現実世界にポケモンをぶち込んだらサバイバル系B級パニック物になってしまった   作:薔薇尻浩作

25 / 27
後半駆け足


3ー6

「邪魔臭え‼︎」

 

 

怒声をあげ、目の前の害虫を蹴り飛ばす。

弾力のある身体はまるで蹴鞠のように勢いよく飛んで行き、バウンドした。

 

 

「ビギョッ⁉︎」

 

 

足先から伝わる感覚から会心の一撃を悟る。

今までの経験上、恐らくは瀕死だろう。

 

 

「ビィビィ‼︎」

 

「ビビー‼︎」

 

 

仲間がやられた事に怒ったのか、俺の周囲を囲むようにして、あちらこちらに這い回る巨大な害虫。

『角芋虫』が一斉に殺気立ち、不気味な鳴き声をあげて威嚇する。

つぶらな瞳を怒りに歪め、毒液で滑る頭部の角を妖しく光らせこちらに狙いを定めてようとしている。

だが、邪魔臭いだけの害虫の攻撃をわざわざ俺が待ってやる義理などない。

 

 

「煩え‼︎ くたばれ‼︎」

 

「ビギィ⁉︎」

 

「ビギョッ‼︎」

 

 

一気に間合いを詰めて先ずは一匹蹴り飛ばし。

そのまま身体を捻って竹槍をぶん投げ、遠くの一匹を大地に縫い止める。

身体の勢いを殺さぬまま、最後に包丁槍を両手で構え直し、思いっきりぶん回して三匹まとめて薙ぎ倒す。

反撃を許す事なく、無事に五匹を片付けることが出来た。

 

 

「ビギャア⁉︎」

 

 

と、息をつく間にも背後から断末魔。

どうやら気づかぬ内に俺の死角に回った一匹が、隙ありとばかりに突進して来たようだ。

 

 

「ソーナンス‼︎」

 

「スマイル、ナイスカバー‼︎」

 

 

だが俺の背後には頼りになる相棒が控えているので問題無い。

それに今日のスマイルはいつもと違う。

水色の身体全体を覆うように、蒼白く煌めいた、幻想的なオーラを身に纏っているのだ。

 

 

「ほれ、ラスト‼︎」

 

 

スマイルだけではない。

青みがかった白銀のベールは、オーロラのように揺らめき輝きながら、俺の身体も満遍なく包み、その恩恵を与えてくれる。

 

いくら鈍間な角芋虫が相手とはいえ数は力。致命傷は無いものの、どうしても捌ききれなかった攻撃が掠ることは多々ある。

これがただのモンスター相手だったら気にもしないが相手は毒を持っているのだ。

その威力は一突きするだけで大木の幹が腐食し、崩れ落ちる程の猛毒。

 

本来ならそんな物騒な相手に擦り傷一つでも喰らったら命の危機な訳だが、それを防いでくれるのが、この輝くオーラ。

 

スマイルの新スキル『守護のオーラ』だ。

 

 

以前、スマイルからの身振り手振りの説明を翻訳したところ、このオーラは攻撃のダメージそのものを無効化する事は出来ないが、それらに付随するステータス異常を。

今回の場合は角芋虫の『毒そのもの』を防いでくれるのだそうだ。

 

このファッキンファンタジーな世界の住人達が毒以外にどんなエゲツない武器を持っているかは不明だ。

だがスマイル曰く(実際に喋った訳ではないが)毒以外の様々な状態異常も防げるのだとか。

 

ゲームで言うなら石化や混乱。狂化や睡眠などが思いつくが、実際にどんなやっかいな攻撃が存在するかは定かではない。

だが擦り傷一つを致命傷に変えてしまう毒の恐ろしさを防いでくれるだけで充分に有用なスキルだ。

これで安心してスマイルの反射スキルを活用する事が出来るのだから、彼のタンクとしての価値は計り知れないものがある。

 

 

「ようやく終わった。……無駄に疲れたな」

 

「ソーナンス」

 

 

包丁槍で顔面ごと地面に縫い付けられた害虫の死骸を蹴り飛ばし、ようやく一息ついた。

そもそも梅雨もあけていない嫌な天気の中、どうして俺達が角芋虫と乱闘を繰り広げていたのか。

それは林の近くに生えている不思議な木の実の果樹園に用があったからだ。

 

奇跡の木の実は今更であるが、それ以外にもモンスターパニック以降は見慣れない果実が何種類も現れた。

最近になってちょくちょくスマイルが採取してはオヤツに食べているのを知っていたので、目当ての木の実がなっている樹まで案内して貰ったのだ。

 

そこで結果的に角芋虫の大群に遭遇。

あっという間に囲まれて、小雨の中で戦闘するハメになったのだ。

 

 

(アイツら、一匹沸いたと思ったら次々出てきやがって。ゴキブリかっつうの)

 

 

用心深く竹やぶの奥の様子を伺うも、これ以上は害虫達の援軍は無さそうだ。

一段落ついたところで、俺は戦闘前に別の場所から採取しておいた一つの木の実を取り出し相棒に放った。

 

 

「スマイル。大丈夫だとは思うが一応、食っとけ」

 

「ソーナンス‼︎」

 

 

まんま桃を小さくしたような見た目のその木の実は柔らかく、かなり痛みやすいので扱い辛い。

非常に甘く、ややしつこいぐらいに濃厚な味わいの果実はスマイルの大好物だ。

だがこの木の実。ただ美味いだけでは無く、実はとんでもない力を持っているのだ。

 

 

(さて、と。本来なら穴でも掘って死体の処理をした方がいいんだろうが)

 

 

笑顔で木の実を頬張るスマイルの姿に癒されるも、辺りに散乱した角芋虫の死体に目を向けると、せっかくの癒しも台無しだ。

まとめて火葬しようにも火元として持ち歩いていたライターの在庫は無いし、穴を掘って埋めるにもシャベルもスコップも無い。

 

 

(まあ面倒だから放置でいいか。獣の死体なら血の臭いでモンスターを誘いそうだけど、虫なら大丈夫だろ)

 

 

凄惨な光景から目を逸らした俺はとっとと目的のブツである一本の樹の前に立って、お目当ての木の実をありったけもぎ取る。

 

 

(おっ。やっぱり枯れるのね)

 

 

やがて最後の木の実を採取した瞬間、先程まで青々と葉を茂らせていた木が急速に色を失い、そのまま灰になって消え去った。

奇跡の木の実を採取した時にも、同様の光景が見られた。全く訳の分からない生態だが、今更だろう。

あるいはこの不思議な木もモンスターの一種なのかも知れないが、今のところ害がある訳でもないし気にしない。

 

もぎ取った木の実を指で摘まみ、じっくりと観察した。

大きさは直径2センチ程。トマトのような真っ赤な色に、長いヘタがクルクルと螺旋を描いている。

見ようによっては桜桃の変種にも見えるこの木の実。確かその効能は……

 

 

「麻痺治し。だったっけか?」

 

 

今朝に観た動画で発表された新情報。

ソラに続き彗星の如く現れた、もう一人の救世主。

俺はそんな一人の少女とその相棒の姿を思い出しながら、『クラボの実』と名づけられた小さな木の実を観察していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『皆さんこんにちは‼︎ 今日はなんとゲストが登場‼︎ ビックリ情報も満載でーす‼︎ お送りするのは、もちろん‼︎ ドレミファ〜!』

 

『……ソラ‼︎ はい、私ソラ‼︎』

 

 

毎度お馴染みとなったソラの動画配信。

栗色の髪を編み込んだ美少女を中心に様々なモンスター達が笑顔を浮かべながら画面を覗き込む、そんないつもの姿。

 

 

『それから特別ゲストの〜?』

 

 

だが今回はソラとその相棒達だけで無く、もう一人の人影があった。

 

 

『あー。えっ、と。み、ミドリだ。その……よろしく』

 

 

ミドリと名乗る少女は目立つ事に慣れていないのか、カメラからチラチラと視線を外しながら恥ずかしそうに自己紹介をした。

 

 

『はい‼︎ というわけで、今日の配信は私、ソラとゲストのミドリちゃんとの二人でお送りしまーす‼︎』

 

『お、おう。宜しく、な』

 

 

女性にしては珍しい程のベリーショートの黒髪。

やや厳つさを感じさせるツーブロックの刈り上げに、ツンとすました唇と鋭い目付きはそこらのギャルや不良なんかよりもよっぽど迫力がある。

だがその小さな背丈と整った顔立ち。染み一つ無い雪のような白い肌。

何よりソラには及ばないとは言え、胸元の豊かな膨らみが非常に女性らしい。

 

 

(ソラとはまた違ったタイプの美少女だな。なんつーか、クール系? ツンツンしてそうだけども)

 

 

眼福な事に、ソラに続いての美少女の登場。

そしてそのミドリの隣には体高1メートル弱程のモンスターが静々と控えている。

その様子から見るに、恐らく彼女こそ渋谷コミュニティに合流したテイマーの一人なのだろう。

 

 

ソラ曰く、ゲストのミドリは彼女と同い年の17歳。つまりは俺と同じ、平時だったら高校二年生。

住まいは東京と神奈川の境目辺りで、ソラの配信にて渋谷コミュニティの存在を知り移動を開始。

その途中でパートナーとなるモンスター『ハーブ』と出会い意気投合。

テイマーが未だ珍しい今の時勢、頼り甲斐のあるボディーガードを侍らせているミドリは何度も他のコミュニティに誘われて来たらしい。

だがソラと合流するまでは有象無象の声に一切承諾する事なく渋谷コミュニティを目指し、パートナーとのコンビだけで一直線に向かって来たそうだ。

 

 

『……ミドリちゃんとハーブ君のコンビはとっても強いんです‼︎ ビスケットちゃんとサブレ君の二人で戦っても勝てないぐらいなんですよー‼︎』

 

『いや、あれは、別に。運が良かっただけだし』

 

『そんな事ないよ‼︎ 私も、渋谷のみんなも‼︎ ミドリちゃんの事、凄いなって思ってるんだから‼︎』

 

『お、オレは……別に……』

 

 

ソラのキラキラ輝く笑顔と純度100パーセントの賛辞に耐えきれなくなったのか、ミドリは眉を顰めてすっかり俯いてしまう。

だがその顔は両耳まですっかり赤く染まっており、照れ隠しなのが丸わかりだ。

キツめの顔立ちとのギャップが微笑ましい。

 

 

(一見クールに見えて恥ずかしがり屋の俺っ娘。ってまたキャラ濃いなあ、おい。こりゃミドリも人気出るだろうな)

 

 

今にも百合の花が咲き乱れそうな美少女二人のじゃれ合いを挟みながらも配信は続いていく。

前回の動画を撮影してから五日。

渋谷コミュニティに実を寄せ合う人数はなんと300人を超えたという。

モンスターの襲撃もテイマーを中心に跳ね除け、老若男女問わず避難民全員が一丸となって生活しているそうだ。

現在では希望する避難民に対し積極的にモンスターと関わらせる事で、少しでもテイマーを増やそうと試みているらしい。

 

未だ新たなテイマーが誕生したことは無いが、一部の住民に徐々に懐いてきたモンスターも多数いるのだとか。

万が一好戦的なモンスターが襲いかかって来ても、直ぐにソラを筆頭とした多数のベテランテイマー達が対応できる、渋谷コミュニティならではの政策だろう。

 

今後ますますテイマーを増やし、渋谷コミュニティが単なる避難所からモンスターテイマー達の集まる組合に。

ファンタジーゲームやラノベなんかでお馴染みの、俗に言う『ギルド』や『クラン』のような組織になる未来も夢では無いかもしれない。

 

 

『この動画を見ている皆さん‼︎ 是非、渋谷コミュニティに来て下さい‼︎ 安心安全、私達がしっかりお守りしますからね‼︎』

 

 

同性の話し相手がいるからなのか、いつも以上に上機嫌でトークに花を咲かせながらコミュニティの現状報告は終え、今回の配信のメインに移る。

 

配信の度に彼女のチャンネルは話題になり、掲示板や未だ奇跡的に生きている各種SNS等でも熱狂の渦を巻き起こすのだが、今回のソレはいつもの比では無い。

 

ソラという終末世界の最後の希望の名前が轟いたあの動画。

『奇跡の木の実』の存在を公表した時のものには匹敵する程だ。

 

 

『……はい‼︎ ではでは本日のビッグニュースのお時間です‼︎ 今日のお知らせはこちら‼ ジャジャーン‼︎︎』

 

 

カメラに映るソラの両手に抱えられたのは大きめのザル。

その中には様々な果実がこぼれ落ちんばかり山盛りとなっている。

 

それぞれ個性的で目を惹くカラフルな配色やその造形。

どれもこれもモンスターパニックが始まってから発生するようになった不思議な『木の実』の一種達だ。

 

 

『奇跡の木の実の親戚さん‼︎ 謎の木の実たちの不思議な効果についての発表です‼︎』

 

 

一つ食べればどんな傷も治り、二つ食べれば欠損すら治り。

そして三つ食べれば瀕死の重態ですら無傷の健康体へと全快させる『奇跡の木の実』

 

現代科学へ真っ向から喧嘩を売ったファンタジー世界の謎植物は一種類に留まらない。

黄色地に斑点模様の奇跡の木の実以外にも、世界が豹変してからは様々な異形の果実を身につけた不思議な果樹が、あちらこちらに生えて来るようになった。

今回はその謎に満ちた木の実たちの効能が配信のメインテーマになるようだ。

 

 

『今回の企画はミドリちゃんが個人的に調べてくれた木の実の効果を皆さんにお知らせして、役立て欲しい‼︎ って言ってくれたから実現したんです‼︎ ミドリちゃん、本当にありがとう‼︎』

 

『はあっ⁉︎ そういうの、別にいいから‼︎ マジで‼︎』

 

 

キャッキャウフフと尊い塔が立ちそうな雰囲気が漂うが、割愛。

どうやら先ほどのソラの言葉通り、今回の企画はミドリが発案したものらしい。

 

 

『奇跡の木の実は怪我を治す凄いパワーがありました‼︎ そしてそれ以外の不思議な木の実たちも予想通り、とっても凄いパワーが隠されてたんですよ‼︎ まずはこちら‼︎』

 

 

そう言ってソラが木の実の山から摘み上げたのは4センチ程の一口サイズの桃そっくりな木の実だ。

これには俺も見覚えがある。大の甘党であるスマイルがいつの間にやら抱えて込んでは、おやつにしている。

この拠点の近くにも結構な数が群生しているのだ。

 

 

『モモンの実だな。これは主に解毒作用があるんだ。モンスターの技による毒ならどんな種類でも治せる。毒虫だろうが、毒蛇だろうが、毒草だろうが全快だ』

 

『この木の実は私も食べた事あるよ‼︎ それにサブレ君が怖い虫に刺された時にこの木の実を食べたら元気になったの‼︎』

 

『毒針でも喰らったのか? 虫タイプは毒タイプも複合してる場合が多いから注意した方がいいぜ』

 

(タイプ?)

 

 

ここでミドリの口から聞き慣れない言葉が飛び出してきた。

タイプとは何だろうか。既にモンスター達の共通点を発見し、分類分けにでもしているのだろうか。

 

 

『タイプ? え、えーと……種族とか属性って意味? かな? それにこの小っちゃい桃の実もモモンの実って言ってたけど……もしかしてミドリちゃんが名づけたの?』

 

『えっ⁉︎ いや、それは‼︎ あれだ‼︎ ……知り合いがそう言ってたから、何となく頭に残ってたんだよ、うん』

 

『へえー、なるほどー。でもモモンの実かぁ。可愛くて覚えやすくていいかも‼︎』

 

 

ソラのように変わったネーミングセンスを持っているのか、ミドリの名付けもまた独特のものだった。

ただ、何となく。名付けについてソラに説明したミドリの様子が妙に感じたのは気のせいだろうか。

 

結局、タイプという謎の言葉に再び触れる事もなく動画は続いていった。

 

 

(しかし解毒効果のある木の実ねえ。前にソラもそんなのが有るような事を口走ってたから予想はついてたが、こりゃまたファンタジックなアイテムだことで)

 

 

ゲームなんかでは状態異常の代表格となっている毒。毒は確かに恐ろしい。

平和だったあの頃から、キノコやフグの毒で毎年誰かしら死んでいるし、毒蛇や毒蜘蛛の被害も馬鹿にならない。

 

おまけにファッキンファンタジーなこの世界になってからというもの、明らかに毒を持っていると自己主張しているモンスターはそこら中にいる。

タフなスマイルにとって毒で即死。なんて事にはならないだろうが、ジワジワと効いてくるスリップダメージは痛すぎる。

ゲームのように体力が毎ターンごとに一定値だけ減るならまだしも、全体的なコンディションの不調により十全な力を出せなくなるだろう。

今後、生き残る為にも毒対策は必須だった。

 

 

『毒を消しちゃうだけじゃないんですよ‼︎ 不思議な木の実は色んな種類がありますからね‼︎ ね、ミドリちゃん?』

 

『ああ。モモンの次は……』

 

 

モモンの実を皮切りにミドリは次々と木の実を紹介していく。

麻痺に効くという桜桃のような『クラボの実』に、眠気覚ましになるという青く大きな傘が特徴の『カゴの実』。

パニック状態を治めるという渋柿を小さくしたような『キーの実』など。

ミドリはその特徴と効能。それから自ら名付けた木の実の名前をスラスラと紹介していく。

ソラにわざわざ企画を提案するだけあり、謎の木の実について並ならぬ知識を持っているようだ。

 

 

(にしても名前のセンスが独特だなあ。なんか法則でもあんのか?)

 

 

ミドリ曰く、見た目が似ている既存の果実の名前をもじったものを木の実の名前としているらしい。

桃に似ている『モモンの実』に桜桃に似ている『クラボの実』までは分かる。

だが、果実でも無い零余子を元ネタにした『カゴの実』や柿をもじった『キーの実』なんかは、どこか強引なネーミングな気がするのだ。

 

 

(零余子なんて滅多に見ねーし。それに柿をもじるなら、そのまんま『カキの実』とか『カーキの実』とかでよくないか? まあ、センスは人それぞれって言われたらそこまでの話なんだが……)

 

 

どこか腑に落ちない気もするが、画面越しのソラはそんな細かい事は気にならないようだ。

時おり木の実を齧ってはその味わいや食感を笑顔で語っては、ミドリの説明に凄い凄いと相槌を打ちながら無邪気に、はしゃいでいる

 

 

『凄いよミドリちゃん‼︎ これって凄い発見だよ‼︎ きっとこの動画のおかげで、もっともっと沢山の人が生き残ることができるよ‼︎』

 

『いや、そんな。あんま、持ち上げないでくれよ……オレ、そういうの苦手で』

 

 

ソラの笑顔が眩しいのか、目を反らして頬を掻くミドリの顔は相変わらず真っ赤だ。

ぶっきらぼうながらも満更でも無いその表情は、思わず抱きしめたくなる。

クールでボーイッシュな俺っ娘美少女のギャップ萌えの恐ろしさ。

 

その可愛いらしさは種族をも凌駕するのか、侍るようにして控えていた彼女のパートナーが笑顔で擦り寄って来た。

 

 

『ベイー‼︎』

 

『んなっ⁉︎ おい、こら‼︎ 撮影中だから離れろ‼︎ あ、後で遊んでやるから‼︎』

 

 

照れている自分の主人が愛おしくて堪らないのか、大きな瞳を嬉しそうに細め、からかうようにして頬ずりするモンスター。

パートナーへの愛情をスキンシップでこれでもかと表現している。

ミドリのパートナーである彼の名前は、確か『ハーブ』だったか。

 

 

『あははっ。ハーブ君はミドリちゃんのこと大好きだからね』

 

『いや、コイツがワガママなだけで……だあああ‼︎ はーなーれーろー‼︎』

 

『ベイベイー‼︎』

 

 

前回の動画で紹介された三匹の中では一番身体が大きく、見た目も強そうだ。

進化して一回り大きくなったクッキー君よりも背が高い事を考えると、もしかしたら既にに進化を経験しているのかもしれない。

 

 

(うーん。絶対に強いよな、コイツ)

 

 

そんなハーブの特徴を一言で説明するなら『植物が生えた恐竜』だ。

ひょろりと長い首に、がっしりとした四脚の下半身と短い尻尾は男心を擽ぐる竜脚類そのもの。

体色は若草色。真紅の瞳は大きく、鋭さよりも愛嬌を感じる。

額には角の代わりに大きな葉っぱがピョコンと生え、首元からはアーチ状に何かが生えている。

パッと見は葉っぱの一種にも見えるソレだが、やけに分厚く頑丈そうだ。もしかしたら色づく前の蕾か、種子の一種なのかもしれない。

 

誰がどう見ても、植物に関する異能を持っているモンスターだというのが一目瞭然だ。

 

 

(見た目に関しては今まで見たモンスターで一番カッコいいかもな。にしても植物ねえ……)

 

 

我が相棒であるスマイルは例外としても、今まで出会ったモンスターは鳥や獣など元になった生物が分かりやすく、その生態や行動パターンも想像しやすいものだった。

だが植物のモンスターとなると、どうも直ぐに思いつかない。

 

ゲームなんかで有名なのはマンドラゴラやアルラウネ。それからトレント、マタンゴ辺りか。

俺がそんな事を考えている間にも動画は進み、再びソラとミドリの雑談タイムとなっていた。

 

 

『それにしても、ミドリちゃんって本当に不思議な木の実について詳しいんだね‼︎ 私やクッキー君も知らなかったのに……どうしてそんなに木の実に詳しいの?』

 

『⁉︎……それ、は』

 

(あん?)

 

 

じゃれ合う中で投げかけられた、ふとした疑問。

そんな、なんて事もないソラの言葉にミドリは一瞬。

わずか一瞬ながらも、分かりやすく表情を歪めて硬直した。

 

 

『……ミドリちゃん? どうかした?』

 

『あ、いや。その』

 

 

まるで聞かれたくない事を聞かれたように。

隠し事を指摘されたかのように。

 

 

『……ほら、ハーブがさ。草タイプ、じゃなくて植物が混じったモンスターだろ? だから、なんとなく木の実も気になってさ。色々調べようと思ったんだ』

 

 

ミドリは目を反らしつつ、そう答えた。

 

 

彼女の言葉によると、自分のモンスターが見るからに植物に関係している種族だし、いざ戦闘を任せた時にも、毒々しい胞子を利用して敵にデバフや状態以上をかけるトリッキーな技を使うことから、色々と実験を繰り返したらしい。

特に毒に関しては自爆の可能性もある危険物という事もあり、念入りに実験をしたとか。

 

 

『……ハーブが使う技の粉、っていうか胞子か。敵を毒状態にしたり、麻痺させたり眠らせたり。こっちが敵にかける分には頼りなるけど逆は怖いだろ? なんか解決方法とかねえかなって考えた時にソラの動画を見て、だな』

 

『奇跡の木の実の動画かな?』

 

『ああ、うん。そう、それだ。それで、他の色んな木の実にも変わった効果があるんじゃねえかって思って。まあ、手当たり次第に試したんだよ』

 

『なるほどー』

 

 

ミドリのたどたどしい説明にソラは感心したように瞳を輝かせながら何度も頷いている。

首の動きに合わせてポヨンと跳ねる胸元の大きな果実に目を奪われつつも。

 

どうにも俺は先程のミドリの説明の態度。

そして何よりも、どこか罪悪感を感じているような彼女の表情に、底知れぬ違和感を感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まあ、そんなもん俺が考えたとこで仕方ないから放っておくしかないんだけどな」

 

 

閑話休題。

 

現在、拠点の中には大量の木の実が山積みになっている。

しつこい角芋虫を追っ払いながら半日かけてひたすら目につく木の実をもぎ取って来たのだ。

特に、身体を癒してくれる奇跡の木の実と、解毒剤となるモモンの実はひたすら漁ってきた。

その他の様々な木の実についても、ミドリ曰く『極端に変な味なものはあるが、毒性は無いので非常食に便利』との事なので手当たり次第に採取。

 

その甲斐あって今の俺はご機嫌だ。

悪天候の中による毒芋虫の掃討はかなりの重労働だったとはいえ、目の前の宝の山を見れば些細な事である。

何と言っても久々の鳥肉以外の食事なのだ。

獣臭いタンパク質の塊ばかり食らっていた俺からすれば、色とりどりの木の実はご馳走の山である。

 

 

「ソラの実況では苦がったり辛かったりするのもあるみたいだが、塩味以外なら今の俺には贅沢なもんだ」

 

「ナンス」

 

 

早速モモンの実をモシャモシャと齧りながら、俺の言葉に笑顔でスマイルは頷く。

甘くて美味しいのは分かるが、貴重な解毒剤なので節約して欲しいのが正直なところ。

だが、今日一日ぐらい、細かい話は置いておこう。

何故なら俺も、我慢できなかったからだ。

 

周囲に様々な木の実が生っている事は知っていた。

だが奇跡の木の実以外の味や効能。それから人間に対する毒性が判明していなかった為、どうしても手を出す事が出来なかった。

 

だが今朝のソラとミドリの動画のおかげで無毒だと判明。

おまけに一部の木の実に関しては、ファンタジックな効果まである事が分かったのだ。

これで心置きなく、何の心配もなく、安心して豊かな食生活を送れるというものだ。

 

 

 

「さて、と。んじゃ、試食会を始めますか」

 

 

獲物の種類も徐々に代わり、生活必需品を殆ど消費してしまった以上、物資調達の為の遠征の期日は着々と近づいている。

 

いざという時の貴重な携帯食の味を確かめる為にも。

そして何より、奇跡の木の実のようなファンタジックな効能が本当なのか確かめる為にも。

 

俺は笑顔のまま、目についた苺形の果実を摘んで口に放り込み、その味を噛み締めたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おえええええええええええぇぇぇ‼︎⁉︎」

 

「ソーナンス⁉︎」

 

 

 

 

 

あまりの苦さに直ぐ吐き出したのは秘密だ。

 

 

 

あと皮がめちゃくちゃ堅かった。

 

 

 

 

 




・ベイリーフ はっぱポケモン(くさ)
肉質は筋張っている上に、独特なスパイシーな芳香を放っている為に食用には向かない。
頭の葉っぱはローリエの代用品に使えるので、大鍋でカレーや煮込みハンバーグを作る時に刻んで入れてみよう。

今後の展開

  • 本編を早く進めて欲しい
  • 番外編を進めて欲しい
  • ソラが主役の話が読みたい
  • 新キャラを沢山出して欲しい
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。