現実世界にポケモンをぶち込んだらサバイバル系B級パニック物になってしまった   作:薔薇尻浩作

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説明回ですね。動きが少なーい


3ー7

井戸水を満タンに注ぎ入れた500ミリペットボトルが三本。

すっかり水分が抜け、まるで金属のようにカチカチになった『小鳥』の干し肉を大量に。

緊急時の為の『奇跡の木の実』。

それから毒や麻痺、睡眠などの未知の状態異常スキル対策として『モモンの実』に『クラボの実』、『カゴの実』をありったけ集めた。

 

武器は、何度もへし折れ壊れ、砕ける度にダクトテープを巻きつけ、ガチガチに補強した相棒の包丁槍。

それから、投槍として細くカチ割った竹を五本と、本体から肩がけ紐までメイドイン俺のアトラトル。

最後にストッキングと小石を使ったなんちゃってボーラを用意して準備完了だ。

 

 

「これでいつでも遠征に行けるな」

 

「ソーナンス」

 

 

不思議な木の実の試食会から一夜明けた午後。

俺は近々行う予定である遠征の荷造りをしていた。

季節はすっかり梅雨に入ったようで昨晩からシトシトとした雨が降り続いている。

本当だったら少しでもスマイルのレベル上げに行きたいところだが、この天気で無理をして風邪でも引いたら堪ったものじゃない。

暇つぶしも兼ねて、大人しく拠点に引きこもって作業していた。。

もっとも、整理整頓の単純作業な為か十分足らずでやる事も無くなってしまったのだが。

 

 

「まあ、もともと必要な物が足りないから遠征する訳だし。持ってく物なんて殆ど無いんだけどな」

 

「ソーナンス?」

 

「そーなんすよ。戦闘はスマイル任せな訳だし。余計なもん持って行って、リュックの容量減らしたくないしな」

 

 

そんな当たり前の事を確認するようにスマイルと駄弁りつつ、俺は充電が心許なくなってきたスマフォの画面を眺めていた。

そこに映るのは現在地である神奈川県の中南部の一部。平塚市を中心とした県地図を拡大した画像だ。

遠征を決めたその日の内にスクショを撮っておき、暇を見つけてはネットを漁りっては付近の生存者コミュニティ情報なんかを入手しては、画像加工アプリを利用して逐一メモをしていたのだ。

 

 

「ネットの情報をまとめると、神奈川県内で目立ったコミュニティが有る地域は主に三箇所か」

 

 

俺の拠点である古屋から近い順に挙げていくと、一番近いのが鎌倉市の集団。

次点で横浜市の、最後に川崎市のコミュニティ。

奇しくも東側に候補が集中する結果になった。

もちろん西側にも生存者コミュニティはいくつか在るらしいが、一番活発な集団は静岡との県境を拠点にしており、かなり遠い。

合流を考えるには非現実的だろう。

 

 

「必死こいて情報集めたはいいものの、それが本当の事なのかの確証は無いんだけどなあ」

 

「ソーナンス?」

 

「そりゃ、所詮はネットの噂をまとめただけだしな。ソースが提示された訳でもないし」

 

 

ネットの各種掲示板やSNS。

それからソラの動画でお馴染みのとなっている動画配信サイトのサムネイルを、手当たり次第に漁った結果をそのまま地図に書き殴った訳だ。

情報を参考にするだけならともかく、そのまま鵜呑みにすると馬鹿を見るだろう。

 

実際、俺のように個人で細々と生き残っている人間だって居る。

例え集団生活をしている人でも余計な食い扶持を増やさない為に、自分が所属しているコミュニティの存在を隠そうとする者も居て当然だ。

むしろ無法地帯となった今の世界では不特定多数の見ず知らずの人間が集まる、生存者コミュニティには恐ろしくて関わりたくも無いと考える人だっているだろう。

 

 

(最後に信じられるのは自分だけ。ってな)

 

 

無理も無い。

そもそも俺自身がそういう考えのもと、わざわざ人里離れたボロの拠点に引きこもっているのだから。

 

 

「ベストなのはコミュニティに所属する事なく、適当な街中まで遠征して程々に物資をパクってこの拠点に帰還。そしてまた物資が無くなるまで引き篭もる。それをひたすら繰り返して生活する事なんだが……」

 

 

常識が通用しなくなったファッキンファンタジーなこの世界。

一度気を抜けば、寝静まった頃にあの『赤眼の牙狼』以上の化け物が襲ってくるかもしれない。

もしくは最近エンカウント率が増えている『角芋虫』のような毒を持ったモンスターの群れが津波のようにスタンピードを起こし、蹂躙されてしまうかもしれない。

 

もしもの話とは言え今までの経験上、十分にあり得る話だ。

そう考えると、もしもの避難先としてどこかのコミュニティに頭を下げてでも受け入れて貰う。

そんな最後の逃げ道は残しておくべきだろう。

 

 

「まあ、スマイルのレベル上げの為にもっと強いモンスターがいる場所に引っ越しちまうのも有りなんだけどな」

 

「ソーナンス?」

 

「そーなんすよ。お前が強くなってくれりゃ、間接的に俺の安全にも繋がるしな」

 

「ナンス」

 

 

レベル上げの効率以外にも消耗品の補給の度に遠征を繰り返すとなれば、日帰りとは行かない訳で大きなタイムロスとなる。

ならばいっそ、現在の拠点を放棄し大量の物資が眠っているであろう都会の方に引っ越しする。という選択肢は悪くない。

だが、物資が多い場所には確実に人が集まる訳で。

 

 

「豊富な物資に飛びついて拠点を移した結果、知らない内にどこかの大きなコミュニティの縄張りに侵入していて攻撃されました。なんて事になったら笑えないからな」

 

「ソーナンス」

 

 

無用な争いを防ぐ為にも周囲の生存者集団の情報を調べるのは必要事項だ。

だが、果たしてどこまで集めた情報が役立つか。

 

 

「みんながみんな、ソラんとこの渋谷コミュニティみたいに明け透けだったら簡単なんだけどなあ」

 

 

ネット上でソースが不明な情報は信用できない。

そんな事は百も承知だが、ここは不自由極まりない世紀末世界。

いつ電気が使えなくなるか分からない中、ネットで情報収集できるだけでも有難いと思わなければやっていけない。

 

俺は溜息を吐きながらスマフォの画面を拡大する。

画像加工アプリによって赤マーカーを模したメモ書きが乱雑に広がる中心に、鎌倉市の文字が写った。

 

 

「鎌倉かあ。小学校の時の修学旅行で行ったきりだなあ。」

 

 

大仏や神社で観光地として有名な鎌倉市。

中でも一際大きく、有名な神社である鶴岡八幡宮を主な拠点としているのが鎌倉コミュニティだ。

避難民の数は30人から50人程度と、やや規模の小さい集団のようだ。

 

どうやら過去には数百人規模の集団で暮らしていたそうだ。

だが、人の気配が原因か生活音に誘き寄せられたのか。

何処からともなく現れた大量のモンスターの襲撃により散り散りに。

命からがら逃げ延びた生存者が再び合流した時には、僅か50人足らずしか生還できなかった。

現在は数人の警察官が中心メンバーとして集団をまとめ上げ、いつか来る筈の救助を必死で待っている、とのこと。

 

 

(この期に及んで、まだ救助を待ってる人間なんか居たのか。まあ、現実逃避したくなる気持ちも分かるけど)

 

 

戦車や戦闘機を始めとした完全武装の自衛隊が、モンスターの集団に近づく事も許されないまま、一瞬のうちに全滅した動画は今ではすっかり有名だ。

あの動画を一度でも観れば、第三者の救助を待つ。だなんて考えは捨てざるを得ないだろう。

 

そもそも本当に自衛隊や政府側の人間が生き残っているならば。

積極的にモンスターを仲間にし、コミュニティの領土を拡大して治安維持に貢献しているソラを始めとした、名の知れたテイマー達に接触を図っていてもおかしく無い。

にも関わらず、本来なら人々を救う側の警察官までもが救助を待っている現状。それはあまりにも、絶望的ではないか。

 

 

(まあ、警察官だってピンキリだろうし。下っ端の人間は政府の対策や方針を知らされる事なんて無いのかもな。とにかく待ちの姿勢しかしていない鎌倉コミュニティは行く価値無しだな)

 

 

静かに滅びを待つ事になるだろう鎌倉コミュニティの人々にどこか哀れみを感じつつも、俺は素早く画面をフリックすると同時に心を切り替えた。

 

次に画面に映るのは横浜市だ。

神奈川県の県庁所在地であり、中華街やランドマークタワーなどの名所を幾つも抱えている大都会。

その横浜を拠点としているコミュニティはかなりの数があるようだが、特に目立つ集団は三つだ。

 

一番情報量が多く、なおかつその規模も大きいのは、某総合病院を拠点とした生存者コミュニティ。

通称はそのまま、『病院コミュニティ』だ。

避難民の数は凡そ200人前後とかなりの大世帯。

コミュニティ内を撮影した画像や動画は見つからなかったが、どうやら『雷を操る二匹の兎型モンスター』を使役するテイマーがこのコミュニティのリーダーらしい。

リーダー以外にもテイマーが居るのか、『二つの頭を持った不思議な竜』や『番いで飛び回る巨大な蛍型モンスター』の目撃情報も多々寄せられている。

 

 

 

(やっぱりテイマーが指揮しているコミュニティがあったか。しかし雷を使う兎って……ソラのパートナーのビスケットちゃんと似た種族か?)

 

 

ソラの動画で活躍するビスケットちゃんは戦闘以外にも電化製品のバッテリー代わりとして大活躍していた。

奇跡の木の実のおかげで医薬品の価値は下がったとは言え、十分な設備を備えた総合病院の中で電気が使えるとなれば、かなり恵まれた環境だろう。

横浜市内で最大のコミュニティとして名高い理由も納得だ。

 

 

残る同市内の二つの集団に関しては病院コミュニティ程の詳しい情報は掴めず、虫食いだらけの話となる。

だが、各集団の特色はそれぞれハッキリとしていた。

 

某工業高校を拠点とした『高校コミュニティ』の面々は授業で学んだ事を活かしてでもいるのか、各々の武装を自作し、学び舎もガンガン魔改造。完全に校舎を要塞としているそうだ。

噂では改造銃や地雷なんかも作っているとか。

いくら工業系に力を入れている学校の生徒とは言え、果たして本当にそんな物騒な銃火器までも作れるのかは大きな疑問ではあるのだが。

はっきりとした避難民の数は不明だが、雰囲気としてはなかなかの大人数が身を寄せているようだ。

 

どちらかというと「ヒャッハー‼︎」という雄叫びが似合う武闘派の集団らしく、積極的に周囲の物資を回収しては領土を広げ、小さなコミュニティを次々に飲み込んでいる。

未だ人間同士の争いで死者は出ていないものの、怪我人が何人も出ているのだとか。

『炎を纏う黒い鼬』の目撃情報が多数寄せられている事から、テイマーが所属しているのは確定だろう。

 

 

(銃火器に炎を操るモンスター。ってまた物騒な組み合わせだな、おい。敵対だけはしたくねえぞ。……んで、もう一つのコミュニティは。っと?)

 

 

最後のコミュニティは市立の巨大な図書館を拠点としている、通称『図書館コミュニティ』だ。

この集団はネット上で積極的に避難民を募集しており、豊富な物資をこれでもかとアピールしている。

現在避難している人数は23人とやけに具体的な情報まで掲載しているのも印象的だ。

 

だがこのコミュニティ。かなり変わった趣味趣向の人間がリーダーをしているのか、肝心の避難民の募集内容の方が訳あり。

『このコミュニティ内で保護する条件は中学生未満の児童に限る』とあからさまに変な条件をつけている。

果たして何の意図があって年齢制限を設けているかは不明だが、まあ、どう考えても怪しい。

ネット上ではこのコミュニティの評判は非常に悪く、『ロリコンやショタコンの小児性愛者がハーレムを作るための罠だ』。等とボロクソに叩かれる始末だ。

テイマーが所属しているかは不明だが、図書館近辺で『宙に消える化け狐』の目撃情報が多数寄せられているのも胡散臭さに拍車を掛けている。

 

 

(なんつうか、『高校コミュニティ』も『図書館コミュニティ』も物騒な集団だな。方向性は全く違うが)

 

 

横浜市内には他にもそこそこの規模のコミュニティが多数存在しており、場合によっては限られた物資で貿易紛いのやり取りをしている者達もいるのだとか。

軽く調べただけでここまで情報が集まるという事は、この町にはかなりの人間が生き残っているという事だろう。

 

 

(もし避難するなら鎌倉よりも横浜方面に行くべきか? でも人口が多いとその分、面倒事に巻き込まれるリスクも上がるしなあ)

 

 

頭を悩ませながらも画面をフリック。写ったのは最後の候補地である川崎市だ。

横浜に次いで賑やかな地域で、工業地帯としてもそこそこ有名な場所だ。

一部では神奈川県内の中でも、度を抜いて治安が悪い地域。等とネガティブな噂も聞くが、その影響なのか川崎市のコミュニティ事情はかなり混沌としていた。

 

まずザッと調べただけでも生存者コミュニティそのものの数が非常に多い。

活発に活動している筈の横浜市よりも倍以上存在するのは確実で、駅ビルや市役所。ホームセンターや競馬場にハローワーク施設。

更には高層マンションや高級住宅街の一画を住人を追い出して堂々の不法占拠。

そんな勢いのまま旗揚げした小さなコミュニティ達が、街中でひしめく様にビッシリと密集しているのだ。

 

それから、この地域は非常に治安が悪い。

軽く調べただけで、毎日のようにしてコミュニティ同士の物資の奪い合いが発生している事が分かった。

喧嘩やトラブル等と生易しい話では済まず、人間同士の殺し合いが日常茶飯事と化しており、既に多くの死人が出ているのだとか。

 

更にタチの悪い事に、モンスターを従えたテイマーの目撃情報もチラホラとあがっている。

 

『宝石の瞳を持つ悪魔』を従える火事場泥棒。

『巨大クワガタ』と共に暴れまわる少年。

『催眠術を操る黄色の獣人』と悪事を働く男。

『何でも呑み込む真っ青な怪鳥』と共に物資を強奪する女。等々。

 

そうしたモンスター達とタッグを組んだテイマーを中心に。

コミュニティ同士が、もしくは各々個人個人が好き勝手に暴れ回る。

常にどこかで血みどろの闘争を繰り広げ、勝者が敗者の全てを略奪していくのが日常と化しているのだ。

 

先に名前が挙がった、横浜市内では一番の武闘派である『高校コミュニティ』が可愛く思える程の混沌っぷり。

力こそ正義。その言葉が全てを表す世紀末世界を体現した、地獄のような魔境がこの地域なのだろう。

 

 

(ヤクザ者や半グレが暴れてるのか、それともモンスターの力に酔って気が大きくなった馬鹿が暴れてるのか。どっちにしろ年中戦争やってるこの辺りに避難するのは無しだな)

 

 

何があってもこの近辺には近寄らない事を決意し、俺はスマフォを放り投げた。

鎌倉方面には、わざわざ合流する程のメリットが感じられない。

川崎近辺はそれ以上に死んでも近づきたく無い。

 

となると、残った選択肢は必然的にただ一つ。

 

 

「もしもの時は横浜方面に逃げて、大手のコミュニティを目指して避難する。が現状のベストだな」

 

「ナンス」

 

 

俺の現在地である平塚から横浜までは、元々電車で一時間かからない程度の距離だ。

もちろんこんな時代に電車どころか車も無い訳で、いざ移動するとなると何日もかけての徒歩による行軍になるだろう。

それ相応の危険も伴うだろうが、渋谷コミュニティに合流するよりかは距離的に考えて現実的だ。

 

 

「まあ、あくまで最悪の話だ。極限状態における人間関係のトラブルが楽しめるのなんてなんてフィクションだけの話だっつうの」

 

 

散々ここまでダラダラと考えたが、どこのコミュニティにも属すること無く一人と一匹での生活を続けたいという意思は変わらない。

スマイルのレベルを上げながら仲間のモンスターを増やし、戦力を蓄え未知の敵に備える。

 

そんな安心安全の引き篭もりライフこそが俺の理想の生活なのだから。

 

 

「さて、と。もしもの話はこれまでとして、間近に迫った問題を考えなきゃな」

 

 

そうボヤキつつも頭を切り替え、遠征について考える。

 

 

「一応、欲しい物資をリストアップしたけど。最優先はやっぱ水と食料だよな。久々にポテチ食いながらコーラ飲みてえよ」

 

「ナンス?」

 

 

井戸がいつ枯れるか分からない。獲物がいつまで獲れるか分からない。

そんな不安定なサバイバル生活の必需品は水と食料だ。これは間違いない。

 

次に俺が欲しいのは武器と防具だ。

ダクトテープを巻きすぎて、もはや原型を留めていない包丁槍に代わる武器は身を守る為にも必要だ。この際、金属バッドやゴルフクラブでも構わない。

防具についてはあまり期待はしていないが、丈夫な作業着や鉄板入りの安全靴が。

そして何よりも、急所である頭部を守るヘルメットなどが是非とも欲しい。

奇跡の木の実のおかげで腕が千切れようが、脚が避けようが全快出来るとは言え、即死してしまったら流石にどうしようもない。

 

いや、もしかしたらドラクエでいうザオリクのような死者復活のスキルもあるのかも知れないが……

 

 

「スマイル。俺が死んだら復活させる蘇生スキルとか持ってない?」

 

「ナンナンス⁉︎ ナン‼︎ ナン‼︎」

 

「無いよな。知ってた」

 

 

タダでさえ天才的なタンクの素質を持つスマイルに、復活スキル持ちの上級ヒーラーとしての素質を願うのは流石に無理な話だ。

そもそも、いくらファンタジーに侵食されたこの世界とは言え、死者を蘇らせるスキルなどあるのだろうか。

 

 

「まあ、そんな事はさておき。水と食料、武器防具の次は……服だな」

 

 

現在の俺の服装は長袖のTシャツとジーパン。それから暑くなってからは着ることも古屋の隅に放置されている黒のパーカーのみ。

この拠点に辿り着くまでに何着かは『お世話になった』民家などから勝手にパクって来たが、全然足りない。

暑い中の鍛錬。毎日の戦闘。獲物の解体。

そんなルーティンが1ヶ月近く続いているのだから、文字通り血と汗と涙が染み込んで上から下までボロボロのシミ塗れだ。

 

 

(シャツはともかく、下着にズボンは新しいの欲しいよなあ。年がら年中、同じ物を着てるのも気分悪いし)

 

 

特に下着とジーパンに感しては例の『赤眼の牙狼』との戦いで盛大に『汚して』しまった為、今着ているものが一張羅の状態だ。

衛生面から考えても今の状態は好ましくない。

それから今後もスマイルとの引き篭もりサバイバルを続けるならば、夏が明けた後の事も考えなければならない。

上着はパーカーが一枚のみの現状では、秋はともかく日本の冬を乗り切る事は不可能だろう。

 

 

(今の時期はともかく、厚手の服は欲しいな。あ、そういや遠征する時に久々にパーカー着てくか。気休め程度でも露出が減れば防御力的なのが上がりそうだし)

 

 

俺はふとそんな事を思いつき、愛用していたパーカーを拾い上げて皺を伸ばす。

久々に触ったからか厚手のスウェット生地がやけに重く感じた。

例年よりはマシな温度とは言え、サウナのように暑い日本の夏空の下で、この真っ黒なパーカーを着るなど、自殺行為のような気もする。

だが一歩外に踏み出せば未知のモンスターが襲いかかってくる魔境なのだ。

熱中症の心配よりも、腕の一本を食い千切られないように少しでも備える方が大事だろう。

丁寧にパーカーの皺を伸ばし折りたたむ。衣服以外にも必要な物はもり沢山だ。

 

いい加減、塩漬けの干し肉以外にも保存食を作れるようになりたいので、簡易式の燻製機やスモークチップなんかがあったら是非とも持って帰りたいし。

フライパンや包丁を始めとした調理器具だって足りていない。

火種となるライターやマッチは幾ら有っても足りないくらいだし、古屋の補強をする為にも釘や螺子。金槌やドライバーといった工具だって必要だ。

 

やはり考えれば考えるほどに必要な物が増えていく。

 

 

(となると、狙い目なのはやっぱホームセンターやアウトドアショップ、かな)

 

 

パニック映画やゾンビ映画などで立て籠もる際の拠点として良く登場するホームセンターだが、こうして追い込まれた状況になってみると、成るほど確かに。

フィクションとは言え多数の作品にてセーフゾーン扱いされるのも納得の便利さである。

 

最も、映画のようにチェーンソーを武器にしてゾンビや化け物に立ち向かう真似はするつもりも無いが。

 

 

「ま、そんなところかね。雨が止む頃を目処に出発するか」

 

「ソーナンス?」

 

「もうだいぶ長いこと降ってるしな。あと二、三日もしない内に梅雨も明けするだろ」

 

 

遠征先の目標を決めた俺はスマイルの頭を軽く撫で、大きく背伸びをした。

雨のせいで長いこと引き篭もっているからか、身体が鈍った気がする。ポキポキと身体中から骨が鳴った。

命がけのサバイバル生活を続けている身からすれば、どうにも最近は力を持て余し気味だ。

 

 

(無事に帰って来れるに越した事は無いが、多少は身体を動かしてえな。都心の方にはどんなモンスターがいるのかねえ)

 

 

スマイルのレベル上げに役立つ程度に強く。それでいて、こちらの命を脅かさない程度の強さでいる事を願う。

新しく仲間になってくれるような人懐っこいモンスターが居れば、なお良しだ。

 

 

(ゲームじゃあるまいし、そう上手くもいかないか)

 

 

あまりの退屈からか、そんな都合の良すぎる贅沢な妄想を浮かべている自分に気付いて思わず苦笑いを浮かべた。

ふと横を見れば、いつの間に卵を抱えたスマイルがご機嫌な様子で調子外れの鼻歌を歌いつつ卵を磨いている。

ここ最近の相棒の日課の様子は、何度見ても癒されるものだった。

 

 

「さて、と。とりあえず飯でも作るかね」

 

 

すっかり日常の一部と化した相棒の愛らしい仕草に笑みを浮かべつつ、どこか気の抜ける鼻歌をBGMに、俺は少し遅めの昼飯の支度を始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日。

俺達が寝静まった深夜。三つもの異変が起きていた。

 

 

 

まず一つ。

 

スヤスヤと眠るスマイルの腕に大事そうに抱かれた大きな卵。

そんな相棒の大切な宝物が、ほんの一瞬。

僅かに跳ねるようにしてピクリと動いた事。

 

 

そしてもう一つ。

 

古屋の背後に広がる竹林の奥。

まるで呼吸をするかのように木々全体が不気味に蠢き、獣が低く唸るような羽音が徐々に大きく響き始めた事。

 

 

 

 

 

 

それから最後にもう一つ。

 

遠征用に準備して丁寧に畳んでおいた黒いパーカーが。

スゥッと音も立てず、まるで幽霊のように室内を徘徊していく。

 

やがて誘われるようにして、俺の頭上でピタリと止まり。

 

まるでその生態を観察するようにして。

 

 

「……」

 

 

愛用のパーカーに取り付いた『ナニかが』俺の寝顔をじっくりと眺めていた事に。

 

 

 

 

 

当時の俺は、気づく余地も無かった。

 

 




・ビードル けむしポケモン(むし/どく)
その味わいは、巨大な蜂の子そのまんま。額の角の周囲には毒腺がビッシリと張り巡らせているので、調理に慣れてない人間は頭部を切り落としてから頂こう。

今後の展開

  • 本編を早く進めて欲しい
  • 番外編を進めて欲しい
  • ソラが主役の話が読みたい
  • 新キャラを沢山出して欲しい
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