現実世界にポケモンをぶち込んだらサバイバル系B級パニック物になってしまった 作:ケツマン
12/18 加筆修正。
1ーOP 日常
「来たか」
ボロボロのドアの隙間から撒き餌を仕掛けたポイントをじっと見つめる。
雑巾のようなボロ生地の上に、生米や痛み始めた小麦を適当に混ぜ込んで放置しただけの哀しいくらいにお粗末な仕掛け。
だが出来の悪いゾンビ映画のようなこの終末世界では、例え痛んだ米粒一つだったとしても純金にも勝る価値を持つ貴重なものだ。
そんな食料を犠牲にした甲斐あってか、撒き餌の上には狙った通りの『小鳥』が寄って来て無警戒にも美味そうに米粒を啄んでいる。
そんな長閑な光景を薄汚い格好をした男が息を殺して観察しているだなんて。
側から見ると何て間抜けで怪しい構図になる事だろう。
件の小鳥が体長30センチ以上もある大物で、体当たり一つで大の大人を吹き飛ばす膂力を持った『モンスター』である事を考えなければの話だが。
(よし。行け)
獲物が餌に夢中になっている事を確認した俺は、自身の膝下で声を殺して控えている小さな相棒にハンドサインを送る。
水色がかった体色、見るからにプニプニとした触感の丸みをおびた身体全体で器用に頷くような動作をする。
やがて相棒はそのユーモラスな見た目にはそぐわぬ俊敏な動きで小鳥の前に飛び出すと、すぐさま戦闘態勢を整えた。
「今夜は焼き鳥だな」
いや、今夜は。では無く、今夜も。が正しい表現か。
と言うか、考えてみたら食料の節約と狩りの練習のせいで連日連夜、あの小鳥の肉ばかりを食っているよな。
そんなどうでもいい事をボヤきつつ、俺は竹箒の枝先に包丁をダクトテープで括り付けた手製の槍を右手に掴んだ。
そして音を立てないように注意しながらそっと裏口から外に出る。
ボロ古屋を大きく迂回し、小鳥の背後から回り込むように観察する。
予想通りに相棒と獲物が戦闘を行っており、しっかりと奴の目を引いていた。
ベージュがかった明るい茶色の羽毛を逆立て怒りを露わにする小鳥は器用に地面を蹴飛ばして砂をかけて目眩しをしかけたり、その鋭い嘴で敵を突き刺そうと俊敏かつ苛烈に攻めかかっていく。
対して我が相棒は、そんな攻撃の尽くをバネじかけの玩具みたいにピョンピョン飛び跳ねて躱したかと思えば、絶妙のタイミングでカウンターを決めている。
広範囲に広がる砂の目潰しをヒラリと躱したかと思えば、木造建築の民家ぐらいなら軽々と貫くであろう鋭い嘴攻撃を、不思議なスキルで『反射』して逆に大きなダメージを与えているのだ。
戦闘が始まってから僅か2分。相棒は擦り傷を負ってはいるものの未だに余裕。
対して獲物である茶色い小鳥は見るからに満身創痍。
そろそろ楽にしてやった方がいいだろう。
息も絶え絶えと言ったボロボロの小鳥の背後、俺はゆっくりと得物を構える。
西陽に照らされた俺の影に覆われた小鳥はようやく背後から迫る、もう一人の刺客に気付いた。
驚くように振り向き、慌てて迎撃しようと鳴き喚く。
が、もう遅い。
「悪いね。生きる為なんだ」
俺は汗ばむ手でしっかりと握り締めた槍を力一杯、突き刺した。
包丁の刃が小鳥の喉元に食い込み、その柔い骨をしっかりとへし折った感触が両の手から伝わって来る。
致命の一撃。小鳥のつぶらな瞳からゆっくりと光が消え、切り裂けた身体からドクドクと濃厚な血液を垂れ流し柔らかな羽毛を汚した。
余計な血を撒き散らして獣を引き寄せぬように慎重に槍から獲物を外し、今回も大活躍だった俺の自慢の相棒にチラと目を寄せる。
すると彼(もしくは彼女)のヌイグルミのような小さな身体が一瞬、真っ白な光に包まれたかと思えば、ガッツポーズのように両腕を振り上げてピョンピョンと無邪気に跳ねまわり始めた。
これもすっかり慣れ親しんだ光景だ。きっと小さな相棒は身体に力が滾って仕方ないのだろう。
「レベルアップ、おめでとう」
育成ゲームでもあるまいし、現実でこんな言葉を口にするとは。
全く人生どうなるもんか分からないなぁ。そんな下らない事を考えて俺は苦笑しながら相棒の頭を優しく撫でてやった。
槍先の包丁から鳩の血がポタリと落ちて、乾いた地面を汚す。
血潮混じりの砂埃が汗に濡れた俺の頰にベッタリと纏わり付き、眩し過ぎる太陽がたった今死んだばかりの小鳥の身体を焼き焦がす。
数えるも馬鹿らしい程に何度も繰り返される、ただの狩りの光景だった。
・ポッポ ことりポケモン(ノーマル/ひこう)
味わいは淡白。普通の鶏肉よりやや硬めなので酒に着けて身を柔らかくしてから唐揚げにすると美味。
今後の展開
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本編を早く進めて欲しい
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番外編を進めて欲しい
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ソラが主役の話が読みたい
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新キャラを沢山出して欲しい