現実世界にポケモンをぶち込んだらサバイバル系B級パニック物になってしまった   作:ケツマン

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これも編集し直します。
12/19加筆修正済み。


1ー2 未知との遭遇

 

 

身体が鉛のように重い。

運動神経にはそこそこの自身があったとは言え、文字通りの死力を尽くした全力疾走の反動はとんでもなく大きい。

両脚は小刻みに痙攣を起こし、感覚が麻痺したようで力が一切入らなかった。

もはや一歩足りとも動けずに、俺はそのまま崩れかけたコンクリの壁に寄りかかるようにして座り込んだ。

 

 

「人間、死ぬ気になれば何でも出来るっていうのは嘘だな」

 

 

少なくとも死ぬような思いをしたところで、今の俺では暫く動けない。

身体中から絶え間なく吹き出る汗を吸収したTシャツはまるで濡れ雑巾のようで、過労に打ちひしがれた俺の身体をさらに重くした。

荒げた呼吸をどうにか整えながらリュックサックを降ろし、苦労してねじ込んだ500ミリペットボトルを取り出し迷う事なく口つける。

本当は喉を鳴らしていっそ豪快に飲み干してしまいたいくらいに激しく渇いている。

だが考えるまでもなく今後、水は生命線になるだろう。

そう遠くない内にこのペットボトル一本に詰まったカルキ臭い水道水を巡って、陰惨な殺し合いが起きる未来すら簡単に想像出来る程だ。

ポストアポカリプス系作品定番とも言える生存者同士による物資の奪い合いやつだ。

 

こういう系統の作品は多かれ少なかれ似たり寄ったりな作風になりがちだ。

ゾンビパニックを始めとしたこれらは、結局のところ『一番恐ろしいのは人間同士の争いなのだ』という非常に分かりやすいメッセージ性をドヤ顔で押し付けてくる。

心のどこかではまたこの展開かよ、ハイハイ。等と失笑しつつも、やはり王道の展開というのは一定数以上の人気があるものだ。

かく言う俺もパニック系だとかサバイバル系だとかオブ・ザ・デッド系だとかは大好物なものだから、好んでそういう系統のラノベを読んだり映画を観たりしたものだ。

 

 

「ただしフィクションに限る。だよな、本当に」

 

 

頭を抱えながら、深い溜息を吐いた。

そりゃ俺だって世の中にゾンビが溢れたらどうやって生き残るかのチャートを頭に描いたりした事もある。

他には学校にテロリストが乗り込んで来て、それを華麗に撃退する妄想をしてみたりだとか。

果てにはもしトラックに轢かれて異世界に行けたら、どんなチート能力を貰ってどんな風に活躍してやろうだとか考えた事だってある。

だがそれらはあくまで妄想。作り事のフィクションだからこそ楽しいのだ。

 

そもそもゾンビパンデミックなんて籠城くらいしか考えられない時点でほぼ詰みだし、テロリスト云々は銃持った相手に逆らうのは只の自殺行為だ。

普通に考えればトラックに轢かれた時点で普通に大怪我か即死のロクでも無い結末で終了するだろう。

仮に。仮に神様とやらが存在して、これ以上の無いくらいの幸運に恵まれて異世界に行けたとしても、やっぱり平和ボケした日本の男子高校生じゃ何も出来ない内に野垂れ死にが関の山だ。

もっとも本当に神様とやらが居るのならば、こんな訳の分からぬモンスターパニックなど起こしたりはしないと思うが。

 

 

「本当何なんだろうな。あの怪物」

 

 

妖怪? クリーチャー? モンスター?

果たしてどう呼称するのな正しいのかは知ったことじゃ無いが、馴染みの育成ゲームにあやかって仮称でモンスターと呼ぶ。

風呂上がりのようにグッショリと汗に濡れた髪をかきあげ、モンスター達について少し考えてみた。

 

 

「どう考えても地球の、つーかまともな生き物じゃねえよな。火は吹くわ、放電するわ、人型なのに空を飛ぶわ。それに馬鹿みたいにデカイやつまでいるわ」

 

 

ヘラジカや象などとは比べものにならない巨体で暴れる一部のモンスターを思い出し、恐怖がぶり返して来て背筋が寒くなる。

誤魔化すようにして思わず右手で視界を覆い隠した。

 

名作ホラーゲームのバイオハザードの世界のようにマッドな研究者が造った生物兵器かもと一瞬だけ考えるも、幾ら何でも無理があるだろう。

まずその種類が明らかに多彩過ぎるし、その姿からは人工的に作られたような不自然さというのは殆ど感じられなかった。

必死に走りながらだったので薄らぼんやりとした記憶しか無いが、人間をそっちのけでモンスター同士で争っている奴らさえもいた気がする。

これらの要素から考えるとバイオハザード説は没だろう。

 

というか電気やら炎やら水やらを繰り出すモンスターはどう考えてもファンタジー要素が強すぎる。

空を飛んでいるやつだってそうだ。明らかに翼や羽根の大きさが身体の大きさに見合ってなかったり、そもそも翼も無いのに宙に浮いているヤツだっていたのだ。

現代物理学に喧嘩を売っているにも程があるというものだ。

何だか考えるのが馬鹿らしくなって来た。懐からスマートフォン取り出して現実逃避代わりにネットの海を漁った。

 

 

「まあ、生物兵器だったらこんな無差別にバラまかないよな」

 

 

掌の小さな液晶画面に映るのは動画投稿サイトに投稿されたフランス国内の動画だ。

異様に舌が長い、何と言うか恐竜をマルっぽくデフォルメした着ぐるみみたいなピンク色の謎モンスターが地元の軍隊だか警察と戦闘している姿が映っている。

よく見れば背景には別のモンスター達の姿もちらほら確認できた。

 

 

「おいおい。銃、効かないのかよ」

 

 

毒々しい体色のモンスターは、そのコミカルな外見からは想像出来ないほどにタフだった。

人間側が隊列を組むようにして拳銃の一斉掃射を浴びせたものの、僅かに怯むだけでほぼ無傷。

現代科学兵器のまさかの敗北に驚き慄く人間達に向かい、お返しとばかりにその異様に巨大で長い舌を伸ばす。

唾液でヌメヌメと光る肉厚のそれをまるで手足のように器用に使い、しなる鞭の如くして人間をなぎ払ってはボーリングのピンみたいに軽々と吹っ飛ばす。

最後の1人が逃げようとするも背後から素早く伸びた舌に縛りあげられ、3メートルは宙に持ち上げられた。

そこから目にも留まらぬ速さで地面に打ち付けられ、特大のトマトが潰れたようなグロテスクな姿になった。言うまでもなく即死だろう。

ここで動画は終了。CGとは違ったリアルなグロ映像に俺は自分の顔色がまた悪くなった事を自覚した。

 

 

「本格的に世界滅亡ルートじゃねえか」

 

 

モンスターの種類や個体によって強さの差はあるだろうし、たまたまこのベロザウルスが特別強力なボスクラスの実力者だった可能性もある。

だがそれでも人類の英知の結晶とも言える銃火器が効かないモンスターが存在するとなると、最早本格的に詰みではなかろうか?

いや、考えようによっては確かに核兵器や細菌兵器などの威力過剰な殺戮兵器も存在するのだろうが、結局はそんな物に頼った時点で人類の敗北は必至だろう。

 

 

「日本だけじゃないよな、そりゃ。アメリカにフランスにイタリアに中国。マジで世界中でモンスターパニックか」

 

 

中国ではダルマがそのまま命を宿したような外見のモンスターが火を纏って転がり周り、あちこちに引火させて家々を燃やして周る。

アメリカのとあるビーチでは東洋龍に良く似た空色の巨大なモンスターが極太のビームを薙ぎ払うようにして放ち、大暴れ。

韓国やカナダ、ブラジルにアフリカにも。

とにかく世界各地に突如として未知のモンスターは出現し、そして本能のまま縦横無尽に暴れまわっている。

 

情報収集代わりにネットサーフィンしたものの奴らの対処法はおろか、何処から来たのか何故突然に現れたのか。そのきっかけすら分からず仕舞いだ。

まあ、きっとファンタジーな何処ぞの異世界から何らかの手段で現代世界に召喚されたのだろう。

そんな阿呆らしい妄想を浮かべ、自嘲するように鼻で笑った。

 

 

「すっげー阿呆らしい考えだけど、それが一番アタリっぽい解答っていうのも皮肉だよな」

 

 

剣と魔法が似合うモンスター蔓延る異世界からの傍迷惑な乱入者。

そんなファンタジー全開な俺の妄想が正解だっとしても、肝心要の暴れまわるモンスター達への対処法が分からなければどうしようもない。

これ以上考えていても、堂々巡りで意味が無い事を悟った俺はもう一度深く溜め息を吐いて思考を放棄した。

 

パーカーのポケットを漁り、小さめの板チョコを取り出す。

リュックに入りきらなかった小さな菓子類はポケットが膨れ上がるまで詰め込んでおいたのだ。

とにかく今は身体が疲れきっている。カロリーが欲しい。

脳ミソの方も糖分を欲している事だろう。

 

 

「甘いものなんて、そのうち食えなくなるんだろうなあ」

 

 

そんな事をボヤきながら銀の包装紙を破き、火照った身体のせいか溶けかけているチョコレートに齧り付く。

ただしケチ臭く口を小さくして、ほんの少しずつ時間をかけて口に含んだ。

ミルクチョコレートの濃厚な甘さとホッとするような優しく蕩ける口溶けに、心の疲労だけでなく緊張に強張っている身体の隅々まで蕩けていくような気がした。

 

 

(こんなもん、いつも食ってるものだったのに。何だろ、すげー美味く感じるよ)

 

 

平穏が音を立てて崩壊し、何度も死を意識して来た今日この日。

一番に心を落ち着かせ頰を緩ませている事を自覚しつつも、小さな幸せの味を心の底から噛み締めていた。

 

だからこそ気付くのに遅れた。

 

 

「ナノー?」

 

「んなっ⁉︎」

 

 

瓦礫にもたれかかるようにして座る俺の目の前に、既に未知のモンスターが迫っている事に。

 

 

目の前でこちらの様子を伺うモンスターの身の丈は50センチ程度だろうか。

身体の色はほぼ水色一色で、大きな丸い頭に円錐状に広がる身体はてるてる坊主のような体型をしている。

頭の真ん中にはリーゼントやポンパドールのヘアスタイルを模したような丸いコブを生やし、小さな胴体からではなく頭の左右から細長い腕らしきものがスラリと伸びていた。

 

目と口は異様に大きくて鼻は耳は見当たらず、アスキーアートのような誰がどう見ても分かるような笑みの表情を貼り付けている。

チョコチョコと短い足に黒くて丸い尻尾、全体的にまん丸なフォルムはヌイグルミや、ゆるキャラ。もしくは幼児が描いた人間の成り損ないと言ったところだろうか。

フィクションの世界で例えるなら星のカービィシリーズのキャラクターや、ドラクエのスライムのようなマスコット的な要素に似た者を感じなくもない。

 

そんな、どことなく癒しを感じる可愛らしいモンスターを目にした俺は言うまでもなく。

 

 

「う……あぁ……‼︎」

 

 

恐怖と焦燥で硬直していた。

 

 

(何だこいつ⁉︎ 火吹くのか? それともビームか? ヤられる前にヤるか? でも包丁なんて効くのか⁉︎)

 

 

水色モンスターのニコニコと擬音でも鳴りそうな朗らかな顔が逆に恐怖を駆り立てる。

逃げるべきだろうか? いや、すっかり油断していたとは言え、そもそもこちらが気付かない内にこの距離まで近付かれている時点で逃げ切れるとも思えない。

見たところ敵はかなり小さく、身軽そうだ。相当に素早く動くモンスターと考えておいた方がいいだろう。逃走が悪手なのは明らかだった。

考えれば考えるほどに追い詰められていく状況に、俺の頭は次第に真っ白になっていく。

 

(死ぬ? ここで死ぬのか? 食われるのか? それとも嬲られるのか? もう終わりなのか?)

 

 

死にたくない。でも死ぬのか? なら、どうせ、死ぬならば。

殆どヤケになっていく自覚はあった。碌に働かない脳内の片隅で生存本能が囁き、それに従って左手をゆっくりと、焦れったい程にゆっくりと背中に伸ばした。

目標のブツは唯一の武器だ。刃先を新聞紙で包んだ包丁をベルトに括り付けて、いつでも装備できるように備えておいたのだ。

 

冷や汗が頬を伝っているのを感じる。

死にたくない。現に今は死ぬほど怖いし。

こんなモンスターと戦うなんてきっとそれ以上に死ぬほど怖い。

脳内にてポップコーンが激しく弾けるような、これ以上の無いパニック状態に涙が溢れそうになるも、なけなし勇気を振り絞るようにして自分に喝を入れる。

 

逃げ切れないなら、戦うしか無い。

生き残る為に、戦うしか無いのだから。

 

 

(包丁を掴んだらコイツの眉間にブッ刺すして、そのままダッシュで逃げる。殺せたにしろダメだったにしろ、とにかく刺したら全力で走る‼︎)

 

 

目の前のモンスターは身体を左右に揺するようにフラフラとしているが攻撃の素振りは見せない。

恐らくは惰弱で虚弱な種族人間にすっかりと油断しているのだろう。

こんな小さな未確認生物に見下さらていると考えると立腹ものだが、ならばこそ付け入る隙はある筈だ。

背中に伸ばした左手が包丁の持ち手を掴み、ゆっくりとベルトから引き抜いていく。

頬を伝った汗がツーっと滑るように顎先に垂れ下がり雫を作るのが分かった。

 

 

(ヤるぞ! 俺ならヤれる‼︎ こいつを殺して生き残るんだ‼︎)

 

 

衣摺れ一つ立てないように慎重に包丁をベルトから完全に引き抜き、スローモーションで腰を静かに浮かせて攻撃の態勢を整えていく。

極度の緊張で鼓動と耳鳴りが酷かった。

破裂しそうな心臓を抑えこむかのように、思いっきり息を吸い込んでから刃を握る左手に力を込める。

そして顎先に溜まった汗の雫が、今、この瞬間。

 

 

ポトリと。

 

 

落ちる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グ〜〜〜〜〜〜〜〜‼︎

 

 

直前に間抜けな音が響いた。

 

 

「……は?」

 

 

俺は思わず前のめりにガクッと転けそうになる。が、とりあえず気を取り直して目の前のモンスターを観察した。

フラフラと左右に力なく身体を揺する動きを見せ、腕の一本を腹?らしき部位に当ててさすっている。

そして視線は俺の方を。いや、正しくは俺の右手に釘付けとなっているのではないか?

 

 

「ナノー……」

 

 

力無い鳴き声(たぶん)をあげるモンスターを前に俺はゴクリと唾を飲んで決意した。作戦変更だ。

保険として左手は包丁を握ったまま、恐る恐る右手を前に差し出した。

 

 

「ナノ?」

 

 

俺とモンスターの視線が交差した。

しばらく俺の顔色を伺っていたソイツはやがて何かを察したのか、ポテポテと気の抜けるような足音を立てて一歩一歩とこちらに歩み寄る。

未知の生物が近付いてくる恐怖で身体が震えるが、ここまで接近をされたのだから今更作戦を変更できない。

再び大きく唾を飲み込んで、俺は腹を括った。

 

ポテポテ、ポテポテ、ポテポテ。

 

やがて俺の目と鼻の先でピタリと止まったモンスターはその両手(たぶん)をゆっくりと俺の右手に伸ばし……

 

 

 

「ナノナノ〜‼︎ ソーナノ‼︎」

 

 

ものすっごいイイ笑顔でチョコレートに齧りついた。

 

 

「ふぅ」

 

「ナノ?」

 

 

作戦の成功を見届け一息ついた俺は、右腕で汗を拭って立ち上がると軽く尻を叩いて埃を払った。

そして左手にしっかりと握っていた包丁をゆっくりと持ち上げて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「腹減ってただけかよ‼︎‼︎」

 

「ナノ⁉︎」

 

 

 

 

 

明後日の方向に力の限りぶん投げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なお、包丁は後でしっかりと回収した。

 




・ベロリンガ なめまわしポケモン(ノーマル)
肉厚な舌は脂と筋肉の割り合いがまさに黄金比。じっくりと焼いた後にソースは掛けずに塩と胡椒だけで食べるのが通。

今後の展開

  • 本編を早く進めて欲しい
  • 番外編を進めて欲しい
  • ソラが主役の話が読みたい
  • 新キャラを沢山出して欲しい

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