現実世界にポケモンをぶち込んだらサバイバル系B級パニック物になってしまった 作:ケツマン
12/18加筆修正済み。
始まりはあまりにも突然だった。
何か分かりやすい前振りがあった訳でもない。
漠然と嫌な予感がしただとか、奇妙な胸騒ぎがするだとか、やけに風が騒がしいだとか。
そういうのは一切無く、始まった。
学校に行くのが怠くなりサボタージュを決め込んで3日目の事だった。
昼過ぎまで惰眠を貪っていた俺は訳の分からぬまま、アパートごと揺らす巨大な爆発音にベッドから文字通り飛び起きるハメとなった。
「え?は?はぁ?」
思考に靄がかかった寝ぼけ頭のまま、意味もなく辺りを見回す俺の耳には、やはり連続して爆発音のようなものが叩き込まれていく。
しかもそれにリンクするようにして、大小様々な怒鳴り声や叫喚が窓の外から突き刺さるようにして鳴り響いている。
「え?花火? なんで?」
ようやく桜が散り始めたこの時期に花火大会や祭りは早すぎる。
しかも改めて聴けば聴くほど、お祭り騒ぎのような賑やかな喧騒と言うよりも、むしろ悲鳴や悲痛な叫び声ばかりが。言うなれば阿鼻叫喚と言った物騒な表現がピッタリな声ばかりが聴こえてくるのだ。
よくよく耳をすませば鼓膜を穿つようなガラスが割れる音や、何か大きく重い物が勢いよく倒壊する地響きのようなものまで聴こえてくる。
明らかにただ事ではあるまい。
訳が分からない。一体何が起きたんだ?
そんな疑念に突き動かされるままに俺は慌ててカーテンを払い窓を大きく開いて外の景色を伺った。
「は? 怪獣映画?」
思わずそんな間抜けな言葉を零した俺の顔は笑える程にポカンという擬音が似合う表情をしていただろう。
何故なら俺の目の前には今までの人生観や常識をぶち壊す、地獄のような光景が広がっていたのだから。
粉々に倒壊し轟々と音を立てて燃え上がる民家。
何かが綺麗にえぐり抜いたように不自然に3階の一部が円形に消失し、出来損ないのモニュメントと貸した高層マンション。
アチコチに転がりバチバチとスパークを立てる折れた電柱。
すっかりとひび割れて穴だらけになり、もはや道路としての形を成していないコンクリートの塊。
砕けたガラスの欠片が陽光をキラキラと反射し、横転した自動販売機のには真っ赤な何かがベッタリと付着している。
そして、そんな崩壊した日常から必死の形相で逃げ回る数え切れないほどの無数の人々の姿。
人、人、人。人の群れ。
そしてそれに我が物顔で混じりこむ異物達。
世紀末もかくやという地獄を引き起こしたであろう、諸悪の根源たる人ならざるモノ達の姿。
「あそこに見えるのドラゴン? てか空飛んでるあの鳥っぽいの何?デカすぎだろ。うわっ⁉︎ 犬が火吹いたぞ今⁉︎ 意味わかんねえよ⁉︎」
怪物。
そう形容するしか無いファンタジーな生き物達が見渡す限りにウヨウヨと蔓延っていた。
そう。今まさにこの瞬間にも暴虐の限りを尽くすかのように街を壊し、人を襲い、平和だった日常を蹂躙しているのだ。
轟音を立てながらコンクリートを突き破り、頭上の人間ごと宙に打ち上げる岩石で出来た巨大な龍。
逃げ回るスーツを着た男に今まさに炎を吐き出す角を生やした漆黒の狼らしき生き物。
建物も車も人すらも、目の前にある全てのモノを薙ぎ倒してひたすら爆走する、鎧のような皮膚を持つ四つ足の巨大な獣。
大空から疾風の如く襲いかかり、異様に長いその嘴でセーラー服の少女を串刺しにして空へ連れ去る怪鳥。
辛うじて無事だった電柱の上にしがみ付き、四方八方に電流を撒き散らす黄色い兎のような鼠のような生物。
そんな見たことも聞いたことも無い、未知の怪物達が日常を破壊していた。
「アルマゲドンだっけ。ノストラダムスの大予言?地球崩壊?バイオハザード?」
思考がまとまらず思いついた言葉をひたすら垂れ流しては呆然。
目の前の怪物達正体だとか、どうしていきなり現れたのだとか。
退屈かつ平穏な日常をただただ与えられるがままに暮らして来た凡人の俺には何一つ理解できなかったし、思考に没頭する気もなかった。
瞬間、俺の頭に浮かんだことはただ一つ。
「これ、さ。逃げなきゃ、死ぬやつだよな」
ヒビ割れた道路に倒れこむ人の中には明らかに息をしていない者がいる。
腕が、足が、首が、上半身が無い者がいる。
腹部を食い破られ、腸を撒き散らしている者がある。
彼等は、明らかに、死んでいる。
スッと血の気が引いて、自分の顔が真っ青になるのを自覚した。
それと同時に弾かれたようにして俺は駆け出していた。
「水と食料‼︎」
クローゼットから一番大きなリュックサックを引っ張り出すと、大慌てで避難準備を始めた。
詰め込めるだけの食料を詰め込みながらもパニックを起こしそうな頭で、何か武器を持って行った方がいいだろうかと必死に考える。
だが映画のように都合よく鉄パイプやバールだなんて一般的な母子家庭にある訳も無い。
無いよりましだろうとリーチが短い万能包丁
を確保。
幸いな事にまだ生きていた水道から空いたペットボトルに思いっきり水を注げるだけ注いで、食糧品のせいで余裕の殆ど無いリュックの中に強引にねじ込んだ。
本当だったら持って行きたいものは山ほどある。
だが荷物が多ければ多いほど身体の負担が増して脚が遅くなり、それが命の危機に繋がるのは明白だ。
車が有れば話は別だが免許を持ってない未成年である自分が運転出来る訳も無いし、そもそも穴だらけクレーターだらけ障害物だらけ。
おまけにモンスターだらけ死体だらけの道で車がまともに使えるとも思えない。
クソっ‼︎ サバイバルグッズとか防災グッズとか買い込んでおくべきだった。
そう毒づきながらも、悪足掻きのようにパーカーのポケットにチョコレートやバターなどの高カロリーな食品を限界まで詰め込む。
通帳?印鑑?財布に現金?
こんな世界崩壊待った無しの状況じゃ糞の役にも立たない代物だろう。
起きて早々に汗だくになった俺はパンパンに膨らんだリュックサックと包丁を手にして、玄関の扉を蹴破るようにして外へと飛び出した。
『この門をくぐる者は一切の希望を捨てよ』
聖書の一説だっただろうか。
頭の片隅にそんな言葉が浮かんで消えた。
「た、助けて! 嫌だっ、嫌だあああああぁぁ‼︎‼︎」
「死ぬ‼︎ 誰か⁉︎ 誰か⁉︎」
「由香里いいいぃぃ‼︎ 娘が、由香里がいないんです‼︎」
外の世界はやはり地獄だった。
見るも無残な阿鼻叫喚の地獄絵図。
逃げ回る人波に逆らうようにして駆け抜ける俺の耳に響く人の声は悲鳴ばかりで、目に映る者はもっと悲惨でどうしようもないものだった。
喉を食い破られて倒れる地元の小学生。
腸をダラリと垂れ流しながら壁にもたれかかる青年。
全身が炭化している恐らくは人だったであろうモノ。
頭のどこかで警報が激しく鳴り響いた。
本能に従うようにして、どれもこれもを視ないフリして必死に駆ける。
ほんの少しでも視てしまったその時。彼等が目の前で死んでいると認識してしまったその瞬間。
自分の中の何か大切なモノが壊れてしまう気がして、何も視ないフリをして無我夢中で走り続けた。
心臓がバクバクと煩い。周りの悲鳴や爆発や倒壊の音に負けないくらいに音を立てている。
まだ走り始めて5分と経っていないのに、脚の感覚は既に麻痺し始めるしリュックサックの肩紐が擦れ過ぎたせいか肩からはパーカー越しからも鈍い痛みが響く。
不意に何かを踏みつけた感触が靴の裏から伝わって来た。
一瞬、立ち止まって足下に視線をやるべきかという思いが脳内に過ぎった。
だが、それでも無視した。
踏みつけたソレから「助けて」などとは聞こえなかったのだから。聞こえなかったのだ。
「畜生! 畜生‼︎」
誰を呪うでもなく呪詛を吐きながらも、俺は闇雲に走り続けた。
魑魅魍魎の怪物達は我が物顔で暴れ回り、俺達人間はただただ必至に逃げ回る。
まるで出来の悪いパニック映画じゃないか。
ミスト?スパイダー・パニック?ジュラシックパーク?それともドーン・オブ・ザ・デッド?バイオハザードか?
モンスターパニックとゾンビパニックとどっちがマシ?
怪物に食われるのとゾンビに食われるのとどっちがマシかな?
ふざけんな。クソ、クソ、畜生。
理系科目の成績は悪い自覚はあるが、今自分の脳内からハイになる物質がドバドバ出ているのが分かる。
死にたくない。死にたくないから走るのだ。
俺も。そして今まさに向かいから走って来るあの女性もだ。
涙で滲み駆ける反動でブレる視界の中に写った、ヤケに派手な服を着た妙齢の女性は酷い顔だった。
アイメイクは涙でグチャグチャで、真っ黒な涙を流しているのように見えたのが印象に残る。
そしてついに俺と擦れ違おうとしたその時に。
まるでワインのコルクでも抜くみたいにして、彼女の首がスポンと飛んだのだ。
ああ、これは一生忘れられない顔になったな。
俺は馬鹿みたいに泣きながら、馬鹿みたいな事を考える。
放物線を描く他人の血液が俺のパーカーをピチャリと音立てて汚すのが分かった。
パラパラ漫画のように。あるいはモンタージュのように?
とにかくチカチカとしてバラバラで、そんな纏まらないのに無情にも進んでいく思考と時間の中。
それでも俺は脚だけは止める事なく、視線だけで未だ宙に浮かんでいる生首を追った。
生前と何ら変わらぬ表情のまま首の向こうに
、空中でホバリングするように羽ばたくカマキリとトカゲ人間をくっつけたような怪物が浮かんでいた。
緑色の気色悪いその怪物は鎌となった両腕をペロリと舐めている。
瞬間、時が止まる。ヒュッと喉がなる。
心臓が一瞬だけ止まったかと思うと、体中からブワッと汗が吹き出した。
真っ赤な鎌を掲げていたソイツと。
不意に、目があった
「ああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ‼︎‼︎‼︎」
自分の中の何かが音を立てて切れたのが分かった。
怪物も、悲鳴も、日常も、生首も、平和も。
何もかもを置き去りにして、俺は喉が枯れるまで叫びながら必死で走った。
文字通り必死で走ったんだ。
少しでも止まれば、きっと死んでしまうという事が分かってしまったから。
・ストライク かまきりポケモン(むし/ひこう)
虫っぽくない見た目通り、虫っぽくない味。外骨格が硬く大きくて身は少ない。羽を素揚げして酒の肴に。
今後の展開
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本編を早く進めて欲しい
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番外編を進めて欲しい
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ソラが主役の話が読みたい
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新キャラを沢山出して欲しい