をする。

茶色いモンスターはその大きな瞳を悲しそうに潤ませてやや狼狽えたように小さく鳴き声を上げた。戸惑っているようだ。

だが瞳を閉じて何やら意を決したのか、次の瞬間にはキッと攻撃的な目つきになり差し出された真っ白な腕に思いっきり噛みいていた。

 

見た目は可愛いがやはりモンスターはモンスター。

噛みつかれた細い腕からは血が流れ、ソラは歯を食いしばっているようだが顔は苦痛に歪んで涙まで浮かんでいる。

いや。いやいや、一体何がしたいのだろうか?

しばらくするとソラはクッキー君の頭を軽く抑え自分から離すと、カメラに向かい噛みつかれた箇所をアップで写した。

肉が抉れ、白い骨が真っ赤な血肉の奥からほんの少しだけ見えている。平時だったら即アカウントが止められかねないグロ映像だ。

 

 

『いたっ……うぅ。本当に痛いよコレ。で、でも、これからが本番です‼︎ はい、コレです‼︎ さっきもお見せした『奇跡の木の実』‼︎ 今から食べます‼︎ だから、傷から目を離さないで下さいね‼︎』

 

 

ソラは画面外から黄色い果実を取り出して早口で何やら説明したかと思えばソレを皮ごと丸かじりした。

いや飯食ってないで治療しろよ。何やってんだこの娘。

この世紀末世界が辛過ぎて発狂でもしたのだろうか。本気でそんな心配をし始めた次の瞬間、俺は思わず本気で叫んだ。

 

 

「はああああぁぁぁ⁉︎ 傷が治ってる⁉︎ 木の実食っただけなのに嘘だろオイ⁉︎」

 

「ナノ⁉︎」

 

「……あ、悪いスマイル。何でもない」

 

 

大声にビックリして俺の膝から飛び上がったスマイルの頭を撫でて宥めつつも、俺の目は画面に釘付けだ。だが無理も無いだろう。

 

 

治ったのだ。

 

肉が抉れていた箇所が、穴のあいた傷をゆっくりと埋め尽くすようにしてあっという間に治ったのだ。

何度再生しても見間違いでは無い。果実を咀嚼して飲み込んだその瞬間、一気に傷が治っていく。

 

慌てて冒頭から動画を再生しなおし、『奇跡の木の実』とやらが紹介されるシーンを待つ。

冒頭から五分程はちょっと自己陶酔が入ったこの世界でも頑張りましょうエールと仲間にしたモンスターの紹介だった。

 

どうやらクッキー君だけでなく『ビスケットちゃん』と名付けた黄色と黒の危険色の体毛をした兎と鼠の中間のようなモンスターも手名付けたらしい。

りんごほっぺと短いギザギザの尻尾、それから大きく潤んだ瞳が可愛らしく「ピッチュピッチュ」とこれまた変わった鳴き声を甘えるような声色であげていた。

 

 

「しかしネーミングセンスが安直過ぎやしないか?」

 

「ソーナノ?」

 

「そうなの。どんだけお菓子好きなんだよってツッコミたくならないか?」

 

「ナノー」

 

「まあ俺も人のこと言えないが」

 

 

膝上のスマイルに癒されつつ動画の続きを観ていると、ついに問題の『奇跡の木の実』の紹介となった。

 

都内在住のソラの説明を要約すると、帰宅すると家族は既に家ごと潰れて全滅。いきなり重い。

 

モンスターパニックに巻き込まれて必死に避難場所へ向かうもクッキー君を抱えたままじゃ入れないと追い返される。

そこを何とかと押し問答していると街から空から、果てには地の底からも大型のモンスターが次々とやって来て避難所は丸ごと崩壊。

この時点で既に避難していた人間は全滅。

 

逃げ場を失った生存者達はモンスターから逃げ回りつつ、こぞってコンビニやスーパーに殺到して食料を強奪し、安全な場所を彷徨って数少ない無事な建物に不法侵入し、いつ来るとも分からぬモンスターの襲撃に怯える夜を繰り返した。

彼女もしばらくは似たような生活をしていたが都市機能が麻痺どころか崩壊し、モンスターの楽園と化した街からはあっという間に食料が尽きる。

奇跡的に無傷だったスーパーマーケットの食料を一晩で食いつくす傍迷惑なモンスターまで居たらしい。

 

三日もまともに食事が取れず飢えに苦しんでる時に、若者を中心とした生存者達のコミュニティに勧誘される。

ソラは甘い言葉についつい釣られて彼らにホイホイ着いて行き、食料が欲しければ。と身体を要求される。

拒否するも大人しく返してくれるはずも無く、最終的にはクッキー君の助けもあり貞操を守りつつ逃げだせたものの、その際にケガをして左腕が動かなくなる重傷を負う。

身体は痛み、あちこちでモンスターは徘徊しており、生存者も信用できない。

安心できる場所も食料も水も無い極限状態。

 

餓死寸前まで追い込まれ、もはやこれまでかと諦めたその時、ふと前方を見上げるとソラ一本の木に、果実が生っている事に気づく。

洋梨型で薄い黄色がベースで、所々に濃い黄色い斑点模様のついた毒々しい果実。

きっと毒がある。そう考えはしたものの、もはや食えるなら何でもいいと最後の力を振り絞って果実を手にとる。

クッキー君と半分に分けるとソレに無我夢中で頬張った。

 

すると不思議な事が続けて起こった。

一つは果実を無くした木が急に灰になって散ってしまった事。

そしてもう一つが、なんと左腕の痛みが薄れ、ゆっくりとなら動くようになった事。

驚くソラにクッキー君がどこからか見つけた同じ形の果実を加えて渡した。

これをまた半分に分けながら食すと、左腕のケガも身体のだるさも吹き飛んだ。との事。

 

 

「っていうか地味に凄いなソラ。俺だったら餓死するくらいならクッキー君を食べてたよ」

 

「ナノ⁉︎」

 

「いやだってクッキー君、見た目は兎とかスグリとかじゃん。筋っぽそうだけど食えなくはなさそうだし」

 

 

しかもそんな極限状態なのに拾ったばかりのモンスターにまでしっかり食事を分け与えるとか、なかなか出来る事じゃない。

素直に感心した。

 

で、動画の続き。

ソラはふと足下ににモンスターに食われたと思われる、ぐちゃぐちゃになり地面の上で潰れた果実の成れの果てを見つけた。

見た目が凄く悪かったので隠すつもりで何となく砂をかけた。

するとあっという間に発芽したそうだ。

驚いたソラはその場所で野宿をして様子を見る事にする。

発芽の速さからして、もしかしたらあの傷を癒す奇跡の木の実がまた食べられるのでは無いか。そんなあまりにも甘い期待をして。

 

そんな甘過ぎる期待がなんとドンピシャ。砂をかけた時から丸一日、二十四時間後には立派な木となって三つの果実をつけたのだ。

 

ソラは大興奮で果実の一つをクッキー君と食し、残る二つを埋めた。そしてまた翌日には二本の木に計六つの木の実が……。

といった調子で増やし続けているそうだ。

木の実に惹かれてか何度かモンスターの襲撃は受けたものの、ダメージを受ける度に木の実で強引に回復してひたすら特攻というある意味チートな戦い方で生き延びる。

戦闘をする度にクッキー君がみるみる強くなり、魔法のようなスキルまで次々に取得してまた強くなり。の繰り返しで、今じゃ大型のモンスターでもなければこの付近には寄って来なくなったとか。

 

ちなみにビスケットちゃんは空腹で行き倒れていた処を木の実で餌付けしたらしい。

スマイルと似てるな。見た目がマスコット的な奴は餌付けに弱いのだろうか。

思わずスマイルに目を向けるといキョトンした顔で首を傾げていた。まあ、可愛いからいいか。

 

 

『皆さん! この不思議な木の実があれば、傷も疲れも‼︎ それからもちろん食料事情だって万事解決しちゃうんですよ‼︎』

 

 

本当に嬉しそうな声でそう宣言するソラの顔は希望に満ちていた。

食事は取れているにしても、厳しい環境にいるには変わらないだろう。彼女の着ている白いワンピースのような服はボロボロに汚れている。

にも関わらず今の彼女の笑顔はとても輝いているではないか。

 

そして動画の最後に自分の拠点を大胆にも暴露し、その場所にさえ来てくれれば木の実を分け与える事を約束。

そして出来るだけこの動画を多くの人に広めて欲しい事をお願いして配信は終了していた。

 

 

「っていうか本気で凄いなこの娘。ちょっと正気を疑うレベルで良い娘過ぎないか?」

 

「ナノー?」

 

 

こんな世紀末世界で理不尽にも両親が死亡。

モンスターの脅威から逃げ、飢えに苦しみ、挙句の果てには男達に騙されてレイプされかけて大怪我を負った。

普通の人間はここまで追い込まれれば人間不信になるか、絶望のあまり人格が壊れてしまうかだろう。

にも関わらず、他人を救う為に拠点を晒して食料を分け与えるとか。善性の塊か何だろうか。

 

餌付けしたモンスターを邪険に扱い、助けを求める少女を罵倒して食い殺されところを眺めていた俺とは住む世界が違い過ぎる。

いや、今となってはスマイルは俺の半身とも言える存在だし、食い殺されるところだって好きで見た訳でも無いんだけれども。

 

 

「でも女の子一人で大丈夫か?」

 

 

また良からぬ輩に襲われたりしないだろうか?

死を目前にした人間は幾らでも無法な事をやらかすものだ。

窃盗を始め色々やらかしてる俺が言うんだから間違いない。

 

 

「いや、モンスターが二匹もいるなら大丈夫か」

 

「ソーナノ?」

 

「そうなの。多分クッキー君に関しては相当っぽいしな」

 

 

ビスケットちゃんは知らんがクッキー君がいるなら心配ないだろう。

田舎の拠点を中心としている俺と違い、殺人モンスターの群れや大型モンスターまで沸いている東京の真ん中だ。

そんな修羅場でここまでソラを守って来たならレベルアップの速度だって尋常じゃないだろう。

きっと一般人が相手なら何人居ようと簡単に追い払えるだろう。

俺はすっかりファンになった配信者ソラの無事を祈りながら立ち上がる。

跳ね回るスマイルと共に槍を手にして扉を開けた。

 

 

何の為に?

もちろん奇跡の木の実を探しに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さてさて。動画内では毒性や副作用なんかは見られなかったが生憎と俺は臆病者なんでね」

 

 

今朝の事を思い出しながらゆっくりとボロボロの小鳥に近づいた俺は、弱々しい眼光をむける小鳥の目の前に黄色い木の実をそっと置いた。

お隣の東京に生えているならK県にも生えているのではとダメ元で探してみればウジャウジャと生えていたのだ。

拠点から北へ10分程の林の浅い所には既に、奇跡の果樹園が自然発生していたのだ。

 

ぶっちゃけ有り難みも糞も無かったが、実験さえ上手くいけばスマイルの大幅なレベルアップが狙えるのだ。

大事にしなければなるまい。

 

 

 

ゆっくりと目の前の果実を咀嚼し始めた小鳥を眺めながら乾いた唇を俺はペロリと舐めた。

胸の鼓動が早くなり、顔が赤く熱を帯びたのが自分でも分かった。

 

 

「ハハハッ。なんだか始めて傍迷惑なファンタジー世界に感謝したかもな」

 

 

瞳に精気を宿し傷一つない翼を広げてこちらを威嚇する小鳥の前で、俺は小さく笑いながら呟いた。

 

 

 

 




・イーブイ しんかポケモン(ノーマル)
遺伝子が不安定な為か個体によって味と食感がバラバラな為に食材には向いておらず、個体数の少ないイーブイを食材目的で捕獲すると全国のポケモン愛好家から袋叩きにあうので注意しよう。

今後の展開

  • 本編を早く進めて欲しい
  • 番外編を進めて欲しい
  • ソラが主役の話が読みたい
  • 新キャラを沢山出して欲しい
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