現実世界にポケモンをぶち込んだらサバイバル系B級パニック物になってしまった   作:ケツマン

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話が進まない。
12/20加筆修正済み。


1ー3 ハイエナの牙

どちらかと言えばインドア派の俺の趣味は雑多である。

だがその中でもあえて選ぶなら映画鑑賞が第一に。そしてその次がネット小説やMMO系のネットゲームにあたる。

もちろん小説については作者としてではなく、読書側の立場としてだ。

 

特にネット小説はその手軽さがとても魅力的だ。

暇な時に好きなジャンルをササッと検索してお手軽に楽しめる。

もちろん素人が書いている場合が殆どの訳だから玉石混交で、読んでいていっそ不快になったり、時間をただ浪費するだけの駄作も混じっている事は否定できない。

だがそれと同じ位に。いや、むしろそれ以上の無数の良作やいわゆる神作と呼ばれるものが存在しているのも確かな事で、ついつい時間を忘れて読みふけってしまうのだ。

 

俺の一番好きなジャンルはゾンビ物やパンデミック系のものだが、結構な雑食を自負しているので結果的にはジャンルを問わず様々な小説を読んで来た。

王道のファンタジーはもちろん、学園モノや異能バトル、最近流行りのVRMMOを始めとしたSFもの。ちょっと変わったところだと軍記物語や料理ものに宮廷闘争を題材にしたものなんかも読んだ。

 

閑話休題。

今回はよくある剣と魔法のファンタジー作品を例に出して説明しようと思う。

主人公が剣士か魔法使いか、果てにはとんでもチート能力を持っているのかどうかにもよるが、最近の流行としては作中にて主人公のオトモというかペットというか。

ようするに相棒枠のモンスターみたいなのがよく出てくる。

そして理由は分からないが、比較的そのパートナー役のモンスターというのはスライム系かモフモフの犬や狼系というパターンが多いと思うのだ。

これについては色々と考えた事もあるのだが、読者がイメージしやすい為では無いかというのが俺の考察だ。

 

スライムはドラクエシリーズを始めとした屈指の知名度を誇るモンスターだし、犬や狼は実在する生き物で、忠誠心が強い。パートナーとして実にうってつけではないだろうか。

もちろんこれはあくまで持論。絶対の法則なんかでは無い。

知名度だけで選ぶならゴブリンやオークなんかもアリかもしれないし、作品によってはドラゴンや妖精なんかを相棒枠にするものも山ほどある。

動物系から選ぶにしても犬系じゃなくて猫系が登場する時だってあるだろう。

モンスターハンターシリーズのオトモの代表格たるアイルーというキャラクターも猫なのだから。

 

さて、ここまで長々と説明してきたがそろそろ結論に入ろう。

つまるところ、俺の意見としては相棒枠のモンスターというのは一定の知名度がある、メジャーな生き物こそが鉄板なのだ。

 

 

「俺の言ってること分かるか?」

 

「ソーナノー?」

 

「うん。そうなの。だから、あっち、行け」

 

「ノーナノー!」

 

「拒否るな! イヤイヤするな‼︎ チクショウ、無駄に懐きやがってからに‼︎」

 

 

身の安全を守る為とは言え、不本意ながら餌付けしてしまった一件から暫く。

足下で跳ね回るように纏わりつく、この水色てるてる坊主の扱いに俺はほとほと困り果てていた。

本来だったら適当に満腹にさせてとっとと逃げるつもりだったのだが、手渡したミルクチョコレートの甘さに味をしめたのだろう。

こちらがどんなに逃げ回ってもチョコマカと無駄に素早く跳ね回り、俺の背後にピタリと着いて来てしまうのだ。

 

 

「つうか俺の言ってる言葉、ニュアンスは理解してるんだよな? お前が特別賢いのか? それともお前らモンスター達はみんなそうなのか?」

 

「ナノ?」

 

 

ニコニコと笑みを絶やさずに人懐っこいのは美点かもしれないが、中途半端に知性があるというのも迂闊な事が出来なくなって非常に厄介だ。

何故なら俺はこの水色モンスターについて知識が殆ど無い。

精々が人懐っこいことと、甘味が好物である事。それから無駄に素早く妙チクリンな鳴き声をあげる事を知った程度だ。

こいつがどんな攻撃をするのか俺は一切知らない。

火を吹くのか、腕が伸びるのか、それとも俺には想像もつかないような魔法みたいな手段を使うのか。

どんな能力を持っていてどんな攻撃手段を取るのかが分からなければ、足下のてるてる坊主が脅威的なのかそうでないのか判断のしようがない。

 

本音では今すぐにでも邪魔臭いコイツを蹴り飛ばすか、石でも投げてやって無理やり追い払うかしてやりたい。

だがこちらの言葉を理解するだけの知能を持つ事が分かった今、万が一コイツが恐ろしい力を隠し持っていた場合に後々の復讐が怖い。

かと言ってこのまま訳の分からないモンスターの面倒を見るのも無しだ。

 

言っては何だが、見た目で判断するなら明らかに弱そうでお荷物確定な上に、生き物なんだから当然食事も必要になるだろう。

高カロリーとは言えどもチョコレート一枚でここまで動き回れる事から察するに、その見た目通り燃費は良いみたいだが、これから貴重になるであろう食料や水を得体の知れないモンスターにわざわざ分け与える程、俺はお人好しでは無い。

 

 

(これでコイツが何かの動物のような外見だったら、まだ簡単に判断が下せるんだがなぁ)

 

「ナノ?」

 

 

俺が訝しむような視線を足下に送ってやると、てるてる坊主は不思議そうに見上げて来た。

改めて観察しても地球に既存している生き物の名残が見当たらない未知の生き物だ。

仮に鳥や豚、羊に牛など。最悪は犬やら鰐などの動物が元になったようなモンスターだったら、不意打ちで殺してから食料にもできただろう。

残酷なようだが俺は自分本意な人間である自覚があるし、突き詰めればどんな人間だってそうだろうとも思っている。

 

ただコイツの場合は明らかに地球に存在しない、未知の生物だ。

喰えるか分からないどころか、下手したら毒があるかもしれない。

もしかしたらコイツの身体全体が人間には有害な謎物質で構成されている恐れだって当然考えられる。

 

少し考えただけでも連れて行くメリットどころかデメリットしか浮かばない。

だからこそ、この手の手合いとは関わり合いになりたくは無かったというのに、後悔先に立たずだ。

 

 

(あー仕方無え、しばらくは放置だ。本当に邪魔になったらその時はまた考えるか)

 

 

ただでさえ唐突な非日常で体も頭も疲れ切っているのだ。

先送りはあまり宜しくない事だが、とりあえずの脅威は無いと判断した俺は足下を極力見ないフリをして移動を続ける決意をした。

歩き出すとそれに追従するようにポテポテと気の抜ける足跡が聞こえてくるのが、妙に癪に触る。

 

 

「やっぱ刺しとけば良かったかな」

 

 

ベルトに括りつけた包丁の持ち手を摩りながら、態とらしく溜め息を吐き出した。

ありったけの幸福を逃してしまうような、大きな大きな溜め息だった。

 

 

 

 

 

 

歩き続けて2時間は経った頃だろうか。

時おり聞こえてくる様々なモンスターの鳴き声や、人々の悲鳴を避けるようにしてジグザグに進んだ為か直線距離は大して稼げなかっただろうがそれでも着実に進んでいる実感が持てた。

今の俺に明確な目的地は無いが今後の方針は決めている。

目指すは駅や都市部の方向から真逆。つまり人の少ない田舎の方面へと向かっていのだ。

 

理由としてはいくつかあるが、第一に将来的に生存者同士が争いになるのは火を見るより明らかなのでそのイザコザに巻き込まれない為。

それからモンスター達は獲物である人間に釣られ、人が密集している地域に集まっていくだろうという予想したからだ。

 

後者に関してはモンスターの食性に対する知識も無い上に、懲りずに人様の足下で跳ね回っているという、人に友好的なモンスターの存在を知ってしまった今となっては説得力の欠片も無いが、前者を防げるだけでも充分だ。

現に都市部から離れれば離れる程、目に見えてモンスターの数は少なくなり、自宅の窓の外から見下ろしたモンスターパニックが嘘のように静まり返っている。

 

 

(まあ、だからと言って平和って訳じゃないけどさ)

 

 

建物は崩壊。電柱はへし折れたり斜めに傾き、電線がダラリと垂れ下がり漏電している。

無数の血の跡がそこら中に付着し、人の身体の一部があちらこちらに散乱している。

地獄のような惨状に、現代日本の住宅街からは想像も出来ない完璧な静寂。ゴーストタウンという言葉が嫌と言うほどピッタリ当てはまるだろう。

バイオハザードで有名なラクーンシティの劣化版、とでも言えばイメージしやすいだろうか。

もっとも、こちらの世界では転がっている死体は動き出したりしないだろうが。

 

 

(みんな逃げ回る時は駅の方向に逃げたからな。ここに居るのは間に合わなかった人間か)

 

 

辺りをグルリと見渡せば崩壊した建物の中でも比較的元の形を保っている物や、奇跡的にほぼ無傷の家もチラホラと見える。

恐らくはその中で籠城して生き残っている人間も居るには居るのだろう。

だがこれ以上、同行者を増やすつもりの無い俺にとってわざわざ生き残りを探すメリットは無い。

むしろ不本意とは言えモンスターを従えている姿を赤の他人に見られてしまったら、不思議な能力があるとでも勘違いされて助けを求められる可能性だって考えられる。

日が落ちる前に少しでも距離を稼ごう。安物のデジタル腕時計は17時と表示していた。

 

 

「あ?」

 

 

ソレに気づいた瞬間、思わず固まって耳をすませた。

 

先ず初めに聞こえて来たのは遠くの方から聞こえた泣き声だった。

不気味なくらいに静まり返ったデストピア世界は、憎々しい程に女性の泣き声をハッキリと響き渡らせる。

やがてそれを追うようにして無数の足音が。それから獣の唸り声が。

まるでオーケストラのようにして様々な音や声を重ね合わせ、ドンドンと大きな騒音と化して辺りに撒き散らかされていく。

 

恐らくだがモンスターに襲われている少女が逃げ回っているのだろう。

逃げてくれるのは構わない、誰だって死にたくないのだから俺だってそうする。

だが、問題なのはその悲鳴がどんどんと俺の方に近づいて来ているという一点だ。

 

 

「糞っ‼︎」

 

 

自身に近いてくる命の危機を察した俺は、一早くこの場を離れる事に決めた。が、運命とやらにどうしても嫌われているらしい俺が決断するには、僅かに遅かったのだろう。

目測およそ10M先の曲がり角からセーラー服を着た少女が転がり込むようにして姿を現し、振り向き逃走を行おうとした身体が再びフリーズ。

しかもよりによって最悪な事は、彼女の視線が俺の姿を捉えたかと思うと、遠目からでも判る程にハッと顔を輝かせ「助けて‼︎」と叫びながら此方に一直線に向かって来たのだ。

背後から唸り声を上げて追いかけてくる二匹の黒い犬型のモンスターをご丁寧に引き連れて、だ。

 

 

「トレインとかふざけんなよ‼︎ MPKだってリアルでやったら殺人罪なんだからな⁉︎」

 

 

恐らく通じないであろうゲーム用語で見ず知らずの少女を罵倒するも意味などある筈も無く、彼女は一直線に此方へと走ってくる。

事実、あの娘に悪気は欠片も無いのだろう。ただ死の恐怖から必死に逃げ延びて、ようやく見つけた一抹の希望というやつが俺だったのだ。

徐々にこちらに近付いて来るその制服姿や背丈から判断するに、恐らく彼女は地元の中学生。

確かに彼女の目を通せば年上の男子高校生である俺の姿は大人に映るだろうし、こんな状況ならば無意識の内にでも頼りたくなるというのは分からないでもない。

 

だが、こちとら只の一般人なのだ。

正義の味方を目指してる弓兵でも無ければ、困っている人を見過ごせない頭に餡子が詰まったヒーローでも無い。

タダでさえ今日一日で何度も死にかけてここまで辿り着いたというのに、他人の巻き添えで死ぬのなんか馬鹿馬鹿しいにも程がある。

そんな最期は真っ平ゴメンだ。

 

 

(ファッキン・ファンタジー‼︎ 死ぬなら一人で死んでくれよ‼︎)

 

 

辛うじて毒づいたその言葉は口から外へ出すこと無く飲み込んだが、自分の顔が醜く歪んでいるのを自覚した。

人間というのは追い込まれた時に、その本性が現れる。

そんな格言を残した映画のタイトルは何だっただろうか。

 

果たして、そんな俺の邪な考えが悪かったのだろうか。

心の内で思わず唱えた彼女への罵倒が、呪怨となって無意識に祟ってしまったのだろうか。

 

 

「あっ」

 

 

信じられない。彼女が倒れこむ姿はそんな表情のまま宙に飛び込んだようにも見えた。

察するに、足下に散乱している瓦礫か何かに脚を引っ掛けてしまったのだろう。

ただ、転んでしまっただけなのだろう。

家から飛び出した俺のように、唯々夢中になって全力疾走していたのだろう。そんな勢いを思わせるまま飛び込むような姿勢で一瞬、宙に浮いた彼女の右手は俺の方へ伸びている。

この瞬間、まるで時間が停止したかのように彼女の姿が。視線が。表情が。そして何よりその心情が、俺の目には写った。

 

ガツンと重たいものがぶつかる音を立て、彼女の身体がアスファルトに激突した。

 

 

「嫌あぁっ‼︎」

 

 

それでも涙を流し、切れた額から血を流し、必死の形相で這いずるように前へと進み、僅かな可能性に縋り付くようにしてこちらへ腕を懸命に伸ばしている。

「お願いだから助けて下さい」

そんな懇願が幻聴と共に強く訴えかける伸ばされた彼女の小さな小さなその右手は。

 

 

「ギャアアアアアアアォォォ‼︎」

 

 

飢えた獣の咆哮と同時に、爪を逆立てたその前脚によって無慈悲にも踏み躙られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああああああああああああああ‼︎‼︎」

 

 

ブチュリと血肉が弾ける生々しい水音。

グチャグチャとした獣の下品な咀嚼音と満足気な唸り声。

そして何よりも惨い、生きながら今まさに喰い殺されている少女の断末魔。

あまりにも酷い音の羅列がゴーストタウンと化したこの街で大きく響き渡る。

 

無情にも犬とハイエナの間の子のようなモンスターに少女が押し倒されてから、僅か一分も満たない。

にも関わらず彼女の身体は見る見る内に飢えた化物に食い荒らされ、右頰から胸元にかけては殆ど肉が残っておらず白い骨が露出している状態だった。

あれだけジタバタともがき激しく暴れていたというに、あっという間にピクピクと痙攣をするだけの肉塊と化している。

人間は死んだ後も脳の反射機能でしばらく痙攣を続ける。そんな説明があったのは一体どんな映画だっただろうか。

 

 

あまりにも猟奇的な食事風景から逃避する為、そんな馬鹿らしい事に思考をすっかり割いていたのが悪かった。

狩りで遅れを取ったせいでランチを喰らい損ねたであろう、もう一匹のモンスターが既に俺を目掛けて一直線に駆けていた。

爛々と金に光る眼の中心はこれでもかと血走り、涎を撒き散らしながら殺意を剥き出しにして俺の喉を食い破らんと襲いかかって来る。

逃げるには余りにも遅すぎた。

 

 

(逃げられない‼︎ 包丁‼︎)

 

 

耳鳴りが鼓膜を鋭く穿ち、心臓の鼓動がスローテンポになり奇妙な程に大きく響く。

極度の集中からなのか、それとも死を間近に迎えた走馬灯のようなものなのか。

まるでマトリックスのワンシーンのように、世界がスローモーションになる。

 

 

 

右手を腰に回した。

近寄ってきた獣が体勢を低くした。

 

包丁を引き抜いた。

獣が跳躍して喉元に狙いを定めた。

 

右手で包丁を構えた。

獣が涎を撒き散らしながら大口を開いた。

 

 

 

(あっ)

 

 

 

汗で濡れた俺の手から、無情にも包丁が滑り落ちて地にゆっくりと落ちていく。

裂ける程に大きく開いた顎が迫り、唾液にテカテカと光る牙の一本一本まで見える距離に近づく。

 

 

 

(死んだわ)

 

 

俺の身体中から熱が、緊張が、力が。

そして何より生きる気力が四散するように急速に抜けて行く。

獣臭い吐息が俺の顔にかかる程、文字通り、目前に死そのものが迫って来た。

 

 

(ああ、痛いのは嫌だなあ)

 

 

瞳をゆっくりと閉じて、俺は襲い来る死を甘んじて受け入れた。

 

 

「ソーナノー‼︎‼︎」

 

 

直前にソイツは俺を庇うようにして目の前に飛び出し、何かをブチ砕くような轟音をたてて目前の獣を軽々と吹き飛ばした。

 

 

 

 

「……は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はああぁん⁉︎」

 

 

 

 

ビックリした。

 

凄くビックリした。

 

 




・ポチエナ かみつきポケモン(あく)
非常に筋っぽく、臭いも強い為に食用へは適していない。
どうしても食べたい場合は香辛料の効いたカレーなどの料理の具にしよう。

今後の展開

  • 本編を早く進めて欲しい
  • 番外編を進めて欲しい
  • ソラが主役の話が読みたい
  • 新キャラを沢山出して欲しい

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