現実世界にポケモンをぶち込んだらサバイバル系B級パニック物になってしまった 作:薔薇尻浩作
昔の神がかって偉い人はこう言った。
『人はパンのみにて生くるにあらず。たまにはお米もパスタも食べたい。あとラーメンも』
……まあ、ニュアンス的にはこんな感じだろう。多分。
要約するとこの言葉は「人間は物質的な目的だけで生きているのではなく精神的な満足感を得られてこそ、充実した人生を送ることができる」という教訓だ。
ボロ屋とはいえ安心して眠れる拠点。
毎日腹八分まで獣肉が食べられるし、冷たい井戸水のお陰で渇く事も知らない食生活。
命を脅かすモンスターから俺を護り、共に戦ってくれるかけがえのない相棒。
生きるか死ぬかのこんな殺伐とした世界の中、モンスターの襲撃に怯える事も、飢えと恐怖に苦しむ事も無い日々を過ごせている俺は、幸運なのだろう。
が、果たしてその幸運はいつまで俺の側に在るのだろうか?
「ムクウゥ……」
今にも一雨降り出しそうな分厚い灰色の雲を背景に、大空を飛び回りながらこちらを威嚇するモンスターの瞳は刃物のように鋭い。
風を裂くようにして俺達に狙いを定める白黒の化け物鳥の体長は、最近の俺達の主食になりつつある『怪鳥』に比べれば小さいものの、それでも大型犬並みだ。
「クバアアアアアアアァ‼︎」
心の中で『大椋鳥』と名付けたモンスターは『怪鳥』よりも甲高く、鋭い威嚇の声を上げた。
思わず俺の身体が竦みあがる。その隙に大椋鳥は俺達の背後に回り込むように大きく旋回。
俺の視界からその姿が消え、慌てて振り向く。
既に俺の目の前には、大地を削りながら激しい砂煙を巻き起こす竜巻のような旋風が。それからその背後で翼をはためかせ、不敵な笑みを浮かべる大椋鳥の姿があった。
大椋鳥がくり出す鳥モンスター特有の風攻撃は、種族の違いかレベルの差なのか。とにかく、これまで相対して来た怪鳥等のそれよりも激しく威圧的で強力だった。
男子高校生の平均以下の体重しか無い俺など、あっという間に風に巻き上げられ、切り裂かれ、吹き飛ばされてしまう事だろう。
「スマイル‼︎」
「ソーナンス‼︎」
俺の隣に相棒がいなければ、の話なのだが。
行動範囲が広いのか、鳥系のモンスターは最近になって怪鳥以外にも様々な種類が顔を見せるようになった。
そして、同じ鳥類だからなのか空飛ぶモンスター達の行動パターンは似たり寄ったりである。
奴らは上空から突風を巻き起こし吹き飛ばそうとするか、急速に加速してこちらを嘴で突き殺そうとするかの二択が殆だ。
結論から言えばスマイルご自慢の反射スキルに任せておくだけで、勝手に自滅してくれる。
稀に鼓膜を突き刺すような甲高い鳴き声をあげて威嚇し、こちらの動きを止めて来たり。
地面に降り立って砂煙を巻き上げて目潰しをしかけてきたり、と小癪な真似をしてくるタイプもいた。
が、今のところ大した脅威にはなっていない。
鳥系のモンスターは動きが早い代わりに打たれ弱い傾向が見られる。
身体が軽いからなのか、モンスター特有の事情なのかは不明だが、威力を倍返しするスマイルのカウンタースキルには相性が悪いようだ。
「ムギャアア‼︎‼︎」
現にこうしてスマイルによって打ち返された旋風は爆発的に勢いを増し、荒ぶる烈風となって大椋鳥を飲み込んだ。
「お、生きてる。思ったよりタフだな」
「ナンス」
これが最近よく獲物にしている怪鳥ならば一撃で地に堕ちているのだが、大椋鳥は未だその場に浮かぶようにして羽ばたいていた。
見た目からして同じ鳥系モンスターとはいえ『怪鳥』よりも強い種族なのか、それとも単にレベルが高いからなのか。
もっとも、その全身は風の刃に切り裂かれ、血塗れだ。
羽根の一部が無残に抜け落ち鳥肌が露出しており、翼の先端もあらぬ方向にひん曲がっている。
いつ墜落してもおかしくない程の瀕死状態である。あと一撃かましたら間違いなく沈むだろう。
対してこちらは、ほぼ無傷。進化後もたゆまぬレベルアップを重ねたスマイルのタフさは伊達では無い。
胴体に多少の傷は見えるものの、放っておけば自然治癒する程度の擦り傷のみ。
ポーション代わりに持ち歩いていると『奇跡の木の実』の出番は無さそうだ。
「ムバッ……ムクウウゥ‼︎」
流石に不利を誘ったのか、大椋鳥は「覚えていろよ」と負け犬の遠吠えでもしたかのように濁った声で一つ鳴くと、素早くこちら背を向け、飛び立った。
瀕死の重傷にしては存外俊敏な動きであっという間に遠くに飛び立つ敵に対しては俺の投槍も射程外となる。
このままでは狩りは失敗だ。無駄な戦闘に付き合わされ時間を浪費し、やっと追い詰めたかと思えばあっという間に逃げられる。
俺たちは戦果となる獲物も、スマイルの経験値も何も得られない。
まさに骨折り損のくたびれ儲けだ。
「ムグッ⁉︎ ムググッ‼︎」
が、そう簡単には逃がさない。
何故ならスマイルは戦闘を開始した直後から大椋鳥の『影を踏んでいる』のだから。
圧倒的な破壊力をもつ反射スキルに隠れがちながら、逃走を阻止できる、狩人としては最高の『影踏み』スキルこそスマイルの恐ろしさの真骨頂だ。
「よし。相手がパニクってる隙にアンコール」
そして始まる必勝コンボ。
「ソーナンス‼︎ ソーナンス‼︎」
俺の指示にスマイルはピョコピョコと阿波踊りのように跳ねまわり、気の抜ける鳴き声と共にペチペチと手拍子を鳴らす。
それに呼応するようにして敵モンスターの頭上から照射される『まるでスポットライトのような不自然な光』。
『アンコール』と名付けたこのスキルは敵の意思を無視して強制的に『直前に行ったスキル、行動を繰り返させる』悪どい技である。
「ムクッ⁉︎ ムククゥ‼︎」
不気味なスポットライトに囚われた大椋鳥に逃げ場は無い。
何かに操られるかのような、ぎこちない動きでこちらに振り向きながら再び翼を大きく振るい、破壊力抜群の突風を俺たちに放つ。
「んじゃスマイル。もう一回反射な」
「ソーナンス‼︎」
敵の攻撃を『反射』し、致命傷を与える。
相手が怖気付き、逃走を計ったところで『影踏み』で阻止する。
さらに『アンコール』で攻撃を強制させ、また反射。
スマイルの体力が尽きさえしなければ無限に続くこの極悪必勝コンボ。
「ムッ⁉︎ ムバアアアアアア‼︎」
狩れない敵は未だ居らず。
こうして新顔のモンスター『大椋鳥』との初戦は、再び反射された風の刃に切り刻まれる自滅という形で幕を閉じた。
すっかり長くなった陽もようやく暮れはじめた夕方、スマートフォンに内蔵されたカレンダーは八月に突入。
梅雨の兆候なのか、ここ最近は雨の日が多い。
件の『大椋鳥』を撃墜した辺りで、ついにポツリポツリと降り始めたので、スマイルと二人掛かりで獲物を引きずりながら早めの帰宅だった。
(やっぱり今日も『小鳥』は来なかったか)
新種の獲物に悪戦苦闘しつつも、ようやく大椋鳥を羽毛の処理を終えたのを機に、俺は小休憩を取って考えに耽っていた。
(ここ最近、拠点の近くに顔を出すモンスターの傾向が変わって来てるよな)
まず大前提として出没するモンスターの数が少なくなっている。
サバイバル生活を始めた当初、痛んだ穀物を適当にバラ撒いただけで入れ食い状態だった『小鳥』を始め、紫色の毒々しい体毛が特徴の『大鼠』。ジグザグ模様の毛並みが特徴の『縞浣熊』など。
俺が拠点に住み始めた頃には毎日のように顔を出していた手頃に狩れていた格下のモンスター達。
ざっくり言ってしまえば、いわゆる『雑魚モンスター』達がすっかり拠点の周りに寄って来なくなったのだ。
(まあ、例外はあるがな。あんのキモ芋虫め)
数少ない例外は俺がトチ狂った頭の時に仲間にしようとしてしまった、巨大な芋虫型のモンスター。
モチモチとした黄色い身体と頭頂部の鋭い角が特徴の『角芋虫』。
奴らだけは何度追い払っても沸いて出てくる。
恐らくだが、未だ見ぬ林の奥に奴らの大きな巣があるのだろう。
日を追うごとにジワジワ出現率が上がっているのが非常に不気味である。
(そもそも角芋虫って何の幼虫なんだか。まあ毛虫っぽいから蛾だろう。それか毒蝶かな)
動きも遅く、蹴り一発で瀕死になる程度の雑魚だ。実際に大した敵ではない。
だが、頭の角には洒落にならない猛毒を持っている点。
毎日肉が食えている今、わざわざ虫を食おうとも思わないので殺したところで死体の処理が面倒な点。
更には弱すぎるせいで倒したところでスマイルのレベルアップに全く役立たない点。
と、全く益の無い文字通りの『害虫』モンスターが件の角芋虫なのだ。
(その内、林の中に討伐に行かなきゃマズイかもなあ。梅雨明けにでも大繁殖しそうだし)
やっかいな害虫モンスターという例外があるとは言え、格下のモンスターとのエンカウント率は著しく低下した。
だが代役を務めるかのようにして、小鳥の進化系と思われる『怪鳥』を始め、先程襲ってきた『大椋鳥』のような比較的に大型で手応えのあるモンスターが。
更には、かつて文字通りの死闘を繰り広げた『赤眼の牙狼』などの強敵達との戦いが徐々に増えている。
(まあ、理由も何となく分かるけどさ)
単純にスマイルのレベルが上がり、強くなったからだろう。
例えばスマイルがまだ進化する前の小さくて弱々しかった頃、自分が敵わないと感じた敵に対しては俺が攻撃を支持しても真っ青な顔で拒否してきた。
逆に俺から見たらなんだか強そうだから逃げた方がいいのでは? と提案したにも関わらずスマイルが勝手に遮二無二突撃して、その実あっさり勝利してしまった事もあった。
(互いの力量差を把握する為の『何か』を持っているんだろうな)
これはあくまで俺の予想なのだが、モンスター達は敵対する相手のレベルを本能的に。あるいはパッシブスキル的な何かで察知する事が出来るのではなかろうか。
それこそファンタジー小説によく出てくるテンプレ、『鑑定スキル』のように。
だからこそ初見の敵でも瞬時にその力量を推し量り、戦いを挑むか逃げるかの判断を素早く下せるのでは無いだろうか。
(まあ、それを抜きにしても実際スマイルにも貫禄っつーか。オーラみたいなのついてきたしなあ)
常に側にいる俺からしたらピンと来ないが、意識してスマイルを観察してみると肌がピリつくような威圧感があるような気もしなくもない。
特に進化してからはそれが顕著になり、レベルアップを重ねるごとに強者のオーラのようなものを、時おり感じるのだ。
いきなり異能バトルものキャラ設定みたいなふざけた事を言っているように思えるかもしれないが、実際にそうなのだから仕方あるまい。
強者といえばかつて林の中で見た『奇跡を司る大鹿』。
あの心臓が凍りつくような凶悪な殺気を思い出す。
スマイルのユーモラスな外見からして、果たしてあのレベルの強さまで至れるのかは疑問ではあるが、何はともあれ我が相棒が順調に強くなっているようで何よりだ。
それに関しては何よりなのだが。
(狩りの問題だけじゃ無いんだよなあ。これが)
我がサバイバル生活における最も大きな問題。
それは、何を隠そう物資の不足問題なのである。
(平和だった頃は地元のコンビニか駅近くのデパートに行けば、簡単に何でも揃ったんだけどな。……いや、スゲー今更の話だけどさ)
古屋に最初からポリ袋に詰めてあった大量の塩は、小鳥を始めとしてバラした獲物の生肉を長い間漬け込んでいたせいか、濁ったように変色し悪臭を放っている。
知識としては塩化ナトリウムが腐らないとは知ってるものの、これから迎えるであろう猛暑を考えると、この異臭を放ち始めた塩の塊に漬け込んだ肉を食べたいとは思わない。
同じく袋詰めされていた石灰もトイレの消臭剤代わりや、食材にならないモンスターの死骸を燃やした後の処理に振り撒いたりした結果、殆ど無くなってしまった。
(補充無しで一ヶ月近く。ここまで持った事を誇るべきか、悔やむべきか)
火起こしのライター、携帯充電器、ビニールゴミ袋、災害用ダクトテープなどなど。
この拠点に辿り着くまでに様々なお宅から無断で拝借したお役立ちグッズのストックも心許ない。
情報調達、兼、心の癒しの為のマストアイテムであるスマートフォンも液晶画面にヒビが入っているし、カバーについた安物のソーラー充電器では日々の充電すら覚束ない。
(武器もなあ。正直もう限界だし)
俺のメインウェポンである包丁槍だって、刃先はボロボロだ。
柄に関しては所詮は元が竹箒だからなのか何度もポキポキ折れやがる度に、ダクトテープで強引に補強した為に不恰好極まりない。
妙な愛着が湧いてしまっているので未だに手放せないでいるが、武器としてまともに使えるかというとかなり怪しいところだ。
少なくとも対人ならともかく、最近よくエンカウントする『怪鳥』レベルのモンスターには役に立たないだろう。
「流石に、そろそろ現実見ないと、詰むよなあ」
重苦しいため息を一つ。
四苦八苦しながらようやくバラし終えた椋鳥の肉塊を、異臭を放つ塩袋の中に突っ込んだ。
食材に関して言えば、甘味を始めとした保存の効くインスタント食品や缶詰なんかはとっくに切らしており、最近の食事はバラした鳥肉のステーキに炒めたもやしとカイワレの付け合わせ。
そこにスマイルがどこからか拾ってきた様々な木の実がポツポツと混じる程度だ。
人はパンのみに生くるにあらず。
俺は鳥肉のみに生くるにあらず。
こんな時代に何を贅沢なと思われるかもしれないがら塩味オンリーの鳥ステーキの味に、俺はすっかり飽きてしまった。
「井戸のお陰で水はある。狩りさえすれば毎日肉が食える。ボロとは言え比較的、安全な拠点だってある。何より頼りになる相棒がいる」
生きるか死ぬかの世紀末世界。
混迷したこの時代にやや原始的とは言え、安定した生活を送っている俺は間違いなく恵まれているに違いない。その確信がある。
だが、それでも。
「どうにも、お先が薄暗い感じなんだよなあ。マジで」
血生臭さがムワッと広がる古屋の中。俺は、雨音が弾けてボヤける小窓の外をボンヤリと眺める。
重く、どんよりとした灰色の雨雲が窓越しにモザイクみたいにどこまでも広がっている。
すっかり激しくなった雨音に、俺の乾いた言葉は吸い込まれていった。
『皆さんお早うございます‼︎ 今日も嬉しいお知らせがいっぱいです‼︎ お送りするのは、もちろん‼︎ ドレミファ〜!』
『……ソラ‼︎ はい、私ソラでーす‼︎』
明けて翌日。
いよいよもって本格的な梅雨が始まったのか、昨日の夜から降り続いて今朝もシトシトとした雨だった。
わざわざこんな天気の中で狩りに勤しむ程、食料に切迫してはない。
俺は日課の筋トレをこなし、寝袋の上にゴロリと転がる。
今日一日、穴熊のように拠点に引き篭もると決めたのだ。どうせ外に出ないのだから、と早速ソラの最新の動画を観る事にした。
「なんかまたソラの所のコミュニティが大きくなってるっぽいぞ。スマイル」
「ナンス?」
いつもの様に卵を抱えたスマイルが、寝転んだ俺の頭の上からスマフォを覗き込む。
ソラの配信は我が相棒もお気に入りなのだ。
いつもの珍妙な挨拶から始まり渋谷コミュニティの近況と続き、メインテーマへと進行していく。
どうやら今回も大きなニュースがあるようだ。
『……はい‼︎ という訳で皆さんへの嬉しいご報告があります‼︎ 何と私、ソラ以外にも! モンスターとお友達になって戦ってくれる人達が集まってくれたんです‼︎』
「……マジかよ」
ソラの輝く笑顔から放たれた言葉の衝撃に、俺は思わず驚嘆の言葉を零した。
数少ない『テイマー』(モンスターを従え、戦う人間の仮称。勝手に俺がつけた)の中でも群を抜いた戦闘力を持ったソラ。
そんな彼女の元に新たに二人の新参テイマーが合流し、更に避難民の一人がつい先日モンスターを手なづける事に成功したというのだ。
流石にソラのように多数のモンスターを従えている訳ではないようだが、それでも立派な戦力だ。
「ソラだけでも下手な武装集団なんか目じゃなかったっつうのに。ちょっとした軍隊になるぞ、こりゃ」
「ナンス」
もはや渋谷コミュニティはソラ一人が屋台骨となり、救助を待つだけの生存者コミュニティでは無い。
十分な戦力を蓄えて確固たる地盤を着々と整えつつあるその様は、まるで戦国時代の小国だ。
一人、戦慄する俺を他所に画面越しのソラは笑顔で語り続ける。
『……残念ながら新しく合流してくれた人達は、画面に映るのは恥ずかしいという事です。ですから、今回は皆さんのパートナー達だけを紹介しますね‼︎ みんな個性的で可愛いだけじゃなく、とっても頼りになるんですよ‼︎』
エヘン、と胸を張り、大きな胸をポヨンと揺らすソラの言葉と同時に画面が切り替わった。
そこには個性豊かな三匹のモンスター達が写っていた。
『葉っぱを纏ったドラゴンのようなこの子がハーブ君‼︎ とっても固い岩の身体に長い腕が特徴の石ノ介君‼︎ とってもお洒落でカラフルなインコの彼女がドレミちゃん‼︎』
『名前はそれぞれのパートナーが考えたんですよ‼︎ みんなとっても素敵ですよね‼︎』
首回りと頭頂部に青々とした葉っぱを生やす竜脚類によく似た『ハーブ』。
大きめの丸っこい石に目と口が生え、アンバランスな程に長い両腕を携えた『石ノ助』。
音符を模した真っ黒の頭部と対照的なド派手な色彩の羽毛に包まれた鳥型モンスターの『ドレミ』。
どれも違った特徴を持つモンスター達だ。
「つーか石ノ助って『手長岩』じゃねえか。あいつ硬いけど突進しかして来ねえんだよな」
「ナンス」
石灰岩を荒く削り取ったような石ノ介の同族である『手長岩』とは何度か戦ったことがある。
足は生えてないのに無駄に発達した両腕だけ生えていたのがなんとも不気味でよく覚えていた。
動きが鈍く、発達した両腕を全く活かす事なく、愚直にも真っ直ぐに体当たりばかりしてくる。実に御し易い手合いだった。
はっきり言って雑魚モンスターの類だが、岩石で出来た身体は伊達でなく非常に硬い。
投槍どころか包丁槍すら通じないので、こちらにスマイルがいなかったら厄介な敵だったかもしれない。
まあ見た目通り非常に鈍足なので、逃げようと思えば幼児でも余裕だろうが。
『モンスター達をお友達にして戦う人が増えて、この渋谷はますます安心安全な環境になりました‼︎ みんなクッキー君達に負けず劣らずの、頼りになる凄い子なんですよ‼︎』
グッと拳を握って語るソラの言葉は清々しい程に力強い。
この動画が撮影された日付は三日前。少なくたもこの時点でテイマーが四人、共に戦う味方モンスターが七匹も集まっているのだ。
それだけでなく、モンスター達の人外の力や不思議スキルを存分に利用し周囲の建物や車を解体。
次々と資材を確保し、拠点の要塞化や一般人による探索班用の戦闘装備なども準備しているのだとか。
電気や炎、不思議スキルを使いこなせるソラパーティーの力あってこそだ。
仮に悪意を持った人間が武装して襲いかかったとしても、余程の大世帯でも無い限りは返り討ち確定だろう。
(こりゃ、ますますソラの元に人が殺到するだろうな)
戦う術を持たない一般人からしたら、この渋谷コミュニティは強力な戦力を有した心強いセーフゾーンだ。
きっと彼等にとっては、縋り付いてでも辿り着きたいパライソに映る事だろう。
スマイルという心強い相棒がいる俺から見ても、ソラをリーダーとしたこの集団はかなり魅力的なのだから。
「距離の問題すら無かったら、俺も合流を考えたかも知れないけどな……」
「ソーナンス?」
「いや、確かに直線距離上では大して離れちゃいないんだがな」
俺の現在地は神奈川県の中南部。更にその端っこの閑散とした田舎の掘建て小屋だ。
ここから渋谷駅まで大きな線路に沿って歩いていったとしても、直線距離なら計算上は徒歩で半日ほどの距離にあたる。
まあ実際は真っ直ぐに歩道がある訳でも無いのでもっと時間がかかるだろうが、それでも一日あれば十分に辿り着ける距離だ。
スマフォの地図アプリはどうやらまだ生きている様だし、道に迷う心配も無いだろう。
「でも、実際のところ無理っぽいよなあ」
「ソーナンス」
現状、暴れ回るモンスター達の影響でコンクリートの道路は荒れ果てており、クレーターだらけで真っ直ぐ歩くのすら困難だ。
建物は崩壊し、街並みはすっかり変わり果てた今、既存の地図など果たしてどれほど役に立つというのだろうか。
更に移動する時は常にモンスターからの襲撃を警戒し続けばならない。
ストレスは際限なく溜まるだろうから、休息も何度も取らなければ身体が保たないだろう。
事実、地図上では大した距離にもならない筈だったこの古屋に自宅から避難するのにすら、まる三日かかったのだ。
そう言った事情を考えれば、俺が五体無事のままソラのコミュニティに合流するというのは不可能に近いだろう。
「まあ、外部のコミュニティに目を向けるのは必要かもな」
「ナンス?」
だが物資が尽きかけている現状、そろそろ遠出して生活必需品の補給をしなければならない。
今のところはスマイルと俺のコンビだけで十分やって行けてるが、この先も安定した生活がおくれる保証はどこにも無いのだ。
人間同士の諍いに巻き込まれるリスクが有る為、積極的に他所の生存者コミュニティに合流するつもりは無い。
だが、いざという時の避難場所の候補として、近辺のコミュニティの情報を集めておくのも悪くはないだろう。
「まだ死にたくないし。念には念を入れといて損は無いよな」
「ソーナンス」
「んじゃ、今日は充電が危なくなるまでひたすらネットで情報を漁るか」
「ソー? ソーナンス」
「ソラの動画はまた今度な。ほれ、暫く調べ物するからスマイルは卵でも磨いとけ」
「ソーナンス‼︎」
スマイルは俺の言葉に大きく頷き、鼻歌を歌いながら卵をタオルで丹念に磨き始めた。
相棒の微笑ましい姿に癒されながら、俺は再びスマフォの画面と睨めっこしながら近所の情報を収集を始めるのだった。
結局、夜になって雨が止むまで丸一日。
小さな古屋の中には、弾けるような雨音とスマイルの調子外れの鼻歌だけが響いていた。
・ムクバード むくどりポケモン (ノーマル/ひこう)
以外にも癖が少ない上に肉本来の味わいが強い為、幅広い料理に活用できる。
骨ごとスープにいれる旨味がたっぷり。
今後の展開
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本編を早く進めて欲しい
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番外編を進めて欲しい
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ソラが主役の話が読みたい
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新キャラを沢山出して欲しい