現実世界にポケモンをぶち込んだらサバイバル系B級パニック物になってしまった   作:薔薇尻浩作

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ながぁい


3ー2

「ピジョーーーーーッ‼︎」

 

 

雄大な青空の下、照り付ける陽光を背に、空中で此方を睨みつける『怪鳥』を観察していて改めて思う。

体格こそ一回りは大きいものの、その骨格や顔つき。そしてなにより鋭いその目つき。

鮮やかな薄紅色の鶏冠とたなびく尾羽が特徴的なこのモンスターは、我が食卓の常連となっているモンスターである『小鳥』の上位種。

つまりは進化後の姿では無いのかと。

 

モンスター育成ゲームが現実になったようなこの世界。

野生のモンスターだって当然の事ながら一生物として自然の中で生きている。そして食事の為に獲物を狩る。

狩るという事は戦闘を行い、それに勝利するという事だ。

つまり敵モンスターも上位種。進化済みのモンスターが存在する事も当然だ。

厳しい世紀末世界を生き抜く為に狩っては狩られを繰り返し、成長していくのだろう。

 

思えばあの『赤眼の牙狼』も、何かと縁のあるハイエナ擬きの進化後の姿なのかもしれない。

 

 

「ピジョッ‼︎ ピジョーーーーーッ‼︎」

 

 

考察に耽る俺を、威嚇の鳴き声が現実に引き戻す。

もはや聞き慣れた甲高い鳴き声を上げた怪鳥は翼を振るい、瞬時に巨大な暴風を巻き起こす。

その様は何度見ても、ファンタジーゲームなんかに登場する風の魔法にしか見えない。

 

だがその魔法は今まで何度も見てきているし、時には身を以てその威力を味わってもいる。

 

 

「ソーナンス‼︎」

 

 

勿論、こうして俺の前に飛び出して文字通りの肉壁となったスマイルも同様だ。

 

 

「スマイル、反射‼︎」

 

「ソォーナーンスゥ‼︎」

 

 

凶暴な旋風は相棒の身体に激突すると同時にガラスの割れるような音を立てて反射した。

しかもただ方向を変えただけでは無い。

 

暴風は爆風に、旋風は竜巻へと。その威力を倍増させるのだ。

 

 

「ピジョッ⁉︎」

 

 

慌てふためく怪鳥の身体をあっという間に飲み込んだ反逆の竜巻は、その身体をあっという間に切り裂き、吹き飛ばし、大地に叩き付ける。

 

そして、その命をあっさりと奪うのだ。

 

 

 

 

(やっぱり強くなってるな)

 

 

安定の反射スキルで『怪鳥』の風スキルを弾き返し、一発KO。

進化前から何度も対峙していた敵だけに苦戦の不安は無かったが、こうも圧倒的に蹂躙する様を見せつけられると、やはり進化の恩恵というのを実感させられる。

 

 

「ソーナンス‼︎」

 

 

そんな無双の力を見せつけた相棒は、こちらを振り向くとピョンピョンと目の前にすかさず跳ねて来た。

 

 

「ナンスゥ?」

 

 

進化前と変わらず褒めて欲しそうにウズウズしながら俺の顔を覗き込んで来る。

やはり中身はまだまだ幼い。甘え癖はしばらく治りそうもない。

 

 

「お疲れ様、スマイル。強くなったな」

 

 

夏の兆しが見え始めるこの季節にも関わらず、相変わらずスベスベでひんやりとしたスマイルの頭を撫でながら労わった。相棒にもそれが伝わったのだろう。

進化前よりも少し大人びた、それでいてどこか甘えたような声をあげると嬉しそうに敬礼のようなポーズをとった。

 

 

 

 

 

 

 

俺が死にかけて、スマイルが進化したあの晩から三日。

改めて進化後の戦闘を観察していると、やはり我が相棒は防御力や耐久に特化したタンク型として成長しており、今までよりも圧倒的に耐久性が強化された。

 

具体例をあげるなら、進化するまでは戦闘を終えた後に必ず奇跡の木の実を食べて回復のインターバルを取っていた、対『怪鳥』戦。

それが今となっては回復無しで怪鳥相手に五連戦して勝利している。

一度に二匹同時で襲い掛かって来た事もあったが、特に苦戦する事も無しに俺というお荷物を庇いながらしっかりと撃退してみせた。

 

期待していた新しいスキルには残念ながら目覚めなかったようだが、純粋な身体能力だけでも破格の成長だ。小さかった頃のスマイルとは一味も二味も違う。

進化の恩恵は想像以上に大きかった。

 

 

(まあデメリットが無いわけでもなかったが。予想の範囲内だし)

 

 

進化による唯一のデメリット。

それは進化後は更にレベルが上がりにくくなった点だ。

例えば今日の戦績を振り返ると、かつての強敵だった怪鳥を含めてなんと約二十匹もののモンスターに勝利した。

にも関わらず、上がったレベルはたった一つだけ。

 

拠点近くの狩場としている範囲に出現するモンスターは、今のスマイルにとってはすっかり格下扱いだ。

恐らくスマイル自身が強くなり過ぎた結果、戦闘を経て敵モンスターから得られる経験値的な何かが対照的に少なくなってしまったのだろう。

 

 

(かといって狩場を変えるのもなあ)

 

 

強敵を求めて様々な種類のモンスターが多数出没すると予測できる市街地の方に遠征をする、という選択肢もある。

それに格上のモンスターと聞いて真っ先に思い浮かぶ『季節を司る大鹿』が潜む、拠点としている小屋の裏側に広がる竹藪の奥も未知の領域だ。

未知なる強敵を求め、そちらを開拓する。という選択肢もある。

 

だが、どちらにしてもリスクが大きい。

 

 

(藪をつついて蛇。どころかヒュドラやバジリスク、最悪はドラゴンが出てくる可能性もあるよなぁ。こんな世界じゃ)

 

 

同格、もしくはやや格上の敵なら経験値的に美味しいのかもしれない。

だが現実に攻略サイトがある訳でも無い都合上、実際に遭遇したモンスターがラスボス級でした。では即ゲームオーバーだ。

現にスマイルはかなり強くなったとは言え、あの身も竦むような殺気を放つ『季節を司る大鹿』に果たして勝てるのかと言われれば、かなり苦しいだろう。

 

 

(それに、あの大鹿。めちゃくちゃ強いのは確かだろうけど、あいつがあのエリアのボスとは限らないんだよな)

 

 

ただ君臨するだけで俺達に圧倒的な格の差を見せつけた、美しく強大なあの季節を司る大鹿。

極端な話だが、もしもあのレベルの格上モンスターが、こちら側の狩場で言う『小鳥』程度の雑魚モンスター扱いだったとしたら修羅の世界なんて生易しいものではない。ただの絶望だ。

 

どう足掻いても生きて帰る事は出来ないだろう。

 

 

(うん、止めとこ。いのちだいじに、だな)

 

 

チキンで結構、ヘタレで上等。それでも俺は生き残る。

とりあえずは少しでも経験値を稼ぐ為、これまで以上に積極的にスマイルに戦闘を任せていこう。

俺はそんな情けない決意をして、大きく背伸びをする。

身体を動かすのも、考え事をするのも疲れるものだ。

今からは癒しの時間だ。俺はスマフォを手に取った。

 

 

日々の日課についてだが、小屋に住み着いてからは特に大きな変化は無い。

起床して、筋トレと槍の鍛錬。その後の狩りとレベル上げの為の戦闘。

その後は家に戻り、肉の加工や刃物の手入れ。

風呂代わりに濡れタオルで身体を清めて、スマイルとの二人きりの晩飯を済ませた頃。

つまり月明りが照らす今はすっかり夜の時間だ。

 

サバイバル生活を始めた当初は生きる為の日課をこなし夜になった瞬間、すっかり疲れ果てて泥のように眠っていた。

だが最近は体力がついたお陰か、比較的ゆったりとした夜を過ごしている。

 

スマイルと共にマルバツゲームなどの簡単な遊びをしたり。

拾った材木なんかで食器を。モンスターの爪や角素材に食器や小道具を手慰みに作ってみたり。

そしてなんと言っても、ネットを通じてこの世界での情報収集をしたり。

 

 

(あーあー。やっぱりソーラー充電だと遅えよなあ。日中は出しっ放しにしてたのに70パーセントも溜まって無えのかよ)

 

 

愛用していた乾電池式の携帯充電器は避難時に持ち込んだ単三電池が既に切れており役立たず。

最近は平時では滅多に使っていなかったスマフォカバーについているソーラー充電で、何とかやりくりしている。

 

食材については日々の狩りで余裕があるものの、衣服を始めとした生活必需品には限界が見えて来ているのが現状だ。

特に明日がどうなるか分からないこんな世界で、情報源であるスマフォが使えなくなるのは致命傷。

果たしてニ年間も愛用していた、もう一つの相棒がいつまで生きていてくれるのか。と不安を嘆きながらも、何だかんだで最近ハマっている癒しの時間は忘れはしない。

 

 

「スマイルー。ソラの動画観るけど一緒に観るか?」

 

「ソー‼︎ ソーナンス‼︎」

 

 

そう、我らがアイドル。ソラの配信だ。

 

 

ソラは今まで十本近くの動画を配信していた。

終末世界では日本一の知名度となった彼女の動画は掲示板からまとめサイト(軽く探しただけで幾つもあった)に飛んでアーカイブを漁れば簡単に見つける事ができる。

 

 

「お、新しいモンスターを手懐けたのか。また戦力が増えたのか」

 

「ナンスゥ?」

 

 

今夜再生するのは今から丁度、二週間前に配信された動画だ。

動画タイトルは『新しい家族を紹介します』と、何とも分かりやすいもの。

どうやら進化して更に強力になったクッキー君、ビスケットちゃんに次いで、新たなモンスターを仲間にしたようだ。

 

 

『皆さんお早うございます‼︎ いつの間にか第8回目となりました。お送りするのは、もちろん‼︎ ドレミファ〜!』

 

『……ソラ‼︎ はい、私ソラでーす‼︎』

 

 

恒例の挨拶に始まりコミュニティの現状説明、次いで雑談。といつもの流れで動画は進む。

ソラの笑顔と声に癒される事5分、ついに新たなモンスターのお披露目となった。

 

 

『……と言うわけで、この子が新しくお友達になってくれた『サブレ君』です‼︎ おいで、サブレ君‼︎』

 

『チャモ‼︎ チャモチャモー‼︎』

 

 

ソラの掛け声と共にその胸元にピョコンと飛び込んだモンスターは鳥型だった。

夕焼けのような鮮やかなオレンジ色の羽毛をベースに黄色がかった鶏冠や羽の色がとても鮮やかだ。

そんな新たなソラの友人の姿形は、40センチ程度に大きくなったカラーひよこを想像すると分かりやすいかもしれない。

 

そしてモンスター特有の変な鳴き声は変らない。

見た目どおり「ちゅんちゅん」や「ピィピィ」とは鳴かずに「チャモチャモ」である。

甲高い声でけたたましく鳴きつつ、ソラの豊満な胸に大きな頭をグリングリンと擦り付けている。おい鳥、そこ代われ。

 

 

「あの鳥公は絶対に雄だ。間違いない」

 

「ナンス」

 

 

ふわふわの羽毛がフワフワな膨らみにポヨンポヨンと跳ねている。

大きな頭をこれでもかと擦り付ける鳥公は非常に嬉しそうだ。庇護欲をくすぐる無垢で可愛らしい笑顔が、まるでラッキースケベに鼻の下を伸ばす中年親父の汚い笑みに見えて来るのは俺の心が汚れているからなのか。

 

 

(禁欲生活が長過ぎて変な事ばっかり考えちまうなあ)

 

 

閑話休題。

ソラ曰くサブレ君との出会いは、物資を確保する為の遠征時。周囲のモンスターに寄って集って虐められていた(ソラ主観の表現。恐らく本当は食い殺されそうになっていたのだろう)ところを偶然ソラ達が救出。

その結果サブレ君はソラ達にすっかり懐き、こうして新たな仲間になったらしい。

 

鮮やかな炎のような体色からなのか、サブレ君はソラの合図で嘴から小さな炎を吐き出してみせた。

ビー玉よりもほんの少し大きい程度の火の玉を何発も連射する様は、ドラゴンが吐き出す灼熱のブレス。とは程遠い小さな火の粉だ。

ファンタジーものでお馴染みの魔法『ファイヤーボール』と名付けるにしては物足りない。

あえて名前をつけるなら『ベビーファイヤー』だとか、『プチファイヤー』と言ったところだろうか。

 

 

「まあ、モンスターの吐き出す炎だし、見た目よりもずっと強力なのかもな」

 

「ソー?」

 

「分かんねえけど、可能性として、な」

 

 

サブレ君の炎のおかげで、戦闘だけでは無くむしろ調理の方がグッと楽になったとソラは無邪気に喜んでいた。

 

それにしてもヒヨコ型のモンスターにサブレという名付け。

お菓子に拘るソラ流は今更だが、絶対に某銘菓を意識した名前だろう。

ソラの安直なネーミングセンスに思わず笑ってしまう。

 

やはりソラの動画は俺の心を癒してくれる。

この娯楽の少ない殺伐とした世界にて、彼女の存在はとても大きいものだった。

 

 

 

 

名残惜しくも癒しの時間を終了し、俺は再びネットの海を漁り始める。

 

 

「さて、と。ソラばっかり眺めてる訳にもいかないよな」

 

 

 

テレビ世代全盛期が過去となり動画配信者と言う職業がメジャーとなった令和の現代。

生きるか死ぬかの、この世紀末世界ではチャンネルや配信者の数こそ激減したものの、ソラ以外にも動画を配信している者はある程度いた。

多くは知人に無事を呼びかける生存報告や、生存コミュニティのメンバー募集、人探しなど。すっかり災害用の緊急ダイヤルのようなコンテンツと化しているのが現状。

我らがアイドル、ソラのようにモンスターとの共存を掲げ、その生活模様や情報を提供する配信は殆ど無い。

 

だが裏を返せば、殆ど無い。と言うことは僅かにある。という事でもある。

俺はここ最近あらゆる動画チャンネルやそのアーカイブを漁っては、ソラ以外にもモンスターと共存している様子を撮影した動画は無いかと探し続けた。

すると両手で数えられる程ではあるがモンスターと共存している様子を配信してる人達を見つけることが出来た。

 

 

「スマイル、お前の知ってるモンスター、いるか?」

 

「ナンナン」

 

「だよな。聞いただけだよ」

 

 

頭に草を生やしたマンドラゴラの親戚のような不思議な植物モンスターと共に、食べられる雑草を紹介しては調理の様子を撮影し、サバイバル料理教室を配信する中年の男性。

 

ピンクのボールに手足と三角の耳がチョコンと生えた、星のカービィに出てきそうな桃色球で「プリプリ」とこれまた奇妙な鳴き声をあげるモンスターの生態をひたすら観察して配信する妙齢の女性。

 

ジッパーで縫い合わされた口元が特徴的な、古びたヌイグルミ型のモンスターを側に浮かせ、世界征服の宣言をしちゃってる痛くて痛くて可哀想になってしまう少年など。

 

 

(やっぱり探せばいるもんだな。生き残る為にも、モンスターと暮らす人間はこれから増えるんだろうな)

 

 

そんな多種多様な配信者の中でも、特に強烈なインパクトを放つ人物が二人いた。

 

一人は平和だった現代にて大ブレイクしていた有名なアイドル歌手兼、動画配信者。

悪役令嬢系アイドルこと『杜若アリス』だ。

 

元々は某大手芸能事務所からアイドル歌手として華々しいデビューを飾り、抜群の歌唱力とその華々しいルックスを武器に、飛翔するかの如くスターの階段を駆け上る。

ライブチケットは常に売り切れ満員状態。歌番組だけでなくバラエティやドキュメンタリーなどジャンルを問わずにテレビやラジオに引っ張りダコ。

まさに歴史に名を残す正統派、美少女アイドルが爆誕‼︎

 

……する筈だった。

 

 

『何がソラよ‼︎ ちょーっとチヤホヤされたからって良い気になっちゃって馬鹿じゃないの⁉︎』

 

 

が、日本人離れした美貌やハリウッドでもスタンディングオベーション確実とまで言われた抜群の歌唱力。

そんな超ド級の武器をそっくり台無しにする程、口も態度も手癖足癖も。

何よりその性根の悪さが仇になり、数え切れないほどのトラブルを日夜巻き起こす。

最終的には日本を代表するとまで言われる大スターの超大物歌手との共演中に、生放送にも関わらず暴言を吐いた挙句に金的をお見舞い。

あっという間に業界から干されてしまった。

 

 

が、杜若アリサは口も性格もついでに目付きも悪いが諦めはそれ以上に悪かった。

 

自身の性格の悪さとスキャンダラスなキャラクターを逆に全面に押し出す事でヒールキャラを確立。おまけに流行りの波に上手く乗っかった結果、日本で一二を争う程の有名動画配信者としての地位を築き上げる。

元々実家が資産家だったらしく、個人で事務所を設立し、そこから動画配信者兼アイドル歌手として返り咲く様は世間をあっと驚かせた。

 

アイドルやら女優やらに全く興味の無い俺ですら、SNSのニュース欄の情報だけでここまで知っている程だ。

恐らく、平時のアイドル業界や動画配信者業界では、超がつくほどの有名人なのだろう。

 

 

『何であんな運が良かっただけのポッと出の小娘が‼︎ この‼︎ 一流アイドルの‼︎ 杜若アリス様より人気なのよ‼︎ おかしいでしょ‼︎ あり得ないわよ‼ アイツのファンって絶対キモヲタの集まりよ‼︎ あーキモいキモい‼︎‼︎︎』

 

 

そんなアリスは現在、二匹のモンスターと共に歌をメインに配信しておりソラに続く再生数を稼いでいる。

だがその実情は、人気者のソラとは正反対だった。

 

 

『あの、アリスさん? 機材とか無いから編集出来ませんし、Live放送で、その、そういう過激な発言は……』

 

『うっさいのよこのヘタレ‼︎ 役立たず‼︎ 糞童貞‼︎ あんた私のマネージャーのくせして、あのポッと出の女の味方するとか喧嘩売ってる訳⁉ 蹴っとばすわよ⁉︎』

 

『いや、そういう事では無く……あー、ハイ、一回配信止めます、ハイ』

 

 

杜若アリス。今までの発言からも分かる通り、彼女はソラのアンチ筆頭勢だったのだ。

 

どうやらモンスターパニックが発生してからしばらく後。

アリスはチャリティーコンサートのノリで、慰撫として最新曲を堂々と配信したらしい。

恐らく本人としては荒廃した世界に少しでも癒しを与えよう。という意思を持って配信したのだろうが、生きるか死ぬかの危機的状況では大衆に好意的に受け止められなかったのだ。

 

まあ、予想通りというか。主に『この非常時に不謹慎だ』といった批判を始め『空気読めこの馬鹿女』『自重しろガイジ』『死ね』『踏んで下さい』などと言った暴言のコメントがウジャウジャと湧いて出る。

しかも、アリス本人が非常に短気で口が悪い為に、彼女のチャンネルは常に炎上状態。

 

しかも同時期にタイミング悪く、ソラの動画が日本中に広まる。危機的な食糧事情を一変させる『奇跡の木の実』の発見動画だ。

自身の拠点を惜しみなく公表し、更には現代科学では考えられない性能を誇る未知の傷薬とまでなる奇跡の木の実をあっさりと分け与えると宣言をしたものだから、さあ大変。

 

片や時勢も空気も読まずに、自分の曲を配信した、口も目付きも性格も悪い美少女。

片や自己犠牲も厭わず、貴重な情報と食料を提供した善性の塊のような癒し系美少女。

どちらが人気になるかなど、比べるまでも無い。

ソラとの対応を比較するコメントが相次いだ為にアリスの炎上は爆発的に加速。

おまけにアリス自身も自分の人気をまんまと食ってくれたソラに対して憎悪を募らせるという悪循環に陥ったのだ。

 

 

『だいたいね‼︎ あの女が連れてる兎だか狐だかも気に食わないのよ‼︎ 何よあの「僕たちとっても可愛いです〜」って媚び媚びの見た目‼︎ あんなの好き好んで連れてる女なんか絶対に性格悪いに決まってるじゃない‼︎

絶対に裏で身体売ってるわよあの売女‼︎』

 

『いや、アリスさん? 想像である事ない事を言わない方が……それに連れて歩いてる怪物の見た目については人のこと言えないんじゃ?』

 

『はあぁあん⁉︎ 何、意味の分かんないこと言ってるのよ⁉︎ 私の『バハムート』と『オベロン』の方が最強に可愛くて最高にカッコいいに決まってるでしょ⁉︎』

 

『いや、見た目に関しては完敗ですし、名前も、ちょっと前衛的過ぎるような……痛っ⁉︎ 痛い痛い痛いです‼︎』

 

『こんの糞童貞‼︎ あんた本当にどっちの味方なのよ⁉︎ いい加減に蹴るわよ‼︎ 蹴り倒すわよ⁉︎ 蹴り殺すわよ⁉︎』

 

『痛い、もう蹴ってます‼︎ 蹴りながら言わないで下さいって‼︎ 痛っ、痛い痛い……た、助けてー‼︎』

 

 

まともに歌っていたのは最初の配信だけ。今や公開されているアーカイブの殆どがこんな感じで、ソラへの罵倒や批判的なコメントに対する反撃。

それから発言からマネージャーと思われるカメラマン男性への八つ当たりが占めている有様。

もはやアイドル歌手なのか炎上芸人なのか分からない有様だが、そんなアリスも言葉の通り二匹のモンスターを常に侍らせていた。

 

 

『……ヤドン』

 

 

ほぼ全身を明るいピンク色に染めた、やけに尻尾が長いカバのような見た目のモンスター。

出し巻き玉子のようにくるっとした特徴的な耳に、ぷっくりと膨らんだペールイエローの口元。

ポカンと開いたままの口元。黒目が極端に小さく、焦点があってない眼差し。

ポケーっとした表情はどこか愛嬌があるが、同時にマヌケ面。

 

どう考えても古代の伝説の超巨大魚やドラゴンの代名詞として有名な『バハムート』という名前は似合っていない。

魚要素も無ければドラゴンっぽさも一切無い。

 

 

『……ヤァン』

 

 

名前を呼ばれる度に、こんな感じで鳴いては目線をカメラから逸らしている。

本人(本カバ?)も何処と無く名前を嫌がっているようにも見えるのは俺の気のせいだろうか。

 

 

『ベロローン』

 

 

そしてそんなバハムートの背の上を定位置にする『オベロン』と呼ばれたのは紫をベースに毒々しい体色をした奇妙な小人のようなモンスターだ。

吊り上がった四白眼に、突き出すようにツン尖った鼻。側頭部から宙に突き刺さるように伸びる一対の耳か角か分からない突起。

大きく裂けた口から真っ青に染まった長い舌をぶらつかせ、人を小馬鹿にしたような表情を常に浮かべている。

妖精王『オベロン』の名前を与えられているにも関わらず、どう贔屓目に見ても小悪魔のようにしか見えない。

 

 

『ベーロベロ。ベーロベロ。ベロベロバー』

 

 

小さな両手を煽るように揺らしながら舌を剥き出しにしてカメラに貼り付く様はどう見ても小憎らしいインプだ。

 

 

「……名前負け感がすげえな。おい」

 

「ソーナンス」

 

 

俺の呟きにスマイルも同調した程だ。

競う者ではない。が、少なくともモンスターのルックスと名付けのセンスに関して言えばマネージャーの発言通りソラには完敗だろう。

 

 

ソラの一ファンとして杜若アリスの言動にはややイラつく場面もあるものの、アリス本人がどこか小物臭いこともあるからだろうか。

特に脅威などは感じない。仮に道端でエンカウントしたところで敵対するイメージは浮かばない。

彼女の場合は単純に二匹のモンスターを連れているという点で印象に残っただけなのだ。

今後とも息抜きの芸人枠として杜若アリスの動画には世話になる事だろう。

 

杜若アリスは性格が悪い。だがその本質が悪かと言われば、それは恐らく否だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

『ハイハイ、ゼアー? 今日も元気に生き延びてるー? 終末系配信者のペニーとお猿のジョージィ君でーす‼︎』

 

『エーヒヒヒッ‼︎ パムパーム‼︎』

 

 

対してこっちは悪人だ。文句のつけようも無い極悪人が、もう一人の配信者だった。

 

 

(問題はこの男だよな)

 

 

チャンネル名「ペニー&ジョージィwithラッキーモンキーベイビーズ」というツッコミどころ満載の名前で動画を投稿している男、

ハンドルネーム、『ペニー』。

燻んだ金髪をホストのように派手に盛りつけた髪と、両耳の至る所に散りばめられたド派手なピアスが特徴的なこの長身の男。

そして相棒たるペニーをリスペクトしてか、ジャラジャラと大小様々なピアスで大きな両耳を飾りつけた猿型モンスターの『ジョージィ』。

 

 

『今回の企画はこちら‼︎ ペニー&ジョージィが終末流のナイフ投げをやってみた‼︎ のコーナーでーす‼︎』

 

『パムパーム‼︎』

 

 

コイツらは最低最悪。

文句の付けようが無い悪党だった。

 

 

『はい‼︎ ではベイビーズ達が用意してくれた彼方の特設セットに御注目ー‼︎』

 

 

ペニーの指示に合わせて動くカメラの先には、色取り取りの三匹の猿のモンスターが自由気ままに動き回りながら存在をアピールしていたしていた。

ペニーの言葉から察するに彼らもこの男の仲間なのだろう。飼い主に似たのか、それぞれに顔付きに違いはあれど、どこか加虐的な嘲笑めいた笑みを浮かべている。

 

 

(最悪だな)

 

 

それもその筈。三匹のモンスターが囲んでいるのは大きな木製の板。そしてそこには『文字通り』磔にされた中年の男の姿があった。

 

つまり、彼が。

生きている人間こそが、このナイフ投げの『的』という事なのだろう。

 

 

『ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。死にたくない死にたくない助けて母さんごめんなさい』

 

 

スローイングナイフ自体は昔ながらのサーカスの演目として一般的ではある。

だが縛り付けられている男性が、顔を涙でグシャグシャにして、恥も外聞も捨て去り必死で命乞いをしているのだ。

どう見ても、無理やり捕らえられ、脅されて磔にされたに違いない。

 

中世の処刑は見世物としての側面が強かったという。

これも同じ、もしくはそれ以上の見世物だ。

人の命そのものを対価として弄ぶ、鬼畜の見世物だ。

 

 

『……はいはーい‼︎ナイスなジョージィ君に変わって続いてはペニーちゃんの第三投目……アチョー‼︎「いぎゃああああああああああああああああ」おほ⁉︎ 股間に刺さったっぽいね? んーこれはポイント高いよー。果たしてジョージィ君にこの名プレイを超えられるかな?』

 

『イヒヒヒッ‼︎ パムゥ』

 

 

人間が、人間の身体に刃物を刺している。

 

その光景を、心の底から愉しんでいる。

 

それを周りのモンスター達も、嬉しそうに囃し立てている。

 

 

(悪夢だな)

 

 

恐らくペニーと最も付き合いの長い相棒なのだろう。

紫色の体毛に包まれ、人の腕のような奇妙に長い尾を持った猿のモンスター。

『ジョージィ』がピョンと両脚をバネに飛び上がると、尻尾を器用に使いナイフを投擲。

くるりと宙返りしながら放たれたスローイングナイフは弾丸のような勢いのまま、磔にされた男の眉間にスコンと突き刺さる。

 

 

男はピクピクと痙攣し、あっという間にグリンと白目を剥いた。

 

死んだ。

 

 

 

 

 

「無理だわ」

 

 

俺はスマフォの電源を落として遠くへ放り投げた。

再生時間を見るに動画はまだまだ続きがあるようだが、もはや限界だった。

 

 

(そりゃ、善悪も糞も無い世界だからさ。こういう奴らが出てくるのは分かってた。分かってたんだけどさあ)

 

 

今まで散々に人間の骸や、モンスターの内臓といったグロデスクなものを目にして来た。

だからこそ、そういう事に対する耐性はついたと自覚している。

だが、好き好んで人の死体を眺めて悦に浸れる程、俺の常識も倫理感もぶっ壊れてはいない。

ましてや他人の悪意の末に好き勝手に弄ばれ、あげく無様に殺された人間をじっくり観察など。そんなサイコパスじみた思考に染まるつもりもない。

 

罪も無い人間を痛めつけ、その命を弄ぶ狂気に染まったペニーという男。

そしてそれに嬉々として従うモンスター達。

彼らのケタケタと壊れた嗤い声が耳元にベッタリと張り付いて離れない。

奴らがハンドルネームの元ネタにしたであろう名作ホラー映画に登場した、イカれたピエロが耳元でケラケラ嗤っている妄想に襲われた。

 

 

「あー。不味いかも」

 

 

俺は、かなり、キていた。

 

 

「ナンスゥ? ソーナンス?」

 

 

スマイルが何かを察したのか心配そうにこちらを覗き込んで来る。

大丈夫だと笑いながら、相棒の頭を撫でてやるも俺の頭の中の暗雲は少しも晴れてくれやしない。

 

スマイルは強い。俺と協力したとは言え複数のハイエナ擬きを相手に返り討ちにし、あの絶望的なまでに格上だった『赤眼の牙狼』だって倒して来たのだから。

さらに進化した事により、以前とは比べものにならない程にタフにもなった。

間違いなく、俺の相棒であるスマイルは強いのだ。だが。

 

 

(スマイルと俺だけで。二人だけでどこまで生きれるんだ?)

 

 

ソラ。アリス。そしてペニー。

 

善悪や倫理観。そして恐らく目的も様々な三人だが、彼女達は共通して複数のモンスターを仲間にして連れている。

仮に。仮にだが、彼等と敵対した場合、果たして俺とスマイルだけで太刀打ちできるだろうか。

仮想敵としてモンスターの特徴やスキルも判明しているソラとそのパーティーとの戦闘を試しに考察してみるも、どう足掻いても勝機が見えない。

 

 

(スマイルがクッキー君のスキルに足止め食らってる間に、俺が他のモンスターにあっさりやられるな。いくら走っても電撃なんか躱せる訳が無い)

 

 

多種多様なスキルを持つクッキー君。破壊力と即効性が脅威となる電撃を使い熟すビスケット君。そして新入りで未だ弱いとは言え、伸び代が未知数のサブレ君。

 

一対一ならスマイルは勝てるだろう。苦戦するかもしれないが、最終的には勝利を収めてくれるだろう。

だがソラという自陣のモンスターを知り尽くしている少女を司令塔に据えた上での多対一での戦闘。どう悪足掻きをしても万に一の勝機すら見えないのが現実だった。

 

手数が、足りない。戦力が足りない。そして何より。

 

モンスター(武器)が、圧倒的に足りない。

 

 

 

「仲間のモンスターの増強。考える頃合いかもな」

 

 

それがどんなに難しくとも。生き残る為にやらなければいないのなら。

 

俺は乾ききった唇をペロリと舐めた。

不穏に満ちた明日を生き延びる為に。不安に満ちた心を誤魔化す為に。

 

 

「スマイル。頑張ろうな」

 

「ナンス?」

 

 

俺は心配そうに寄り添うスマイルの身体をギュッと抱きしめた。

考えれば考えるほどに不安を色濃くする未来についての考えを全て後回しにして、ゆっくりと目を閉じる。

 

眠りに逃避をした暗闇の中。

磔にされ、嬲られ、殺された男の悲鳴が瞼の裏に焼き付き離れない。

 

 

夜はどこまでも、暗かった。

 

 




・アチャモ ひよこポケモン(ほのお)
羽毛が殆どなので、肉は想像以上に少ない。柔らかくふわふわな肉質なのでサッと茹でて水晶鶏やよだれ鶏で味わうのがオススメ。

今後の展開

  • 本編を早く進めて欲しい
  • 番外編を進めて欲しい
  • ソラが主役の話が読みたい
  • 新キャラを沢山出して欲しい
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